特異存在廃棄区
【令和█年██月█日】
【██県某所】
あの、カメラ回しました。
何とお呼びしたらいいですかね。
匿名とはお聞きしていますが……。
「高見でお願いします」
分かりました。
では高見さん、本日はよろしくお願いします。
「こちらこそお願いします。それにしてもよく撮影の許可が下りましたね」
ええ、上司がかなり粘ったようです。
現地での撮影は部下に任せる辺り、ちょっと無責任すぎる気はしますが。
私も手当がなければ絶対に来たくなかったです。
「気持ちはお察します」
ありがとうございます……。
ではヘリが投下地点に着くまでに説明をしておきますね。
端々で補足していただけると助かります。
「了解です」
この映像は"特異存在廃棄区"の現状を公開するための調査記録です。
特異存在廃棄区は、19██年に実験都市として成立しました。
現在でも国内唯一のエリアです。
廃棄区は、既存の物理法則を超越した生物や物体——幽霊や神話生物、呪具、魔術、他にも████から██といったモノを捨てるための場所です。
ネット上では闇鍋町と呼ばれており、全国各地から集められた特異存在が混沌とした様相を呈しています。
今回はヘリを使った上空からの廃棄を撮影します。
これから廃棄する特異存在は、隊員の高見さんが所持しています。
見た目は古い布袋ですね。
表面には黒い汚れが目立ちます。
中身はバスケットボールくらいのサイズでしょうか……絶えず蠢いています。
高見さん、これは一体何ですか?
「████さんです」
中身は生物のようですね。
見せていただくことは可能ですか。
「廃棄前の開封は規則で禁じられています」
なるほど。
では████さんの概要を教えてください。
「特異存在に関する説明も禁じられています。そもそも僕自身、ほとんど情報を与えられていません」
それはなぜですか?
「特異存在を理解すること自体が、影響を受けるトリガーになりかねないからです。無知で鈍感なのが最も安全なのです」
知らぬが仏ということですね。
貴重なご意見ありがとうございます。
さて、間もなくヘリが廃棄ポイントに到着します。
現在の高度はおよそ五十メートルです。
本当にここから落としていいのですか?
「着陸すると他の特異存在に襲われるリスクが上がりますからね。安全地帯から投げ捨てるのが最良とされています」
確かに仰る通りですね。
特異存在の廃棄が目的ですから、高所からの落下で破損しても関係ありませんし。
実に合理的な手法です。
あっ、高見さんが今、████さんを投げ落としました。
████さんはそのまま落下し……アスファルトに激突しました。
衝突時の破裂音がここまで聞こえました。
中身が潰れたようですが、まだ動いていますね。
特異存在は頑丈みたいです。
ん?
近くのビルから人影が現れました。
全身がショッキングピンクでゴムのような質感です。
「あれも特異存在です。通称███男です」
解説ありがとうございます。
███男が斧を振り上げました。
どうやら████さんを斬ろうとしているようです。
おおっと、袋から触手が伸びて███男を貫きましたっ!
触手は蛸のような形状です。
そのまま███男を拘束し、布袋の中に引きずり込んでしまいました。
見かけのサイズは変わりませんが、内部は一体どうなっているのでしょう……。
えっ、わっ、地面が揺れていますっ。
突如として地面に亀裂ができて、████さんを呑み込んでしまいました。
亀裂には巨大な歯と舌が付いていますね。
あれも特異存在のようです。
「直視しない方がいいですよ。█の口に狙われると厄介です。過去には上空のヘリを捕食したこともあるので」
す、すごいですね……。
廃棄区に入るのは初めてですが、外の常識はまったく通用しないようです。
ものの一分ほどでショッキングな光景を立て続けに見てしまいました。
「████さんは喰われましたが、あの█の口もいずれ別の何かに殺されるでしょう。廃棄区は弱肉強食の蟲毒が繰り返されているので……ううっ!?」
高見さん?
大丈夫ですか。
「すみません……████さんに汚染されたようです。監視のために意識しすぎました。早く、逃げて……くださ……い」
噓でしょ、高見さん。
ああっ、触手がっ!?
ちょっと、やめっ、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いっ!
死にたくないっ!
高見さんっ、待って、助けて!
だ、誰か!
もう嫌だ苦しい怖い溶ける血が止まらない脳が焼けるたぁぶっ
※
映像記録は墜落したヘリから回収したデータを復元・編集したものです。
尚、当データの安全性は保証されていません。
特異存在の汚染にご注意ください。