6 【祝】春がやってきたー
待ちに待った春が来た。
全員で越冬できたぜえーい。
雪が溶け出せば、これからはたらふく食い物にありつける。
だけど、ボリスの衰弱は食い物を受け付けない程酷くなっていた。
ある朝、ボリスは静かに息を引き取った。
「バッカ野郎、なんでだよ」ガレンがボリスを毛布で包んだ。
ボリスの墓は野党を埋めた所じゃなくて、家の中から良く見える木陰に作った。
野犬が墓を荒らさないようにするのもあるけど、いつでも近くに居てもらいたかったからだ。
春っていってもまだ凍った土は溶けきっていない。
土を掘る手が震えて、ジャリは鼻水垂らして泣きっぱなし。
黙って土をかけるサラ。
リコが無言で小さな火花を墓の前で飛ばした。
本物の花みたいにフワっと開いて、パチパチ音を立てて光る炎。
エリンがポツリ「ボリスー………ありがとうね」
ガレンは何も言わず、ただ墓の前に立っている。
名残雪がチラチラ降ってきて、みんなで作った木の墓標にフワリと乗っかる。
ボリス、お前が教えてくれた「生きるってのは守るってこと」俺たち絶対忘れねえから。
「なあ、ボリスが生きてた頃、鼠に食いもんやられた時、火あぶりにしてやりてえって思ったけどさ、よく考えたら、鼠も命懸けで食いもん盗みに来てたんだよな。どっちも紙一重だ。結局焼いて食っちまったけどな」
ジャリが「やめろよ、怖えじゃん!」叫ぶけと、エリンが「ハハ、ほんとだね。ボリスなら笑ってくれそうだよ」
リコの火花が一瞬、明るくなった。
ガレンから「ガキども、泣いてる暇はねえぞ。待ち侘びた春だ。動け」何時もの調子が出てきたみたいだ。
見慣れている冷たい目だけど、なんかボリスの分まで俺たちを見守ってくれてる気がした。
ボリスの死は俺たちにでっかい穴を空けた。
でも、あいつの温かさ、ガレンの冷たさ、二つが俺たちをここまで生かしたんだ。
リコの火花と一緒になって、俺たちは何時かでっかい炎になるんじゃねえかって思う。
森での生活はこれからもっと長く続く。
魔物の唸り声・野盗の影、こいつらはなかなか消えないだろう。
でも、なんとかなるんじゃねえかって今なら思える。
森での春は、生き延びるってのが腹を満たすだけじゃなくて、仲間を背負う覚悟だと気づかせてくれた。
ボリスの死が残した傷を、俺達は何十年も背負っていかなきゃなんねえ。
そして、薄紫の霧が漂う森は、いつも俺たちに試練を投げかけてくる。
笑っちまうほど過酷だろって話だよ。
森に辿り着いて初めての冬を越し、俺たち五人はガレンの厳しい指導の下、春の森に踏み出した。
リーダーとしていの責任感なんてのじゃないけど、ボリスが教えてくれた「生きるってのは守るってことだ」が頭の奥で響いてる。
雪解け水が凍てついた小川に流れ出し、薄紫の霧が朝日に照らされキラキラ揺れる。
木々の枝にしがみついたなごり雪が、春風に吹かれ銀粉のように舞い上がると、遥か遠い青空と溶け合っていく。
まるで森が「ガキども、生き残ったようだな」って祝ってくれているみたいだ。
ガレンは毎日、夜も明けきらないうちから骸骨みたいな顔で俺たちを見下ろしてくる。
「ガキども、もう朝だぞ。食いもんを集めに出ていきやがれ。のたのたしてると冬になっちまうぞ」重低音の大声で唸る。
ジャリが「うう、腹減ったよ…」目をこすりながら起き出す。
朝から食欲だけは旺盛な奴なんだよ。
サラは起される前から外に出ていて、何時も黙って地面の草を見つめている。
エリンが「やってやるぞー!」と拳を握りしめてるけど、今日はベットに寝ころんだまま起き上がろうとしない。
何時もの事で、リコは無言で指先をピクピク動かす。
何かを伝えようとしているのだろうか?
