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武具乙女  作者: ふきの精
第二章
14/41

13


 私達はこの数日の間、警備巡回の依頼を受け続けていた。

最初は女性だけのパーティは珍しがられたけど、

今ではごく普通にギルドになじんでる……と思う。


 女性のハンターがいないわけじゃないもんね。

たまに挙動不審な人にあったりするけど、

いつのまにかいなくなってるんだよね。不思議だ。

受付のお姉さん、もといリゼルさんとも仲良くなって、

たまに食事をご一緒したりする。

遠い国から旅してきたと話をしたら、

色々とこの国やこの町のことを教えてもらえたりした。

綺麗だし優しいしで良いお姉さんだわ。

独身らしいけど、もうそろそろ結婚を考えている人がいるんだって。

えぇ、さんざんひやかしてやりましたよ! 

まぁ幸せそうだしご馳走様っていうかんじかな。






 「アルバザックの塔?」


 私がいつものようにギルドで依頼達成の報告をしていると、

後ろの方から話し声が聞こえてくる。

ハンターの人同士で情報交換しているみたい。



 「あの塔ってもうずいぶん昔に踏破されてなかったか?」


 「いや、踏破はされてるんだけど最近その塔で鎧騎士の亡霊があらわれるんだと」


 「なんだそりゃ。アンデッドくらいあの塔にはでるだろ」


 「いや、俺も見たわけじゃないんだけど首がなくて

 全身漆黒の鎧で巨大な悪魔の顔のついた盾を持ってるそうだ」


 「そりゃまたおっかなそうだな」


 「あぁ、まだ討伐されたって話はでてないからいると思うぞ。

 もし塔に行くんなら気をつけろよ」


 「いや、あの塔はアンデッドが多いしたいした素材もないからな。

 わざわざ行く奴なんか触媒探す魔術師くらいじゃないか? 」



 ふむふむ、いくつか気になるワードが出てきたね。

というか最後の素材とか触媒とか、やっぱり異世界物の定番っぽいのあるんじゃない!

私達の場合魔物を倒すと消えちゃうから関係ないけど………この辺は良し悪しだね。


 一番気になったのは首なしの亡霊騎士ってやつだ。 

「武具乙女」にもそういった魔物は登場した。いわゆるデュラハンだね。

アンデッドの中でも中位の強さの魔物で、とにかくタフだった気がする。

で、その持っている悪魔の顔のついた盾だけど……

デュラハンはそんなもの持っていなかった。

むしろその盾は――★★★魔盾メビウスかもしれない。


 メビウスは特徴的な悪魔の顔がついた大盾を持っている。

もちろんそのデュラハンが悪魔の顔の飾りがついてる

ただの盾を持ってるだけかもしれないけど。

魔物との戦いは危険が伴うけど、武具を入手するチャンスかもしれない。

何より求めてた武具の一つである防具だし。

出来れば防具を入手してから強敵と戦いたかったけど、

虎穴に入らずんば虎子を得ずともいうし。

とりあえずもう少し詳しい話を聞きたいので、

噂話をしているハンターさんに突撃しよう。



 「あの、すみません。少しお時間を頂いてよろしいでしょうか?」


 私は淑やかに声をかける。えっ? 猫をかぶってる? 

心外です。初対面の人には礼儀正しくは社会人なら当然ですね。


 「えっ? 姫さん!?」


 姫? 何を言ってるんだこのハンターは?


 「もちろん大丈夫だ! なんならこのまま飯でも食べに――」

   「お、おいっ!」

   「なんだよ、姫さんからのお誘いだぜ? 

    ラッキーだろうが。ひょっしたらお近づきに――」

   「馬鹿っ、後ろ見て見ろって!」

   「えっ? あっ……」


 んんー? 何やらコソコソ話をしていると思ってたらいきなり驚愕! 

