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守護者の聖女

作者: 柚華
掲載日:2026/05/17

初投稿です。

拙い文章ですが読んでくれると嬉しいです。

この世界には契約の番と呼ばれる言い伝えがある。

それはあらゆる生命にはただ一つだけ対となる存在があるというもの。

そしてその対となる存在と結ばれ番となると、その番となったものは強力な力を得るというものだ。

実際にお互いに契約の番と結ばれ強力な力を得たことで英雄となった者の存在も記録に残されている。

ただ、誰しもがこの契約の番と結ばれるわけではない。むしろほとんどの者は契約の番と結ばれることなくその生涯を終えることとなる。

なぜならこの契約の番となる相手が誰で何処にいるかは本人ですらわからないのだ。それどころか、同じ人間であるとは限らない。ごく稀であるが、過去には人間と動植物が契約の番としてあった例も記録されている。

そのため、多くの者は契約の番と結ばれることを諦め現実的に恋愛し子孫を残している。

では契約の番はどうやってお互いを認識するのか。

方法は簡単でただお互いに触れるだけで良い。そうすればお互いに相手が契約の番であることを感覚で理解するといわれる。とはいえ何処にいると知れない番を探す為に、道ゆく人を片っ端から触れていくわけにもいかない。そんなことをすればすぐさま衛兵に御用である。

そんな理由もあり契約の番については、長く言い伝えられており記録に残ってはいるものの、その存在はほとんど信じれておらずただの伝承と思われていた。


♦♦♦


ミレイディア大陸。この大陸の国々には強大な力を持つ守護者が存在する。そんな大陸の南西に位置する国、竜国アスドラド。ドラゴンの加護を受け発展してきたこの国には聖女と呼ばれる存在がいる。

と言っても、神に祈りを捧げて祝福を授けるだとか、強力な治癒魔法で人々を癒すだとか、とてつもない魔力で国を支えるだとか、そういった他国で語られる聖女ではない。この国における聖女とは、アスドラドの守護者とされるドラゴンにその身を捧げる生贄である。だがたとえ生贄であっても、強大な力を持つ守護者のドラゴンから加護を授かり国を守る礎となる聖女はある種の信仰の対象でもある。

先代聖女がドラゴンに捧げられて約100年、ドラゴンが王都の国民の前に姿を現したのはそのさらに昔のことであり、大きな争乱や災いもなく平和な時を過ごした今、多くの国民の認識はそういうものになっている。


冷たい石の床で少女は目を覚ます。この国ではありふれた茶色の髪と瞳を持つ小柄な少女だ。だがその髪は手入れされておらずくすんでおり、瞳も全てを諦めたように暗くよどんでいる。身体は暴行を加えられた痣が無数に浮かび、碌に食べれていないことが見て取れるような骨のういた細身である。両腕は鎖で繋がれ広げることができず、足も壁と鎖で繋がれており、移動を制限されていた。

彼女の名はレリア。12歳になる少女であり、6年前からここに監禁されている。


12年前、守護竜を祀る神殿が管理する石板に文字が追加されていることが発覚した。その石板は歴代の聖女の名が刻まれたものであり、守護竜が欲した新たな聖女を示すものでもある。その石板に追加された文字こそが『レリア』の名であった。

神殿からの知らせを受けた国王はすぐさま聖女を探させた。しかし、いくら探しても聖女は見つからなかった。

そのまま5年の時が経ち6年目に差し掛かりそうな時、王都から離れた辺境にある小さな村でレリアと呼ばれる少女が暮らしていることが発見された。5年もの間聖女が見つからなかったのは村が匿っていたからだと考えた王は、神殿の静止を無視して村を王命に背く反逆者として騎士団をもって村を襲撃。即座にレリアを捉えた上、村人は残らず惨殺し村を焼き払った。

王都から離れた人の往来もないこの村には王都からの情報が入って来ない。その上、役人も国が聖女を探し始めた頃に少し来ただけで聖女を探しているとだけ言ってすぐ村を出て行った為、村人たちはそもそも聖女の名がレリアであることも知らなかった。

王都に連れ去られたレリアは王命に背き聖女の使命から逃げた反逆者として扱われ、城の地下牢にとらわれた。守護竜に捧げる重要な生贄であるため処刑されることはなかったが、その扱いはひどいものであった。閉じ込められた牢は窓はおろか寝台や厠すらなく石で作られた小さな部屋で、重厚な金属の扉が口を塞いでいる。衣服はボロボロの貫頭衣のみで、身体は鎖に繋がれ一切の自由はない。食事は1日に1度だけ残飯のようなものが死なない程度に運ばれてくる。日によっては看守のストレス発散なのか殴る蹴るの暴行を受けることもあった。

神殿は聖女の扱いに苦言を呈し救おうとしたが、守護竜を祀っているといっても平民である神官達では王に睨まれては生きていけず監禁された聖女に手を差し伸べることができずにいた。


