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武具乙女  作者: ふきの精
第二章
18/41

17

 さぁ、爽やかな一日だよ!



 ちなみに今私の横ではメビウスが眠っている。

クンクン、良い香りがする。

昨日髪を洗う時に香料を混ぜたお湯を使ったからかな。



 なぜメビウスと一緒のベッドで寝ているかというと、

単純にベッドが五つの部屋がなかったから……。

宿の人にベッドを一つ持ってきましょうかと聞かれたんだけど、

武具娘達がそれには及ばないと言って聞かないんだよ。

私マスターだよね? 

いや百歩譲ってそれでもいいとして、何故か私が誰かと一緒に寝る形になりました。

私マスターだよね? 

なにやら私抜きで順番を決めたようで、

最初の番となったメビウスが一緒に寝ることとなったわけです。


 メビウスはいいんだけど……ジュネの番の時がなんだか怖ろしい。

私清い身体のままでいられるかしら?



 さて、いまだスヤスヤと寝息を立てているこの子達を起こして、

朝食へと繰り出しましょうか。




 「まずは家を見に行かれるのですか?」


 ウイナが朝食を食べながら今日の予定を聞いてくる。

今日の朝食は色々な豆のサラダとスープとパンです。

ベーコンみたいな物を軽く炙ったものもあるね。何の肉なんだろう……。



 「そうだね。とりあえず買えないとは思うけど、

どのくらいするか確認しようと思って。

というか買わなくても借家って方法もあるからね。

定住までは考えてないから、そっちの線で当たってみようかなって。

そのあとは大通りのテントを建てている商店の方を見て、

そのあと魔法道具を販売している店舗を見たいかな」


 買えそうな武具乙女があれば買っちゃいたいけど、

優先したいのは回復の使える武具乙女かな。

この間エンテが怪我をしていたし、

やっぱり居てもらうと安心できるよね。

あとフロントはとりあえず揃ってるから、

バックで呼び出せる子がいればいいんだけど。杖かアクセサリーか弓か…

アクセサリーは高そうだなぁ。何か掘り出し物がみつからないかなぁ。



 「姫の護衛はお任せください」


 メビウスが胸を張って宣言する。

鎧を脱いでわかったんだけど、すごいんだよねメビウスのお胸。

私達の中で一躍トップに躍り出ましたよ。

昨日のベッドでもその存在感を如何なく発揮されておりました。

柔らかくて、もたれるのにはちょうどいい感じだったよ!



 「私の護衛もいいけど、メビウスも買いたいものがあれば遠慮なく言ってね。

もちろんみんなも。

このお金はみんなで貯めたものだし、使うのもみんなでね」


 この子たちだって一人の人間として存在する以上、

希望や要望なんかもあるだろうしね。

ゲームのキャラじゃないんだから、仲間として接していきたい。



 「主様の貞操はいくらで――」


 ジュネは黙ってようね。







 「うーん……あるにはあるけど、悩みどころだね」


 私達はとりあえず不動産を取り扱ってる商業ギルドへと向かい聞いてみた。

結構な数の借家の物件は見つかったけど、

どれにするかは決めかねてるんだよね。

大きな家はそれこそ屋敷みたいなのもあったけど、管理するのが大変そう……。

そこまではいかなくても、

十人くらいまでは余裕をもって住める家もいくつかあったから、

その中から選ぼうかな。



 次は行商の人達が店を出しているテントのひしめきあっている大通りへ。

相変わらず活気がすごいね。交易の町っていうのを改めて実感するなぁ。


 「姫様、はぐれてはいけませんから手をお繋ぎください」


 ……いやそれは流石に恥ずかしいんじゃないかな。

年齢的な意味で。でも好意で言ってくれてるんだし、はぐれるのは確かに困るね。

私は恥ずかしながらもメビウスと手を繋いだ。

最近忘れそうになるけど、アラサーですからね。

自覚するとなかなか精神的にくるわ。


 「マスター、逆の方は私が繋いでおきましょう。

何かの拍子でメビウスの手が外れるといけませんから」


 あぁ、もう好きにして。

こうして私は二人に両方から手を繋がれてテントを見て回ることになりました。

傍から見たら仲の良い姉妹で通ると思う。

……………たぶんね。

ジュネが何か言いそうかなと思ったら、

ウイナに抑えつけられていた。ナイスよウイナ。

最近ウイナがジュネの扱いに慣れてきたように思う。

良いコンビだと思うよ。そのまま二人で良い仲に……ハァハァ


 「マスター、色欲が漏れています」


 うん、エンテからお約束の突っ込みを頂きました。




 「いろいろあるねぇ」


 やっぱり買えるお金を持っているウィンドショッピングはいいね!

