第21話 ハッピー・マテリアライズ
「おいいつまでぐでーっとしてんだ。こっからが本題つったろ?」
「いや分かってるって…」
キンノミヤからジャスティスの概要を聞いたユーザとハーズはジャスティスが社会に与えたあまりの影響の大きさに圧倒され、話を聞いただけで座り込んでしまっていた。
「オレ達ほぼ1話ぶりの登場なんだ。十分休憩出来ただろうが。」
「あんまそういう事言うなよ。本題だろ?じゃあちゃんと聞くからさ。」
そう言うとユーザは立ち上がり姿勢を改める。
「分かった。じゃあここからは重要だぞ。オレ達の進退に関わる。」
「あぁ……」
「これは昨日位に市長から聞いた話だ。」
先日──
キンノミヤは診療所の職員に促され台が一つだけ置かれた特殊な部屋に入った。
台のまるで製図台にガラスを貼り付けたような形状をしており、右横には何やら紙しか通れないくらい薄いスリットが機器だった。
「ここは何ですか?」
キンノミヤが問い掛けると職員は台の方を見つめながら説明を始める。
「ここは市長含め公的期間の人間が緊急の連絡を取るための部屋です。この台はここの診療所のような都市運営の施設に必ず置かれているもので、緊急時にに市庁舎や警備隊へここまで遠隔でのやり取りをしたり直接その場に転送する為に使用します。基本一般人の立ち入りは禁止しております。ですからこの台の事もユーザさんには他言無用でお願いします。」
「なるほど……つまりこれからそれだけ重要な話をする訳だと。」
それを理解したキンノミヤは頭を抱えたい気持ちを必死に抑え、一旦息を整える。
「では分かりました。市長を呼んでください。」
心の整理がついた所で彼は視聴との対話を要求する。
「準備しますので扉の外で少しお待ち下さい。」
そう言いながら職員はキンノミヤを廊下へ追いやり扉を締め切る。
キンノミヤは必死に聴き耳を立てて壁に耳を張り付けるが
(なっ、小銭の音ならいくらでも聴き取れるオレが聴き耳を立ててもダメだと!?)
何も分からなかったので諦めた。
1分程じっと待っていたら職員が扉を開けて
「それではこちらにどうぞ。」
台の前に立つよう誘導する。
台は先程に貼り付けられていたガラス状の物体が光っており文字が書いてある。
「キンノミヤさんお待ちしておりました。バブル市長のワーンです。早速ですがそちらに向かいますので必ず一歩下がりお待ち下さい。」
指示通りキンノミヤが一歩引いた瞬間、台の周りが光だし、キンノミヤが眩しくて目を細める頃には市長が職員を数人連れてが目の前に立っていた。
市長の顔は一ヶ月半前に比べかなり悪く寝る間も惜しんで復興に取り組んでいるのが分かる。
だがキンノミヤはそんな事に目もくれずさっきの転送に興味津々だ。
「すっすごい技術だ……待てよ?これを使えばあらゆる物流や産業において革命を起こせるぞ!市長コレいくら?少なくとも100いや130までなら出せ…」
「1000。最低でもこれぐらいは。」
笑顔で一本指を立てる市長を見て
「すいませんでした。話が逸れてしまいましたね。早速本題に。」
態度を掌返しさせながらキンノミヤは応えていく。
「まず今回の件についてお詫びをさせて頂きたい。これは全て市長舎にテロリストを侵入させてしまった私共の責任でして…」
謝罪を始める市長に対しキンノミヤが止める。
「御託を並べるのはやめて下さい。そんな話をする為に今日来たわけではないでしょう。」
「いや、ですが…」
先程とは打って変わってやや高圧的な態度で彼は言葉を遮る。
「だからいいんですって。これから私の質問にだけ応えてください。あのテロリストの正体と目的。我々の今後の扱い。市長が何故依頼を受けたのか。ひとまずはこの位ですかね。勿論ですがありのままの事実のみを述べて下さい。こちらにだって面子と言うものが有りますしタダでは帰れませんから。」
被害者なのだから幾らでも搾り取ってやろうと言う気概がキンノミヤの目から感じ取れる。
「いやちょっとちょっと待てぃ!」