目を覚ましたとしてもレリアにできることはない。身体は壁に繋がれているし、部屋には何もない。いつものように意識を失うまで暗い部屋の中で絶望に浸るだけだ。

そんなレリアの牢獄に複数の足音が近づいてくる。食事が運ばれてくるときは1人しかこないので、今回も殴られるのかとレリアは覚悟を決めていた。しかし、レリアの予想に反し扉を開けた兵士は「出ろ」と短く命令する。予想外の言葉にレリアが動けないでいると、兵士は苛立ったように舌打ちをしレリアの腹をけり上げた。不意の痛みに呻くレリアを気にすることなく兵士は壁に繋がれた鎖を外すと、そのまま鎖を手に持ちレリアを引きずったまま牢から出ていく。碌な食事もとれず身体を動かすこともできなかったレリアは立ち上がることも抵抗もできず、周囲を兵士に囲まれながら地面を引きずられる痛みに耐えるしかなかった。

しばらく引きずられ全身に擦り傷ができた頃、1台の馬車の前にたどり着いた。無骨で頑丈そうなそれは囚人を移送するためのものである。レリアを馬車に放り込み厳重に錠をかけた兵士は御者台に乗り込むとすぐに馬を走りださせた。周りを囲んでいた兵士達もそれぞれ馬に乗り馬車を囲うようにし、一行は早朝の王都を出て南西に向かい出発した。


竜国アスドラドの南西には高い山脈が連なっている。そこにはドラゴンとその眷属であるワイバーンが住まうとされており、普段人が近づくことはないが代々の聖女はこの地に赴き守護竜に身を捧げたという。

王都を出て3日、レリアを連れた一行は山脈の中腹にある巨大な峡谷にたどり着いた。馬車が止まり少しすると、レリアを閉じ込めていた扉が開かれる。扉を開けた兵士は眩しさに目を細めるレリアを馬車から引きずり出すと峡谷の縁へレリアを押し出した。覗き見た峡谷は底が見えないほど深く、中は無数のワイバーンが羽ばたいている。もし落ちた場合その命が助かることはないだろうことは容易に想像できる。怯んだレリアに構うことなく、兵士はその背中を押しレリアを谷底に突き落とした。重力に逆らえないレリアは遠ざかる空を瞳に移しながら谷底へと落ちていく。何も知らされず理不尽に奪われ、何も与えられないまま殺される人生とは何だったのか。うまく働かない頭が映す走馬灯のようなものを感じながらレリアはゆっくり意識を手放した。そんなレリアに向かい、峡谷に羽ばたくワイバーンが口を広げて殺到していく。

