真面目×ヤンデレ
「麻子、それ頂戴」
「亜里沙。それって言われても分からないよ」
「だからそれだって」
「だから。それって言われても分からないでしょ」
「もうとぼけちゃって、麻子のおっぱいに決まってるじゃない」
「ひゃ! い、いきなり何するの!?」
「う~む、これはまた大きくなりましたな」
「ちょ、や、やめなさい。怒るよっ」
「それもこれも私が毎日のように揉んでるおかげかな?」
「そんなわけないでしょ。いいから離しなさっ――――んんっ」
「あらあら感じてきちゃった?」
「何笑ってるの。そんなわけないから」
「あ、反抗的なんだ。そんなこと言ってると、下も触っちゃうよ?」
「それだけは亜里沙でも許さな、いっ」
「んふふ、かーわい。このまま家においておきたいくらい」
「ご、誤魔化さない、でよ」
「ごめんごめん。分かってるって。麻子の大事なところは傷付けない」
「な、ならいい……訳ないでしょ! さっきから人が抵抗してるのにいつまで触ってるのよ!!」
「あはは怒った怒った」
「笑い事じゃない! 全く、そんなだといつまでたっても彼氏ができないよ?」
「堅物の麻子に言われたくないなぁ」
「かたぶっ……昔っから失礼よね、亜里沙って」
「なんたってお嬢様だもん」
「答えになってないはずなのに納得してしまう辺り、私もおかしいのかな……」
「そうね、おかしい」
「……亜里沙に言われると釈然としない」
「別に悪い意味で言った訳じゃないよ? だって麻子みたいなこーんなに可愛い女の子ってそうはいないもん」
「それはさすがに持ち上げすぎ。私より可愛い人なんていくらでもいるよ」
「ふふん、お嬢様のあたしを舐めないでよ? これでも見た目にかなり気を使ってる人となんて結構な数会って来たけど、綺麗な緑の黒髪。睫毛は短いし一重瞼で口も小振り。だけど小顔だからバランスが良い。最近胸は少し大きくなったけどギリギリBに届くくらいで、身長は少し低めだけど体の線が細いからこっちも良い。と言うよりも変に突出した物がない分、全てのバランスが綺麗に保たれていて周りの人じゃ話にならないわ。薄く化粧して染めの良い着物を着せたら、それこそ振り向かない人がいないでしょうね」
「……一部褒められてるのか貶されてるのか分からない言われようね」
「あたしは最大限褒めたつもりなんだけど。もっと分かりやすく言えば日本人形みたいなの、麻子って」
「それ絶対貶してるよね」
「えー、日本人形って風情があっていいと思うんだけどな。職人が作ったのなんてすごいのに」
「それは知ってるけど、でも夜見たら怖いじゃない。昔夜中にトイレ行くとき見て以来苦手なの、亜里沙も知ってるでしょ」
「勿論知ってるし否定しないけど。う~んそうだなぁ。他だと大和撫子って言葉が一番しっくり来るかな」
「それは逆に煽てすぎ」
「そうでもないでしょ。今だってきちんと正座してるし、その姿も綺麗で様になってるもん」
「これは癖みたいなものだから。これも知ってるでしょ」
「なんだかんだで麻子の家は旧家だもんね」
「だから私にとってそんなに特別なことじゃないもの。正座なんて特に」
「よく言うわよ。家じゃ料理に洗濯、掃除に裁縫はお手の物。学校での評価は品行方正才色兼備。男に対してはさりげない気遣いにサポート。しかも自分は目立たないようにして男を立たせるなんて、そうそうできることじゃないでしょ」
「そんなことないよ。それに私はそう教えられてたから」
「だからって高校生にもなって門限が六時。しかもそれをちゃんと守る人も珍しいって。携帯も未だに持ってないし」
「習慣だし、特に困ったことないもの」
「そんなこと言ってるから男ができないのよ」
「そ、そうかな?」
「絶対そう。だから麻子の好きな田中君だって振り向いてくれないのよ」
「そう、なのかな?」
「百パーそう。だってそもそもありえないでしょ。今時の高校生が男女恋愛禁止なんて」
「おじいさんが決めたことだから」
「もう。あの人の言うことなんて律儀に守らなくても良いのに……まぁ麻子がそれでいいなら良いけど」
「家を守ってるのは今も昔もおじいさんだし、これくらいの言いつけを守らないと罰があたるよ。それに後一年もすれば卒業だから。それまで我慢すればわ、私からこ、告白することだってで、できるし」
「あらあら健気なうえに初々しいこと」
「何笑ってるの!」
「ぜーんぜん。あたしは全く笑ってないわよ?」
「嘘。思いっ切り嬉しそうに笑ってるじゃない」
「気のせい気のせい~」
「もう知らない」
「ごめんごめん。麻子が可愛いからつい苛めたくなっちゃうの」
「本当、良い趣味してるよね。亜里沙って」
「そんな褒めないでよ~」
