25
チチチ……チチチ……
「ふぁぁぁ……」
私は小鳥の声で目を覚ます。宿じゃなくて私達の家での初めての目覚め。
なんだか新たな日々の始まりってかんじでワクワクしてくるね。
「んん……ますたー……」
隣にはアドナのあどけない姿。
いや、一晩ともにしたからってイカガワシイことはしてないよ。
まだ心細そうにしてたアドナを見たら、添い寝してあげたくなったんだよね。
傍から見たら、同じ年頃の姉妹が仲良く寝てるようにしかみえないだろうけど……。
五部屋あるけど、ベッドはそれぞれの部屋に
二つずつ置いて二人部屋にしようと思う。
今は人数に余裕があるけど、これからも増えていく予定だからね。
十人以上になったら、ベッドを増やすか
もっと大きい家を借りるか考えないとだけど。
部屋割は私が一部屋とエンテとジュネで一部屋。
あとはメビウスとウイナとアドナで一部屋ずつ。
私とメビウスとウイナとアドナの部屋にはこれから仲間になる子達が入る予定。
エンテとジュネが同じ部屋になったのは、お互いを牽制出来る為なんだとか。
何の牽制なんですかね?
あと何故か今までどおりに順番で私が誰かと一緒に寝ることになった。
うん、おかしいよね?
宿の時はベッドの数が足りてなかったから分かるんだけど。
今は普通に空いてるんだけど――
「マスターの身の安全の為には、これくらいの用心は必要なのです」
一応自宅だし鍵はちゃんとしてるんだけど……
「主様に万が一のことがあってはいけませんもの。万が一は私の仕事です」
万が一って何なんでしょうね? ジュネが一番危険なんじゃないかな。
「ふふふっ、お嬢様とみんなくっついて眠りたいんです」
ウイナは苦笑しながら仕方ありませんよねと言う。
私もみんなの体温を感じると、なんだか安心するんだけど、
はっきりと言われるとなんというか……むずむずしちゃうね。
「姫をジュネから守る為に、私が身体を張ってお守りいたします」
メビウスの警戒対象がはっきりジュネになった。
ジュネは敵がまた一人とか呟いてるね。
「わたしまだなんだか心細くって……
でもますたーに迷惑だったら頑張って一人で眠ります」
アドナ……健気な娘よ。
というわけで冒頭に戻るだね。
アドナと寄り添って眠りましたとさ。
エンテ達がなぜかその手があったか!
みたいな顔してたけど、もうみんなの本性わかってるから。
いまさら手遅れだからね。
さて、朝食がまた問題だったんだよね。
というのも、調理をする為の道具を買い忘れてたんだよ。
ベッドとか家具とかを買う事ばかり考えてて、色々と身近なものが足りてない。
最初に一人暮らし始めた時が、そんなかんじだったなぁ。
慌てて近くのコンビニやホームセンターに走ったっけ。
というわけで、今日の予定は二手に分かれての行動となりました。
一組はディナーナを買いに行く私の組。
いつまでも残ってるとは限らないからね。売れてしまう前に確保しておきたい。
そのままブラリと露店巡りをして、ギルドに情報収集に行く予定。
もう一組はウイナを中心に日常品やらを買いに行く組み。
ウイナって料理が得意なんだって。メイドの嗜みですとかいってたけど、
普通はメイドさんの仕事じゃないからね、それ。
でも万能メイドなウイナにとっては出来て当然とのこと。
ちなみに私を含めて料理ができる人はいませんでした。
女子力低くてスマヌ。
「それじゃあ気を付けてね!」
「お嬢様もお気を付けて。エンテ、メビウス、お嬢様をお守りしてね」
「心配ありません。ウイナこそ気を付けて。ジュネが変なことをしないように」
「エンテ、それはどう意味かしら?」
エンテとジュネがいつものようにぐぬぬ…と睨みあう。
私とウイナはその姿に苦笑する。
「アドナも町は慣れてないだろうから、迷子にならないようにね」
私はアドナの頭を撫でながら、気を付けるように言っておく。
アドナがくすぐったそうにする仕草がまた可愛いね。
見た目は同じくらいでも、精神的にはアラサーな私の方が上なんだよ。
だからお姉ちゃんだね!