レリアを突き落とした兵士達はその最後を見届けることなく振り返らずに来た道を帰ってゆく。その後ろ姿を峡谷から飛び出した1匹のワイバーンが見続けていた。


~~~


普段感じない感触を覚え少女は目を覚ます。いつもの冷たい石の床ではなく、古ぼけて埃っぽいベッドの上に横になっていた。視界をめぐらすと目に入るのは狭く暗い牢獄ではなく岩肌の見えた広い洞窟であり、ベッドの近くには様々な物の並んだ棚や本の詰まった本棚が見える。少し離れたところには机と台所のようなものも設置されており、天井付近に設けられた明かりが周囲を温かく照らしていた。誰かが暮らしていたような場所だが、辺りに人の気配はない。ふと自分の身体を見れば手足を繋いでいた鎖は外され、引きずられた際についた擦り傷も見慣れてしまった痣もきれいに消えていた。


(ここはどこ?わたしはあそこからおちたはず・・・。)


見覚えのない場所と知らないうちに癒えていた傷に戸惑っていると、ふと視線を感じてレリア顔を上げた。その先は先程まで何も見えない暗闇だったが、今は黄金の瞳がレリアを見つめている。縦に伸びた瞳孔を持つそれはレリアと目があると浮かび上がり近づいてくる。明かりの下に現れたそれは白い鱗を持つドラゴンだった。ベッドの周りを照らす明かりではその全身を収めることができず、レリアから見えるのは上半身のみだがその美しい鱗と強靭な体躯はある種の神々しさを感じる。とはいえ、多少の神聖さを感じたとしてもドラゴンは魔物の一種だ。魔物の性質は気性が荒く凶暴であり基本的に目につくものに襲いかかる。そしてドラゴンは世界中に数多程いる魔物の中でも数少ない高い知能を持つ存在であり、一際強大な力を持つ存在でもあった。辺境の村で育ったレリアは人を襲う凶暴な魔物を見たことがあるものの、人間を丸呑みできるほど大きな生物は見たことがなかった。身を守る術もなく長い監禁生活の影響で碌に体を動かせないレリアでは強力なドラゴンに抵抗する術はない。


(たべてもおいしくないとおもうけど、たべるならなるべくいたくしないでほしいな。)


強大な存在を前にレリアにできることはなく座して死を待つのみとなった。普通の小娘では取り乱して泣き叫ぶ状況だが、レリアは近づいてくるドラゴンをみて静かに瞳を閉じた。ドラゴンが首を下げ、レリアに顔を寄せる。遂に喰われるのかと流石に身をこわばらせたレリアだが、どれだけ待ってもドラゴンがレリアに襲いかかることはなかった。かわりに、飼育された愛玩動物が飼い主にするように鼻先をレリアに擦り付けている。迂闊に動けずにいると、何やら喉を鳴らすような音も聞こえてきた。さらにドラゴンに触れられている箇所から、今まで感じたことのない不思議な温もりがレリアの身体中に広がっていく。その不思議な熱が身体を巡ると、いつからか常に感じていていた倦怠感や鈍い痛みが引いていくのを感じる。しばらくそのままでいたが、どうやらドラゴンにはレリアにじゃれつく様子はあれど襲う意図はないようである。戸惑いながらも恐る恐るレリアが目を開けると、愛おし気に細められたドラゴンの瞳と目があった。ドラゴンはじゃれついていたレリアから身を離し首を持ち上げると、口を開かずにレリアに語り掛けた。


『あぁ、よく来てくれた。やっと会えたな、我が愛しい番よ。』


音もなく発せられた言葉に驚いているレリアを前にドラゴンは言葉を続ける。


『身体に異常はないか?見えていた傷は治したが何かあれば言うがよい。傷だらけの汝が落ちてきたと眷属たちから聞いたときは流石の我も肝が冷えたぞ。』

「あ、えと、だいじょうぶ、です。ありがとうございます。」

『ふむ、それは僥倖。しかし、我は人間の体調に詳しいわけではないがあまり良くないように見える。無理はするな。』


ドラゴンからの身体を気遣う言葉にレリアは僅かに緊張を解く。同時にドラゴンの意図がわからず何を求められるのかという不安を抱く。


『そう身構えるな。難しいことを要求するつもりはない。ただ番として我と共にいて欲しいだけだ。もちろん汝を害することもない。』


心を読んだような言葉。心を読まれるのは思いの外恥ずかしくそして恐ろしい。そして語られる番という役目。とても重要そうに感じるレリアだが、6歳で拉致されて以降ずっと監禁されていたレリアにはその意味を理解できなかった。年齢に対して身体が小柄なレリアだが、学ぶことが出来なかったレリアはそれ以外に知識や思考が幼い。ただ、ドラゴンがこちらを傷つける意図がないことは察することができた。


「あの、つがい?はわかりませんけど、あなたとここにいればいいんですか?」

『ふむ、今はそれでよい。』

「わかりました。よろしくおねがいします。」


少しだけ落ち着いたようなレリア。ひとまず襲われることはないと理解し安心して気が抜けたのか、レリアのお腹が可愛らしい音を立てた。頬を染めて顔を背けるレリアにドラゴンは穏やかな口調で声をかける。


『ふ、少しは気も落ち着いたようだな。腹が減ってるなら食事としよう。少し待っておれ。』


そういうとドラゴンは背を向け明かりの届いてない暗闇の奥へと姿を消した。

いきなり置き去りにされたレリアがそのまま待つこと数分、ドラゴンは再びレリアの前に姿を現した。腕に籠を持っており、沢山の果実のような物が見える。ベッドに横のサイドテーブルに籠を置き、レリアに勧める。


『待たせたな。人間でも食べられるものをいくつか用意した。本来なら調理などするのだろうがあいにく我は分からぬ。』

「えと、ありがとう、ございます。」


レリアはゆっくりとベッドから起き上がると籠に入った果実を1つ手に取る。片手に収まる大きさの赤く瑞々しい丸い果実はレリアの住んでいた村では見たことないものだった。恐る恐る口をつけるとシャキッとした触感と共に、口の中にほのかな甘さが広がる。久しぶりに口にした甘味とまともな食べ物に咽ながらも夢中になってかぶりつく。その様子をドラゴンは静かに眺めていた。


~~~


それからレリアはドラゴンと共に洞窟で過ごした。地下牢に監禁されていたレリアにとっては自由を縛られることなく、果実のみではあるが十分な量の食事を得ることができ、殴られることもない生活は快適なものだった。しばらく生活していると、あばらの浮いた身体も多少は改善され僅かながら少女らしさも見れるようになった。また、栄養不足ですぐに動けなくなっていたのも少しずつ動けるようになり、周囲の物に興味を持つようにもなった。カラフルな液体の入った瓶や珍しい草花が並んだ棚や、歴史書や魔導書がずらりと並んだ本棚等、辺境の村で暮らしたレリアにとってここの環境は見慣れない物でいっぱいだった。ふらふらと洞窟内を動き回り、都度ドラゴンに質問する。


