4 野党
ある夜、焚き火を囲んでガレンが珍しく口を開いた。
「この森はな、昔、俺が仕えてた王族の領地だったのは前に話したろ。覚えているよな。昔は良かったよ。森の周りは領民が畑耕しててな、子供が近くではしゃいでたもんだ。それが今じゃどうよ、妙な霧と魔物の噂しかねえ」目がギラッと光る。
おい、戦場で何か失った人間の目になっているぞ。
ジャリが「魔物って、マジいるの?」ビビりながら聞くと、ガレンは「迷信だよ。本当に怖えのは人間様だっつってんだろ」ぶっきらぼうに言い放って、焚火に薪を放り込む。
ボリスが「そうだなー。まあ、用心はしとけよ。霧の奥でなんかゴソゴソ動いてるぜ」冗談っぽく暗がりの方を指さす。
みんなビビリバビリだもの、困った事を言う親父だなー。
サラが俺の袖をギュッと握ったまま固まってるじゃねえかよ。
リコは静かに火を見つめてたけど、なんか指先で小さな火花がチラチラ光ってる。
コイツ、ほんとに火の魔法とか使えるんじゃねえの?
そんなこんな平和な(?)日々が続いたある日、ヤバいことが起きた。
朝方早く、家の周りに耕した農地で草を摘んでたら、遠くでガサガサって音がする。
エリンが「なんだよ、あれ」と目を細めるから、俺もそっちの方を見たら、霧の向こうに人影がチラチラしているんだ。
「野盗だ!」ガレンが「隠れろ!」って命令すると、でっかい斧を手に家畜小屋から飛び出していった。
ガリガリ君とは思えない俊敏な動きで、野盗の一人を一瞬でぶっ倒した。
すげえ、元傭兵って本当だったのかよ、マジやべえオヤジじゃねえの。
俺達から見える野盗は残り三人。
当然だけどガレン一人じゃ勝ち目はない。
俺はとっさに「ジャリ、エリン、罠を使え!」って叫んだ。
エリンが素早く天井からぶら下がっているロープを引っ張り、ジャリがビビりながらそのロープを切った。
サラが「危ないよー!」って叫びながら俺の後ろで石を握りしめているけど、その石をどうする気なんだよ。
人間てのは慌てると自分が何しようとしてるか分からなくなるっていうけど、本当にそのとおりだな。
リコはどうしてるかっていうと、無言のまま地面に両手を押し当てて小さな火花をパチパチ出している。
次の瞬間、火花が地面を凄まじい勢いで這っていく。
野盗の一人が「うわっ!」驚いて後ずさりした。
魔法かよ、ガチじゃん! すげえじゃん! ジャンジャン。
同時に別の一人がロープに足を引っかけて転ぶと、罠の杭がガッツリ足に刺さって叫び声を上げた。
「ウンギャー、痛てえよー」
そりゃ痛いだろうな。
けっこうと太いから、ほっといたら死んじゃうかもな。
ガレンがすかさず斧で仕留める。
ほっとかなくても死んじゃうもんだな。
残りの一人はビビって逃げ出した。
あっちにはトラップがいっぱいあるから、きっと生きて森から出られないな。
戦いが終わると、ガレンが血まみれの斧を地面に突き刺して俺たちを見た。
「やるじゃねえかガキども。生き残る才能あるぞ」初めてガレンの笑い顔を見た気がする。
森の中から異常を感じて戻ってきたボリスの剣から血が滴っている。
「おおー、珍しくガレンも認めたみたいだな。ガキども、今夜は表彰式やって宴だな」両手で腹揺らして笑いを誘う。
逃げていった奴を仕留めたすぐ後だってのに、よく笑いながら冗談が言えるな。
「俺、死ぬかと思った」ジャリが泣きながらサラにしがみついた。
サラは相変わらず俺の袖を掴んで固まっている。
リコが暫らく地面を見つめてたけど、意識があるんだかないんだかボーとしていて、指先はまだパチパチ光っている。
エリンが「リコ、すごいねっ! ねっ! 何よ、その火!」頻りに絡んでもリコは「…別に…」だけで何も話そうとしない。
冷めすぎ控えすぎだろこいつ、ほんと何考えてんだか分かんねえわ。
この夜、焚き火を囲んでガレンが威勢よく言った。
「そういや、お前らが初めてこの森に来た時なあ、あの時も森のあっちこっちにトラップ仕掛けてあったんだよなっ。よくもまあ無傷でここまでたどり着けたもんだよ。運が良かったとしか言いようがねえんだよなあー」
何それ、今頃いうかな。
ジャリが「え、うそ、マジで!? 死ぬとこだったじゃん!」
サラは顔が真っ青になって気絶しそうだ。
エリンが「ハハ、じゃあー、あたし達って運だけで生きてんのかよっ!」笑うふりしてるけど、しっかり声が震えてるぞ。
リコはガチガチに固まって動けないでいる。
目だけがいつもより開いて丸くなって泳いでる。
みんなして髪の毛総立ちのビビリーだよ!