アドナの持つ杖が万年樹とついてるけどキニシナイ。
そんな私達の姿をみんなが微笑ましそうに見る。
「なんだか、姫がお姉さんのように振る舞う姿が可愛いですね」
「メビウスもそう思いますか!
なんだか背伸びをしている妹を見ているようで、心がほんわかとします」
メビウスとエンテが小声で言いながらほわぁぁって顔してるけど、聞こえてるからね。
そんなこんなで私達は町へと繰り出すことにした。まずはアルデニーへ行こう。
「これはお嬢様、またお越しいただきましてありがとうございます」
アルデニーでは前にも挨拶された執事風の店員さんが出迎えてくれました。
相変わらずしぶいね。
私達はこの前に来た時から増えた物がないか見て回ったけど、この間と同じだね。
値段が値段だし、そうそう簡単に売れる物ではないんだろうけど。
ディナーナも前と同じくありました。ごめんね、待たせちゃって。
「この竜骨斧を頂きたいのですけど」
私はケースに飾られているディナーナを買う意志を示す。
お値段は百二十六万ヴェール也。
この世界にはローンなんてないからね。即金ですよ、即金。
私は店員さんから豪華なケースに入れられたディナーナを受け取る。
なんだか字面だけみると背徳感が半端ないね。
さてディナーナを買ったはいいけど、流石に町中では呼び出すのは不味いかな。
呼び出すのは家に帰ってからにしよう。
次に向かったのは露店の並ぶ大通り。
ここは毎日目まぐるしく店が変わるんだよね。
だから毎日行っても飽きないんだよ。
武具乙女はまだ売られてるの見たことないけど。
「マスター、ここは人が多いですし手を繋ぎましょう」
「エンテに同意します。この人込みでは迷子になる可能性があります」
うむ、まただね。前にもこんな会話をしたと思う。
でも今回は同じじゃないんだよねぇ。
「エンテ達は魔人に攫われた時に私を見つけてくれたよね?
ジュネも目を閉じたら私の居場所がわかるみたいなこといってたし」
エンテとメビウスがハッとした顔をする。
ふふん、私も成長してるんだよ。
目指せ、過保護脱却です。
というか、流石に両手を繋がれて歩くのは精神的にきついんだよ……。
というわけで、今はエンテと手を繋いで歩いています。
なんでそうなるかって?
エンテにウルウルとした瞳で見られると、弱いんだよね。
流石に両手を繋がれるのは恥ずかしいけど、まぁ片手ならね。
でもこれって俗に言う恋人繋ぎってやつじゃないかな?
指と指が絡まってこれはこれで恥ずかしい。
エンテが喜んでくれてるからまぁ良いんだけどね。
メビウスが次は私も……みたいな顔をして私とエンテの手を見ている。
メビウスとはまた今度ね。
恥ずかしいけど、嫌とかじゃないんだよ。
「おや、お嬢ちゃんじゃないか!」
露店を歩いていると、突然声をかけられた。この声は間違いないね。
「お爺さん!」
私が顔を向けた場所には、朗らかな顔をした行商のお爺さんの姿があった。
「お久しぶりです!」
私はついお爺さんに抱きついてしまう。
魔物が多い世界だから、襲われたんじゃないか心配だったけど
無事に再開できてよかったよ。
「ほほほっ、お嬢ちゃん達も元気そうでなによりじゃわい」
お爺さんは私とエンテとメビウスの姿を見て、笑顔を浮かべる。
お爺さんも心配してくれてたんだね。
「バルーザは大きな町じゃからな。よからぬことを考える者もその分多い。
じゃが、そこの騎士のお嬢ちゃんがいれば安心じゃな」
お爺さんがメビウスを見て、頷いている。
たしかに武器は持ってないけど、重鎧装備のメビウスは
騎士のように見えるし、頼りがいもありそうだよね。
酔ったら泣き続けるけど……。
「む……私も……」
ふふっ、エンテはどちらかというと騎士というよりもお嬢様ってかんじだからね。
でも頼りにしてるから。私がエンテを見てにっこり微笑んで頷くと、
顔を赤くしてうつむいてしまった。
なんだこの可愛い生き物は。
「姫とエンテがいちゃいちゃしていて羨ましい……」
メビウスが何か言ってるけど、そんなんじゃないからね!