「ドラゴンさん、これはなに?」

『ふむ、それはマンドラゴラの葉だな。確かそれを使った薬は高い治癒効果があったはずだ。』

「こっちの瓶は?さっきのマンドラゴラのお薬?」

『妖精の粉だな。触れるなよ、強い幻覚作用がある。確か魔法薬の材料だったか。』

「こっちのきれいな石はなあに?」

『それはミスリル鉱だ。魔力を通しやすい金属だ。』

「ドラゴンさんはなんでもしってるね。」

『長い時を生きれば、それだけ知識を溜まるものだ。』


そうして様々な物について尋ねたレリアだが、ふと洞窟を見渡して気づく。洞窟内に置かれている設備が小柄なレリアでも扱えそうな人間サイズの物ばかりで巨大なドラゴンでは小さすぎて使えそうにない物ばかりだ。疑問に感じたレリアはそれまでと同じようにドラゴンに質問する。


「ねぇドラゴンさん。ここにあるものはドラゴンさんには小さくてつかいづらくないの?」

『そもそもこれらは我の為の物ではないからな。我も使えないことはないが、本来は汝と同じ人間が使う物だ。』

「そんなの?でもここはドラゴンさんのおうちだなんだよね?なんでにんげんのものがこんなにあるの?」


ドラゴンは少し考えるような素振りを見せた後、レリアを見つめて話しだした。


『過去に人間が住んでいたからだ。汝が、我が番がな。』

「わたし?でもわたしはここにきたことないよ。」

『そうだとも。今の汝ではない。ここに住んでたのは汝の前世ともいえる者だ。』

「わたしの、ぜんせ?」

『然り。契約の番というのを聞いたことはあるか?』

「つがい?わたしとドラゴンさん?」

『ああ、その番だ。番とは、対となる2つのものを指す。こと生物においては雄と雌の関係だな。契約は神代に由来する。彼の時代、神の前で永遠の愛を誓った番がその生を終え、再び生を受けた後に同じ相手と番となることで永遠の愛を証明する儀式があった。当然死後に記憶は継承できない。故に新しい生で再び同じ相手と番になるのは簡単なことではないのだ。その難しい事を成した番こそが契約の番となる。』

「それがわたしとドラゴンさんなの?」

『左様。汝は我の契約の番だ。我は汝と永遠の愛を誓った。例え幾度と生まれ変われど、我が愛は汝に捧げる。』

「でもわたし、あいってよくわからないよ?。」

『無理に我に応える必要はない。人間には前世といわれても理解しがたいだろう。汝の幸せを選ぶがよい。』

「いいの?ドラゴンさんにはだいじなことでしょ?」

『番の幸せを願うなど当たり前のことであろう。我が番として居てくれるのが1番ではあるがな。』


話を聞いたレリアは少しの間考えるように口を閉じた後、側に佇むドラゴンにゆっくり近寄る。ドラゴンの硬い鱗に手を伸ばし、撫でるように触れながら期待と不安の入り混じる目でドラゴンを見上げる。


「ねぇドラゴンさん。わたしはまだわからないことだらけだけど、ドラゴンさんがわたしのために考えてくれてるのはわかるよ。だからわたしも、ドラゴンさんのためになることをしたい。どうしたら役にたてるかな?ここにある本をぜんぶ読めたらドラゴンさんの役にたてるかな?」

『役立つ、か。何をすれば我が役に立つかは我にも分からぬが、汝が我を想っておるのは嬉しく思うぞ。ただ、無理はするな。汝が側に居てくれるだけでも我は嬉しい。』

「うん、むりはしない。どうしたらいいかな?」

『ふむ、ならば我が教えよう。人間の文字は我でも教えれよう。』

「ほんとう?ありがとう、ドラゴンさん。」


ドラゴンの答えにレリアは顔をほころばせる。その表情に心の奥が温かくなるのをドラゴンが感じつつ早速勉強のために動き出そうとしたところ、レリアは思い出したかのようにドラゴンに問いかける。


「そうだ、ドラゴンさんってなんて呼べばいいの?そういえばお名前きいたことないな」


不意を打たれたかのように目を丸くした後、今度はドラゴンが口をほころばせた。


『そうだな、確かに名乗っておらん。では改めて名乗るとしよう。我が名はフィヴィズニール。煌天の竜にしてこの国の守護者なり。』

「わたしはレリアだよ。あらためてよろしくね、フィヴィズニールさん。」

『あぁ、よろしく頼む、レリアよ。』


---


それからレリアは多くのことを学んだ。文字の読み書きに始まり、魔法の使い方や山で生きていけるサバイバル技術、食材の調理方法や魔法薬等を調合する錬成術等、様々な分野の知識と技術を身につけた。契約の番がもたらした祝福は彼女のあらゆる才能を開花させた。

