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【完結】使うモノ語り  作者: イヤマナ ロク
なんでも本舗オープン!
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第9話 1111本と1000万カレンを得るまでの道

「ここがキミとオレが働く職場だ。あのオーディションでキミを見てから急ごしらえしたんだけどいい感じだろう?我が祖国カントの伝統的な住居をイメージしたものだ。」

店はストリームの中心地から歩いて10分の所にあった。看板には


『付喪神案件国内実績No1!付喪神なんでも本舗!』

と書かれていた。


ユーザは疑問に思う。

「勝手にNo.1とか書いていいのか?」

「この事業やってるの俺たちだけだからいいのいいの!いい感じの仕事すれば嘘偽りなしだ。」

悪びれる様子もなくキンノミヤは言う。


(え?もしかしてコイツヤバい奴?)

ユーザの心に僅かに暗雲が立ちこみかけた。

「依頼か。鳴り物入りで初めてもそう簡単に来るとは思えぬ。人を集めると言うのは大変なことだ。」

ザッドの言葉にハーズとリンも頷く。


「いやあんなでかいオーディション開催したお前が言っても説得力ねーよ!」


「まあまあお話はこのぐらいにして、とりあえず中に入って。」

内装を見てユーザ達が目を見張る。


「なんか…見たことないな、この感じ。」

「我が祖国カントの伝統的な住居のつくりをイメージしたものだ。」


「この床は?」

ユーザは他の床より一段上がった所にある緑色できめの細かい床を指差して尋ねる。

「畳だ。い草という植物から作られてる。畳の所は靴を脱いで上がってくれ。」


「これ窓?なんか白いけど。」

ハーズが不思議そうに見回す。

「これは障子。丁度いい光を部屋に持ってこれる。断熱効果もあるぞ。」


「この扉は…」

ザッドは黒枠がついている白い扉に目を向ける。

「ふすま。引き戸の扉だ。」


「キミの部屋は2階だ。好きに使ってくれ。まぁそれよりも早速依頼が来てるから、行ってきてくれ。」

「もう!?何故!」


驚くユーザには目も止めずキンノミヤは依頼内容と依頼人の住所が書かれた紙を手渡す。

「頑張れ。100万欲しいだろ?」

キンノミヤは依頼の紙を揺らしながらユーザに尋ねる。


「まあ……分かったよ。それじゃあみんな早速行くぞー!100万がオレを待ってるんだ!」

「う、うむ。」

(やはりおかしくなっておるな……)

「わかってるっちゅーの。」

(こーりゃマズイねぇ?)

リンとザッドは苦い目で意気揚々なユーザに付き合っていた。


それに気づかず100万カレンしか頭に無くハイになってるユーザは朗々とした気持ちで依頼場所に向かった。


「ここだな。初仕事の場は」

依頼人の家はウォータスにありがちなレンガづくりの一軒家だ。

「お邪魔しまーって、うわぁ!」

ユーザが敷地に足を踏み入れた瞬間家の中から何か飛び出してきた。


「もうこんなウチには居られなーい!」

真正面に向かってきたのは付喪神だ。

ユーザはそれをキャッチし、両腕で取り押さえる。


「手荒な真似で済まない。一応確認なんだけど、ご主人から依頼を受けたユーザだ。依頼したのはこの家で…合ってるか?」

「あー合ってるね。だけど俺はこのうちと無縁の存在だ。なんせここを出ていくんだからな。」

「え?出ていく?」

ユーザが困惑していると


「すみません。ハニモがご迷惑をおかけして!私が依頼人のブロブです。」

「ああ、あなたが。早速話を聞かせてもらえませんかね。」


「ええどうぞどうぞ。」

ユーザ達は中に入る。ハニモを両腕に掴みながら。


「今お茶を出しますので、そちらに腰掛けてください。」

暇なので何気なく家の中を見回す。

一行は何か違和感を感じた。


「おい離せ人間!いつまでも掴むな!洗ってない手で触るな汚い。」

「ああごめんごめん。君の名前ハームとか言ったよな。なんの付喪神だ?あと色々聞かせてくれないか。」


「俺はハーモニカの付喪神。はぁ汚い。体を今すぐ洗いたい。」

(ハーモニカかぁ。聞いたことあるけど実物は初めて見た。)

