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鷹尾武の生き様ー全員死刑 あの世で死んだらどうなるのー

作者: 村川葵
掲載日:2024/12/29

「こんばんは。八時になりました。ニュースです。先ほど、ニュース速報でもお伝えしましたが、衆参両会議で、『国民死刑制度』が、与党の賛成多数で可決されました。私も死にますので、国民の皆さん、勝手にこのニュースの続きをご覧ください。それでは、さようなら。皆さん、それなりに頑張ってください。それでは、首相の記者会見をお楽しみ。長らく、この八時のニュースをご愛顧いただきありがとうございました。それでは、記者会見場の板倉さん」

 何だ、これ。アナウンサー、ピストルで頭、ぶち抜いちゃったよ。そうか。死んだほうが幸せかもな。このアナウンサー、好きだったんだけどな。まあ、いいか。きれいな女は死んでもきれいだ。

「はい。記者会見場の板倉です。それでは、首相の国民死刑制度に関しまして、この時間は番組の内容を勝手に変更させていただきます。先ほど、行われた首相の記者会見の模様を勝手にご覧いただきまして、国民の皆さん、どうぞ、ご自由に死んでください。皆さん、死んだら楽ですよ」

 はあ。国民死刑制度。まあ、テレビ、観とくか。ご自由に死んでくださいって。言われてみてもなぁ。あ、でたでた。首相だ。俺、この人の胡散臭いところが好きなんだよな。

「ⅤMTVの小林と申します。この制度なんですが、意味が全く、分かりません。首相、何のおつもりですか」

「どうするもこうするも、今の我が国を良くする為に我々が法に基づき、審議してきたわけですから、生きることって、面倒くさいでしょ。それに、この不景気ですし、人間、どうせ、死ぬわけですから、皆さんと死をわかちあえる事は、光栄に思っております」

 本気かよ。でも、考えてみたら、最近、変な事件、多いしな。何だ、この音。まさか、銃声。窓を開けたら、ヤンキーが花火をしてた。何だよ、テレビ、観たいのによ。電話が鳴ったら、俺、死んだ。


「どうも、青空あの世この世です。僕等もね、頑張らなあかんなぁ、思うとるんですけど、今から三途の川ツアーいきましょか」

「あの、ここ何処ですか」

「あの世とこの世の中間地区でんがな。えっと、君、鷹尾修さんの息子の鷹尾武君やね。お父さん、待ってはりますよ。それから、おじいちゃんの浅次朗さん、おばあちゃんの照子さんも」

「あの、よく分かんないですけど」

「まあ、付いてきなはれや。このボートに乗って、レッツゴー」

 やっぱり、あの世ってあるんだ。死んで良かったと思うべきなのか、それともこの世で頑張るか。まあ、いいわ。俺、死んじゃったわけだから。何か、きれいな景色だな。向日葵が沢山、咲いている。

「ええ、本日も青空あの世この世ボートをご利用いただきまして、ありがとうございます。ありがとうございます。この船は時速百キロで北へ、と北へと進んでおります。本日の乗務員は青空あの世この世で御座います。今日もやっぱり青空ボート。青空ボートで快適なひと時をお過ごしください」

「あの」

「どうしました」

「煙草吸ってもいいですか」

「ごめん、兄ちゃん。最近、僕等も不景気でな。灰皿、買う予算もないねん。三分で着くから、待ってなぁ。ビールやったらあるで。こんな時ぐらい飲まなあかんで。おっちゃん、おごったるわ。はい」