最初に文字の読み方を教わってからは歴代の聖女が残した研究資料や魔導書を読み込み、自ら知識を蓄えていった。洞窟の外へも、最初こそフィヴィズニールと共に行動していたが、高度な魔法やサバイバル技術を身に付けてからは1人でも行動できるようになった。洞窟の外に出るのは人気のない山や森での採取や魔法の練習が主であったが、時折ドラゴンが住む山山脈の麓にある村や森の近くにある町に訪れ甘味や本を買うこともあった。住民達とも良好な関係を築いており、レリアの買い求める本や材料から彼女が実力のある魔術士や錬成術士だと見抜いた者達からは時折薬の錬成や魔物の討伐依頼などを受けたりなど、レリアは充実した日々を過ごしていた。

また、内面・能力に関わらず、身体の方も成長していた。生活環境の改善か、開花された才能か、身長も伸び身体つきも女性らしい丸みを帯びたものに変化した。幼く感じた雰囲気も無くなり、年相応の女性として魅力に溢れた少女へと成長していた。


−−−


時は流れ5年後、竜国アスドラド王都王城。

国王は焦っていた。

竜国アスドラドではここ数年、不作や疫病、災害が相次ぎ発生していた。国の抱える魔術師団の調査させたところ、国にもたらされていた守護者の加護が過去に類を見ないほど弱まってきていると結論が出た。強大な力を持つ守護者の加護は土地を安定させ災害を防ぎ、豊かな実りをもたらす。この加護が弱まれば大地は荒れ、作物は実らずモンスターが凶暴化する。国王として国と民を守るた為に様々な手を打ってきたが守護者の加護を取り戻すことはできずにいた。長年聖女の扱いについて小言を唱えてきた神殿も取り壊させ、5年前には聖女を捧げたというのに解決には至らなかった。こういった時に備えて生贄となる聖女を手元にとらえておいたのに、役に立たないとは想定外だった。復興、対策、支援で財政が圧迫され、それが立て直すより前に新たな災害でさらなる支援が要求される。国民の生活も不安定になり、国王の支持率は著しく低下していた。いち早くも解決に向けた手を打たなければ国として立ちいかなくなってしまう。

そんな時、国王の下に一つの報告が入った。南西の山脈の近くにある町で生贄に捧げたはずの聖女に似た少女を見た、という報告が。

国王はすぐさま兵に命じた。聖女を捕らえ再び生贄に捧げろ、逆らう者匿う者は反逆者だ、と。生贄に捧げたはずの少女が生きていた。ならば守護者が生贄を受け取れなかったからこそ今の災害が起きているに違いない。短絡的に決めつけ、国王は10年前の惨劇を再び起こそうとしていた。


---


王城で国王が出兵の命を出した数日後、レリアは山脈の近くにある町に来ていた。前回来た際に依頼された品を依頼主に届け、錬成に使う素材やフィヴィズニールへの土産を探しに商店を除こうとしたところ、町の入り口が騒がしいことに気づく。様子を見に近づくと、住民達が集まっており、その向かいには鎧を着た兵士が怒鳴り散らしている。怒鳴られているのはこの町の町長であるが、兵士の剣幕に縮こまってしまっている。

レリアはその鎧に見覚えがあった。9年前にレリアを拘束し故郷を焼き、3年前にレリアを谷底に突き落とした兵士たちの鎧だ。彼らが何の為にこの町へ訪れたのかは分からないが、彼らと関わったところで良いことは起きないだろう。かと言ってここで見て見ぬ振りして故郷同様に町が焼き滅ぼされるのも目覚めが悪い。レリアが逡巡しているうちにも兵士達はヒートアップしていく。そしてとうとう先頭で声を荒げていた兵士達の隊長が剣に引き抜き振り上げたところで流石にレリアも見て見ぬ振りはできなくなった。

慌てて魔力を練りながら村長と隊長の間に割って入る。編み出すは障壁。振り下ろされる刃を受け止める為の盾。そうして編み出された盾は無事隊長の剣を受け止めた。驚いたのは兵士達だ。まさか目の前の町民を庇う者がいる事も、隊長の剣が止められる事も、それを成した者が魔術士な事も驚愕だが。目の前に割り込んできた女が、まさに自分達の探していた人物だったからだ。だが隊長はほくそ笑む。探していた相手がノコノコと現れた。以前見た時より多少力は付けたようだが数はこっちが圧倒している。それに奴は町民を庇ったのだ。誰かしら人質にしてしまえば手も出せないだろう。背後の兵士に手振りで町を取り囲むように指示を出す。そうして隊長は笑みを張り付けレリアに声をかけた。


「これは聖女様。探しておりました。さあ、我らと共に参りましょう。」

「お断りします。あなた達が私にしたことを忘れたとは言わせませんよ。」


ぬけぬけとそういう隊長をレリアは睨み返す。射貫くような視線を受けても隊長は意に介した様子もない。


「共にいらしてくださるのなら、過去の罪は追求せず水に流すと国王陛下もおっしゃられました。背後に庇われれている方々も罪に問わないでおきましょう。どうです?共にいらしてくださいませんか?」