「ついこの間までキョクアにいたと思ったら、よく分からん店で眠ってた。」

「あの中古屋の事だな。」

「だね。」

ハーズと会話してる様子を見てハニモが問いかける。


「え?その腕につけてんの付喪神か。」

「そう。ボクの名前はハーズ。籠手の付喪神。あと外に2体お留守番してる。」

「三体も引き連れてんのか。キョクアでも見なかったなそんな人間。」


ハニモのユーザを見る目が物珍しいものを見るような目に変わった。

「そうか………なんで家出したいか分かんないけど多分依頼の内容ってそれだよな。」

「ったく余計なことを……!自分が悪いんだろうが。」

ハニモが、そう呟いたところでブロブがお茶を淹れて戻ってきた。


「単刀直入に聞きますがどのような要件で?」

「何か楽器を弾けるようになりたいと、ただ漠然とそう思って。中古屋を見ていたらビビッときたですね…買ったんですよ。」

「はぁ……ビビッときて……」

ユーザは頷きながら耳を傾ける

「でいざ買ってみるとこの通り喋り出して、まぁ驚きましたよ。で何を言うかと突然飛び出して家の中を見るなり、思えば埃っぽいだの、空気が淀んでるだの、コレを早急に洗えだの、洗ってない手で触るなだの。しまいには出ていくと言い出したので実績No.1と聞き依頼したわけです。」


No.1の文言に多少引っかかったものの顔に出さずユーザは考える。

「なるほどキレイ好きな付喪神か。一度ハニモにも話を……っていない!」

ハニモは玄関をこっそーりと開けて逃走を測ろうとしていた。


ユーザはすかさず捕まえる。

「ドアを開けるハーモニカだなんてずいぶん器用なこった。」


取りおさられたハニモはユーザの手の中でもがきなが彼に向かって叫ぶ。

「やめろ汚らしい!せめて手を洗え。それまで一切触るな!近くにもよるな!あーここにいるだけで自分まで汚くなりそうだ。」

ハニモは苛立ちや嫌悪感を少したりとも隠さず言う。


「困ったヤツだな。そんな汚いかこの家。」

ユーザの一言にハニモは長いため息をついた後パーズの方に向き直る。


「ほほぉ。どうやら人間って生き物は目が節穴みたいだな。ハーズとか言ったな。この家の汚さが分かるだろう!同じ同士よ!!」

必死の剣幕でハーズに詰め寄る。


「そうでもなく無い?ボクは少なくとも気にならなかったよ。大体家のリビングなんてこんなもんだよ」

ハーズはさっぱりと言い切る。完全に切り捨てられたがハニモは諦めない。

「いいや、人が来るからある程度掃除しただけだ。この家の本当の姿を見せてやる。」

そこでユーザ達が目撃したものは想像を絶するものだった。


丁度同じ頃、チェンジャーはまた一つ武器を奪い取っていた。


「これで記念すべき100本目……っと。これは斧かなー?」

奪い取った斧をまじまじと見つめる。

「うーん………付喪神じゃあなさそーだー。まいっかー。」

そう言いながらバックパックに斧を詰めていると


「人のモノをそうやって盗るなんて……地獄に落ちるぞ!」

斧を盗られた男が言葉を絞り出す。


チェンジャーはその言葉を聞き一瞬ハッとしたように目を見開く。

そしてすぐ表情を戻し


「地獄か…。まだ行く気は無いねー。キョクアってとこにも寄りたいし。」

そしてニヤけながら、バックパックに目をやる。

チェンジャーの担いでいるバックパックは赤黒く染まっており、腐った血の匂いが漂う醜悪な状態だった。


「これはすぐ消毒せねばな。こんなものを放っておけるか!」

「確かに……これは…すごい風呂だな。」

「ボク今すぐにでも逃げ出したいよ。」

一方ユーザ達はブロブの家の風呂を見て呆然としていた。


「お前が度を超えたキレイ好きなヤツだと思ってたけどこれはぁ、強烈だな。」

「だろ。ウジ虫の巣窟になってる風呂場なんてありえるか?断じて無いな!」


「そっそうでしょうか?こんなもんでしょうよ。」

当然のようにブロブは言う。

本気でわかっていない表情がそこにあった。


(どうやって風呂入ってんだよ。そもそも入らないのか?)