みたいな顔をしたんだけど。

私の後ろに何かあるのかな?後ろにはジュネが立ってるだけだね。


 「主様どうかされましたか?」


 普通に笑みを浮かべてるだけだけど。

ひょっとしたら誰か別の人が通り過ぎたのかもね。


 それよりも姫ってなんなんだ。


 「あの、すみません。姫って何のことでしょう?」


 亡霊騎士の話の前にそっちの話を聞かないと落ち着かないね。



 ハンターの方たちが言うには、

どうも私達のことをやんごとなき身分の方と勘違いしてるらしく、

その中心にいる私のことを姫と呼んでいるそうな。

やめてください、恥ずかしさで死んでしまいます。

聖女と呼ばれたり姫と呼ばれたり、

なぜこの年になって悶絶するような呼び方をされるんだ………。

とりあえずやんわりと「私は姫ではありませんよ」 と教えてあげました。



 まぁ変に話がそれちゃったけど、亡霊騎士についての噂話を詳しく聞いてみた。


 アルバザックの塔っていうのはこの町から西へ行ったところにあり、

アンデッドが多いダンジョンということだった。

ダンジョン自体はすでに探索されつくしているので、

今では訪れる人は少ないんだとか。

というのも魔物を倒して素材なんかを入手するのが

ハンターの稼ぎのひとつなんだけど、

アンデッドというのはその素材に価値がほとんどないんだとか。

だから踏破されててしかもアンデッドがたくさんという場所は、

不人気な狩り場ってことだね。


 魔術師の人やネクロマンサーなんかは触媒として使える物があるみたいで、

そういったごく一部の人がたまに収集の依頼をだす程度みたい。


 そんなほとんどハンターが行かない様な場所で

最近件の亡霊騎士が目にされるようになった。

その辺りに出るアンデッドとは一線を画す強さのようで、

戦ったハンターの人は皆逃げ帰ってきたそうな。


 「このまま塔に居続けて探索の妨害になるようなら、

 討伐依頼がでるんじゃないでしょうか?」


 なぜ敬語になってる?しかし討伐依頼を出されるとまずいね。

この場合はドロップ品になるだろうから倒した人の物になる。

ウイナのように武具として価値があれば―――

というか間違いなく価値があるだろうから高値で売買されて手が届かなくなるかもしれない。


 「ひょっとして姫様は向かわれるのですか?」


 「………そうですね。行こうと思いますが問題があるでしょうか?」


 口調にはもう突っ込まないぞ!


 「あの辺りは森も深く、現れる魔物もこの付近のとは強さが違います。

 四人で行くのはかなり厳しいと思います」


 ふむ、たしかにパーティ組んでる人をみると8人とか10人とかも見るね。

私は最大で六人という制限があるけど、

制限がなければ依頼報酬と相談して適正な人数を集めたほうが安全だ。

この世界は魔物の数が多いから、

町から離れた場所に行こうとすればそのくらいは必要なのかもしれない。

でもちょっと見られたくないことや知られたくないことがあるから、

私達はこれで行くしかないね。

幸いアンデッドなら何とかなると思う。

アンデッドに強いエンテとウイナがいてくれるし。



 私達はハンターさん達に情報のお礼を言ってギルドを出た。

旅の準備をしなくちゃね!







 「はぁぁっ!!!」


 エンテの剣が煌めいて魔物の胴を薙ぐ。


 「ウイナ、左から新手が来るから牽制!

