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んん――
暖かい……なんだか陽の光を浴びて
太陽の香りのする草原で寝てるみたい。
布団……最後に日干ししたのは………
「一週間前じゃない! ……ってここどこ?」
私が目を覚ました場所は
陽の光が照りつける草原でした。
うーん……外に出た記憶はないし、
こんな草原記憶にないなぁ。
ひょっとして誘拐!? 女の一人暮らしは危険だし…
ってそれはねーわ、うん。
最後にある記憶はたしか
「武具乙女」が表示されてるモニター……
「武具乙女」というゲームはMMOなどではなく一人用のRPGで、
一時期はやった擬人化というジャンルのタイプになる。
剣や槍や斧などの武器から盾や鎧などの防具、
指輪やネックレスなどのアクセサリーなど
RPGの装備品が女の子の姿になっている。
ただ装備品自体がすべて架空のものだけに
擬人化というよりは、その装備品を身につけた女の子キャラ
といったかんじだったりするけど。
まさかこれってゲームの世界にってやつ?
私は自分の身体を確認してみる。
服装が見るからに違う。
たしか下着とタオルだけだったはず……
いや、一人暮らしのアラサー女の寝る前って
そんなものだよ。
ネグリジェとか可愛らしいパジャマとか着るのなんて
男の前だけですよ。 たぶん。
いや、自分が悲しくなるので回想はこの辺にしておこう。
私の服装は可愛らしい装飾のついた軽鎧に
ひらひらとした膝上の真紅のスカート。
絵と現実の違いはあるけど、
わかりやすい軽鎧の装飾から判別できる。
「武具乙女」の主人公の姿だわ。
登場する武具乙女達に負けず劣らず
可愛らしい姿なんだよね。
男主人公は結構地味目だったのに。
これも萌えゲー所以か。
そこで私は戦慄したね。考えても見てよ。
アラサー女がキラキラとした可愛らしい服そ……ごフッ!
精神属性ダメージを三百ほどくらったね、いま。
とりあえず自分の姿を
確認出来る物はないかと見まわすも、
何もない……いや、小さな石碑のようなものがある。
ひょっとしたらこの世界に来たことに
関係があるのかもしれない。
どう考えても「何かあります」って雰囲気だしね。
石碑を見てみると、小さなマークが見つかる。
これってギフトシンボルだ。
ギフトシンボルを見て、
私は「武具乙女」のキャラクター入手方法を思い出す。
まずソーシャルゲームなどによくあるガチャ。
これはポイントやゲーム内通貨などを利用して行うもの。
福引とかを思い浮かべるといいかもしれない。
もちろん対価は現金など。やりすぎ注意。
私はちょっとだけ課金してたから微課金者に当たると思う。
つぎにクエストなどを通じて入手するもの。
クエストクリア報酬や道中の宝箱などからドロップするもの。
このゲームのキャラクターは
レアリティ★★から★★★★★までいて
(★は強化合成専用キャラが該当する)
高レアほどドロップ率が低くなるんだけど、
なんと最高レアの★★★★★もドロップする。
確率は運営が公表してたけど0.05%だったっけ。
でねーよ。
でもまぁでるかもしれないというのは大きいわけで、
猿のように周回してたなー
そういったキャラを受け取るのが
ギフトシンボルとよばれる場所。というかアイコン。
運営からのお詫びもたびたび入ってたけど。
偶然とは思えない。
きっと神様か何かからのお詫びが入ってるに違いない!
私は喜び勇んで石碑にとびついた。
おそるおそるギフトシンボルに手を触れると
スッと石碑の中に手が入って行った。
なんだか不思議な光景だ。
……何か入ってる感じがする。
とりだす感じでいいのかな……
私はそのまま何かを握りしめて手を抜きだす。
これは……白銀剣エンテ!?
私の脳内に情報が流れ込んでくる。
★★★白銀剣エンテ 剣タイプ
古代アストリア時代に作られたミスリル真銀で鍛えられた剣。
シンプルながら気品を備えた装飾が施されており、
魔を浄化する力を秘めている。
性格は生真面目でまっすぐ。主君に仕える騎士の如く振る舞う。
アビリティ
・悪魔、アンデッド系の敵に対して確率でダメージ+50% :Lv-1
・敵にダメージを与えた時、確率で敵の攻撃力を低下させる :Lv-1
スペシャルスキル
・白銀一閃 悪魔、アンデッド系の敵全員に大ダメージを与える
うん……ゲームのデータと同じっぽいかな。
いちおう攻略サイトである程度はしってたりするけど、
さすがに細かい数値までは覚えてないしね。
エンテは★★★の中では高めのステータスだったと思う。
攻撃、防御、スピードがバランスよく高いかんじ。
Lv-1なのは入手したばかりだから当たり前か。
「武具乙女」はアビリティのレベルの合計が
キャラのレベルになる。
レベルの最大値が100なので
キャラクターの最大レベルは200になる。
攻撃力や防御力なんかのステータスも
それに伴って少しずつ上昇していく。
そしてこの「武具乙女」の変わったところといえば、
主人公の強さがキャラクターレベルの総数に
連動するというところだ。
大抵は主人公の経験値が別にあり、
クエストクリアなどで上昇するんだけど
「武具乙女」にはない。
そのかわりたとえばエンテのアビリティをあげて
レベルが10になると主人公の強さが10となる。
つまり女の子をたくさん入手してたくさん強くすると
主人公も強くなるというわけ。
強くなると言っても体力が増えて
クエストを行う為に消費するタフネスの最大値が
増加するだけなんだけど。
いや、編成できる部隊数とかも増えたっけ。
でも主人公が攻撃してる動作なんてあったかな?
