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プロローグ

 ありがちな展開。

 例えば、クラスごと異世界に召喚されるとか。

 王様っぽい人に、「おお、勇者の皆様!」って迎えられるとか。


 あるいは、自分だけチートスキルを貰うとか、自分だけスキルが貰えないとか、そういう展開。

 インターネットが普及した昨今、特に珍しい話ではないだろう。

 男子ならきっと、一度は妄想したことがあると思う。


 兎も角、僕たちは教室丸々異世界に飛ばされた、ということだけは確かだ。

 そしてあれよあれよという間に『スキル鑑定』なるものを受けることになったんだ。


 『勇者』や『聖女』、『大魔道士』なんかの厨二心くすぐられる鑑定結果が出る中、ついに僕の番が回ってきた。

 

「フ、フルーツマスター……」

「えっと……なんて?」

「ですから、フルーツマスター……」


 フルーツマスター、と申し訳なさそうに、占い師のような風貌をした老婆が告げた。

 向こうの世界では、追放系を忌避していた僕だが、さすがにこれくらいは分かる。


「あ、これいびられるやつだ……」





 それから二日、僕の立ち位置はと言うと……割と向上していた。というかこのスキル、手から無限にフルーツを生み出せることが発覚して以降、なかなかに重宝されていた。


 何せ右も左もわからない世界、食事は美味しいがやはり異国の料理といった感想が強い。

 そんな中で、少しでも馴染みのあるフルーツを添えると、結果はなかなかに好評だった。


 しかし、ひとつだけ残念だったことがある。

 元の世界よりの友人である『詩人』こと扇健一くんにいちごをリクエストされた時のことである。


「健一……言いにくいんだが、その……」

「君が何を言おうとしているかは大体目星が付いている。一思いに言ってくれ」

「いちご、野菜だから無理だったよ」

「やっぱりかぁあぁぁぁぁぁぁ!」


 膝から崩れ落ちていった。別に誰かが悪い訳ではないのだが、少しいたたまれない気持ちになったので代わりと言ってはなんだがブルーベリーを献上しておいた。


  いまはそっとしておこう。そう思った僕は、適当な人に伝えて城下町の散策に繰り出した。


 ここ、ハルカ王国はそこそこに寒冷な気候を持つ。元の世界で言うところのヨーロッパ、西岸海洋性気候といったところだろうか。僕たちが召喚されてきた現在は夏。空気もからりと湿気を含まず、気温もそこまで高くは上がらないため涼しさすら感じられる。

 街の建物は石材を多く用いて作ってあり、いかにも『中世の街並み』といった感じだ。


 不幸中の幸いというべきか。この国では広く日本語が行き渡っている。というのも、ハルカ王国の『ハルカ』とは初代国王の妃であり、彼女もまた日本から召喚された人間だったらしい。


 もっとも、数百年前の話ではあるが。しかし、不思議な話である。

 『ハルカ』といえば近代でもよく聞く名前だが、もしかしたらこっちと向こうでは時間の流れがかなり違うのかもしれない。

 そうだとすれば、そこそここの世界を満喫してから帰ってやるのでもいいかもしれない。



 突然だが、剣と魔法の世界でこんなことをいうのも野暮な話だがあえて言わせてほしい。


「不思議現象が多すぎる……」


 パッと見ただけでも、ニョキニョキと伸びていくツタ、何も入っていなそうな麻袋から大きな鱗を取り出す少女に、いかにも獣人ですよといった風体の男……?


 ここだけ切り取って見てみればまんま情報量の多い画像だ。


「よし、帰ろう」


 きっと健一も落ち着いた頃だろう。

 これからのプランを考えるのはことが落ち着いてから。

 そう考えをまとめて帰路に着く。


 時間はたっぷりとあるんだ。

 せっかくならこの世界を満喫しながら、帰る方法を探すとしよう。


 そんな決意をしたところから始まる物語。


 名づけるのであれば……『珍スキル『フルーツマスター』を貰った俺、異世界を満喫する。』とかかな?

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