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3 生きるための第一歩

ガレンの家に住み着いて一週間。

俺たち五人は、この世界で生き延びるために今までよりも派手に動き出した。

つうか、動かされたって表現の方が正解かもな。

ガレンの鬼教官みてえな指導は、日を増すごとに過激になっていった。

そんな死に物狂いの訓練を耐えられたのは、ボリスの「まあまあ、なんとかなるさ」って笑顔があったからだな。


いつもの事で陽が登りきる前に目を覚ますと、窓から差し込む光が霧でぼんやりしてる。

屋根の上まで伸びて広がった木の枝がギシギシ軋む音は、まるでこの森が「お前ら、さっさと働け」って言ってるみたいだ。


ガレンは朝になったら必ずでっかい手を腰に当てて、骸骨みてえな顔で俺たちを見下ろしてくる。

「起きろー! ガキども。腹が減ってるなら森で何か探してこい。木の実でも、虫でも、蛇でもいい。働かなきゃ飯抜きだぞ。冬が来る前に死んじまうぞー‼」

毎朝の事でも未だに慣れないその声は、戦場で敵の首チョンパしてた頃の名残かよってくらい恐っそろしくて、背筋にゾクッゾクッとくる。


サラがビクッと肩を震わせると、ジャリは鼻をズズッとやってから毛布にくるまる。

エリンの朝市仕事「ふん、うっせえなー」と薄笑いしながら、さっさと靴を履いて、サラとジャリをベットから引きずり出す。

リコは誰よりも早く起きているけど、いつも通り黙って隅っこで目を伏せてる。

こいつ、口数は少ないんだけど、なんだか奇妙な雰囲気があるんだよな。


ガレンの言う通り、食い物は命だ。

家に干し大根や玉ねぎがあっても、俺たちはみんな「余分な口」だ。そんなのが五人も増えたんだから、冬が来る前に全員飢え死に確定なんだよな。

ボリスが昨夜、焚き火の前で干し柿を分けてくれた時、ジャリが目をキラキラさせて「うめえ!」って叫んだっけ。

でも、ボリスは笑いながら言ったよ「これ食ったら、俺の分が減るんだぞ。分かってるよな。次はお前らが稼いだ物を食わせてくれよ」

温ったけえ顔して釘刺してくるあたり、さすが脱走兵だ。

優しいだけじゃねえ。


ガレンは食料集めだけじゃなくて、野盗対策も俺たちに叩き込んできた。

ある日、家の前で俺たちを集めて、いつもよりずっと静かに言い聞かせるような声で言った。

「これからお前らに人の殺し方を教えてやる。兵隊だった俺達には何の事ねえ仕事でも、お前らにしたら命がけだ。よーく見て覚えておけよ」

何つうか、これにはビックリ仰天、三十歩くらい引いたね。

シーンと静まり返った所でジャリが鼻をズリッ。

サラは俺の袖をギュッと握ったまま、離そうとしないで後ろに隠れた。

どんな時でも強気にが信条のエリンでさえ、いつもみたいに生意気な目でガレンを睨まず、ちょっと顔引きつってヒクヒクやってる。

そんな中でも、リコは変わらず無表情。

だけど、微かに指先がピクッと動いて光ったような……気がした。


俺たちの表情なんか気にも止めずガレンが続けた「この森のことを、人食い魔物の噂でビビる奴は多いがな、本当に怖えのは人間だ。それはお前らだって十分過ぎるくらい知ってるだろ。だからこそだ、野盗が来たら容赦なく仕留めろよ。相手を人間だなんて思って躊躇したら最後、その一瞬でお前らの首は地面にゴロンってな具合だ」