最初に見て回る時も楽しかったけど、

あの時は買えないものが多かったからね。今は大抵の物が買えると思うんだ。

この考えは浪費の元だから気を緩めすぎるのはまずいんだけどね。


 一見ガラクタを積み上げているように見えるテントも、

よく見ていくと魔法道具が混じってたりする。

そういえば行商のおじさん元気かな。

バルーザにもいずれ行くっていってたから、また会えると良いなぁ。


 そんなこんなで色々見て見たけど、

残念ながら武具乙女は見当たらなかった。

そんなにポンポン見つかるものじゃないとは思ってたけどね……。

でもテント回りは楽しかったからそれはそれでよかったかな。

あと食べ物は買いました。屋台も出てたからね。

朝食を食べてまだそこまでたってないんだけど、匂いにつられちゃいました。

いやぁこの世界にもタレを使って焼いてる串物があるんだね。

五人分買ってみんなで美味しく頂きました。

私だけ二本食べちゃってますけど。

実はメビウスが買いに行ってくれたんだけど、

サービスしてくれたんだよね。

美人でスタイル良いって得だよね。

屋台のおじさんメビウスの胸をチラチラ見てたの見逃さなかったよ。


 そんなわけでテント回りを終えて次は魔法道具の専門店へと向かう事に。

こっちはちょっと期待できそうだね。



 最初に入るのは魔法の武具を扱っている、ワンランク上の武具屋さん。

[魔法武具専門 アルデニー]

名前からして何かありそうだよね! というわけで早速入店。


 「すごいね。まるで武器の美術館みたい」


 私は思わず感嘆の声を漏らす。

種類はあまりないものの、一品一品がショーケースに飾られて置かれている。

おそらくかなりのお値段がするんじゃないかな。

周囲を見ると警備の人らしい男の人が目を光らせてるね。

店内は全体的にシックな雰囲気で統一されていて、

淡いランプの光がそれぞれの武具を照らしている。

ちなみに店内には私達の他にお客さんは二人しかいない。

繁盛していないというよりは、特定の客層を狙って商売しているんだろうね。



 「これはお嬢様。ようこそ当店へお越しくださいました。

何かお探しの武具はおありでしょうか?」


 目の前にはビシッと黒のスーツ姿を決めたナイスミドルな男性が。

一見すると執事ってかんじだけど店員さんだね。


 「魔法の武具に興味がありまして。少しの間見させていただきますね」


 私は微笑んで答える。ちなみに今はウイナと二人だ。

メイドの格好してるウイナと二人だからお嬢様と思われたのかも。

エンテとジュネとメビウスは外で待っている。

五人でゾロゾロと歩くには店が狭いんだよね。

あまり待たせても悪いから、ササっとチェックしていくとしよう。



 黄金で作られた金色に輝く槍。綺麗だけど派手だわ。

ショーケースの横にはどんな魔法の効果が秘められているのか説明が書いてある。

これは貫通力を高めるのと持ち手の防御力を高めてくれる力があるみたい。

残念ながら武具乙女ではないけど、普通に強そうな槍だね。

価格は……うん、見なかったことに。


 こっちは色んな宝石が装飾された剣。

なんとその宝石一つ一つが高価な魔法石なんだとか。

前に私が貰った魔石の首飾り。

あれよりもさらに純度が高い、宝石クラスまで高まった魔石なんだって。

なになに……

真紅の炎魔石、静寂の緑魔石、叡智の聖魔石、断罪の黒魔石、紺碧の水魔石………

価格は四百――家が買えるわ!


 どれも強そうだけど高いなぁ。どうせ私は使えませんけどね! 

でも武具乙女はないなぁ………ん? これは!?


 思わずショーケースを覗き込む。それは竜の骨を使った変わった形の斧……。


 「お嬢様? ひょっとしてこの斧が?」


 ウイナも私の反応から悟ったみたい。

そう、この斧は間違いなく★★竜骨斧ディナーナだ。

形状が特殊なのですぐに分かった。

このショーケースの説明では竜骨斧とだけ書いてある。

その名の通りこの斧は竜の骨から作られている。

どっちかというと斧というよりハンマーなかんじがするね。

斧の刃にあたる部分の逆側にはドラゴンの頭部の骨を模した装飾がついている。

絵の時からも薄々思ってたけど、

これ本物の竜の頭の骨だとすると小さすぎるよね……。

現実になったら尚更そう感じる。子供の竜でももっと大きいと思う。

ただ見た目のインパクトはすごいんだよね。

すごくワイルドな感じで。

持ち主のディナーナもかなりワイルドな感じだったと思う。

ジュネを豪快にしたような。


 んー買いたいけど値段が……

他の武具に比べたら安いのかもしれないけど、

それでも百万越えてるんですけど。

今はフロントがいっぱいだし、とりあえずは保留しておこう。


 それ以外は武具乙女も見つからなかったので、次の店に行くことにした。


 


