喫茶店ローズ番外編3「ある臆病者のコックの話」
オスカーは、たまに殺人強盗をする。
正確に言うと、「していた」。
本人にその自覚は薄い。
強盗だとか、殺人だとか、そういう分類で物事を捉えていないからだ。
夜遅く、店を閉めたあと。
裏口の鍵を確認し、灯りを落とし、エプロンを外す。
その動作は、いつもと何一つ変わらない。
違うのは、その足取りだけだった。
路地に入ると、気配が変わる。
昼間のびくびくした青年は消え、表情から余計な感情が抜け落ちる。
声をかけてくる連中は、だいたい同じだ。
金目のものを狙っている。
力でどうにかなると思っている。
結果だけ言えば、ならない。
翌朝。
オスカーは何事もなかったように厨房に立つ。
包丁を握る手は安定しているし、野菜の切り口も揃っている。
「……あ、おはようございます……」
いつも通り、少し怯えた声。
アンナは気づかない。
颯太も知らない。
アルフレッドは興味がない。
エドワードは新聞をめくりながら言う。
「昨日、裏路地が静かだったな」
オスカーは肩を跳ねさせる。
「ひっ……そ、そうですね……?」
アレクシアはそれ以上聞かない。
聞く必要がないからだ。
悟真は一口粥を啜り、視線だけを向ける。
「……血の匂いは、もう落ちている」
オスカーは凍りつく。
「え、えっと……その……」
ガブリエルが穏やかに口を挟む。
「オスカー君。手を洗ってから配膳にしましょう」
それで終わりだった。
誰も咎めない。
誰も褒めない。
話題にもならない。
オスカーは今日も、びくびくしながら働く。
そしてたまに、
店の外で「仕事」をする。
喫茶店ローズは、今日も平和である…?
余談、オスカーは198cmあります。




