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武具乙女  作者: ふきの精
第二章
13/41

12

 

 というわけで、私達は三時間の警備巡回へと赴いた。



「魔物がいませんね」



 たしかにエンテの言うとおり魔物に遭わない。いいことなんだろうけどね。


 三時間コースだけに町からそれほど離れることはない。

それに地形的にも平原が多いので、魔物が少ないんだろうね。

三時間コースとはいっても、

既定のルートを通ったとしてのだいたいの時間なので

ルートを外れて森に入って行っても問題はない。

要は確認板に魔力跡が残ってれば良いからね。


 この依頼は定期的にやっているみたいなので、

次の機会にはもう少しルートを外れてみようかな。




 「はい、たしかに確認板を受け取りました。お疲れさまでした」



 にっこりとした笑顔で報酬を渡してくれる受付のお姉さん。

一日の疲れが癒される男性ハンターも多いんじゃなかろうか?



 さて、時刻は夕方遅く。もう暗くなってきてるね。

依頼を受ける前に宿を取っておくべきだったと、今頃になって気が付いたよ。

依頼を受けることに夢中でそれ以外のことが頭になかったんだね。

ただ宿はカンテ村に比べてかなり多い。

全て満室ということは流石にないと思うけど、

あまり治安のよくなさそうな宿は遠慮したいな。



 せっかくギルドにいるんだから、

ギルドのお勧めの宿を紹介してもらえないかな。

私は暇そうにしているギルド員の人をつかまえて聞いてみる。


 「そうですね……女性ばかりのようですし、

 カトレア亭がいいかもしれませんね。

 あそこは女性の従業員がほとんどですし、

 値段もお手ごろで料理もおいしいですよ」



 おおっ、すごい優良物件っぽいじゃないですか?

でもこのくらいの時間だといっぱいになってるんじゃないのかな

………と聞いてみたけど、たぶん空いてるだろうとのこと。

というのも、内装などが可愛らしく飾られていて、

食事もおいしいけど量は少なめなんだとか。

つまり女性をメインターゲットにしてる宿なんだね!


 ちなみにハンターはもちろん、

行商人などの宿を取りたがる人は女性の比率が少ない。

結果として多少治安が悪くても格安で泊れるところだったり、

酒場が一緒になっていて飲み食い騒げるところだったり、

女性と「子供は見てはいけません」なことができる宿が人気なんだとか。

私の感覚からすると需要がありそうだなと思うけど、

ここは異世界だもんね。

まぁ私達にとってはラッキーだということで、

早速その宿の場所を教えてもらう。



 「うわぁ、これはたしかに男の人は泊りにくいかも」


 ギルドからカトレア亭まではだいたい二十分くらいでした。

外観はなんというか、メルヘンな感じのパステルカラーの宿屋。

これ現代だったらラブホテルと間違えかねないと思う。

この世界にはそんなのなさそうだけど。

女の私でもちょっと躊躇してしまうくらいだし。と思ったら


 「マスター、可愛らしい建物ですね!」


 乙女全開なエンテさん。


 この世界の女性は素直に喜んでいる。私がすれてるだけなのか……。



 「いらっしゃいませ、カトレア亭へようこそ!」



 お出迎えはウェイトレスのような格好をした女性従業員。可愛いのぉ。


 ギルドの人が言ってたように、たしかに女性従業員が多い。

受付にいる人も清掃をしている人も、

奥の食堂のような場所にいる人もみんな女性だ。

ちなみにその食堂で食事をしているお客さんも女性でした。


 内装がこれまた幻想的なかんじで可愛らしい。

壁や天井は優しい色彩で統一されていて、

魔法のランプのような照明がしてある。

テーブルや椅子なんかも綺麗な刺繍の入ったカバーがされている。

ひょっとしたら従業員さん達の手作りなのかな?

豊富に花も飾られていて、ほのかに甘い香りが漂ってくる。



 建物の大きさ的に部屋数はそこまで多くはなさそうだけど、

部屋はあいてそうだね。

だって受付の人、私が宿屋内をきょろきょろしている間ずっと

キラキラした目でこっちを見てるんだもん。

はやくいらっしゃいとか聞こえてくるみたいだよ。



 ということでいざ受付へ。


 「すみません、四人で泊りたいんですけど部屋は空いてますか?」


 「はい! 空いてございます。

 四名様用の部屋ですと一泊で八千ヴェールになりますが

 よろしいでしょうか?」


 ふむ、四人だしたしかに手頃な感じがする。


 「お食事は別料金になってますが、いかがいたしますか?」


 これはもちろん四人分お願いした。

美味しいっていってたからね、楽しみだ。




 「ふぅ、ようやく落ちつけた感じがするね」


 私はベッドに腰掛けてそのままパタンと倒れ込む。

うーん、部屋もメルヘンな雰囲気いっぱいだ。

最初はなんとなく抵抗もあったけど、今では居心地よくかんじるなぁ。

アラサーだって女の子なんだ。

というか、女性はいつまでも乙女なんだよ!