ユーザが一旦待ったをかける。
「何だよいい所なのに。」
「お前本当にそんな受け答えしたのか?」
ユーザの心配は的中した。
「いやだって…やっぱお金は欲しいじゃん?」
「答えになって無ーい!!」
背後の職員はキンノミヤの歯に衣着せぬ物言いと態度にあからさまに怪訝な表情を浮かべるが市長は一切表情を変えずに
「分かりました。その通りですね。」
の一言で済ますものだから職員も何故下手に出るのかと呆れ果てるしかなかった。
「まずテロリストの正体ですが……ジャスティスの後継団体の傘下の組織の人間でした。」
「なるほど…でも確かにこんな事をしでかすのは奴ら位でしょうねぇ。こんな事を言うのも酷でしょうがある程度防ぐことは?」
キンノミヤの指摘に苦い顔になる。
「その指摘ご最もでございます。ジャスティス事件から5年しかたっていないのに……ですが後から調べて分かったのですがあのテロリスト集団。殆ど情報らしい情報が無かったのですよ。」
「殆ど?」
キンノミヤの眉がピクリと上がる。
「かなり小さい組織で今回の事件に関わった者全員が丸ごと組織の構成員でした。僅か10数人。それも全て金で雇われ戸籍も過抹消されており過去の経歴も碌に出てきませんでした。めぼしい活動もやっておらずこの為だけに結成されたのでしょう。」
「聴けば聴くほど杜撰ですね。とはいえども人1人殺すには規模が大き過ぎませんか?」
キンノミヤは彼らが怪獣を暴れさせるついでにユーザを殺すと言っていたのを思い出した。
「ええ。ですから我々も色々な手を借りてその疑問について調べましたが何一つ分かりませんでした。」
「ここまで来ると逆にユーザが怪しいですね。」
と呟いた瞬間、市長達はハッとしたような顔になる。
(こーりゃだいぶお疲れの上余裕が無いな。最高のカモだ。もう少し彫れそうだし稼げそうだ……。)
誰も気づかない位ごく僅かに唇の端を上げキンノミヤが問いかける。
「それじゃあ私がユーザの情報を仕入れるというのはどうでしょう?」
「はい?」
「灯台下暗しと言いますか?まあ気張って探すより身近な人間に見せる表情に真実が隠れてる事って無くも無いんですよ。勿論報酬は頂きますよ?」
「それは…どうでしょうかねぇ」
市長は「バカなこと言うな」と言うような苦笑いをうかべる。
それを見てキンノミヤは
「ですよね?流石に冗談が過ぎました。話を戻しましょう。我々の扱いについてですが…今出ている情報では負傷者の中に我々が入っていないようですが。」
「これに関してはこちらの方が安全と判断した結果です。」
「ほう?」
意外な返答が返ってきて少し驚く。
「さっきの組織の話に戻りますが……あの事件以降存在が確認何一つ出来ないのです。まるで最初からそんな組織無かったかのように。」
組織の事を公権力を駆使して、法外一歩手前な方法も使いながら調べたがまるで跡形も無く痕跡が綺麗さっぱり消えていたと説明する。
「そっそこまで徹底して………」
ジャスティスの周到なやり方にキンノミヤは舌を巻くしか無かった。
キンノミヤは市長からジャスティスについての話を聞いていた。
「今回の組織は表向きにも裏向きにも完全に存在を消されているので下手に掘り起こすと面倒な事になりかねません。今回の件は『バブルの地下にいた怪獣が自らの特性により突如爆発した事故』と扱われています。幸いバブルの一般市民の目撃者も犠牲者もいなかったのでこのような荒業も可能だったのです。お2人も便宜上は事件に関わらず普通に生活している事になります。」
「言い分は理解は出来ました。でも1ヶ月半も消息不明でそれは無理があると思いますが?」
わざとらしくキンノミヤが問いかける。
「重々承知しております。ですので今回の事件で被った不利益に関しては全て我々で工面するという事で宜しいでしょうか?」
それを聞いた途端、キンノミヤは己の下心をより曝け出し始める。
「宜しいでしょうか?当然じゃないですか。」
