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武具乙女  作者: ふきの精
第二章
16/41

15

 「あぁぁっ!!!!   あっつっい!」


 私は火球からウイナを身を呈してかばう。熱い、熱いけど耐えられる。


 「マスターーー!!」

 「主様っ!!」



 「お、お嬢様っ!!」


 三人の悲痛の叫びが聞こえるが、私の意識は自分の体力を注視している。


 242/285


 大丈夫! 虚弱だった私はもういない。

今ならこんな火球の一つや二つ。いや、やっぱり熱いのは嫌だね。

私Mじゃないし。



 「エンテは亡霊騎士を抑えておいて。

 ジュネ、カバーをお願い。ウイナはワイトの牽制を」



 涙目になりながらも指示を飛ばす。

こんな時こそ白銀一閃が使えたらなんとよかったことか。

亡霊騎士はエンテ一人で対応できる相手と見極めた。

たぶん時間をかければエンテ一人でもなんとかなりそう。

それよりも今は後方に現れたアンデッド集団だね。

ワイトはともかくボーンウォーリアの集団は

接近戦が不得手なウイナには荷が重い。

私が盾をしている間に、ジュネに倒してもらう作戦でいこう。



 「こんのぉほねぇぇぇぇ!!」


 ってジュネが私が敵と接敵する前に戻ってきた。

はやすぎでしょ!?

ジュネが槍を振るうと二体のボーンウォーリアを枯れ葉のように薙ぎ払う。

勢いに任せて壁に叩きつけられたボーンウォーリアはそのままバラバラと崩れ去る。

残りのボーンウォーリアは五体。

カタカタと骨を揺らせながらジュネに襲いかかる。

鎧袖一触、ジュネは槍を回転させながらボーンウォーリアの集団に飛び込むと

紫電の輝きと白銀の輝きを撒き散らしながら、

駆け抜けざまに弾き飛ばす。まるで竜巻だわ。

ジュネがそのままワイトに辿りついた時、ワイトに輝く矢が五本刺さっている。

いつのまに!?


 「……しぶといわね……でも倒れるまでうちこんであげる………」


 あれ? ウイナさん何か変なスイッチが入ってるの? 

無表情のままに淡々と矢を放つ。

というか、もうワイト倒れてるんだけど。

倒れてるワイトに追加の矢が刺さってる。

ワイトが光の粒子となって消えたところで、ようやくウイナが元に戻りました。

よかったよかった。



 「マスター、お怪我は!?」


 振り向くとエンテの心配そうな顔が。 亡霊騎士の姿はすでにない。

ってエンテ怪我してるじゃないの!

たぶん早く倒そうと無理やり攻撃を続けたんだろう。

衣服がボロボロになり肌が見えた部分からは、

ところどころに切り傷や擦ったような痕が見える。


 「エンテこそ、怪我してるじゃない! 

 もう、心配してくれるのは嬉しいけど無茶はしちゃだめだよ」


 「お嬢様こそ無茶はされないでください。

 私のせいでお嬢様にもしものことがあったら……」


 うっ。たしかに咄嗟のこととはいえ

敵の魔法攻撃に飛び込んだのは褒められることじゃないね。

ウイナが滲んだ瞳で私の姿をみやる。逆だったら間違いなく私もウイナを心配するし。

とはいえ、結果的にはこれでよかったと思う。

エンテの怪我を見るに、やっぱり武具乙女達は普通に傷つく。

たいして私は体力が減少してるものの、怪我はしてないんだよね。

もちろん体力がなくなると、死んじゃうと思うけど

怪我はしないんじゃないかな……私。



 「あぁっ、主様! ご無事で何よりです。

 炎に包まれた時は心配で胸が張り裂けそうでした」


 ジュネが後ろから抱きついてくる。うん、ジュネも心配かけたね。ごめん。

でもなんで息が荒いんだ? 

この息の荒さは戦闘のものじゃなくて別のものだよね?


 「ジュネ、マスターが苦しがってます。早く離れなさい」


 エンテがジトッとした目でジュネを見る。


 「あら、エンテが抱きつきたいだけなのではなくて? 