飲むか。ああ、お疲れ様。俺の人生、終わっちゃったんだな。で、俺を殺した奴って誰だ。それにしても、このボート、速過ぎる。なんだか黒い鳥居が見えてきた。

「お疲れ様でした。神様とこ行って、手続き、お忘れなく。兄ちゃん、身体には気を付けてな。ほな、グッドラック」


 きれいな村だ。それにしても、神様って誰だ。とりあえず、煙草。煙草。ふー。巫女さんが灰皿を持ってやって来た。

「武君。久しぶり。史上最強のハトコ、理恵ちゃん、絵里ちゃんだよ」

「理恵ちゃん、絵里ちゃん。何してんのこんなとこで」

史上最強のハトコ、理恵ちゃん、絵里ちゃんとは、二つ年上のとても可愛い双子のお姉さん達なのである。俺の童貞を奪った、二十歳の春の3Pは今でも思い出すと俺は勃起してしまうのだ。理恵ちゃんと絵里ちゃんは去年の夏、バイト帰りに交通事故死。その昔、二人はレディースの総長で、イタリアンマフィアにスカウトされ、ドンを任されたこともある、乗れないマシンはない無敵のグレートガールなのだ。

「バイトしてるの。灰皿伝達大使に任命されちゃって。巫女さんの資格、持っててよかったよ。今、神様のところにお連れしますね。はい、お塩。清めて、清めて。よし、行きましょう」

 黒い鳥居を潜ると、ウエディングドレスを着こなす坊主頭の男が俺に名刺を差し出した。

『神様 田村総一郎』

 その田村の神様が俺に申しつける。

「鷹尾武。享年三十二歳。ご愁傷さまでございます。武君。君、二十七歳の誕生日に彼女にふられて、やけになって、映画館で煙草、吸っただろ。それに高校の時、カンニングして、叱られた先生の車、金属バットでめちゃめちゃにしただろう。それから、お前、去年、一万円拾って、警察に届けなかっただろ。懺悔しろ。お前みたいな奴に生きる資格はねえんだよ。指、詰めて、懺悔しろ。分かったか」

「ちょっと、待て」

 後ろを振り向くと、ば、ばあちゃん。

「神様、あんたね、武はカタギなんやで。指、詰めろって誰に言うてんのや。え、こら」

神様にこんなこと言っていいのかよ。それでもって、俺の指、無くなっちゃうの。

「ばあちゃん、やめといたほうがいいよ。罰当たっちゃうよ」

「武、ここは黙って。神様、あんたが指詰めろ。え、分かってんのか。かっこつけとんちゃうぞ。私はな、あんたと違って、私は、昭和、平成、令和と、生きてきたんやで。おい、修、刀、持ってこい」

「武、なんや、その関東弁わ。え。東京で何しとったんや。ぼけ」

「親父、また、飲んでるのかよ。東京で俺が何しようと勝手だろうが」

「やめ。修、あんた、人のこと、言えるんか。あんたもプロ野球選手になるいうて、アメリカ行った身分やろ。こら。はよ、刀、持ってこい」

 親父はその昔、草野球の異端児と呼ばれ、四番でピッチャーを守っていた。生涯打率は三割三分九厘。防御率、3.38。そして、ばあちゃんの猛烈な反対を押し切り、メジャーリーガーを夢見て、渡米した過去を持つが、蓋を開けてみると、成績不振により二十歳でアル中になってしまった良い人なのか悪い人なのか分からない困ったオヤジなのだ。そして、夢を語り合ううちにニューヨークで知り合った、看護師だったお袋と結婚。平成十年一月三日、お袋の介護も虚しく、急性アルコール中毒で死去。五十二歳の最期であり、くしくも、一月三日は俺のじいちゃんである、株式会社鷹尾酒店の創立者、鷹尾浅次朗の誕生日でもある。俺は生まれて初めて喪主を務め、友達の森田君に挨拶文を代筆してもらい大変な正月であった。

