第7話 プラスギア50!マイナスイオン!
オーディションという名の茶番が終わった日の夜。
ユーザ一行は滝のほとりで小休憩していた。
「分からん。なぜ我がこのような仕打ちを受けねばなぬか、どれだけ思考しても分からん!」
ザッドは釣り針に石を無理矢理くくりつけられていた。
「せっかく海の男になったのにいきなり根掛かりでは格好がつかんぞ!」
「黙れよ!そのまま叩っ蹴って再起不能よりマシだろが。」
口論をよそにリンが呟く。
「でもでもでもでーも?割と楽しかったよ〜ん。」
「そりゃそうだろうな。だって、オーディションの時お前ずっーーーとバカ医者と外走り回っただけだもんな。そしてバカ医者ゴリ押ししたもんな。」
イヤミ混じりでユーザが言う。
「というかまだ1日でこんなになるなんて…これから一体どうなることやら…でも今日はなんか疲れた。もうダメ。」
ユーザは倒れ込む。
そして極々微少な寝息を立ててそのまま動かなくなった。
「まるで死体のような眠りだ。」
眠るそのままユーザは微動だにしなかった。
遠目から見れば完全に死体だ。
「ボクもそう思うよ。そういえば一緒に船に乗った時もこんな感じで眠ったからホント焦った。多分………疲れてるんだろうね。そういうボクも眠くなってきた〜もう寝るね。」
「そうだな。ひとまず今日は寝よう。」
ハーズとザッドも眠りにつく。
「で、ついにオレっちが残りましたと…」
リンを目をパチクリさせて呟く…そこに眠気の色は無い。
「さぁてさてひとまずギア50でと………」
リンは夜のウォータスを駆け抜ける。
翌日──
絶えず流れる水の音が彼らを目覚めさせる。
そこにリンのタイヤ痕だけがあった。
「これ辿れば見つかるはずだ。すぐに見つけるぞ。」ユーザ達はリンの跡を追い始めた。
後を追い始めしばらくしてユーザはある事に気づく。
「オレが乗ってる時と跡のつき方が全然違う…」
「うむ。普段よりも深く、崩れている。かなりスピードを出しているようだ。」
「それにここ、ドンドン人里から離れてってるぞ?」民家の数が減り、代わりに森の木々が茂り始める。
辺り一帯は大木がふんぞり返り、苔がタイヤ跡以外を覆い尽くしていた。
そして何よりも
「川と滝多くない?さっきから水の音しか聞いてない。」
ハーズの言う通りそこら中が水だらけだ。
上を向けば滝が流れ、下を向けば川が流れ、横に目をやれば沼がある。
マイナスイオンが彼らを取り囲んでいる状態だ。
「そう。ここは水の国ウォータス。都市部の所は埋め立てで水が流れてないけど本当はこんな感じで国中が川だらけの滝だらけの沼だらけだぞ。」
ユーザは僅かな少ない記憶から数少ない記憶からウォータスの事を語りだす。
「その上世界一長い海岸線もある。海の男である我にピッタリの地だ。」
そんな話をしているうちに道は崖で行き止まりになってしまった。タイヤ跡もそこで止まっている。
「…ここからどうする?」
「この近くにもリンはいなさそうだな。じゃあアイツは一体…?」
ユーザとハーズが頭を悩ませているとザッドが一言。
「どうやら海の男の出番らしいな。ユーザ、我を投げろ。」
「お前に頼るのは癪だが仕方ない。いくぞ!」
ユーザはザッドを持ち、思い切り振りかぶり竿を投げる。
「ここからが海の男の本領発揮だ。ハッ!」
その瞬間糸はどこまでもどこまでも伸びていく。
元の長さの何倍も伸びていきやがて見えなくなりしばらくして止まった。
「只の箔付けじゃなかったのか。………って!最初からこれ使えばオレ達歩く必要無かったんじゃないのか!」
「これはいわゆる必殺技だ。勝負でいきなり自らの手の内を見せる奴などいなかろう。そういう事だ」
最もらしくザッドは言う。
「いやそれとこれは違う…ん?何かかかった!」
ユーザの手に手応えがあった。
「これリンか!リンなのか!」
「あぁそうだ引くぞ!ハッ!」
海の男の力を発動し超速でリールを引っ張っていく。やがてクロスバイクのチェーンの音が聞こえるそしてワーワー喋り声も聞こえる。
「こりゃ間違いなくリンだ!」
皆がそう確信した時。
「怪人惚れさせるオレっちってクロスバイク界の神だろw」
怪人まで引き連れて戻ってきた。
「嘘だろ!?」
ユーザはすぐにリンを抱えて後ずさりする。
「オレっちがゲットした女だ。欲しかったらくれてやる。」
「そもそもメスかどうかもわかんねぇだろ!それにそんな事言ってる場合じゃない!お前らここを動くなよ。クソっ、よりによってゲイター引き連れやがって、」
大きな牙で襲いかかるアリゲーターガーの怪人だ。
「まずは口を閉じるぞ。」
「OK!」
上から迫ってくるゲイターを右に避け、口が地面に接しているタイミングで額に回し蹴りを喰らわす。
「ガァ!」
ゲイターの体は回転し仰向けで倒れる。
「今だ!」
ユーザは咄嗟に馬乗りになり、ハーズの左手でゲイターの顎の根本を掴む。
「ガルルルラァ!グラァ!」
ゲイターは必死にもがくがハーズの力に敵わない。
「フン!」
「ゼリャア!」
構わずハーズは掴む力を強める。
ゲイターの顎は潰れされ、顔半分が完全に無くなる。
ユーザは立ち上がり、直ぐに蹴飛ばす。
ゲイターはもがくこともなく谷底に落ちて行った。
「ふぅ…全く災難だぜ。リン、お前何してたんだ?」ユーザはリンを睨みつける。
「特訓さ。」
当然のようにリンは言う。
「特訓?」
「あぁ、二輪の錬金術師と戦う為のね」
するとリンは聴いてもいないのに語り出す。
「日曜日の祝日のピーカン晴れのサイクリング日和にヤツは来る。ヤツは鎖に鉄パイプを括り付けた武器を持ち!自転車ペダル型の下駄を履き、首にはベルを下げ、着ているTシャツとハーフパンツには反射板が全身に貼り付けられている。ヤツに会った自転車は跡形もなく破壊されてしまうらしい。」
ユーザはその話を聞いて
「………不審者だな。完全に特徴が不審者。」
「それに錬金術師要素がないぞ。」
「そこどうでも良いだろ!」
ザッドが冷静に付け加える。
「不審者だもん。仕方ない。」
「仕方ないで済ませるのかよ!」
「んでだ。クロスバイク界の神様兼仏様のオレっちが倒さなきゃ誰が倒すんだって話なんよ。最後に1チリンもさせてもらえずに殺される。二輪車の敵を誰が取るんだって話なんよ!だからこそ、ギア100の力を得た俺が倒して、リンハスゴインダーサイコーダーって言ってもらう的な的なテキーラ何だよ!!」
聴いてもいないのに勝手に力説するリンを横目に
(オレはさっきから何を聞かされてるんだ?)
(海の男狂いとかキョクアの付喪神皆こんなばっかなの…)
(此奴にもこのような情熱があったとは…実は中々見どころの骨のある奴かも知れん!)
三者三様の反応を見せていた。
「だかだがオレっちまだギアの力を95までしか引き出せてなーいの。だからぁ〜〜〜手伝って。」
リンは上目遣いでユーザにおねだりする。
「うわっキモ!やめろやめろ。クロスバイクにそういう表情は似合わん。分かったから、やってやるから!その表情やめろつってんだろ!」
こうしてユーザはギア100特訓に付き合わされるのだった。
「オレが走ってた時はギア5までしか出せないのに100とかとんでもないな。」
「あたぼうよ。オレッちクラスならね。まずはギア20でスターティン!」
ユーザはペダルを踏み込み驚愕する。
「うわすごい進む!!1、2秒で10m以上言ったんじゃないか?それにまあまあ重いな…でも漕げないわけじゃない。」
ユーザはものの5分でコツを掴む。
「じゃあギア30ゥ↑↑!」
「おおっ、」
一気にスピードが上がる。
「やばい、落ちる!」
ブレーキが間に合わず崖から落ちてしまう。
「ハンドル上にあげろ!」
「うぇっ?」
「Do it!」
ユーザはとりあえずやってみる。すると
「あれ?あんまり衝撃がこない?」
安心したのも束の間、すぐに小川が迫ってくる。
「さっきの要領で飛べ!」
またハンドルを上げるとジャンプで小川を超えた。
「よーしサイクルテクニシャンがここに誕生しようとしているー!一気に70だぁー!」
着地の衝撃でユーザは我に帰る。
「いやオレさぁ………一体何に付き合わされてるの!?」