「行きません。そもそもあなた達を信用できませんし。無実の村を焼き払った者たちの言葉を信じえるはずがないでしょう。」


隊長の言葉を切り捨てたレリアはどこからともなく青い宝石のはめ込まれた木製の杖を取り出すと、先を隊長達に向けて魔力を練り上げた。

杖を向けられた隊長は舐められたと思ったのか顔に張り付けていた笑みを消して激高する。


「はっ!下手に出てれば調子に乗りやがって。どこで力をつけたのかしらねぇが数はこっちのほうが上だ。反逆者どもが!お前らは全員処刑だ!」


隊長が叫ぶと、周りの兵士たちも剣を抜き襲い掛かってくる。その標的はレリアよりも町民のほうに向いていた。町民を人質に取り、レリアの動きを封じる魂胆だ。

それに対してレリアは練り上げた魔力を町を覆う障壁として展開した。勢いよく踏み込みとしていた兵士は輝く障壁に盛大にぶつかって行手を阻まれる。中には勢い余って倒れ込む者もいた。

それでも兵士達は障壁を突破しようとした。彼等にとって自分達の要求を飲まない者は反逆者である。反逆者は処刑しなければならない。

手にした剣で果敢に障壁を斬りつける者。最後に回り込もうと駆け出す者。炙り出そうと火を放つ者。兵士達は持てる手段で障壁を突破しようと試みるがその全ては障壁を揺るがすこともなく阻まれ終わる。見かねた隊長も兵士に加わり斬りかかるが結果は同じだった。


「諦めてください。何をされようと私はあなた達についてはいきません。」


レリアの言葉を聞いた隊長は苛ついた様子で兵士達に攻撃をやめさせたい。


「はっ!反逆者が調子に乗るな!これだけの障壁だ。維持する為の魔力も少なくない。魔力が尽きた時がお前らの最後だ!」


そう吐き捨てると、隊長は兵士たちをまとめ、町の近くに野営地を築きだした。レリアの魔力が底をつき障壁が消えるまで居座るつもりだろう。

その様子を見たレリアは障壁を維持したまま背後の町民達に向き直る。そして、そのまま深く頭を下げた。


「申し訳ございません。最悪の事態にならないよう割り込まさせていただきましたが、どうやら私のせいで巻き込んでしまったようです。」


兵士達の凶行に慄いていた町民達も町を取り囲む障壁とレリアの様子から一旦は身の安全が確保された事に安堵した。だがすぐさま兵士達に、すなわち国に目をつけられた事に不安が広がる。

これからどうすればいいのか、今まで通り暮らせるのか、隊長が言った反逆者とはどういうことか、自分達は何に巻き込まれたのか。

不安が増幅し、恐怖が広がる。しかしそれ爆発する前に、町民の中から1人の男が声を上げた。


「あんたは何者だ?あの兵士さん達が探していた様だが、何したんだ。」


問われたレリアは顔をあげ、逡巡してから答える。


「私はレリアと言います。守護竜フィヴィズニール様の番です。この国では《聖女》と呼ばれる様ですね。長い間牢屋に囚われ、出されたと思ったら谷に捨てられました。」

「聖女様!?」


レリアの言葉を聞いた町民達は驚いた。

ドラゴンの住まう山脈に近いこの町の住民達は古くからこの土地を守る守護者への信仰にあつかった。王都に伝わるものよりも詳細に守護者のもたらす加護や恵みについて伝えられている。そして聖女に関して伝わっている伝承も他とは少々異なる。他所では特別な力を持たず守護者への生贄として伝わる聖女だが、この地の伝承では守護者の下へ送られた後も時折町や森に現れては困っている人を助ける存在として伝わっている。

とはいえ、異なる伝わり方をしていても伝承は伝承。いくら信仰にあつくても長い間その存在が確認されていなかった伝承の聖女の実在は町民達には俄に信じ難いようだ。


「本物?」「兵士さんがそう呼んでたんだし本物じゃない?」「そういえば昔聖女を探してるって話があったな」「数年前に聖女様は守護者様の元に向かわれたって話じゃなかった?」「ならこの方は本物の聖女様なの?」


町民の間でざわめきが広がる。疑うわけではないが、本当だという確証が持てない様子だ。御伽噺だと思っていたものが実在したとなれば仕方ない事だろう。

レリアの話が本当であれば国は自分たちの信仰を蔑ろにした事になるし、嘘であれば彼女が信仰を騙る狼藉者になる。聖女を騙るなど許されないが、しかし実際に伝承の通りに困っているところを助けられたのだ。無碍にはできない。それに今も町を覆う障壁の扱いを見るに、相当な実力者である。並の魔術士では、これほどの障壁を一瞬の内に展開することはできない。もし彼女の並外れた実力の矛先がこちらに向いたらこの町に対抗する術はない。

