出会い_5
再度、正気を取り戻した男が申し訳なさそうに頭を下げるから
私は首を振って、男が固まっている間に用意したお茶を出す
緊張していたのだろうし、喉が渇いていたのだろう
二度ほどお代わりして、男は落ち着いた
「こうしてね、外からこの世界の魔力を浴びたり
食事でこの世界の物を取り込むことで
徐々に最初の魔力はなくなるの
もちろんすぐじゃなくて、
数か月で薄れ初め、大体半年ほどで分からなくなるらしい
魔力量によって前後するから、一年は見たほうがいいかもね
そうすれば、もうしゃべっても、魔力を使っても問題ないわ」
でも、と私は男の目をしっかり見て確認する
「もし、貴方が迷い人としての庇護をちゃんと受けたいなら
今の状態で役所に申し出て、迷い人として申請したほうがいい
確かに、自由は制限されるし、
スキルによっては思ってもないことになるかもしれないけど
今代の王は寛大で賢王として名は知られているし
国自体も落ち着いているの
もし申請するなら、
万が一のためにもここではなく、王都がいいとは思うけど」
ブンブンと勢いよく首を振る男に笑う
「脅してしまったけど、
昔、大昔ね、私のおばあちゃんがお世話になった人が迷い人でね
その人はいろんなことに巻き込まれて、いろんな思いをして
それでね、
その人に恩返ししたいというとその人が頼んだんですって」
小さく頷く男に、私は少し懐古を味わうように目を閉じる
「もし、迷い人を見つけることがあったなら、
どう生きるか選択できるように知識と時間を与えてほしいって
それが難しいなら、せめて僅かな間でもいいから
当然あると思っていた毎日や生きる場所を失い、
身が千切れる喪失感や惑う気持ちが
落ち着くまでの猶予を与えてやってほしいって
できる限りでいいから、その時間と場所を提供してやってほしいって
そう、頼んだそうなの……」
また、首を限界まで下げて、声を押し殺して泣き始めた男に
私はまた最後まで付き合った
さすがに疲れたのだろう、瞬きを繰り返す男に
続きはまた明日、と昨年まで祖母が使っていた一階の部屋に案内する
万が一のために、サイレントの指輪を見せ
自分の指に嵌め、声が出ないこと、外すと出ることを確かめさせ
心配ならつけて寝るといい、と男に渡した
男は深く頭を下げて、部屋に入っていた
男を案内した頃にはすっかり夜も更けていたけど
私は明日の店の下準備をして、朝の作業に寝坊しないように
店の長椅子で一時の仮眠をとることにした。