俺は思わず言っちまった。
「なあ、よく考えたら、俺たち運だけでここまで来たけど、野盗もあのトラップ潜って突っ込んでくるとか、頭おかしくね? エテ公と紙一重じゃん」
ボリスが「ハハ、そんだけ命賭けてたってことだろ。笑えねえなー」腹を揺らして笑った。
笑えねえんじゃないのかよ。
後で考えたら、ゾッとする話だよな。
俺たちも野盗も、どっこいどっこい。
このクソくらえな森で命懸けだ。
ボリスが鹿の肉を焼きながら言った。
「お前ら、今日で一つ分かっただろ。生きるってのは、守るってことだ。自分も、仲間もな」
妙にぎらついた目で語るこの言葉が、なんか俺の胸に刺さった。
リコがそっと焚き火に手を近づけると、炎が一瞬だけパッと大きくなった。
ジャリが「うお、リコ、すげえ!」って叫ぶけど、リコはただ首を振るだけ。
ガレンが「その火、鍛えりゃ武器になるぞ」と呟いたのが、なんか妙に頭に残った。
この森での生活は、まだ始まったばかりだ。
野盗の襲撃も魔物の噂も、これからもっとヤバいことが待ってる気がする。
でも俺たち五人には、ガレンとボリスがいてくれる。
なんとかなるんじゃねえかな。
ガレンの森で過ごした最初の秋で、俺たちは「生きる」ってのがどれだけキツいかを骨の髄まで叩き込まれた。
リーダーとおだてられ祀り上げられるままやってきたけど、どんな時でも腹はグーグー鳴ってたし、霧の森は毎日「お前ら、死にたいのか?」って囁いてくるようだ。
ガレンの家に住み着いて一ヶ月、俺たち五人は秋が終わる前に冬を越すための食料を集めなきゃならない。
これは文字どうり命懸けで挑むしかない最優先の仕事だ。
これに加えて、ガレンの鬼教官みてえな指導は相変わらず、ボリスの温けえ笑顔が心の支えになっている。
秋ってのは、食料確保のラストチャンスだ。
ガレンが「冬が来る前に、干し肉と穀物を山ほど用意しろ。でなきゃ全員飢え死にだ」朝から吠えまくっている。
いい加減に慣れてもよさそうなものだけど、骸骨みてえな顔のくせにおっそろしくでかい声で言うもんだから、ジャリは毎朝ビクッと飛び上がる。
サラはいつでもそうだけど、朝の大声の時は特に黙んまりで袖握って震えている。
その点エリンは慌てず騒がずが板についていて「うっせえなぁー」と言ってはいるけど、さっさと動いて仕度を済ませている。
リコはいつでも無言。
でも、どんな時かは上手く言えないけど、指先がキラッと光る時がある。
ガレンの指導はいたってシンプルだ。
森の奥で木の実やキノコを集め、罠で小動物を捕まえる。
いつもはそれだけ。
時々……人の殺し方を教わるのは野盗の襲撃に備えてっての~……頭ん中じゃ分かっているんだけど、あんまり気分の良いものじゃねえな。
落とし穴の蓋が落ちている時なんかは、恐る恐る中を覗いてみるんだ。
野ブタとか鹿みたいな獲物がかかってると、みんな飛び上がって喜ぶんだから変なもんだよな。




