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勇往邁進


 銃弾、砲弾そして魔法の飛び交う地。絶望、悔恨、悲嘆、怨讐が満ちる場所。思想や信念。信仰の異なる者たちが入り混じる戦場。


 ここはティブカル平原。昔は緑豊かな大陸有数の自然公園だったとか。現在(いま)は緑は焼け、見渡す限りの焼け野原、転がる死体にそれを踏み越え進む生体。誰もが殺すことに躊躇いを感じなくなり、ここより生きて帰れた者達はこの地を地獄と呼んだ。


 

 皆さんおはよう。私はキエナ・バス・サントシウダー魔導大佐。この戦場における一方の勢力、アルゼラの軍人だ。


 ただ現在(いま)私は、まるで特攻かのような勢いで敵軍中央を進軍中である。(やつら)の眠気を覚ましてあげようではないかとね。

 後ろには私が指揮する愛すべき狂人(部下)たち。第400魔導独立機動隊の生き残りである。まさに悪運強い彼らとの最後の旅となるだろう。


 話は変わるが私は無駄な命の消費を決して望まない。人にはそれぞれ役目があると思っている。その役目を果たすために自分の命を使うことは正しい行いと言えるだろう。

 逆に言えば、それは役目を果たすまで生き残らなければならない。誰であってもだ。ソレができないやつはただの屑だ。あくまで自論だけどね。

 それでも私たちは幾千の命の上に今もこうして立っていて、生きているのだから。()()()が来るまで命は大切に。


 

 眼前に広がる数多の敵軍人の亡骸を見下ろしながら深く息を吸う。私の身体は返り血を浴び赤黒く汚れている。


「エディントホース中尉。味方の損害は?」


 彼女はゼクトユリア・ヴァルキド・エディントホース魔導中尉。私よりも頭一つ身長が高く、開戦初期からの長い付き合いになる。それでいて、私が出会った中で最も根性のある軍人であり、また普段から私の主な補佐をしてくれている。


「はっ大佐!…マセロイト少佐をはじめ5名が戦線離脱。他兵員は戦闘継続可能です。」


 横にいる連絡係より情報を集め、私にすぐ返答する。


「潮時か、、総員に通達!既に我らの任務は完了した!第400魔導独立機動隊はこれよりこの戦場より離脱する。」

 

 全員に聴こえるよう自分の声を拡張して部下達に呼びかける。そんな部下たちは私同様全身を血に染め、泥と煤に汚れている。

 

 第400魔導独立機動隊の人数はこの戦場での戦闘開始以前より半数近くまで減らしていた。死んでいった者たちの多くが戦況悪化で促成方針により早めに前線へと送られ、第400魔導独立機動隊に追加補充された若い士官を含む魔導兵たちだ。

 若い軍人の多くが軍によるプロパガンダに煽られ、意気揚々と各戦場に自ら赴いたのだから、なんとも皮肉な話である。


 

 急ぎ撤収の音頭を取る古参連中を呼ぶ。


「マインウェルト中佐。貴様はこれより第400魔導兵団の撤退の指揮を執れ。司令部に報告し次第、そのまま本国へと帰還せよ。その後は参謀本部からの指令を待て。以上だ。」


『…はっ』


 マインウェルト中佐を含む幹部たちの反応が今までで一番鈍かった。


 「どうした。何か不服か?であれば申せ。」


 彼らは殺意ともとれる冷たい彼女の雰囲気に背筋を凍らしたが、エディントホースが皆の疑問を口に出した。


「大佐はどうされるのでしょうか?」


 その声はどこか答えてほしくなさそうであった。それは他の幹部たちの顔にも出ているように感じる。


「…あぁ気付いていなかったのか。この先にタルキア(敵軍)のホルダーが来ているようだ。一人ぐらい()()()ておこうと思ってな。」


「大佐!私もお供します!」

 すぐさま声をあげたのもまた、彼女エディントホース中尉であった。私を見つめる彼女の顔は、泥で顔を汚していようと美しいままであったが、苦渋で満ちていた。誰よりも私と共に居た彼女のことだ、私の考えが分かるだろう。


「不要だ。私を誰と心得る」


 つい笑みがこぼれる。それは皆も同じだった。やはり戦場で私達は頭がおかしくなっているらしい。


「はっ!我らがホルダー。アルゼラの狂戦姫(きょうせんき)であります。」



 部下(戦友)たちの背中を見送る。74式(私の)魔導兵装が稼働音を唸らしながら。

しかし、最後までエディントホースの表情はすぐれなかった。

(そんな顔を最後にさせたくはなかったな…)


 「貴様が例の【狂戦姫(きょうせんき)】か。」


 空から舞い降りたタルキアのホルダーが声を掛けてきた。

(まったく、もう少し感傷に浸らせてくれてもいいものを。これだから()()は嫌いだ…)


「我は【聖望使(せいぼうし)】ステファノ・ケルンハリトス。申し訳ないが、女であろうと加減はせんぞ。」


 まだそこまでの歳じゃないだろうに、こめかみや頬がこけている。それに白髪も目立ってる。かなり苦労されてきたのだろうな。


「そう、それは残念、でもこれは戦争だ。もとから加減なんて言葉、ここにはないよ。 ただ祖国のために最後まで働ききれるかだ。」


 言葉は銃と同じ。魔法と同じ。相手を殺す道具になる。相手よりも上手に道具を使って、殺される前に相手を殺す。

 

 2人は一定の距離を保ちつつ相手を伺う。短く長い時間見つめ合い、時を待つ。

 浅く息を吸い、私は小さく呟く。

 

「私の役目を果たそう」

 

 

 お互いの魔導兵装の加速と共にティブカル平原における最初のホルダー同士の殺し合いが始まった。




同刻、某所


「始まったな」

 

 ティブカル平原にて狂戦姫とタルキアのホルダーとの戦いの開始が告げられる。

 厳つい顔の男はどこか苦しそうな表情を浮かべながらも、その声は威厳のある低い声で発せられた。

 

 男の声に反応し、そこにいる誰もが時間を確認する。この場所には年齢も国も異なる人たちが男女問わず詰めかけていた。

 それはこの組織の統率者に呼ばれたためであった。

 

 奥の扉が開き、統率者が皆が待つフロアに入ってくる。小さな歩幅で全員が見える台に向かう。


 台にのぼり短い時間、真顔で皆を見下ろすその顔はどこか一安心してるようだった。そして、時が来たのだと宣言する。


「みんな覚悟して、この時が来た。私たちの最初の戦いを始めよう。」


 その宣言にその場に集った多くが声高に叫び、フロア全体の熱量が上がる。

 それを台の上から見つめるその姿は未だ幼さが残る少女であった。


第400魔導独立機動隊:ティブカル平原を含む北東方面を支えている。隊員数は不明であり、北東方面の各戦地にて出没する。


ホルダー:ある■■■■を持つ特定の軍人のことを指し、また国家間にてその人物に通称(コード)が与えられている例もある。     

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