「はい、はい。刀」

「何をする気だ。俺は神様だぞ。この無礼者」

「ほなな、神様」

 ば、ばあちゃん。ばあちゃんが神様の腹、刺しちゃったよ。

「絵里ちゃん、救急車。神様、死んじゃうよ」

「ちょっと、待って。私が診るから」

「わ、私は一週間後に、ふ、復活する」

「残念ですが、ご臨終です」

え、まじかよ。神様、死んじゃったよ。え、あの世で死んだら、次、何処、行くの。それも田村の神様だよ。

「南無阿弥陀仏。南無阿弥陀仏。武、今日からおばあちゃんが神様やで。なんでもいうてきいや」

「う、うん」

「武、葬儀屋に電話してくれるか」

 スマホ、スマホ、検索、検索と。

あの世で一番、近い、葬儀屋。曇り空一丁目に倉田葬儀店。出た出た。スマホってあの世でも使えるんだ。便利な世の中だ。


「それでは、神様、故田村総一郎儀の葬儀、告別式をとり行います。ご遺族の方から、ご焼香をお願い致します」

「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏」

「それでは、喪主様からのご挨拶をお願い致します。奥様の咲江様、どうぞ」

「生前、総一郎をご愛顧いただきまして、心からあつく御礼、申し上げます。神様まで成り上がり、欲しいものは何でも買ってくれました。プロレスラーを夢見た十代。写真家に憧れた二十代。人様に迷惑ばかりかける総一郎を愛していただきまして、感謝の限りでございます」

「ほな、出棺」

 ああ、俺も、手を合わせるとしよう。合掌。でも、一週間後に復活するんでしょう。ばあちゃんが新しい神様という事だから、え、待てよ。どうなるの。

 号泣する遺族の方々。しかし、ここは暑い。汗だくだ。それにしても、何故、田村の神様の葬儀に俺達が出席しなくちゃいけないの。と俺は思いつつ、缶コーヒーを飲み干した。これも人生、田村総一郎さん。南無阿弥陀仏。南無阿弥陀仏。ばあちゃんが、赤い椅子に座り、俳句を作っている。そうすると、俺は神の孫か。

「武、ちょっと来い」

「また、飲んだくれて説教かよ」

「ちゃうわ。とにかくついて来い」

 親父の軽トラに乗って、トンネルを三つ潜ると、『鷹尾商店』の看板が見えてきた。何時まで経っても親父は親父。酒臭い。

「ここが俺の店や。武、お前の部屋も用意してあるで。ちょっとは見直したか」

「分かった。分かった」

「ほな、ここで働けよ」

「やっぱりな。絶対、そう言うと思ったよ。俺、もう、あんたとは、もう、関わりたくないんだよ」

「じゃ、二度と帰ってくるな」

「ああよ。帰ってこないよ。バス停ってどこにあるんだよ。俺、もう、行くから」

「派出所で聞いて来い」

「派出所ってどこだよ。え、この、無責任野郎が」

「何やと、馬鹿息子が」

「しばくぞ、こら」

 親父を殴ったら、何故だか、俺の鼻から血が出た。何なの、これ。そして、空を見上げると、白衣を着た、どっかで見た、女が俺を睨んでいた。あれ、誰だっけ。

「武君、警察、行きましょうか」

「あの、あなた、何処かで見たことあるんですけど」

「私ですか。さて、誰でしょう」

 ううん。誰だ。よし、素直になろう。それが一番だ。

「あの、分からないんですけど」

「あの、私、前世は女優で、あなたの完全理想の女性像を含んでいる、管野まなみです。今は女神をやっています」

「え、あの、管野さん」

「はい。本物ですよ。ねぇ、約束してくれる。もう、暴力、絶対に振るわないって」

「はい。約束します」

「じゃあ、今回は許してあげよう」

 親父は管野さんにサインをしてもらい嬉しそうである。何故だか、三人でちゃぶ台を囲んで、そうめんを食べている。そういえば、管野さんには生前、お世話になった。部屋には、管野さんのポスターだらけだったもんな。日本を代表する女優さんだ。映画、『BOYごっこ』の教師役を観て、俺は感動、涙したものだ。

「この子をよろしくお願いします」

「はい。お父さん」

「何をよろしくお願いしてるの」

「武君、結婚しよう」

「武、お前の運命の人はこの人なんだよ」

「あの、俺、管野さんと今日、知りあったばっかりなんですけど」

「いいの。女神になった私には、何でもお見通し何だから。結婚してください」

「俺で本当にいいんですか」

「はい。以前から好きでした」

「あの、何で僕のこと、知ってるんですか」

「武君の詩集を読んで前から、ファンだったんです」

 俺はその昔、詩集を自主出版し、全く、売れなかったが、それなりに詩人だった。まさか、管野さんが俺の詩集を読んでいてくれたとは。してやったりだ。奇跡だ。実力でもぎ取った勝利だ。よし、お茶漬けを作ろう。愛ってやっぱり素晴らしい。