町長は僅かな間に考えをまとめ一歩前に踏み出た。聖女を名乗る少女に向かい口を開く。


「聖女様、助けていただきありがとうございます。危うく彼らに殺されるところでした。しかし、彼らはまだ諦めていないでしょう。なので、今後について相談させていただきたいのですが。」

「はい。私も彼らへの対応について話したいですから。」


そうしてレリアは町民達と話し合い、兵士達を王城に送り返す事に決めた。レリアが町を出た後も町を守れるように障壁を展開・維持する為の魔道具を町長に託たレリアは町を出ると、野営地を築き警戒を敷く兵士達の元へ向かう。

1人近づいてくるレリアに気づいた兵士達が動き出す前に、魔法を用いて兵士達を拘束していく。

全員を拘束したレリアは彼等を連れ普段暮らす洞窟へと帰っていった。

兵士達をただ送り返すだけではまた同じように国民を虐げることは予想できたレリアはフィヴィズニールとも相談し一つの決断を下す。


---


レリアが兵士達と対峙して20日程経った頃、この頃の国王は荒れていた。聖女を探しに行かせた兵士達がいまだに帰ってこない。聖女を見たと報告のあった町は馬車で3日もあれば着く距離だ。多少探すのに手間取ったとしても時間がかかりすぎている。

新たに兵を送ろうと考えたその時、城の兵士から報告が入る。


「ほ、報告です!ドラゴンが、王城にドラゴンが現れました!」


この国でドラゴンといえば国の守護者に他ならない。国王が求めている加護を国に齎す存在である。まさか反逆した聖女を捕えるための力を貸してくれるのだろうか。はたまた直接加護をいただけるのか。いずれにしても伝承の存在たる守護者のドラゴンとあいまみえ、直接何かを与えられるのは長いこの国の歴史でもほとんどない。これで国王は歴史に名を残す王となり、国民も家臣も揃って首を垂れることになるだろう。

はやる気持ちを抑え国王はドラゴンが現れたという、城の正門にある庭園へ向かった。


---


庭園に着いた国王は目を見張る。普段は綺麗に切り揃えられた生垣や色とりどりの花に彩られ華やかな雰囲気を漂わせている庭園が見る影もなく踏み荒らされていた。そしてその真ん中、兵士達が取り囲む中心にソレはいた。白銀の鱗を輝かせる見上げる程の巨躯、力強く大地を踏み締める四肢とそこから伸びる鋭い爪、空を隠す巨大な翼、強い意思を宿す黄金の瞳と人1人丸呑みできそうなほど多いな顎。

伝承に謳われるこの国の守護者、ドラゴンがそこにいた。

国王はわざとらしい程恭しくしながらドラゴンの前に歩み出た。


「おぉ、守護者様!我はアスドラド国王、アスドーラと申します。守護者様自ら姿をお見せになるとは実に何百年ぶりでしょう。実にめでたい日となりますが、此度は何故ご降臨なされたのですか?」


国王の言葉にドラゴンは反応を返さない。ただ静かに国王を見つめている。


「如何なさいましたかな?守護者様。」


突然現れたにも関わらず何の反応もしないドラゴンに若干の戸惑いを滲ませ国王が問いかけると、ようやくドラゴンは動きを見せた。

高くから見下ろしていた首を国王の目の前に下ろしてきた。

守護者に認知されたようで国王はさらに色めき立つ。

しかし、ドラゴンの言葉に国王は凍りついた。


『ほう、貴様が国王か。では此奴らをけしかけたのも汝であるな。』


そうしてドラゴンは前足を僅かに動かした。

つられて国王が視線を向けると、アスドラド国の鎧を着た兵士が拘束されて転がされている。


「この者達はいったい?」

『とぼけるなよ。貴様の指示であろう。』

「い、いえ。聖女を捕えるように兵に指示は出しましたが、守護者様に手を出すようなことは・・・。」

『やはり、貴様の指示であるな。』


国王はドラゴンの言葉の意味を理解できなかったが、ドラゴンからの印象は最悪の状態でこの場ができてることは理解できた。

故にまずは印象を正そうと言葉を発する。


「守護者、我々に守護者を害する意図は」

『我が最愛に刃を向けたのだ。それに虐げてもいたのだろう?』

「は?」


だが言い切る前にドラゴンの言葉が被さる。


『それとも貴様らにとっては、故郷を焼き、牢に閉じ込め、谷に突き落とすのは虐げるに入らんのか。』


そして続けられた内容に呆然とすることになる。


(ドラゴンの最愛?ドラゴンの相手ならドラゴンだろう。刃を向ける?アスドーラが国王となってからドアラゴンとかかわった記憶などない。刃を向ける、ましてや虐げるなど・・・。それにドラゴンの故郷も知らなければ、ドラゴンを閉じ込めれる牢もない。)