 私はこの張り裂けそうにドキドキしている心臓の鼓動を

 主様に感じていただきたいだけなのに」


 だから胸を押しつけてきてるんだね。

二人ともグヌヌと睨みあう。

さっきまでの息の合った連携がすでに息をしてないんですけど。




 「二人ともそれくらいにしておきましょう。

 まだここはアンデッドの領域ですよ」


 ウイナが二人を宥めてなんとかジュネをひっぺがすことに成功する。

やっぱりウイナが一番お姉さんだわ。



 「それじゃあ戦利品の回収をしましょうか」


 私はこの塔に来た一番の目的である、魔盾を拾う。

ひょっして倒したら消えてしまわないか心配だったけど、大丈夫みたい。

悪魔の顔のついたある意味禍々しいとも思える魔盾メビウス。

呼び出すのは塔を出てからにしようか。

暗視薬は余分にあるけど、無理に使う必要もないしね。


 「主様、そういえばこのようなものを拾いましたけど」


 ジュネが黒色の指輪を手渡してくる。

さきほどのワイトが光の粒子で消えた後に残ってたとのこと。

なんだろう…手に持っても特に何も感じない。

「武具乙女」には指輪の乙女もいたけど、こんな指輪は記憶にないなぁ。

あっ、字が彫ってある。小さくて読みにくいけど……

魔術院と書いてるのかな? ナンバーも掘られているね。

一応戦利品だしギルドにでも持って行ってみよう。

ひょっとしたら報酬とかでたりして。


 「それにしても変なアンデッド達だったね」


 下へと降りながらさっきのアンデッド集団を考える。

アンデットがアンデッドと戦うのも異常だけど、

ワイト達も亡霊騎士のピンチに救援に来たってかんじだったし……。


 「気が付いたら後ろに出現していました。

 いったいどこに潜んでいたのでしょう…」


 ウイナが悔しそうにつぶやく。ウイナ達も敵を察知する能力は高いんだよね。

それでも気が付かないほど突然現れた。

私も強さを上げてなかったら気が付いてなかっただろうし。


 そんな会話をしながら私達は無事に塔の外へと辿りついた。

ふぅ、空気がおいしい。塔の中がアンデッドだらけだったから

なおさらそう感じるね。時刻は昼過ぎくらいかな? 