「2階もやばいぞ。人の住む空間じゃない。」

ハニモに促され2階へ向かう。

すると


「わぁー。いっぱいあるねー。これなら101本どころか110本目まで行っちゃうよー。」

同じ時刻。

チェンジャーは盗賊10人組に取り囲まれていた。


「フッ、飛んで火に入る夏の虫とはまさにこの事……」

盗賊達は皆蔑むような笑みを浮かべチェンジャーを見ていた。

「貴様のプンプン香るその背負ってるのをよこせぇ!」


盗賊の1人が槍でバックパックを指す。

「悪いけどあげられない。地獄に行くまではねー。」

チェンジャーは寸分戸惑うことなく断る。

独特の語尾が伸びる喋り方で。


それが盗賊達の逆鱗に触れた。

盗賊達は青筋を立てながらチェンジャーに襲い掛かる。

「コイツ、ムカツク!死を与えねばならん!」

「活力十色な俺たちに引導を明け渡せぇ!」

「くらえー!」


「必殺!除菌サウスポー!」

一方その頃ハーズが雑巾を手にとるや否や床の埃がみるみる消えていく。

ユーザ達はあまりにも汚いブロブの家を大掃除の開始した。


「まさか持ち主の方が狂ってたとはな…」

口元と鼻を布で覆いながらユーザは呟く。

「ホントだよ。リビング意外が本当に酷い。ゆうてリビングもよく見るとけっこう埃っぽいし。」


「そうかなー。こんなもんですよね。ね?」

ブロブは首を傾げながら言う。

心の底から彼らの言動が腑に落ちなかった。

「じゃああの2階のゴミ屋敷はなんだなんだ!おかしいだろ!天井までゴミ届いてるの。」


「え?凄いと思ったんですか?嬉しいです。」

「な訳ねーだろ!」

(何かバカ医者と話してる気分になる……)


「え?ボクに武器くれるんじゃないのー?」

そしてチェンジャーはあっという間に盗賊を倒していた。

「ナギ君、クランボ君。協力してくれてありがとう。まー1人でも行けたんだけどねー。」

「いえいえ。主は本日3回戦闘を行っております。そして3回目いに至っては10人を同時に……身体への負担なども鑑みて、これ以上1人での戦闘は控えていただきたいとの思いで。」

「そう?この程度ゴミみたいなもんだけど。」


「だーかーら!コレはゴミではありませーん!」

チェンジャーがは人間のゴミを処理していた頃ユーザとブロブは本当のゴミのことで喧嘩していた。

「この小っちゃい服明らかに着れないだろ!」

「いつか痩せて着ます。」


「じゃあこんな埃だらけのタオルなんて…もう見るだけで虫唾が走る!」

ハニモは唸りながら心底嫌そうな顔で言う。

「洗えば使えます!」

「こんなにカバンいる?」

ユーザが両手に抱えて持ってきた大量のカバンに対しても


「もしものことを考えてですよ?」

(ダーメだこりゃ。)

3人の思考は一致した。


一方7人の思考は不一致だった。


「もう武器は諦めよう。こんなのうんざりだ。」

「バカなこと言うな!取り返すぞ俺たち盗賊だぞ!」

「自分が元から持ってるの盗ったってプラマイゼロだろ。」

「そもそも勝てないからさ。これ以外もあげちゃお。アイツのご機嫌とろ?」

盗賊達はどうやってこの状況を切り抜けるかの作戦会議をしていた。


堂々と相手に背中を見せて会話する様を見せつけていたがチェンジャーはそれを特になんとも思っていなかった。

「アイツの手下になってもいいかなぁ。棍棒とか従えてるから人も受け入れてくれるだろ。」

「逆にアイツを取り込むぞ!」

「てか話アイツ臭くね?生臭いなんてレベルじゃねーぞ!」


「…………」

彼らの問答をチェンジャーと残り3人の盗賊が黙っていた。


「君達はどうするの?」

「貴方のおかげで目が覚めました。これからは真面目に生きてこうかなと思います。」

「じゃ残りの武器ちょーだいー!」

ニカっと笑ってチェンジャーは右手を出す。

「盗賊やめるならいらないでしょー?だからー。」


「分かりました………ではコレを、」

盗賊達はすごすごと自らの武器を全て差し出した。


「これで121本目か。これで残り990本!これで地獄に一歩近づいた………大収穫だバイバイー!」

鼓膜が張り裂けそうな大声でチェンジャーは叫びその場を立ち去った。


「アーーうるさい!キレイになったからって浮かれ過ぎだ!」

ちょうど同タイミングでブロブ宅の片付けが終わり、ハニモは歓喜のメロディーを奏でていた。

「まぁいいや。依頼は一応解決で?いいのか?そういえば依頼料は……」

「今お持ちします。」そう言ってブロブは札の入った封筒を持ってくる。

(100万ナマで持ってこれるなんて、意外と金持ちか?)


そんなことを考えながらユーザは札を数える。

100万カレンきっちり入っていた。

「100万やったぜ!」

ユーザはあからさまにソワソワし始める。

「まぁこれからは2人仲良くしててくれよ。」

「あぁ。あの汚れは絶許だ。」

「はぁ、ありがとうございます………別に普通なのに。」

あまりにも対照的な反応を横目に100万カレンの札束に心を打ち砕かれてしまったユーザは事務所への帰路へ立つ。

ストリームの大通りを駆けていきながら。












































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