おばあちゃんのから揚げ
ぼくのおばあちゃんは唐揚げを作るのがうまい。
夕方になると山へ行き、野鳥に向かって出刃包丁を投げつける。
――ぶすり。ぼとり。
おばあちゃんの包丁は、百発百中だ。
あるとき本を読んで知ったんだけど、刃物を獲物に刺さるように投げるのは、とても難しいらしい。
おばあちゃんはすごいんだ。ぼくはおばあちゃんを尊敬している。
血抜きはおじいちゃんの仕事だ。
そしてお母さんが揚げる。
お母さんが揚げるのに、なんでおばあちゃんのから揚げって呼ぶのか、ぼくはずっとふしぎだった。
ある夜、ぼくがトイレに起きたとき、お母さんは洗い物をしていた。眠い目をこすりながら見ていると、食器を洗い終わったお母さんは、おもむろに顔の皮をはぎ取った。
中から出てきた顔は、おばあちゃんだった。
そのとき、ぼくは思い出した。
お母さんはぼくがまだ子供のころに、交通事故で死んでしまった。
おばあちゃんはぼくが悲しまないように、お母さんの皮をかぶり、お母さんになってくれていたのだ。
おばあちゃんはすごい。ぼくはおばあちゃんを尊敬している。
お母さんだけど、中身はおばあちゃん。そんなお母さんが作る唐揚げは、やっぱりおばあちゃんのから揚げだ。