裏:日常_3
「口に合わなかった?」
心配そうにこちらを見る彼女に
自分がとても失礼なことをしていることにようやく気付き
何度も頭を下げる
最低、だ
用意してもらった食事を凝視して確かめるなんて
母親なら張り倒されるし、恋人なら二度と作ってもらえないだろう
でも、彼女は笑って許してくれた
それどころか、とても楽しそうに言ってくれる
「なんか、違うんですってね
おばあちゃんもそう言われたって
なんか、何とも言えない顔をされたって聞いてたけど
きっと、そんな顔、してたんだろうな」
これはその時言われた事を元に味や食感などを考慮して
ファブ芋を混ぜて作ってみた試作だという
そして、それを弁当屋にお試しで出したところ
好評になり、今ではこの店の定番メニューとなったらしい
確かに、米、ここではトウ麦というらしい、だけ炊いたなら
味も食感もかなり違い、もやは、別物だったはずだ
先の迷い人のおかげで違和感はあるが、米だとは認識できる
ありがたいと思わなければ、と思う俺に彼女は言う
「話せるようになったら、是非違和感を教えて?
一応、調理スキルを持っているので、もっと試作を頑張れば
貴方の故郷の味により近づけることができるはずだから」
そんな優しい事を言ってくれる彼女に
また、鼻頭が熱くなる
元の世界で大人になってから泣いたことなんて
爺さんを亡くした時の婆ちゃんの嘆きように吊られて泣いたこと
位しか思い出せない
なのに、
ココへ迷い混んで以来、涙腺が弱くなっている
昨夜の失態を繰り返すものか、と
もう、無に等しいかもしれないが、大人の威厳を取り戻すべく
必死に溢れそうになる感情を飲み込んで、笑顔を作った。