 次のお店は[魔法装具店 エニメル] というお店。

さっきのお店よりは入りやすい雰囲気があるね。



 「いらっしゃいませ。あら可愛らしいお嬢さん方ね! 

ゆっくり見ていってくださいな」


 入ってすぐに明るい声がかけられる。

ゆったりとしたローブを身につけた美人なお姉さんに出迎えられました。

ってあの耳ってひょっとしてエルフじゃないかな? 

ピコピコ動く耳可愛いなぁ。っと店員さんばかり見ていても仕方ないね。

店の中は明るく、ところどころに花や緑が飾られている。

商品がショーケースに入ってるのは同じだね。

やっぱり魔法道具は高いからかな。

店内には私達の他にお客さんがまばらにいる。

カップルが多い気がするんだけど気のせいだよね?

ちなみに今はエンテと一緒に店内にいます。理由はさっきと同じ。

次は私ですねってジュネが言ってたけど、

この店でとりあえず見るのは最後って言い忘れちゃった。



 「この髪飾り、マスターにお似合いだと思います!」


 エンテが青い薔薇の装飾のついた髪飾りを見て言う。

蒼い薔薇の部分に小さな魔法石が埋め込まれてるみたいだね。

綺麗だとは思うけど、私には勿体ないと思うな。


 「ありがとう。でも私よりもエンテが似合うと思うよ。

その銀髪につけるときっと青色も映えるんじゃないかな」


 実際にエンテが身につけたところを想像してみる。

………うん、すごくいい。


 「そ、そうでしょうか……」


 私がエンテを見ながら髪飾りを挿した姿を想像してホワァとしていると、

エンテが顔を赤らめてうつむく。

うつむきながら自分の髪をいじりつつ、髪飾りをチラチラと見る。

何この可愛い生き物!?


 「もしよかったら買おうか? 

朝もいったけど、みんなで貯めたお金だからね。遠慮しなくていいんだよ」


 お金を持ち歩く必要がないから私がもってるけど

(意識したら取り出せるんだよ。お財布いらずだね!)

みんなにも個別にお金を渡しておいた方がいいかな。

だって絶対に遠慮するもんね。


 案の定


 「いえ、私には勿体ないです」


 少し寂しげに微笑むエンテ。うーんっよし決めた!


 「すみません、このお店に魔法の袋のようなものありますか? 

物の出し入れを自由にできるような」


 私は店員のお姉さんに尋ねてみる。

よくある異世界ものでは定番といってもいい魔法の道具袋。きっとあるはず。


 「ございますよ。リュック、バッグ、ポーチ、ポシェットなどありますが、

どのような用途にお使いになられますか」


 ふむふむ、色々あるんだね。でも今欲しいのは――


 「いえ、お金を入れたいので財布くらいのが欲しいんですけど」


 「お財布ですね。 ―――ではこれらなどいかがでしょう」


 私が案内されたショーケースにはいろんな財布が置いてある。

魔法の財布ひとつとってもこんなに種類があるんだ!


 「こちらはシンプルなタイプとなっております。

お値段も手頃で必要な機能はついてございます。

こちらのほうはロックタイプとなっており、

認証した者以外では開くことが出来ない機能がついてございます。 

こちらのほうはアラーム機能もついており、――――」


 いくつか説明されたけど、魔法ってすごいね。

ギルドカードの認証システムの応用みたいだけど、高機能だわ。

とりあえずシンプルな財布を四つ買い求めました。

お値段はひとつ一万ヴェール也。

普通の財布に比べたらかなり高価ではあるけど、

かさばらないし取り出す時も楽だからね。

この財布だと取り出そうと意識した金額を出せるから、

支払いの時便利なんだって店員さんが言ってたよ。

なんだかカードで支払うみたいだね。


 その後店内を見回ったけど、武具乙女は見つからなかった。

どうやらこの店、新しく作られた魔法道具をメインに販売しているみたい。

武具乙女はどの説明みても古くからの云われが書いてあるし、

こういう店には無いのかもね。

でも見ていて楽しかったし、

日常的に使う便利なものなんかを探すにはいいお店だと思う。





  「というわけで、みんなにプレゼントです」


 私は店を出ると一人一人に財布を手渡す。

ちなみにすでにお金は入金済みだ! 