「褒めてないんだけど……はぁ、いっか。そろそろ帰るね」
「あ、もうそんな時間?」
「うん。それにそろそろ帰らないと夕ご飯の準備、お母さんに全部やらせることになっちゃうから」
「本当に良い子よね、麻子って。いっそ家の嫁に来ない?」
「冗談言わないの」
「物凄く本気なんだけどな」
「全く……でもありがとうね、亜里沙」
「何? 改まって」
「分かってて、聞いてるでしょ」
「ばれたか」
「バレバレよ」
「田中君。そろそろ一週間になるもんね。行方不明になって」
「……うん」
「元気にしてると良いけど」
「そう、だね」
「父様の知人に警察の偉い人がいるから、何か分かったらすぐに教えるね」
「ありがとう、亜里沙。大好き」
「あたしも麻子が大好きだよ」
「じゃあそろそろ本当に帰るね」
「うん。また明日学校で」
「バイバイ」
「バイバイ………………帰っちゃった………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………さ、そろそろ出してあげよっか」
「んんーっ」
「いきなりうるさいわね」
「んん、んんんー」
「黙りなさい!」
「――んっ」
「そう、静かにしていればいいの。そしたらちゃんと口を開けられるようにしてあげる」
「ぷぁ! し、東雲。お前自分が何やってるか分かってるのかっ。人をクローゼットに監禁して!」
「分かっててやってるに決まってるでしょ」
「何のために。お前の家は金持ちだから金なんていらないだろ」
「そんなことのためにやってなんかいないわよ」
「じ、じゃあなんのために……」
「そうね、そろそろこの状態も飽きてきたし、いい加減教えてあげる。あなたが麻子に、近づくからよ!!」
「あがっ」
「汚い豚のくせに、あたしの可愛い麻子に近づかないで!」
「な、なんでお前の許しを得なくちゃいけないんだ」
「当たり前でしょ。あの子と私は幼馴染なの。それにあなたも最後聞いてたでしょ? あの子はあたしが好き。あたしもあの子のことが大好き。相思相愛なのっ。……なのに、去年から麻子は何処の残飯かも分からないような奴にかどわかされて、あたしといるのにそいつの話しばかり。最初はちゃんと我慢しようとした。女の子同士だもん。おかしいのは分かってた。でも、でもね、やっぱり好きなものは好きなの。自分だけのものにしたいのよ。一回そう考えたら歯止めが利かなくなっちゃった。あの子の爺様にバレないよう予防線を張らせたけど、やっぱりあの子はこの世で最も可愛いから、蛆にもその価値を分からせちゃったらしくてね、この一年で二人くらい、消えてもらっちゃった」
「っ! まさか、あいつらがいなくなったのって……っ」
「そ。麻子にちょっかいだそうとしたからちょっと海外に行ってもらっちゃった。今頃暗くて冷たくて、静かなところにいるんじゃないかな?」
「く、狂ってる……」
「ええ、当たり前でしょ? こんなの絶対おかしいもの。自覚してるわ」
「じゃあなんで正そうとしないんだ!」
「だから言ったでしょ? 好きなものは好きだからしょうがないって。どうしようもないって。そしてあたしの恋路を邪魔する奴は誰であろうと許さない! 両想いなんてもっと許せない!! あの子は、麻子は、あたしだけのものなのよっ!!」
「ま、まて、やめろ。そのナイフを仕舞え……」
「……嫌。麻子の気持ちも分かったし、もうこれ以上ゴミ以下の存在をあたしの部屋に置いておく理由はない。これ以上置いておくと臭いにおいが取れなくなっちゃうから」
「冷静になるんだっ」
「あたしは十全に冷静よ? なんたってあなたがこれから行く場所のことを考えてあげてるくらいだもの」
「やめろ、やめるんだ……」
「大丈夫。あなたは一人じゃないの。同類がいる場所へ連れて行ってあげることにしたから。でもその前に――」
「く、くるな」
「全部の足を引き千切られた虫のようなあなたを、あたしの手で殺してあげる!!」
「くるなあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「そら」
「――――あぐっ」
「そらそら」
「――――やめっ」
「そらそらそらそらそら」
「――――ぅぐっ」
「そらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらあ!」
「――――っぁ……………………」
「あ、あはは。分かった? 麻子に手を出したらどうなるか。思い知った? 麻子に欲情したらどうなるか。それをしていいのはこの世界で私だけ。私だけが許されてるのよ!! あーはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは」