第5話、聖女は婚約を申し込まれる。
「状況終了、引き続きパーティーを楽しんでくれ」
浄化聖女が会場が汚染されているかを調べ、輸送ヘリが悪魔と攻略対象者と女神軍を乗せて飛び去った後、ヴィクトリアが大きな声で言った。
「…………」
静まり返る会場。
国の王子が異端認定されたのだ。
誰もおびえて音一つ出さない。
そのままパーティーは終了かという時、
「待ってください、ヴィクトリア義姉上は婚約解消されたんですよね」
紅顔で華奢な美少年が大きな声を出した。
二つ年下のポーター第二王子だ。
騒ぎを聞いてかけつけてきたようだ。
「ん、ああ、そうなるな」
元々、王家が異端申請されないようにするためにむすばれた政略だ。
「でしたら僕と結婚してくださいっ、ヴィクトリア義姉……閣下っ」
紅い頬をさらに赤く染めて恥じらいながら美少年がいう。
モジモジと手を合わせた。
「二年前、テンタクルブランチに襲われていたところを助けていただいた時から、お慕いしておりましたっ」
テンタクルブランチ、別名、”スケベ触手”。
何故か服だけを溶かす溶解液をまき散らしながら、触手で拘束する悪魔。
↑美少年。
ポッ
頬をさらに染めて、美少年が下を向く。
「むうう、アンネマリー、こ、このものは何をいっているのだ」
ヴィクトリアは、幼いころ(10歳)から戦場暮らしでむき出しの好意を向けられるのは初めてだ。
少し頬を染めて、アンネマリーに聞いた。
「ヴィクトリア様、ポーター王子がヴィクトリア様のことを好きだといっています」
無表情でいうアンネマリー。
「な、ななななな」
ヴィクトリアの顔が真っ赤になった。
「おおお」
「少佐に春が来ましたあ」
「見る目があるじゃないか少年っ」
「鬼の霍乱かっ」
周りにいる女神軍の卒業生が口々にいった。
最後は真っ赤になって恥じ入るヴィクトリアを見て、である。
「ですが……」
アンネマリーがポーター王子の全身を上から下まで見た。
小柄で華奢な体。
気弱そうな表情。
「ヴィクトリア様に並び立つには、いささか貧弱ですね」
「えっ」
という表情でアンネマリーを見るポーターとヴィクトリア。
ヴィクトリアは、密かに華奢でかわいいものが好きだったりする。
「くっ、二年後、二年後まで待っていてくださいっ」
二年後、ポーターは18歳で成人だ。
「たくましくなって帰ってきますっ」
「い、いや、そのままでいいんだぞ」
ヴィクトリアの本音だ。
「こんな僕に無理をさせないように気づかってくれたっ」
「必ず、ヴィクトリア閣下の横に並べるような、”漢”になりますっ」
「今のままでいいんだからなっ」
ヴィクトリアの魂の叫び。
「うんうん」
その横でアンネマリーが腕を組んで満足そうにうなずいていた。
ポーターはその足で女神軍のブートキャンプに参加。
◆
「これからお前たちを指揮する、ハートウーマン軍曹であるっ」
「退役した元聖女だっ」
「マゲッツ(ウジ虫)どもっ」
「これから返事は、イエスサーだけである」
「ここではお前たちを、肌の色や人族、亜人、王族や貴族、平民などで差別しないっ」
「なぜなら、等しく価値がないからだっ」
「「イエスサーッ」」
「今のお前らは、悪魔の前で腹を裂かれて、中のクソをまき散らすゴミ袋にすぎんっ」
「だが、このキャンプで少しは使えるゴミ袋にしてやろうっ」
「返事はっ」
「「イエスサーッ」」
「声が小さいっ、腕立て五十回っ」
……以下略。
二年後、ポーターは180センチのガチムキの、”漢”になってヴィクトリアの元に帰ってきた。
後に、ヴィクトリアと結婚。
王家固有のスキル、”インベントリ”で生涯、ヴィクトリアの隣で彼女を支え続けたという。
「ううっ、かわいくない……」
ポーターと再会したヴィクトリアが、少し不満そうにこぼしたのはここだけの話だ。