「お爺さん、また商品を見せてもらってもいいですか?」
「ほっほっほ、もちろんじゃよ。いくつか珍しいものも仕入れたからのぉ。
何か気になるものがあったら、遠慮せずに聞いておくれ」
ふむふむ、それは楽しみだねっ。
私達はお爺さんの露店を見て回る。
カンテ村の時とは違って、魔法道具や薬品なんかがメインだね。
日用品を村々に売り回りながら、
高価なものを町で売るってかんじなのかもしれない。
ただ武具乙女は見つからなかった。
そんなに簡単に見つかるものではないんだろうけど……。
ウイナが売られてたのって、ほんと偶然で運もよかったんだね。
「マスター、私達の仲間はないようですか?」
「うん、残念ながらね。まぁ仕方な――あぁっ!」
私の突然の声に、エンテとメビウスがびっくりする。
「マスター、何かあったのですか?」
「姫、何かございましたか!?」
私は二人に返事するよりも、一本の薬に目を奪われていた。これって……。
「お爺さん、このお薬ってどんな効果があるんですか?」
私が尋ねたのは一本のオレンジ色の液体が入った瓶。
結構高級そうな装飾が施されている。
「ふむ、それはなんというか……お嬢ちゃんには言いにくいんじゃが……」
……ゴクリ。
「あれじゃ……夜でも元気になる薬というか……言いにくいのぉ。いわゆる精力薬じゃよ」
ええっ、そうなんだ。
うーん……しかし精力薬といっても、形はアレにそっくりなんだよね。
瓶の装飾も含めて。
私の言うアレとはスキル回復薬のこと。
そう、魔人との戦いのときにも欲しくて欲しくてたまらなかったアレです。
「これっておいくらなんでしょうか?」
私はおずおずと聞く。流石に精力薬と聞くと、大きな声では聞きにくい。
「まさかお嬢ちゃんがの――」
「いえいえ、ちょっとしたプレゼントとかです。ワタシジャナイデス」
苦しい言い訳だけど、まぁ我慢我慢。
「ふむ。値段じゃったな。この薬は五十万ヴェールじゃよ。
だいたい貴族の方々が買われていくのぉ」
詳しく聞くと、
どうやらお年を召した貴族の殿方達が夜遊びの為に飲むんだとか。
こういった露店とかに売られてるのを、
召使いやら下男やらが見つけて買っていくみたい。
お爺さんはかなりぼやかしながら説明してくれたけど、
その手の知識は知ってるからわかってしまった。
しかし精力薬かぁ。スキル回復薬と思ったんだけど……。
でもスキルの力がもし精力のようなものだとしたら……。
これで回復する可能性はある。でも五十万ヴェールかぁ。
「お爺さん、この薬って露店やお店なんかによく出回るものなんですか?」
「それほど出回ることはないが、まぁ珍しいかどうかといえば微妙じゃのぉ」
ふむふむ、私は目にしたの初めてだけど、
露店を巡ってたらたまに見かける程度には出回ってそうだね。
「お爺さん、これ買いたいんですけど」
「マスター!?」
「姫!?」
「お嬢ちゃん!?」
エンテとメビウスとお爺さんが同時に驚いた声をあげる。
いや、精力薬として買うわけじゃないから。
まぁ説明してもわかってもらえないだろうから、
顔を赤くしたまま黙って買うよ。
というわけで、お爺さんからお薬を買いましたとさ。
ついでにもしこの薬が売られているのを見かけたら教えてほしいとも言っておいた。
また何があるかわからないからね。
できれば数本くらいはストックしておきたい。
ただその前にほんとに効果があるかは試さないとだけど。
あぁ、またお金を稼ぐ理由が出来ちゃったよ。
お爺さんはまだしばらくはこの町にいるとのことなので、
私は今住んでいる家の場所を教えて
また会いに来ますねといって別れた。
さて、思った以上に時間もかかったし、ギルドにいって情報を集めたら宿に戻ろうか。