こう言って木の枝にロープを巻き、踏んだら杭付きの丸太がバチンと締まるブービートラップを教えてくれた。

地面に隠した落とし穴の中には、鋭く尖った木の杭を仕込んである。

落ちたら見事な串刺し人間の完成、一目散に彼の世行きだ。

見たくねえよな。


これからというもの、俺とエリンで毎日ロープが緩んでないか杭が腐ってないか点検するようになった。

ジャリは「こんなの、怖えよ…」慣れないでビビってる。

いつになっても離れた所から見学しているだけだ。

ボリスはジャリに「怖えと思うのはいい事だ。生き残るための準備だからな」って訳わかんねえ理屈をこねる。

サラは黙々とロープを結び直して、リコは無言で杭を削っている。

あの一角だけ音のない世界になっているのが妙に自然だから笑える。

リコは何時も黙ってるけど、手先は誰よりも器用だ。

あの仕事に向いているのかと思えるけど、実の所サラが結んだ方がしっかりしている。

どっちにしてもまだ二人は修行が必要だな。


外敵は野党だけじゃない。

森の中には危なっかしい生き物がうじゃうじゃしている。

だけどそれは逆に食い物にもなる。

とても俺達じゃ太刀打ちできないから、狂暴なのやでっかいのはもっぱら大人二人が狩ってくる。

それでも森での食料集めは想像以上にキツかった。


ガレンに「ここなら食えるもんがある」と連れていかれたのは、雑草の生い茂った森の中でも少し開けた場所で、湿った苔の匂いが鼻をついてくる大樹ばかりの所とは様子が違う。

木の根元には、ちっちゃい木の実がポロポロ落ちてるけど、半分は虫に食われている。

虫の中には毒を持ったのもいるから注意が必要だ。

ガレンが「これは食えるぞ」と指さしたのは、黒っぽい草の実。

試しに口へ入れたら、渋くて舌がシビれやがった。

ジャリが「うえっ、ゲロマズ!」地面にベーッと草の実を吐き出した。

「お前なー、贅沢言うなよ。生きてりゃそれでいいんだって何度も言ってるだろ」と俺がちゃかすると、ジャリは「でもさぁー、あんちゃん、これ食ったら腹壊すって!」泣きそうな顔になった。

エリンが笑いながら「バーカ、慣れりゃ平気だろ」渋い実をガリガリ噛んで見せた。

いつも思うけど、エリンは好き嫌いが無さすぎる。


サラが黙って地面をじっと見ている。

葉っぱを千切って一噛みすると、木のヘラで草の周りを掘り始めた。

「これ、根っこは太くて大きいから食べられるよ…」ちっちゃい声で呟く。

サラはいつだっておどおどしてるけど意外と観察力があって、誰も気づかない木の実や小動物を見つけるのが得意だ。

いつものようにリコがサラと一緒になって、無言で木の根元を掘っりだした。

こいつの指先は時々光って見えたりするけど、それだけの事で妙な事は起きていない。

悪い奴じゃないんだけど、視線の集中した先で何かがおきそうで、いつだって要注意人物になっている。


ガレンが「火種がないときの火起こしも覚えろ。夜は恐ろしく冷えるぞ」俺達に乾いた枝を集めさせて、硬そうなのを選んで擦り合わせ始めた。

俺たちも真似して枝をゴリゴリ擦るけど、煙すら出てこねえ。

ジャリが「くそっ、指痛えよ!」文句を言うと、何にでも興味深々のエリンが「下手だなー!」勢いつけて枝を擦り合わせたけど、何も出てこない。

リコも息切らせながら枝を擦ってるけど、いつもの調子はどこへやら、遠目に見ても手つきがぎこちなくて危なっかしい。

俺達は何時も種火を持ち歩いてるし、種火が消えたら火打石がある。

だから、こんな事して火を点けた事は一度もないもんな。

結局、ガレンが一発で火を起こしてくれたけど、みんなはもうヘトヘトだ。


最近になって、火起こしの練習をしていたら妙なことが起きた。

夜の焚き火でガレンが「今日はお前らだけで火を起こせ」って言って、俺たちはまた枝を擦りまくった。

みんなはイライラして、ジャリが「もう無理だよ!」と半べそかいて投げ出しそうになった時、リコがそっと枝に手を当てたんだ。

そしたら、パチッと火花が飛んで枝が燃え始めたからおったまげたねー。

みんなポカンとして、燃えだした枝の炎とリコの顔を二度見三度見。

リコは顔を真っ赤にして「…なんでも、ない…」両手の人差し指同士をツンツンしながらモゴモゴしている。

ガレンがこの現象をチラッと見て「ふん、ガキが魔法使いの真似事か。鍛えりゃファイヤーボールを出せるかもな」ニヤッと笑った。

魔法!? こんなにクソくらえな世界で魔法なんてあるのかよ。

いやいや、火球が降ってきた時点で普通じゃねえんだけどさ、魔法が使える人間がこんな身近にいるはずないよな。

リコは何時もの様に何も言わず、ただジーっと火を眺めてるだけなんだもんな。

変な出来事に変な話を聞いちまったせいか、リコが只者じゃねえって思えてきたぜ。

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