喫茶店ローズ番外編7「大商人から見たアンナの評価」
「ん? アンナのことか?」
ゴードンはカップを片手に、気楽な調子で言った。視線はアレクシアから外れ、少し離れた場所で片付けをしているアンナへ向く。
「ありゃあ、いい子だな」
即答だった。軽さはあるが、品定めの色はない。
「礼儀正しいし、動きがきれいだ。育ちってのは、所作に全部出る」
ルシアンが一歩だけ前に出る。
「旦那様。そこは“余計な評価は控える”場面かと」
「わかってるって。変な意味じゃねぇよ」
ゴードンは肩をすくめる。
「アレクシアちゃんが“置いてる”人間だろ。なら、俺が口出す筋合いはない」
その一言で、店内の空気がわずかに落ち着く。
颯太は内心で驚いていた。
この男、もっと無神経だと思っていた。
「それに」
ゴードンは少しだけ声を落とす。
「アンナは“守られてる側”だ。狙うもんじゃない」
ルシアンが静かに頷く。
「正確な認識です」
「だろ?」
ゴードンは紅茶を一口飲み、いつもの調子に戻った。
「まぁ、俺が本気出すのはアレクシアちゃんだけだ」
即座に、どこからともなく冷たい視線が突き刺さる。
エドワードとアルフレッドだった。
「冗談だって!」
誰も笑わない。
ゴードンは咳払いをして、話題を切り替えた。
「ま、アンナは“この店の良心”だな。失くしたら終わる」
それは冗談めかしていたが、妙に的確だった。
アンナ本人は、その評価を知る由もなく、静かにテーブルを拭いていた。




