保健室
【A wounded healer】
「じゃあな、また来いよ」
金守先生が、セーラー服姿の生徒に手を振っていた。
保健室の前、多分、泣き腫らした目をしていたところをみると、
彼女も先生に相談をしに来たのだろう
「ん?⋯えっと、高村くん⋯だっけ?相談?」
不意に先生が振り向いたので、
高村は身を固くしてしまう。
相談をしに、来たわけではなかった。
「いや⋯」
そういう高村に対して、少し目を細めると、
先生は彼を相談室に招き入れた
「お茶でも飲んでいけよ。相談なくて、暇だからさ」
ことん、とペットボトルのお茶をガラスの湯呑みに入れて出してくれる。
「別に、悩みがなくちゃきちゃいけない場所じゃないしな」
そう言って、笑った。
――傷が⋯視える
心臓の上、まるで赤い花が咲いたように
ジクジクと血が滲み
肉が剥き出した、癒えていない、生々しい傷
金守先生が着任した日、
全校集会で彼を見たときはすでに、視えていた。
きっと、深い、深い、傷
「ん?どうした?」
出されたお茶に手を付けずに、じっと見つめていたのを奇妙に思ったのか、
先生が首を傾げた。
柔らかい笑み
落ち着いた、態度
いろんな生徒たちが、悩みを話そうと思う気持ちが分かる気がした。
「あ⋯っと⋯」
高村は、こうなることを予想していなかったので、なんと言っていいかわからない。
でも⋯
「先生の相談は⋯誰が、聞いてくれるんですか?」
そう言っていた。
金守先生はきょとんとして、自分を指差す。
少しだけ間があって、
高村の言わんとしたことを理解したのか、
薄く笑った。
「いろいろ⋯かな?
同僚に話したり、自分で考えたり、
先生にも先生がいるから、その人に相談したり」
そして、
なにか気になるの?
と。
「いや⋯先生は、悩んだらどうするのかなって
傷ついたら、どうしているのかなって」
はは⋯金守は軽やかに笑う。
「高村くんは、随分優しいね。
そりゃ、無理していることもあるよね
しんどいなと思うことも
そういうときはジタバタするかな
ああ、そうだ、
でもね⋯」
ここにいる時は、仕事だからさ
仕事でいるときは、
自分のことは、後回し⋯かな?
高村は、少し驚いたような顔をしていたかも知れない。
ぽかんと、していたかもしれない。
先生の傷はとても痛そうで
きっと歯を食いしばって耐えていて
それでも笑っていて
笑って人を助けようとしている
大人になるっていうことは
もしかしたら、こういうことなのかもしれないと
そう思った。