パチッと青い火花が一瞬光る。
ガレンはこれを見てあきれ顔だ。
「つまらねえ遊びやってねえで、その火を何かの役に立てる事を考えろよ」
叱られているのではないと知っているから、リコは顔を伏せてモゴモゴしているだけ。
コイツ、ほんと何か隠してるみたいで計り知れないんだよな。
森での食料集めは相変わらず骨が折れる。
木の実はまだ青くて食えないし、出たばかりのキノコは湿気でヌルヌルだ。
山菜の芽は美味く食えるんだけど、薄暗い森の中じゃあまり育たない。
ガレンに「森の外で野草を集めよう」って言ったことがあるけど、野党に見つかると面倒だからとか言って行かせてくれなかった。
森に巣くってる魔物の方が、野党よりずっと危ないんだけどなー。
サラが地面を這うようにして根っこを掘り出すと、小声で「これは、よーく焼けば食べられるようになるよ」
そんなのいつ覚えたんだか、こいつの観察力には何時も驚かされる。
エリンが「鹿でも捕まえるか!」やる気ないのにやってるふりして罠のロープを結び直す。
まだ一度も掛かった事ないんだよな。
「虫、芋虫、嫌だよー…」顔をしかめるのはジャリ。
それでも何か拾わないと飯にありつけないから、渋々芋虫を麻袋に詰め込み始める。
なんだかんだ騒いでいるくせに、料理された芋虫は美味そうに食ってるから変な奴だよ。
はなから好き嫌いのなかった俺にしてみれば、今でもちょっと抵抗ある食い物の一つだ。
俺はみんなをまとめながら、森の奥をチラ見する。
いつだって霧の向こうに何かゴソゴソ動いてる気がして、落ち着いていられない。
食料集めでいつもより奥に踏み込んだ時、変な場所に出た。
苔むした岩がゴロゴロ転がる薄暗い一帯。
ガレンが「こんな所には来た事がねえな、迷ったか」って眉をひそめる。
何年この森に住んでんだよ、おっさん。
ムカッとしたら何かが変だ。
これが危険察知の直観てやつなのか、背筋がゾクッとする。
同時にガレンが斧を握り直す。
「魔物か?」普段でも鋭い目つきが、殊更ギラついて見える。
そしたら霧がスーッと引いて、ちっちゃい光の粒がフワフワ浮かび始めた。
「うわっ、なんだこれ!?」
後ずさるジャリを避けて前に出たサラが「…光ってる…」手を伸ばしかける。
エリンが「触らないで! 怪しいよこれ、気をつけなって!」身構える。
霧が急に引いた時から、リコは光の粒をジッと見つめて指を動かしている。
パチッと光の粒が青く光ると一瞬で真ん中に集まり、ちっちゃい女の形に変身した。
透き通っているのに陽の光を反射する虹色の羽、淡い緑のヒラヒラして御軽い服着てるもんなー。
ファンタジーたべ。
まんま妖精じゃねえかよ⁉
「何だありゃ…」動揺したガレンの顔を初めて見た。
おっさんも知らねえ場所っつうか、いきなり妖精って飛ばしすぎだろ。
知らなかったんだけど、妖精の声は頭ん中に直接届いてくるらしい。
耳の奥に、無茶振りとしか思えない言葉が響いてくる。
「君達~、守りし者を倒して精霊界の封印を切ってあげれば、御褒美が出るよ。まあまあそれなりの魔力とか魔道具とか、それから魔導書も手に入れられるよー。魔石のおまけ付きだよー。やってみない?」両手の人差し指をえくぼに当ててニッコリ、かわい子ぶりっ子。
ジャリの目がまん丸、瞳孔全開「試練なの!? 魔法・魔道具・魔導書・魔石、あんちゃんが話してたまんまだよねっ、ねっ、ねっ」
「ふん、かかってきーなさい!」妖精相手に戦うと勘違いしたエリンが、胸を叩いてやる気垂れ流し。
俺は一瞬ボリスの墓を思い出した。
リコの火花がいつもより赤くパチパチ光り始めてるものなー。
こいつを倒すんじゃねえから、やめとけよ。
ガレンは不思議語りが好みじゃないらしく「魔物だろうが何だろうが、叩き潰すだけだ」斧を構えてる。
違うってば。
このままにしてたら、妖精と一戦てな事になっちまう。
だけど、いきなり出てきた妖精……妖精とは限らないし、こんなのが居るんだったら、悪魔が妖精に化けてたって不思議じゃねえもんなー。




