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5 鼠の丸焼き

話だけなら簡単そうに聞こえるけど、湿った苔の匂いとギシギシ軋む大木に囲まれての仕事だ。

四方八方死角だらけになってる森の中で、攻撃に備えた注意を欠かさず食える物を探し出すのは、地獄で悪魔退治するより大変だ。

木の実は虫に食われ、キノコは半分が髑髏マーク付きの猛毒持ち。

ジャリが「これ食える?」ってキノコ持ってきたら、ガレンが「それ食ったら首チョンパより早く死ぬぞ」ニヤッと笑う。

冗談のつもりだろうけど、ジャリはマジで泣きそうになる。


食料集めで一番きついのは、森の奥での獣狩りだ。

ガレンが「鹿でも猪でもいい、肉を確保しろ」って言うけど、森の奥は霧が濃くて、ゴソゴソ動く音が聞こえても、それが何だかよく分からない。

ボリスが「魔物の噂、冗談じゃねえかもな」とか言いながら笑い顔してるけど、目はマジなんだよな。


ある日、俺たちが仕掛けた罠にでっかい影が引っかかった。

どう見ても鹿じゃねえ。

牙がギラッと光るから、狼みたいな魔物だろうかと思ってしまう。

とにかくやたらでかくて目が赤く光っているし、ガレンみたいな低くて重たい唸り声がすきっ腹に響く奴だ。

危ないを素通りして殺されそうな予感しかしない状況になった。

ガレンが「フェンリルだ。お前ら絶対に動くなよ!」と叫んで斧を構えると、魔物がロープをブチ切って飛びかかってきた。

「下がれ!」

ボリスが何時も盾代わりに持っている木の板を、肩に当てて立ちはだかり俺たちを守る。

この時に盾を突き破ってとび出た爪に引っ掛かって、肩から血がドバドバッと噴き出した。

「うわあ!」ジャリが驚いて尻もちをつく。

サラは俺の後ろでガタガタ震えてる。

こうなったらどうやっても収集がつかねえ。

怖いもの知らずのエリンが「これでも食らいやがれ!」手に握りしめていた石を投げ付けると、リコが素早く地面に手をついた。

バチバチッ・バチバチッ。

青い火花が地面を伝っていくと、フェンリルの足元で大きな炎がドッカーンと爆発した。

魔物がビクッと怯んだ隙に、ガレンが斧で一撃お見舞いする。

ドスッと鈍い音をたてたけど、魔物には傷一つ付けられなかった。

それでも俺達の攻撃に驚いた様子で、二三歩後ずさりしてからゆっくり反対向きになって、後ろを振り返りながら深い森の中に消えていった。


フェンリルが本当に去っていったのか確認すると、近くにでっかいイノシシが一頭倒れていた。

フェンリルは狩りをしていたようで、俺達に獲物を盗られると思ったみたいだ。

結局は危ない奴から貴重な獲物を奪い取った形になっちまった。

肉は手に入ったけど、全員無事とは言えない。

ボリスの傷はかなり深そうだ。

傷はとっても心配なんだけど、イノシシの肉、食ってもだいじょうぶなのかな。

フェンリルってのは伝説の魔物だし、実際にいるなんてのが驚きだし、向こうから去っていったってのも妙だし、毒もってるって話だし。

ガレンが「チッ、この森にあんな大物は居ないはずなんだが、迂闊だったな」チラッとボリスを見て、肩の傷を気にしている。


ボリスの怪我は見た目も酷いけど、傷薬塗っときゃ治るべとかのレベルじゃなかった。

フェンリルの爪からは、想像以上に激ヤバ毒が出たようだ。

肩の傷は血が止まっても膿んで、動くたびに顔が歪む。

ガレンが「安静にしていろ」と言っても、ボリスは「俺がいねえとガキどもが困るだろ」こんな調子で、いつだって笑ってごまかしている。

口ではあんな事言ってるけど、狩りにはもう出られねえだろうな。


イノシシの肉をちょっとだけ千切って鶏に食わせてみたら平気だったので、ちょいとでかめのを豚にやっても大丈夫だった。

大物を手に入れはしたけど、まだまだ長い冬を越すには足りない。

俺たちは、必死で食料集めに奔走した。

木の実はもちろん、キノコ・タケノコ、元気な子、芋虫・毛虫なんでもこーいってな感じで集めまくった。