一人当たり五万ヴェール入れてある。


 「その中のお金はみんなが自由に使ってね。

残りのお金は私が管理しておくから、宿代とか食事代とかは私が支払うよ」


 「よろしいのですか? このようなものを頂いても」


 ウイナが財布を両手で持って戸惑っている。他のみんなも同様だ。


 「もちろんだよ。

召喚主としてはせっかく自分の意志を持って動けるようになったんだから、

 みんなにはもっと日々を楽しんでもらいたいの。

私のことを大事に思ってくれるのは嬉しいけど、

 私はみんながやりたいことを

自分の意志で選択して楽しく過ごしてほしいの」


あれ? なんだかみんな困惑した顔してる。

人型になって買い物とかしたことないから、

どう反応していいのかわからないのかな?


 でもこれは前から思ってたことなんだよね。

みんな私のことを一番に思って行動してくれるだけに、

せっかく自由に動けるようになったのに束縛してしまってると思うんだ。

これが「武具乙女」だったら愛着はあっても気を使う事はないんだけど、

現実の世界になった今はみんな自分の意志を持って行動している。

さっきエンテが髪飾りに興味を示したのもいい傾向だと思ったし。

なによりあの時のエンテの仕草が新鮮で可愛かったしね!

ゲームの中の表面だけの設定じゃない、

武具乙女一人一人の持つ個性をもっと見てみたいんだよね。

ウイナもジュネもメビウスのそんな姿も、もっと見て見たい。

できれば手を繋ぎあったりして欲しい。

ふとしたきっかけで手が触れ合って、

顔を赤らめて手を引っ込める姿でもいい。

いや、いっそ寒い日に抱き合って暖ったかいね――


 「マスター、その……巨大な色欲をかんじますけど……」



 うっ、ちょっと妄想にふけってしまっていた。

いやぁ百合って良いものですよね。



 「ま、まぁでもさっき言ったことは本当の事だからね。

私にとってはみんなは可愛い娘みたいなものなんだから」


 うん、綺麗にまとまったね。よかったよかった。


 「マスター………どちらかというと逆なのでは…。

私にとっては大事な妹のような――」


 「お嬢様、エンテのいうように娘は無理がありますよ」


 「主様はどちらかというとみんなの妹ですわ。もちろん私は恋人でもいい――」


 「ジュネはだまっていてください。

行商の人も私が姉に見えると仰ってくださったのですよ」


 「それはまだエンテしかいなかった時なのでしょう。

主様の姉はやはり私がふさわしいと思いますわ」


 「姫の姉君となる栄誉は譲りませんよ。

昨晩も私に甘えてくださりましたし――」


 「メビウス、その話を詳しく聞かせなさい」




 えぇぃ、姦しいわ! 

自分で言ってて娘はちょっと無理があるなぁとは思ってたんだよ。

とりあえず店の前で騒がしくすると迷惑になるから、宿に戻ろうね。








 

「よろしくお願いいたしまわ、主様」


 なにがよろしくなんでしょうね。

今は食事もすんで湯浴みも済ませて、さぁ寝ようかというところです。

どうも店に一緒に入る順番が直前で回ってこなかったのを理由に、

ジュネが一緒に寝ることになりました。

やめてください、変な手つきをするの。

ベッドは一人用の物だから、二人で寝るのはちょっと窮屈なくらいなんだよね。

ちょっとというのは私が小さいからですね、はい。


 「変なことするのは禁止だからね」

 

 念のために釘を刺しとかないとね。

本気で嫌がることはしないっていう信頼はあるけど。


 「つれないですわぁ」


 といいつつもなんだか嬉しそうだ。

布団に入って近くにジュネの体温を感じる。

横目でチラッと見ると思いっきり目が合いました。


 「うふふふ、主様可愛いですわ」


 「ジュネ、マスターに変なことをしたら許しませんからね」


 ジュネの声が聞こえたのか、エンテから声がかかる。

みんな寝ずに聞き耳たててるとかないよね?


