「今日の夜、電話してもいい?」
========== フィクションです ===========
「嘘だー!!!!!!!」
俺は、電話を切り、叫んだ。
電話の声の主は、死んだ筈のカノジョだった。
死んだ筈と言っても、噂話ではない。
一昨日、昨日とお通夜、告別式に行って来たのだ。
7年間、付き合いが続いたが、どっちつかずのままだった。
葬式で、何度も家族に謝った。
長い不景気で、給料は上がらない。とても結婚に踏み切れる状態では無かった。
「忙しいから」では、決して無かった。
カノジョも、美容師という仕事を持っていた。
その美容院。年末は繁忙期で忙しいのに、突然無断欠席。
店長がアパートに行った時、既にこの世の人手では無かった。
俺は、ギャンブルは、やらない。有馬記念どころかパチンコもやらない。宝くじも買わない。
アルコールは下戸。
浮気どころか、風俗も行ったことがない。
カノジョは、いつも、自分の友人に自慢してくれた。
それでも、月に一度はデートした。
不満があるだろうとは感じていた。
カノジョの姉は、葬式で激怒し、俺を詰った。
「あなたはねえ。女心が分からない、唐変木よ。葬式は許してあげる。でも、法事には来ないで。墓参りもダメ。遺品なんかあげない。」
興奮する、カノジョの姉を慰め、俺を慰めてくれたのは、他ならぬ両親だった。
回想して、暫く時間が経つと、また電話が鳴った。
今度は、留守番電話に応答させた。
同じだった。
「今日の夜、電話してもいい?」
電話の内容と行為が矛盾している。
何度も何度も、繰り返された。
俺は、ケータイで友人に相談した。
留守番電話を聞いて貰った。
友人は、『声紋分析アプリ』を持って来ていた。
それをPCにインストールして、彼は言った。
「確かなことは言えないが、仕事場に持ってっていい?」
「ああ。」
彼は、モジュールジャックから電話ケーブルを外した留守番電話機からSDを抜き、帰った。彼は、警察の鑑識係だ。
翌日、在宅の仕事をしていると、彼からスマホの方にテレビ電話があった。
「茨木。お前のカノジョ越後塔子は亡くなったんだよな。カノジョの声を生前録音した者がいる。そして、それを再生して電話してきた。そもそも、『今日の夜、電話してもいい?』という台詞がおかしい。この台詞は、俺の小説家の友人に確認したら、『体面で』言う台詞だそうだ。今、警察が向かった。是非協力してくれ。守秘義務ではあるが、言っておこう。お前は、特殊詐欺に嵌められたんだ。」
―「捜査一課ですけど3」につづくー




