裏:出会い_5
そして、思った
自分は恵まれている
昨日、彼女の祖母が出会ったという迷い人は
気持ちの整理をつける猶予もなく、庇ってくれる存在もなく
この、訳の分からない世界で
己だけを頼りに生きていくしかなかったのだ、と思う
それに比べて、彼に恩を感じた祖母が
彼女にもし、万が一の場合を言い聞かせてくれたからこそ
俺はここで猶予をもらえている
そう何度も己に言い聞かせるように
頭の中でマシなことを数える
そうしないと、理解の範囲を超えた状況に
すぐにでも、正気を手放してしまいたくなるから
そして、マシだと思えたら、次に大まかな目標を決める
その際、譲れないと思うことの中から
一番、中心になることをまず定めると決めやすい
己の生にすら、執着を持てない今だというのにすぐ決まった
中心、それはもちろん、今、唯一の味方と思える彼女、だ
彼女の存在が揺らいだら、
例えば、彼女に騙され、奴隷として売り払われたり
例えば、逆に、彼女が俺を庇った事で死んでしまったりしたら
たぶん、俺はすぐに全てを放り出す
たった一日、交わした言葉はとても少ない
でも、俺にとって、命綱はもうあの幼い少女になっていた
それは間違った執着なのかもしれない
でも、もう動かせない、そんな気がした
だから、彼女について考える
息を吐き、目を閉じ
先行きが全く見えない不安を誤魔化すように
今、現在、俺を正気に繋ぎ止めてくれている唯一の存在を思う
彼女はこの部屋を去年まで祖母が使っていたと言っていた
なら、去年、彼女は祖母を亡くしたということだろう
多分、この世界には
現代日本にあったようなセーフティネットがないのだろう
だから、彼女はあの幼さで、この一年一人で
何かで糧を得ながら、生き抜いてきたということだ
彼女のしっかりしたところはそうやって培かわれたのだろう
なら、とりあえず
彼女の役に立てるようになることを目標にしよう
きっと、彼女の祖母は一人残す彼女をとても心配したに違いない
彼女がよき相手を見つけ、一人、ちゃんと生きていけるまで
彼女の祖母の代わりに、家族のように近くで見守ろう
そのためにも、この世界を早く知らなければいけない
その思いや決意が自分に対する詭弁だとわかっている
でも、そうでもしないと、今は一歩も前に進めない
だから、今はそれを己が生の杖として、部屋を出た。