 「お嬢様、これからはこの町を中心に活動されるのですか?」


 「うん、とりあえずはお金稼ぎだね。

 この宿も素敵だけど、できれば家を買いたいんだ」


 正直日本に戻りたいかどうかで聞かれたら、

戻る気はもうなくなってるんだよね。大きな理由はこの子達かな。

私がいなくなったらまた武具に戻るのかもしれないけど、

こうやって一人の人間として接して慕ってくれてる子たちを見ると、

この世界でがんばらなきゃって思うんだよね。


 将来おばあさんになる頃には大きな屋敷に住んで、

大勢の武具乙女たちがキャッキャしてる姿を見ながら縁側でお茶を飲むんだぁ。


 「主様との新居………ふふふっ」


 ジュネがなんだか変な妄想してる。


 「ジュネから色欲を感じます」


 「マスター、それは私のセリフです……」


 エンテからつっこみをもらいながら、

私達は食事までの時間をゆっくりと過ごした。








 さて、お待ちかねの食事ですがたしかに美味しい。

カンテ村での食事も美味しかったけど、

こっちはこっちでいろんな食材を使った鮮やかな料理だ。

流石は交易の町だね。

ブイヤベースとミネストローネが合わさったような

具だくさんのスープが特に美味しかった。

一緒に供されたパンとの相性もグッドだよ!

ただたしかに量は少量かもしれない。

私にとっては普通くらいというか、むしろ多いくらいなんだけど

男の人じゃ足りないだろうね。

ちなみに武具乙女たちは私と同じくらいしか食べない。

エンテとか戦闘の時動き回るし、たくさん食べそうなものだけどね。

別に我慢してるようでもないし。でもお腹は普通に減るとのこと。

武具になってる時はそんな感覚はなくなるっていってたけど。



 私達は食事をしながら今後の予定を話し合う。

家を買いたいという目標はあるものの、どうやってお金を稼ぐかだよね。


 「お嬢様、今日のような依頼だけではだめなのですか?」


 「うーん……さすがに家を買うまで貯めようと思ったら厳しいかなぁ。

 家がどれくらいで買えるかは調べてみないとだけど、

 欲しいのは大きめの家だからね」


 そう、どうせ買うなら大きめなのがいいよね。


 「大きめなのを買いたい理由は、仲間を増やしていく予定があるから」


 せっかくこの力があるんだから、仲間はどんどん増やしていきたい。


 「お嬢様のお力ですね。私やエンテやジュネのような存在を呼び出すための」


 「主様を独占できなくなるのは残念だけど、仕方ありませんわ」


 「ジュネ、マスターを独占なんて今でもさせませんよ?」


 エンテとジュネがぐぬぬ…と睨みあう。

たぶん争う争点が間違ってると思うんだ。

ウイナは「あらあら」といったかんじで微笑んでる。

この中で一番大人なのはウイナだと思うな。

ちなみに見た目はエンテとジュネが高校二、三年くらいかな? 

ウイナは大学生ってかんじだね。

うん……私が一番幼く見えるのは変わらない。

いや、今後もっと幼い感じの武具乙女が増えれば私もお姉さんに!


 「この町で見つかるでしょうか?」



 「うん。この町でもきっと見つかると思う。

 なんといっても交易の町だから」


 でもその為にはお金がさらに必要なんだよねぇ。

ウイナを買うのにも結構かかったし(おまけをしてくれてほんとに助かったよ)

もっと高い値段の武具もあると思うし……。


 「そうなりますと、たしかに今日のような依頼だけでは難しそうですね」


 ウイナが残念ですとつぶやく。


 「私達ができる一番のお金稼ぎは魔物討伐だと思うんだよね。

 だから警備の依頼を受けることは受けて、

 ちょっとルートを変えていこうと思うんだ」


 「ふふっ、おまかせください。

 主様の為ならば魔物の百や二百、問題ありませんわ」


 ジュネが胸を張ってまかせなさいといった仕草をする。

いま胸がブルンって揺れたよ!?


