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喫茶店ローズ4話「家族、なんですね」

「……家族なんですね」


颯太がそう言うと、間を置かずに返事が返ってきた。


「違うわよ」


アレクシアは即答だった。

迷いも、含みもない。


「全くの赤の他人です!」


アンナが胸を張る。

その表情があまりに誇らしげで、逆に戸惑う。


「え? でも、皆さん、ハーヴィって名乗ってますよね?」


ごく自然な疑問だった。


「まあ、僕らは訳あり」


 エドワードは軽く肩をすくめる。

「そうそう。僕とエド兄とオスカーは人殺しだし〜」


冗談の調子だった。

あまりにも軽く、あまりにも平然と。


「い、一緒にしないでください……! 僕の場合は、殺人強盗です……!」


オスカーが必死に訂正する。

……訂正?

颯太は、言葉の意味を理解するのに一拍遅れた。

頭の中で整理が追いつかない。


人殺し。

殺人強盗。


空気は、変わらない。

誰も声を荒げず、誰も咎めない。


皿の上のにんじんピラフは、湯気を立てたままだ。


「補足しますと」

ガブリエルが静かに口を開いた。

「私達は、ハーヴィという姓で“家族”を装っているわけではありません。便宜上、同じ名前を使っているだけです」


その言葉に、颯太の肩の力がわずかに抜けた。


——少なくとも、ここにいる人たちは、自分を脅かすつもりはないらしい。

それだけで、胸の奥の不安が少しだけ和らいだ。

颯太はテーブルの端に手を置き、視線を巡らせた。周囲には、年齢も背景もバラバラな人々が座っている。だが、なぜか――居心地の悪さは、思ったほどではなかった。


「……なるほど、便宜上の家族、ですか」


言葉を口にすると、自分でも少し安心していることに気づいた。ここでなら、いきなり血の繋がりや役割を押し付けられることはないのかもしれない。


「そういうことです」


ガブリエルの低く落ち着いた声が、さらに安心感を後押しした。大きな体躯に反して、口調も仕草も柔らかく、自然と肩の力が抜けていく。


「皆さん……結構、凄い人たちなんですね」


つい、口に出してしまう。


アルフレッドが肩を揺らして笑った。


「そうそう、凄いっていうか、ただの変人だよね〜」


エドワードも小さく頷く。


「変人で、まあ、色々問題ありですけどね」


その軽口に、颯太はまた少し緊張を覚えつつも、どこかほっとした。言葉に重みはあるが、殺気や威圧はない。皆、互いの“問題”を受け入れているように見える。


「……僕も、ここにいて、いいんでしょうか」


小声で呟くと、アンナがにっこり笑って答えた。


「大丈夫です、颯太さん。ここにいる人は、誰も嫌な顔はしませんから」


——その一言で、胸の奥にあった孤独感が、ほんの少し溶けていった。

颯太は、スプーンを手に取り、湯気立つピラフを見つめる。ここでなら、少しずつ――自分の居場所を見つけられるかもしれない。

食事が半分ほど進んだ頃だった。


ノックの音がする。

短く、控えめで、それでいて迷いがない。


間を置かず、扉が開いた。


入ってきた男は、一言も発しない。


完全なスキンヘッド。

無駄のない体つきで、背筋は真っ直ぐだった。

和装に近い装いが自然に馴染んでいて、そこに立っているだけで空気が変わる。


「……あ」


エリオットが最初に気づいた。


「悟真さん」


その名前で、全員が顔を上げる。


「二週間ぶりですね」


セドリックが言う。

責めるでも、驚くでもない。


「拙者、戻った」


低く短い声だった。

それ以上の説明はない。


「おかえりなさい」


ガブリエルが穏やかに言う。


悟真は軽く頷くだけで、視線を動かした。

そこで初めて、見慣れない人物に気づく。


颯太だった。


視線が合う。

一瞬。


鋭い。

睨んでいるわけではないのに、逃げ場がない。


「……誰だ」


「え、あ、俺は……」


颯太が言葉を探すより早く、


「今日からしばらく一緒にいる人よ」


アレクシアが淡々と告げた。


悟真はそれだけ聞いて、興味を失ったように視線を戻す。


「そうか」


それで終わりだった。


颯太は、拍子抜けするほど何も起きなかったことに戸惑う。

質問も、詮索も、警戒もない。


ただ――存在を確認されただけ。


「悟真さん、夕食は」


アンナが聞く。

「要らぬ」

即答だった。

「相変わらずですね」

オスカーが小声で言う。


「説明しない人だから」

と、エドワードが笑う。


颯太は、悟真が消えた方向を見つめたまま、ゆっくりと息を吐いた。


また一人、よく分からない人が増えた。

けれど――。


不思議と、恐怖はなかった。

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