そう言い捨てた彼は頭の中で算盤を弾き始める。1分ほど考え、口を開く。
「2800万」
「え?」
「ですから2800万カレン。請求します。」
「まず爆発による怪我の治療代と慰謝料、市長と一緒にいた馬車の付喪神の依頼解決の依頼料。一ヶ月半業務ができなかった分の負担。一ヶ月半の間に払わなければならない生活費と施設の維持費も払ってもらいたいですね。あとジャスティスに所在地割れてるので国外逃亡の費用全額負担。新しい土地と施設の用意もやって欲しいですね。あぁ後それから……」
彼は要望を際限なく伝えていった。
「というなんやかんやがありまして、オレ達は一週間後にはライドエンプに移ることになった。これで話は終わりだ。」
キンノミヤは初めて重い表情をしていたが終わり頃にはイキイキとしていたがユーザ達はどっと疲れた表情になっていた。
「いや〜何というか…市長って大変な仕事なんだね。」
「いやキンノミヤに目をつけられたのが運の尽きだな。……やっぱお前野に放ったらヤバいんじゃないのか?」
ユーザの指摘に対しキンノミヤが唇を尖らす。
「何を人聞きの悪い事を。ビジネスの基本中の基本を最大限生かしただけだ。それよりヤバいのはお前だユーザ。間接的にさえジャスティスに狙われるなんて何したんだ。そもそもジャスティスのことも知らない記憶喪失だし、お前は一体何なんだ?」
「……え?」
疑惑の目を向けキンノミヤは問いかける。
「お前は記憶喪失というがまず何を覚えてて何を忘れてるんだ。せっかくの機会だしハッキリさせようぜ。ハーズもだ。」
そして2人は洗いざらい質問を受けた。その結果
「ハーズは本当に純粋な記憶喪失って感じだが……ユーザ。お前は記憶喪失以前の問題な気がする。」
「どういう事だよ。記憶喪失以前って…」
「まずお前が取り出してハーズに説明させたって言う世界地図。それ世界地図じゃねーぞ?」
「は?」
ユーザは頭が真っ白になった。
自分が世界地図だと思っていた物が世界地図では無かったからだ。
「それは北半球の一角のみの地図だ………驚きたいのはコッチだよ。そんな中途半端な地図どこで手に入れた?」
「どこってそりゃ……うん?…………」
「覚えてないんだな。」
「……あぁ。」
「じゃあライドエンプは知ってるか?」
「知ってる。」
「フュールラデディは?」
「知ってる。」
「リンガネルは?」
「知ってる。」
キンノミヤは一息つくとまた国名を尋ねる。
「ラジョーア。」
「知ってる!」
「ピューヨフサル。」
「知ってる!」
「カント。」
「知ってるぅ!」
鼻が高くなっているユーザにキンノミヤは
「ブリュアビィル。」
「…………」
ユーザはその名を聞いて硬直した。
「ガイタイは?キルラキルは?」
「知らない……」
「2つともキョクアの植民地だよ。じゃあオウガウスは?」
「それも初耳……」
「今じゃ珍しい王権国家だよ。」
次に食べ物の質問していった。
「これは何だ?」
キンノミヤはエビを卵黄と小麦粉で揚げた食べ物の絵を出す。
「ん?何だこの天ぷらは?」
「エビフライだ!はい次!」
次に見せたのは小麦粉を打って作った麺をトマトソースに絡ませた料理の絵だ。
「ボロネーゼ?」
「ナポリタンだわ。次!ヒントは冷たい食べ物だ。」
続いての絵は牛乳と砂糖と卵と生クリームを混ぜて冷やした物にバニラエッセンスの香りを冴えたお菓子だ。
「バニラアイス!」
「やっと正解かよ。これくらいは全部答えてくれよ……ライドエンプへ行ってもこれでなんとかなるかなぁ。一応オレ達サービス業だし。」
「でっでもオレ今までの依頼でボロが出たことなんてないんだぜ。だよなぁ?」
ユーザは振り返り付喪神達に同意を求める。
「まぁ…そうだけど。」
「いざ露呈した時どうなるか分からぬな…」
「こんなん出されたらオレッちなら頭マジマジのマジ?って思っちゃうよなー!」
手放しで褒めてくれるものは誰もいなかった。
「何でだよ!オレ達ちゃんとやってこれただろ!ん?いや待てよ……」