 ジュネはそのまま突撃」


 「射落とします」


 ウイナの輝く矢が木を渡って迫る大柄な猿に突き刺さる。

枝を掴もうとした腕に矢を受けて、そのまま落下して地面に叩きつけられる。

まだ生きてるだろうけど時間は稼げたね。


 今私達が戦っているのは邪猿と呼ばれる魔物。

大きさは岩鬼よりも少し大きい。岩大鬼よりは小さいけど、俊敏さが違う。

特に森のような立体的な戦闘区域では、やっかいな魔物といえる。


 特徴は大きな一つ目。

全身は白毛のけむくじゃらでなんだかイエティって感じもする。

森などに生息し、複数が群れてテリトリーを作るんだとか。

そのテリトリーに獲物が侵入すれば、連携して襲いかかってくる。


 資料室の魔物本によれば、この邪猿の強さは魔獣級。


ちなみに魔物の強さは

・町付近などで遭遇する害獣級

・害獣級の上位種やより強い魔物などを含めた魔獣級

・熟練のハンターでも危険な存在の凶獣級

・複数のパーティで討伐を検討するレベルの超獣級

・出現の報告があれば国が動く準災害級

・人の力では抗いようのない災害級


 このようになっている。災害とか怖い。

もちろん相性や状況によって戦いやすいかどうかは左右されるから、

目安のようなものだけど。

ちなみに魔物本に載っていたので一番やばいのは

マダの国にいる準災害級の六眼竜。

いまは森の奥深くで半冬眠状態なんだとか。

厳重に監視をしながら警戒中って書いてたっけ。

「武具乙女」では聞いたことのない魔物だから詳しくはわからないけど、

近寄りたくはないね。


 で、この邪猿はランクでいえば岩鬼と同ランクではあるものの、

岩鬼よりも戦いにくそうだ。

というか、岩鬼も騎士さんが一対一では厳しいとかいってたし弱くはないんだよ。

エンテ達がポンポン倒していくから実感がわかないけど……。

相性もあるんだろうなぁ。

普通の剣では鬼系の固い肌に阻まれて有効なダメージを与えにくいんだとか。

その点この子達の使ってる武器は一級品だからね。

岩鬼程度の防御力は問題ないんだろうなぁ。


 邪猿はどちらかというと俊敏さと、

木々を生かした立体的な戦いが特徴なので岩鬼よりは戦いにくいのかも。

まぁ比べれば――という意味であって、

エンテやジュネは余裕を持って攻防を繰り広げている。

エンテとジュネは変なところでいがみ合ったりしてるけど、

戦闘での連携は息があっている。

今もエンテとジュネが二体の邪猿を相手取って、

入れ替わり立ち替わりお互いをサポートしつつダメージを与えていく。

たまにアイコンタクトで頷きあってるのを見ると、キュンとしちゃうんだよね。

女の子同士がこう……ってそんな場合じゃないや。




 「このさるぅぅ!!」


 ジュネがエンテを挟み撃ちにしようとしていた邪猿の横っ腹に

穂先を食い込ませると、次の瞬間紫電が光る。


 「ぎゃぉぉっっ!!」


 たまらずに叫び声をあげて距離をとろうとバックステップする。

あれでまだ生きてるとか見た目通りにタフだ。


 「逃しません!」


 距離をとったことで二体の邪猿が離れる。

その隙をついてジュネの一撃を受けた邪猿にエンテが踏み込む。

一瞬で距離をつめると、白銀の煌めきとともに邪猿の身体を白銀剣が貫く。

この一撃が致命傷となり邪猿が地に倒れ伏す。



 「ぐぉっぐぉぉ!」


 仲間が倒されてもう一体の邪猿が怒りの咆哮をあげる。

そのままエンテとジュネに向かって飛びかかろうとするが


フォォン!


 輝く矢が邪猿の胸元に突き刺さる。ナイスアシストよウイナ。


フォォン!

 次の瞬間更なる矢が邪猿の目を貫く。

二回攻撃でクリティカルポイントを狙うとかウイナ凄すぎ。


 あっちはもう大丈夫そうだね。あとは射落とした方を……ってまた来た!


 「ウイナ! 右、エンテ達の奥の樹上から新しいのが来てる。

 牽制お願い。ジュネは射落とした方の処理を」


 「了解です、お嬢様」


 「おまかせくださいな」

 

 二人が即座に行動に移る。エンテは目に矢を受け暴れている邪猿に止めをさす。


 ウイナの矢が最初の邪猿同様、樹上から射落とすことに成功する。

命中精度高いね。

その間にジュネが最初に射落とされて激怒している邪猿に接敵する。

邪猿は怒りにまかせて腕を振るうが、ジュネは軽やかにかわす。

そのまま流れるように突きを繰り出し邪猿に止めを刺す。


 射落とされた二体目は地面に叩きつけられた痛みでのたうち回っている。

エンテは銀の流星と化して邪猿に近づくと強烈な斬撃を放つ。

苦し紛れに振るう腕もろとも邪猿を一太刀のもとに切り捨てる。



 「ふぅ、おわったね。 みんなお疲れ様」



 私はもう敵が現れないことを確認して、労いの言葉をかける。

ほんとにみんなには頼ってばかりだね。


 「マスターの為でしたら、この程度なんでもありません」


 エンテは微笑んで答えてくれる。ほんと、良い子です。

もちろんウイナとジュネもね。



 「もうそろそろ塔に着くし、このあたりで野営しましょうか。

 さっきの魔物のテリトリーだったみたいだし、少しは安全じゃないかな」



 もちろん安心はできないけど、塔に行く前に休息は取っておきたい。






 木の洞を利用して交代で休息する。今は私が見張りの番をしている。


 虫の鳴き声が聞こえてくる以外は、静かだ。

たまに風が吹いて木々がざわめくけど、魔物の気配は感じないね。

ふむ、今のうちにレベルアップをしておこうかな。

やっぱり上げておきたいのは、エンテとウイナの対悪魔・アンデッドボーナス。

お金を貯めておきたいけど、魔物にやられちゃったら貯めるも何もないからね。


 ジュネも上げておきたいなぁ………やっぱり雷の追加ダメージかな。

昼の戦闘でもいいかんじだったもんね。



 チョッチョッチョッと。レベルを上げると、

私の体力も上昇するのがわかる。今なら盾くらいはなれるんじゃないかな。

それと昼の戦闘の時にも思ったけど、

強くなるたびに知覚できる範囲が広がっているんだよね。

それだけじゃなく、思考速度も速くなってる気がする。

ひょっとしたら「武具乙女」で主人公は司令塔的な役割だったから

(サンドバック? 何のことですか?)

それらの能力が高まっているのかもしれないね。


相変わらず武器を振るうのは難しいけどね。




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