 「エンテったら無粋ですわ。主様が嫌がることをするはずありませんわ」


 ジュネは心外ですという顔をする。

まぁ普段の言動があるから、エンテは警戒してるのかもね。



 「あの……主様、手を握ってもよろしいでしょうか?」


 他愛のないおしゃべりをはじめてからしばらくして、

ジュネがおそるおそるという風に聞いてくる。

別に手を握るくらいなら問題ないけど、表情がやけに真面目だ。


 「ありがとうございます……」


 ジュネの手から温かさが伝わってくる。


 しばしの沈黙。

なんとなくジュネから話を切り出そうとしつつ、

切り出せない葛藤を感じる。

私はジュネの体温を感じながら静かに待った。

今は私から口を開かないほうがよさそうだね。

ジュネの中で考えが纏まったのか、

声を抑えてつぶやくように語りかけてくる。



 「主様………今日主様からお財布を頂いた時のこと覚えてられますか」


 ん? 覚えてるけどどういう意味だろう?


 「あの時主様はおっしゃりました。もっとみんなに日々を楽しんでほしい。

 自分の意志でやりたいことを選択して楽しく過ごしてほしい………と」



 確かに言ったね。

みんながキャーキャーしてる姿を見ると幸せになれるもん。

私はジュネの顔を見つめながら頷く。

でもどうしてジュネの顔が寂しそうなんだろ……。



 「主様の言葉は私達を思いやっての言葉だとはわかりますわ。

 そのお気持はとても嬉しい。

 ですけど……同時に少しさびしさも感じてしまいました」


 どういうことなんだろう。


 「私は…………いえ、エンテ達もですわね。

 私達は楽しいのです。今の日々が。主様と共に過ごす一秒一秒が。

 主様と共にいるのは、強制されているからではないのです。

 …………主様を好きだからですわ。

 ひょっとしたら主様は私達を束縛していると

 考えているのかもしれませんけど……

 私達は自分の意志で主様の傍にいるのですわ」



 …………


 「私達は武具として在る時、

 まるで闇の中でまどろんでいるような感覚をもっていましたわ。

 それはもう永い永い間……

 それが当たり前のことだと思っていましたから。

 微かに武具として使われた記憶もあります。

 ですがそれはまどろみの中で見る夢のようなもの」


 …………

 


 「その闇の中から私達に世界を見せてくださった主様は

 私達にとって光なのです」


 「私がみんなの光…」


 ジュネが微笑む。いつのまにか私の握られた手は、

ジュネに掻き抱かれるようにジュネの胸元におさまっていた。

ジュネの鼓動が聞こえてくるみたい。


 「ですから、主様は私達を束縛しているだとか、

 一緒に過ごすのを嫌がっているだとか思ってほしくないのです。

 主様にそのように思われると、私達は寂しいですわ。

 なんだか……いつのまにか主様がいなくなってしまいそうで」


 ジュネの微笑みはいつもの悪戯気なものじゃない。

悲しげで儚くて、今にも泣いてしまいそうな微笑み。


 「……うん、ごめんね。みんなの気持ちを考えていたようで、

 私が勝手にみんなの気持ちを決めつけてたんだね。

 大丈夫だから。私だってみんなと一緒にいるのは楽しい。

 いつまでも絶対に一緒だからね」


 私の言葉がこの子達を不安にさせちゃったんだね。

お財布を渡した時の戸惑ったような表情は、

貰っていいものか困惑してたんじゃなくて、

私の言葉を気にしてだったんだ。

私の中では親鳥が小鳥を巣立たせようとする感覚だったけど、

この子達は小鳥じゃない。

自分達の意志で私と共に在りたいと望む仲間でありパートナーなんだ。

なんだか手だけじゃなくて心もじんわりとあったかいな。





  「主様……」


 ジュネが私の身体を抱きしめる。

ジュネの体温を感じる。足を交差させて身体と身体がギュッとくっつく。

気が付いたら私とジュネは見つめ合っていた。

ジュネの瞳の中に私の姿が見える。吐息すらかんじるくらいの距離。

お互いの視線が絡み合って、自然と唇が近づいて――



 



 「いやいや、やっぱりいつものジュネだった」



 「主様!?」


 なんでこのまま未成年者は見ちゃ駄目な雰囲気になってるの!? 

思わず私も流されそうになっちゃったよ。


 「主様、ここはお互いの身体で絆を確かめ合うところですわ」


 さっきまでの良い話が台無しだよ! 

ジュネはいつもの悪戯っぽい笑みを浮かべて小さく舌を出す。


 「良い雰囲気になってましたのに……いけずですわ」



 「ジュネはエンテのほうに顔を向けて寝ること。

 身体はそのままでいいから」


 「主様!? 首がねじ切れてしまいますわ」



 そんなことを言いながら、いつのまにか眠りに落ちて行った。

ジュネの体温の暖かさをずっと感じながら……。



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