ユーザはこれまでの記憶を思い返す。
「確か絶不調の時に怪人と戦ったり、勝手にオーディションやの審査員やらされたり、時速70キロ位の自転車で森の中走らされたり、超がつくほどのゴミ屋敷の掃除したり、紙が何だのうるさい不審者にボコられたり、怪獣に飲み込まれそうになったりって、碌な思い出がねぇ…」
ユーザはその場に崩れ落ちるがすぐに起き上がり、
「だからこそ、キョクアにその真相があるかもしれないから1000万カレン貯めて通行用手形手に入れるんじゃないか!むしろこれからどんどん依頼こなさなくちゃいけないんじゃないのかキンノミヤぁ?何自信無さ気になってんだ。市長に金請求した時の勢いはどうしたんだーよ!」
ユーザはキンノミヤに詰め寄る。
「うるさい!オレが金を諦めるか!?オレはこの世の全ての金と縁を結ぶんだ!だから億万長者という言葉も意味をなさないレベルの大金を絶対手に入れてやる。1000万カレンだぁ?んな済まさねーよアホかぁ!!」
キンノミヤが激昂しながら隠し刃をユーザに突き立てる。
ユーザは刃を持つ腕を回しながら掴み逆に教科を奪い取りたい首に突き立てる。
「……やっぱそうだよな。俺と関わったヤツだからな。そう言う頭のおかしい事を言うと思った。初めて会った時殺しそうになったの覚えてるか。」
「……勿論だ。」
「もしかしたらその時、殺した方が良かったのかもな。お前ら全員。いやでもリンは最初から協力してくれたか。」
笑いながらユーザは言う。
「どの口が言ってんだ。」
キンノミヤもその笑いにつられてしまった。
「まずこれからの予定だが、まずこの事をタキガワにも伝えなければならない。ウォータスにすぐ戻るぞ。早速市庁舎に向かうぞ。もう馬車は手配してあるらしいから行こう。」
キンノミヤの指示通りユーザ一行はバブルの市庁舎に向かった。
爆発で木っ端微塵になった市庁舎は急ピッチで復興進んでいるようだがまだまだ瓦礫はそこら中にあり、事件の色を隠せない状態だ。
「お待ちしておりました。ユーザさん、キンノミヤさん早速こちらへ。」
馬車にはまたイルカが暇で括り付けられていた。
一向は乗り込みイルカ馬車は海を一度潜って行った後、その後すぐに海上を浮上し始める。
馬車の中でこれからについての話が繰り広げられていた。
「それにしてもライドエンプかぁ。あんな暑っつくて遠いとこまで行くのか?」
「そんな暑い所なの?」
「昔何かで寄った事があるんだがとにかく暑かった!今の季節はまだマシだろうが夏になったら絶対外に出れない。」
「え!そんな危険な国に本当に行くの?!」
ハーズはキンノミヤに振り向く。
「当然だ。もうオレ達の場所は知られてる。多分ライドエンプに行ってもバレるだろうな。でもここに居座るよりはだいぶマシだ。どうやら極秘に運んでくれるらしいからな。すぐバレるって事は無いはずだ。」
「またライドエンプでも付喪神の依頼をやるのか?」
「あぁ。競合他社が居ないし簡単に真似できるような仕事じゃないから新規参入も難しいからな。当分は手放さない。」
ユーザはそれを聞くと
「それは分かった。じゃ『なんでも本舗』とかいうダサい看板は外してくれよ。」
「うむ。同意見だ。」
「あ〜れはないな。」
「ボクだけじゃ無かったんだ。ダサいと思ってたの。」
皆が口々にダサいと言い始めだした。キンノミヤも満更でもない顔で
「まぁそうだな。ありゃ超超突貫工事で2、3秒で考えた名前だからな〜。ダサいのも止む無しだ。だからちゃんと新しい名前考えたぞ?」
「超マジで?聞かせてよ。」
「その名も……ハッピー・マテリアライズ!」
「ハッピー?」
「マテリア?」
「ライズ?」
それを聞いた瞬間全員ポカーンとしてしまった。
「何だよそのポカーンとした顔は!」
「いや、前よりはマシかもしんないけどなんかさ……怪しい団体みたいな名前だなーって。」
ユーザが皆の気持ちを言語化してくれた所で馬車は沿岸に、辿り着いた。