様々な疑問と考えがアスドーラの頭をよぎる。どうやら目の前の守護者様は何やら誤解をしている。そう結論づけてまずは誤解を解こうと試みる。


「守護者様?何やら誤解をしていらっしゃるご様子。我々は守護者様の故郷も知らなければ、守護者様のようなものを捕らえる牢も持ち合わせておりません。」

『呆けるつもりか?我が最愛、貴様らは聖女と呼んでいたな。彼女への狼藉を忘れたとは言わせぬぞ。』

「は?聖女・・・?」


が、ドラゴンの言葉に国王は再び凍りつく。


「せ、聖女とはいったい・・・?彼女は守護者様が望んだ生贄ではないですか。」

『生贄か。この百年で失伝するとはな。』


ドラゴンの口調に失望したような声音が混じる。


『貴様らのいう聖女は我の契約の番だ。貴様らが聖女を守り無事に我が下に送り届ける契約であったが、貴様らは聖女を守るどころか虐げ殺そうとしただろう。』

「そ、それはっ・・・。」

『失伝してたとしても、貴様らが契約を反故にしたのは事実だ。当然貴様らには報いを受けてもらうぞ。』


そう言うとドラゴンの前に一つの紋章が浮かび上がった。翼を広げたドラゴンのような形をしたソレは一緒だけ輝くとすぐに光を失い砕け散った。

変化はすぐに訪れる。庭園に流れ込む空気に重苦しい様な、血生臭い様なものが混じる。着込んだ鎧や手にした剣が重く感じる。庭園に生える草花が色褪せた様に見える。国王や兵士達は砕け散ったソレが何か分からなかったが、国にとって致命的な何かが失われた事は理解できてしまった。


『貴様らに与えていた加護を取り上げた。元々は我が番を守る為に与えていたものだ。守らぬのなら不要だろう。』


それだけ言い残すとドラゴンは宙に飛び上がり国王に目もくれず飛び去っていった。


---


その後、竜国アスドラドは大混乱に陥った。

国王は加護が失われたことを隠そうとしたが、噂が広まるのを止めることはできなかった。

庭園には多くの兵士がいたのだ。人の口にとは立てられない。

不安に駆られた市民が城に押し寄せ、時には暴動にまで発展した。暴動を鎮圧する為に兵士が駆り出され、それを見て更に不安になった市民が暴動を起こす悪循環。元々低迷していた国王の支持は完全に失われ退陣を余儀なくされた。

だが次期国王を決める間もなく各地で魔物が活性化し、人が襲われる被害が相次いで発生した。

国の方針が定まる前に発生した被害に国は対応をできず、事態が解決しないまま時間が過ぎていく。

そして加護を失った影響は魔物だけではなかった。

農作物に収穫量が激減し、各地で食糧難に陥った。土地が荒廃し作物が育たなくなると、食料を求めた人々が野盗に身を落とし、道行く商人を襲撃した。これにより商人達は国に立ち寄らなくなり食糧難が加速した。

貧困する国民を救うことも、荒れる国土を立て直すこともできず、やがて竜国アスドラドは地図からその名を消した。

守護者を尊び崇めるミレイディア大陸の他の国々は守護者を蔑ろにした竜国アスドラドを助けることはついぞなかった。


---


レリアとフィヴィズニールはその後も長い時を共に過ごした。

歴代の聖女達が残した知識とフィヴィズニールが与えた叡智により、レリアは人間のそれをはるかに超える寿命を獲得してた。

彼女達の住まう山脈とその周辺はフィヴィズニールにより再び加護が与えられ、アスドラド国内の混乱に反して穏やかな空気の流れる土地となった。

住民達はドラゴンと聖女が齎す恵みに感謝し彼女らを崇めつつも、聖女の望みもあり良き隣人として接していた。

レリアとフィヴィズニールの仲睦まじい姿は住民達に度々目撃され、住民の世代がいくつか変わった後もその姿は変わることはなかった。


♦♦♦


実は契約の番は人間には伝わっていない内容がある。

契約の番の起源は古い。神秘の残る時代、当時はまだ亜人や混血と言った複数種の特徴を持つ存在はなく、あらゆる種は神によって作られた純粋な状態であった。

そんな時代のある愛し合う夫婦が神に誓った。たとえ死に別れいつか生まれ変わろうとも、再び出会い愛し合うことを。

彼らは最期までお互いを愛し合ったまま生涯を終えた。天に還り輪廻を巡る彼らはその摂理に従いまっさらな状態で再び地に生まれる。普通の生命と同じ、前世の記憶などないはず彼らは、それでもお互い惹かれ合い愛し合うまでになった。それは神がこの世界に課した摂理を超え誓いを守ったということ。

すでに地上を去っていた神ではあったが、それでも神秘の残る時代のことである。地上のことは意識せずとも神に伝わる。強い感情であれば尚の事。

そうして興味を持った神は一つの摂理を世界に加えた。愛を誓い合った二人が輪廻を超え再び愛し合った時、その者に神の祝福を授けると。

時が経ち、様々な生命が増え、ごく一部の長命種以外では多くの内容が失伝しようともこの摂理は残っている。


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