ダンジョンはいまいち時間の感覚がおかしくなる。

それじゃあお昼御飯を食べてからメビウスを呼び出そう。








 「それじゃあ呼び出すね」


 私達は森を抜けて街道まで出てから呼び出すことにした。

やっぱり見晴らしの悪い場所だと落ち着かないからね。

今はエンテ達が周囲を警戒してくれてるので、

魔物が現れたらすぐに察知できるはず。



 私は魔盾を持って静かに意識を集中する。


 「秘められし魂よここに………サモン!」


 私が言葉をつむぐと、盾が手から消え去る。

そして目の前には……跪いている姿の女性が現れた。



 「無礼なる働きをしたわたくしめを呼び出していただき

 感謝の言葉もございません。

 この命に変えましても姫の御身をお守りいたします」


 これはまた個性が強そうな女の子ですね。



★★★魔盾メビウス  盾タイプ


元はミスリル真銀で作られた盾であったが、数多の戦いを経て

漆黒に染まった盾。倒された相手の怨嗟の呪いだといわれている。

敵対する者に対して様々な状態異常を付加する呪いの盾。

忠義を尽くすタイプで、騎士道を重んじる。



アビリティ


・防御時、確率で敵に毒、麻痺、眠りのいずれかの効果を付加する :Lv-1


・ターン開始時、確率で自身を含めて隣接する味方の防御力を+40%する :Lv-1



スペシャルスキル


・呪いの盾  一ターンのみダメージを完全無効として、

       そのダメージの三倍のダメージを敵に与える。




 初めての防御型の仲間だね。

防御型というのは盾や鎧や服なんかの防具の乙女の事をさす。

他にアクセサリーなんかの特殊型というのもあるけど、

こっちはまだ仲間にいない。

それにしても……説明文がすごくやばそうです。

女の子の紹介している最後の一行との落差が半端ないんだけど……

アビリティは最初の一つ目の方はちょっと特殊なんだよね。

はまると強いんだけど、なかなかうまく入ってくれない。

それよりも欲しかったのは二つ目の防御力上昇。

これは防御型の乙女に多いアビリティで、単純に受けるダメージを減らしてくれる。

「武具乙女」では攻撃してくる敵の正面の女の子の防御力がダメージ減算に影響する。

だから防御系の女の子をフロント-センターに置くことで、

全体のダメージ量を減らせるんだよね。

基本的に攻撃力高い敵がセンターに多いので、配置もそうなるんだけど。

現実のこの世界だったら、エンテとジュネの防御力を高めてくれるはず。

………私の防御力もあがるといいなぁ。


 スペシャルスキルはちょっと使いにくい。

というのも「武具乙女」では敵の体力とこっちの体力で差がおおきかったから。

三倍ダメージを与えても、ボスクラスだとゲージもそんなに減らなかったんだよ。

まぁダメージ完全無効というのは、それだけで強いと思うけどね。


 さて、とりあえず跪いてるメビウスの誤解を解かないといけない。



 「あの、メビウス? 

 ひょっとして無礼ってさっきの亡霊騎士と戦ったことをいってるの?」



 メビウスは無言で頷く。たしかエンテに最初に聞いた時、

おぼろげながら昔の記憶はあるって言ってたし

さっきの戦いなら時間も経ってないから覚えてるのかもね。


 「それなら気にしなくてもいいよ。

 だいたいメビウスにはどうしようもないことでしょ。

 今は私達の仲間になったんだし、さっきのことは忘れて仲良くしましょ」


 メビウスは私の言葉を聞くと肩を震わせて……泣いちゃってるんですけど。


 「姫のお慈悲に感謝いたします。粉骨砕身して守る所存にございます」


 固い…エンテも固いけど、さらに固い。

忠義を尽くすタイプで騎士道を重んじるというのは伊達じゃない。

スクッと立ち上がるメビウス。結構長身だね。

私達の中ではジュネが少し高かったけど、そのジュネよりも頭一つ分以上高い。


 青みのかかったグレーの長髪に、キリッとした凛々しい顔立ち。

漆黒の重鎧に身を包んでいるけど、何故か下半身は膝上のスカート。

漆黒の具足との間の肌は、病的に白い。やっぱり目立つのは盾だね。

悪魔の顔が付いた形状はそのままに、より禍々しい装飾がついている。

剣も持ってるけど、

攻撃力なんかは流石に攻撃タイプのエンテ達よりは低かった気がする。



 とりあえずこれでフロントは埋まったね。

もし次にフロントの子が来たらどうしようか。

部隊数はまだ増えないんだよね。

もっと強さが必要なのか、ほかに条件があるのか。

「武具乙女」だと強さしか条件がなかったと思うけど……数値はもう忘れちゃった。




 「エンテといいます。よろしくお願いします」


 「ウイナと申します。よしなにお願いいたします」


 「ジュネよ。主様はわたしませんわ」


 四人が自己紹介がてら会話をしている。

あとジュネの物じゃないからね、私。

私がしばらくの間ステータスを確認したり、

アビリティの調整をしたりしている間四人は少しは打ち解けた見たい。

やっぱり女の子同士が仲良くしている姿はいいよね。

エンテとメビウスは何かお互いに通じるものがあるのか、会話が白熱している。


 「マスターは少し無茶をしすぎるところがあるのです。

 なのでメビウスはマスターが敵に突撃しないように注意してください」


 「さきほども炎に身を晒していましたね。

 了解しました。姫様が無茶をしないように注意しておきます」


 「あとマスターは少し目を離すと、

 男どもにちょっかいをかけられそうになるのです。

 これも気を付ける必要があります」


 「姫様可愛いですからね。

 不審者が近寄らないようにガードをしておきましょう」


 「あとは……あまりお肉を食べようとしないのも注意してください。

 この間も夕食に出た骨付きモモの香草焼きを

 ウイナに食べてもらっていましたから」


 「お肉を食べないと力が出ないですからね。

 了解しました。好き嫌いしないように気を付けて見ておきます」



 ……………………ん?

 なんだか二人が私の保護者みたいになってるんですけど…。

あとお肉食べないんじゃなくて、もうお腹一杯だったからなんだよ!

ほんと食べる量が減ったんだよね。

まだ盛り上がってる二人はとりあえず置いといて、

さっさと町へと戻ることにしよう。






魔盾  メビウス

見た目 十九歳前後 身長は高め 

髪型 青みのかかったグレーのロングヘア

服装 トップス 漆黒の重鎧  

   ボトムス 青色の膝上丈のスカート

性格 生真面目で忠義に厚く、努力家。少し思い込みが激しい。

口調 姫様


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