 「みんなには負担かけちゃうけどお願いするね。

 私も出来るだけサポートするから」


 「マスターの為でしたら、負担など感じません。

 それよりもマスターこそ無茶はされないでくださいね」


 エンテが不安そうな顔をしてジッと見てくる。

うん、悲しませるようなことはしないと誓うよ。

その為には回復系の乙女と防具系の乙女を仲間にしたいんだよね。



 今は剣と槍のフロント二名と弓のバック一名。

最優先で探したいのは盾か鎧の武具乙女かな。

「武具乙女」でいうと、今は防御アビリティが無い状態で

戦闘をしてるようなものだからね。


 今戦ってる魔物たちはどうにかなっているけど、

この先もっと強い魔物と戦う事を考えたら防御もおろそかにできない。


 回復系の武具乙女はアクセサリーや杖の武具乙女が多かったかな。

防具で神官服やローブのような女の子も使ってたっけ。

やっぱり回復魔法があると安心できるもんね。

あとは魔法を使える武具乙女がいてほしいかな。

「武具乙女」では物理耐性の高い敵も存在した。

そういった敵とあった時、エンテやウイナやジュネでは相性が悪いんだよね。



 うーん……そう考えると、まだまだ先は長いなぁ。


 まぁ焦る必要はないし、出来ることからやっていくしかないか。











  深夜、一部を除いて町が寝静まった頃、

カトレア亭のロビーにエンテ、ジュネ、ウイナの三人が集まっていた。



 「お嬢様はよくお休みになられています。

 歩き通しでしたからお疲れなのでしょう」


 ウイナの言葉にエンテが頷く。

 

 「ではマスターの傍をあまり離れたくないので、

 手早くしてしまいましょう」


 「第二回従者会議ですわね」


 三人が集まった理由。

それはヤトを如何にして守っていくか話をする為だった。

もちろんヤトは知らない。

ちなみに第一回はカンテ村からバルーザに来る途中で野宿をしたときに行われた。


 「露店ではマスターにちょっかいをかけようとした輩が三名ほどいましたね。

 ジュネが追い払っていましたけど」


 「えぇ、主様に何の目的で近づこうとしたのかわかりませんけど……

 まぁあのだらしない顔を見たら想像はつきますわ。

 私がちょっと裏路地でお説教しておきました」


 「ジュネ、あまり手荒なことはしてませんね?

 お嬢様は争い事がお嫌いな様子。

 逆に余計な心配をおかけしてはいけません」


 「それは大丈夫ですわ。

 すこーし威圧しただけで逃げていきましたから。

 もう二度と近寄ろうとはしないでしょう」


 「ふふふ、それなら大丈夫ですね」


 ウイナは微笑む。


 「主様にちょっかいを出そうなんて許しませんわ」


 ジュネはヤトのことを考える。

武具としてまどろむ意識の中からこの世界へと呼び出してくれた存在。

それはジュネにとって光を与えてくれた掛け替えのない存在だった。

サラサラとした黒髪を腰付近まで伸ばし、可憐という言葉が似合う顔だち。

ジュネは日本人形というものを知らなかったが、

お人形さんのようと思ったのはあながち間違いでもなかった。

可愛いもの好きのジュネが初対面でヤトに抱き付いたのも

本能からくる行動だった。


 「私達ならその程度の輩どうとでも対処できますが、

 マスターは戦う力を持ちません。

 これからもマスターによからぬことを考えるものが出てくるでしょう。

 さらに警戒する必要がありますね」


 エンテはヤトのことを考える。

マスターとして敬愛すべき主君という以上に庇護すべき大切な存在だった。

馬車の中で行商のお爺さんが姉妹のようだといったのを聞いたときは、

おもわず顔がにやけてしまった。

幼い外見に似合わず大人びた態度を取ろうとする姿は、

背伸びをしている幼子のようで微笑ましく思ってしまう。

(ヤトが聞くと全力で否定するところ)

かと思えば好奇心旺盛で大きな瞳が感情豊かにクルクルと動く。

年相応な態度をとるときは、頭を撫でてあげたくなる。

(ヤトが聞くと赤面して布団に潜り込むところ)



 そんな二人を見て、ウイナは微笑む。

メイドとして仕えることに悦びを見出すウイナだが、

ヤトが自分を頼ってくる姿は母性本能をくすぐられて、

越えてはいけない一線を越えてしまいそうになる。

他の二人に比べてウイナは感情を抑えがちだ。

そんなウイナでもヤトのことになると、つい暴走しそうになる。


 (仕えるべき方を抱きしめたいだとか、

一緒の床でお休みしたいだとか、不敬なのはわかってるけれど……)



 三人が三人ともほわぁぁと自分の思考の海に浸っている。

こうして第二回従者会議もグダグダのうちに終わりを迎えることとなった。


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