乱れ髪
あれはいつだったか
乱れ髪をぼくに絡ませたまま
君は顔を横に向けた
なぜだったのだろうか
黙ったまま横顔のまま
君は部屋を出て行った
窓辺で見つめ続けても
再び視線を絡ませても
君はまばたき目をそらした
今でもわからない
ずっとわからない
なぜと悩んだまま
胸に刻んだまま
それでも時と季節は流れ
新たな記憶の下に下に
それは沈んでいった
時が僕の思いを閉じた
久しい夢が思いを乱して
鎮めた思いを掘り返した
今さらの君の乱れ髪
いまさらの僕を乱した
夢なのかうつつなのか
黒と銀色の乱れ髪
うなじはゆめもうつつも
白く漆黒の和服を彩る
恐る恐るの挨拶
後ろを振り返った瞳
傾げた顔はまぶしく
わが心根をうばう
かすむ目をしばたき
カラカラとなった喉
老いたはずの胸のうち
ゆめはときめきを高めた
昔通りの若さでなく
むしろ老いの愚かさゆえ
頬笑みは一瞬にして
知恵と分別とを忘れた
暗さの中に漂う細指
差し出された彼女の胸
愚かにも伸ばしたのは
皴と節くれのわが両手
うつつが夢を掘り起こし
皴さえもいとおしい
賢さを失う発露は老いゆえ
まさか心を奪われるとは
それなのにいまさらに
僕を残して瞳を閉じた
一言も語ってくれもせず
無言のままに僕を残して
黒から銀に 白から金に
日の出の中に君は消え
いつしかあの思い出さえも
消し去って僕は一人
僕を残して逝かないで
声さえ残さず逝かないで
僕の胸に残されたのは
指に残る乱れ髪の記憶