「あの、結納とかきっちりしたほうがいいですよね」

「ううん。どうでもいいんじゃないかな。私、形式ばったもの嫌いだし、あの世には市役所も区役所もないの。愛さえあれば大丈夫」

 ひー。ビールが美味い。管野さんがまぶしい。親父の笑顔を見るなんて、何年ぶりだ。らっきょが香ばしい。

「そうですね。愛さえあれば大丈夫ですね。いい響きですね。愛って」

「おい、武、良かったな。ハネムーンやな。新婚旅行やな。管野さんと管野さんのポスターをプレゼントしまくった俺にまず感謝しろよ。ね、管野さん。ところで日本酒はお好きですか」

「ごめんなさい、今、おなら、こいちゃいました」

 クサッ。管野さんのおならを臭えるなんて、まるで好奇心旺盛な少年時代に戻れたようだ。

「ところで、親父よ、お袋、何処にいるの」

「今はこの世のイギリスで命の大切を訴えている寿司屋でバイトしてんねん」

 なにっ。俺を殺したホシはお袋だと捜査上で浮かんでいたのだが、お袋らしい。したたかに日本から離れたか。とにかく、クサッ。でもいい臭い。よし。

「まなみ、俺を信じてくれ。カラオケ行こう」

「はい。ハネムーンはカラオケで贅沢しましょう。二十四時間カラオケ、武君頑張ろうね。美味しいもの沢山食べようね」

「おう。まなみ、俺について来い」

「はい。あなた」


 あれから、一週間が経過した。まなみを何度も何度も抱いた。あの世で子供が生まれたら、いったい、どうなるんだ。カラオケハネムーン、あの世の鳥取で二人、結婚式を挙げた。幸せだ。俺は。あの世でつかみ取った幸せ。俺とまなみは、特急電車、スーパーはくとに揺られ、曇り空一丁目の自宅へと帰った。親父は嬉しそうに日本酒を呑んでいる。テレビでプロ野球を見ながら。すると、スマホが鳴った。非通知だ。

「あの、鷹尾武様のお電話でしょうか」

「はい、そうですが」

「こちら、仁恵病院と申します。お世話になっております」

「はあ」

「あのですね、お母様の鷹尾啓子様が、てんかんにより、緊急入院されました。何分、イギリスからのお帰りにですね、曇り空空港で倒れられまして、救急車で、こちらに到着されまして」

「わ、わかりました。要するに僕がそちらへお袋を迎えに行けばいいんでしょう」

「はい、その通りでございます」


 お袋がてんかん。ほんとかよ。俺は、まなみの運転で、仁恵病院へと向かった。でも、親は親だからなぁ。心配だ。あった、あった、曇り風三丁目、仁恵病院。病院の駐車場に車を停めて、受付嬢に聞く。

「鷹尾ですが」

「あ、お待ちしておりました。108号室に、鷹尾様はいっらしゃいます」

「わかりました」

 まなみと病室へ向かう。多くの人が、まなみを見ている。やっぱり、有名人だもんな。とぼとぼ歩くと、108号室に。ドアを開ける。

「武、お前、この親不孝者が」

「何がだよ、せっかく、来てやったのに元気そうじゃねえか」

すると、お袋は、ポケットからピストルを取り出し、俺、目掛けて、一発、撃った。胸に的中。

「な、何、するんだよ」

「死ね」

 い、痛い。俺の意識は、もうろうとする。ほんと、死にそうだ。そして、もう一発、お袋は俺の脳を目掛けて、二発、撃った。俺、死んだ。


 俺は誰だ。何者だ。俺は赤子となり、お袋の母乳を吸っていた。嗚呼、天罰、ここにあり。

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