リコが掘った根っこは意外と美味く食えたし、サラの観察力で毒草は簡単に見分けられた。

フェンリルの毒抜きにも使えそうな薬草まで分かるんだから、鑑定眼でも持ってそうな勢いだ。

ガレン愛用のデカナイフを預けられたエリンが「あたしが一番の獲物を捕ってやるんだからね!」いつにもまして張り切ってる。

「腹減った…」ってグズってるのに、ジャリは泣きながら鶏を何羽も捕まえてくる。

鶏は卵が食えるし、いざとなったら肉になる。

有難い存在だ。

無心の境地なんだろうか、ジャリには鳥の警戒心が働かない。

ある意味、すんげえ才能だと思う。

俺はリーダーみてえに振る舞いつつ、内心ビビってた。

森の奥では、まだあの魔物の唸り声が聞こえるんだもんな。

何頭もいるのかよ、それともさかりか。

ガレンは「もういねえよ」と嘘つくけど、霧の奥が不気味すぎる。


雪がちらつく頃、切り詰めて食えば何とか冬を越せそうな量の食料が集まった。

干し肉、干した根っこ、穀物っぽい草の種、河で獲った魚の干物。

ガレンの倉庫にキッチリ並べたけど、ガレンが「これでギリギリだな。無駄にすんなよ」釘刺してきやがる。

「やっと腹一杯食える!」ってジャリが喜ぶけど、俺はなんか嫌な予感がしていた。


本格的に長い冬が来て、外での仕事があまりできなくなった。

薪は十分あるから、春がくるまで暖かい部屋で腹減らしつつ死なない程度に食って寝る。

そんな毎日が始まる。

食料を節約する為には、動かないのが一番だ。

家の中に冷たい風がスーと入ってくると、その度壁の隙間に積もっている雪を詰め込んで、冷たくなった手を焚き火であっためる。

こんな事の繰り返し。

焚火の火種は消えないようにしているけど、何度もリコの火花が役に立った。

ガレンが「その火花を冬の間にもっと鍛えろ」って言うたび、リコはモゴモゴしながら火花を見つめる。

炎が少しずつ強くなってきてる気がするんだよな。


冬の真っただ中で、最悪のことが起きた。

ジャリが「うわ!、食いもんが!」って叫ぶ。

鼠だ。

どこからか紛れ込んできたのか、ちっちゃい奴らが倉庫の食料を食い荒らしやがった。

干し肉にガリガリ歯形つけたし、穀物の袋はボロボロにされちまった。

「こいつら全員ぶっ殺す!」エリンが鬼の形相で追いかけ回すけど、鼠は素早い。

「罠作ろうよ!」サラの提案で、俺とリコが即席の罠を仕掛けた。

リコが床にバチッと火花を出して鼠を驚かせ、俺たちが棒で叩く。

罠でも何匹か捕まえた。

とりあえず入り込んだのは仕留めたけど、一週間分くらいの食料が食い荒らされている。

齧られた所を削って食ったとしても、これからは今まで以上に節約しなけりゃ春が来る前に食料が底をつく。

仕方ねえから今夜は鼠の丸焼きにするか。

「チッ、油断したな」ガレンが呟く。

ボリスはベッドで横になりながら「まあ、なんとかなるさ」笑ってるけど、声が弱々しくなってきている。


ボリスは安静にしていても怪我が全然良くならねえ。

サラの集めた薬草でガレンが傷薬や毒消し作ったけど、強烈なフェンリルの毒に効果は薄い。

「俺は、ちょっと休んでいれば平気だ」ボリスは気楽に言うけど、だんだん飯を食わなくなってきた。

「ボリス、食えよ!」ジャリが泣いている。

ボリスは「ガキが食わねえと、この国の未来がねえだろ」ニカッと笑って、ちょっとだけ食って残す。

上の前歯が一本抜けている。

その笑顔が訳分かんないけど胸に突き刺さる。

リコが黙ってボリスのそばで火花を出し、焚き火の色を七色にして見せた。

毛布をかけてあげるサラ。

エリンが「バーカ、死ぬんじゃなよ」

二人の目が充血してるんだもんな、しゃれになってねえよ。

ずっと後になって気づいたんだけど、この時ボリスは、自分の食い扶持を減らして俺たちに分けていたんだ。

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