戦闘は仲間の女の子まかせで
主人公は女の子たちのダメージを
肩代わりするのが仕事だったからね。
いちおう「スペシャルスキル」
という行動手段があるにはあるんだけど、
一日一回しか使えないっていう制約があるんだよね。
課金アイテムがあれば何度でも使えるから
無双できたかもしれないけど……。
ひょっとして私も攻撃することってできないんじゃ。
普通異世界にわたったら無双するものじゃないの?
いやいや私だって剣を振るえば――
手にもっている白銀剣を見る。
現実になったんだから、
実際に武器も持つことができれば攻撃だって……。
ちょっと振ってみる。
ビュウゥゥン………ビュウゥンン。
ああ駄目だわ。そりゃそうよね。
私、剣なんて振ったこともなければ、
身体を鍛えたこともないんだし。
この剣強そうだけど、
ただの村人が装備したって宝の持ち腐れよね。
こんなんじゃ敵と戦ってもサンドバックにしかならないよ。
こんなことなら別のゲームがよかった。
乙女ゲーでもよかった。イケメン達に囲まれるのも……
いや、精神衛生上よくないな。
でもサンドバッグ主人公はあんまりだ。
なぜ私は無双できるゲームを最後にやってなかったのか!
せめて「武具乙女」の主人公くらい頑丈なことを祈っておこう。
剣を持ってても仕方ないし、
やっぱりちゃんとした持ち手に来て貰おう!
私はエンテを呼び出すことにした。
「呼び出せなかったら、恥ずかしいんだけど……
秘められし魂よここに………サモン!」
私が呼び出す言葉をつむぐと、
手に持った白銀剣の感触がなくなる。そして……
「はじめまして、マスター。
白銀剣エンテと申します。この剣の忠誠をあなたに」
「武具乙女」で見たエンテがそこにいた。
「ほぁぁぁ」
自分でも間抜けな声が出たなぁと思ったよ。
でも絵でしか見ることのなかったキャラが
現実の存在として目の前にあるのは衝撃だね。
肩まで伸ばしたサラサラの銀髪に
意志の強さを感じさせる瞳。
文句なしに美少女といえるだろう。
白銀の軽鎧を身にまとい、
下はチェック柄のモノトーンのミニスカート。
黒のニーソックスという隙のない出で立ち。
現実の姿になって若干の印象は違うけど、
特徴はばっちり残ってるなぁ。
いやぁ眼福でございます。
「はじめまして、わたしはやが……ヤトよ。よろしくね」
本名を名乗ろうとしたけど、
なんだかこの世界じゃ違う気がして、
アバターの名前を名乗った。
ちなみに本名は矢神塔子。
ゲームではだいたい名字と名前を略してヤトと付けている。
「マスター、可愛らしいです」
ん? 可愛らしいとな?
なんだかエンテが顔を赤くして私を見てくる。
エンテは十代半ばくらいの容姿なんだけど、
こっちはアラサーですぜ?
そういえばエンテの姿ばかり見てるけど、
自分の容姿を確認してないな。
回想ばかりしていて、忘れてたわ。
「ちょっとエンテ、剣を身体の前にたててくれる?
そう、刀身の平らな部分を横にして……それでいいわ。
しばらくそのままにしててね」
私は白銀剣を鏡代わりに自分の姿を見てみた。
いや、だってあんなにピカピカに磨かれてるんだもん。
「ほほぉ」
私は自分の姿を確認する。
たしかに自分だわ。ただし若い頃のね。
たぶん高校くらい?
中学よりは上っぽいけど高校にしては幼い気もする。
髪型とかはあの頃とはかなり違う気がするけど、
こんな顔だった気がする。
この頃ってたしか私がゲームに
のめり込み始めた頃じゃなかったかな。
最初は友達に誘われてMMOにはまったんだよね。
しだいにゲームに夢中になって
お洒落とかに気を使わなくなったんだよね。
気が付いたら周りの友達は彼氏彼女とか作ってたっけ。
私はバイトしながらゲーム買ってたっけ。
祝祭日の日は現実よりゲーム内のイベントに一喜一憂してたよね…
そういえばクリスマスの日に友達と過ごした最後の記憶って……
「マスター? マスター!」
おっと、エンテが心配そうに呼びかけてくれたおかげで
精神属性のダメージを受けずにすんだよ。
「ごめんごめん、ちょっと考え事してて」
どうやら私なのは間違いないけど、
年はアラサーではないな。十代だよ十代。
でも精神年齢はアラサーだよねぇ。
まぁ記憶まで若返ったわけではないし、仕方ないか。
白銀剣 エンテ
見た目 十七歳前後
髪型 サラサラとしたセミロングの銀髪
服装 トップス 白銀の軽鎧
ボトムス モノトーンチェックのミニスカート、黒のニーソックス
性格 生真面目でまっすぐで純粋だけど負けず嫌い
口調 マスター