俺は学校帰りに夕暮れ時の土手沿いを自転車で走っていた。
彼氏視点です。
先に彼女視点を読んで下さい。
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俺は学校帰りに夕暮れ時の土手沿いを自転車で走っていた。
「ハァ、ハァ、あいつどこまで行ったんだよ。」
全力で漕ぐ自転車を遮るように土手沿いの風は強くて冷たい。
しかし、今日中に絶対に渡さなければ。
この使命感から、自転車を漕ぐ速度を弛める訳にはいかない。
あいつの住所は知らないが、毎日土手沿いを歩いて帰って行く事は知っている。
まだ、土手沿いを歩いている事を信じてペダルを漕ぐのだ。
誕生日だってもっと早く教えろよ・・・
あっ、あいつだ。
かなり遠くに見える人があいつだと分かった。
なぜかあいつのことは見間違えることは無い。
「おーい、待てよー」
あいつは気づいていないようだ。
腿がもう攣りそうだが、もう一踏ん張り、ゴールは見えているんだ。
思い浮かべるのは、隣の席のあいつ。
俺がバカをやってはあいつが嗜める。好きな人を虐めるって訳では無いが、かまって欲しくてまたバカな事を繰り返す。
クラスのみんなから夫婦漫才と揶揄われていることは、あいつが他の奴に告白されないような牽制になっているため、とてもありがたい。
今日学校で
「だからさー、最新のスマホのCPUの方が、SP4やテンニンドウSWITIのCPUより性能が良いから、ゲームメーカーはスマホ用にゲームを作った方がいいんだ。このクラスでもスマホは100%持っているしな。」
と持論を友達に披露していると、後ろから会話が聞こえてくる。
「誕生日おめでとう」
「ありがとう」
「これ誕プレ。欲しがっていたアレだよ。」
「わー、マジで嬉しいんだけど。」
「今日どこかでお祝いしよ」
「ごめん、母さんが子どもの誕生日には有給とって毎年お祝いするんだよね。ほんとごめん。」
「いいよー、親孝行しなよ。私達はまた今度ね。」
「ありがと」
俺は友達の話に「うん」しか返さず、全神経を背後の会話に向けていた。
えっ、あいつ今日が誕生日だったのかよ。
どうする俺、来年は受験だし今年中になんとかしたかったんだ。
あっそういえばあいつ「この時期の焼き芋最高だよね。誕生日のケーキの代わりに焼き芋でも良いよ。」とか言っていたな。
学校帰りに速攻で八百屋に行けば、願い叶えてあげられんじゃね。俺って天才じゃん。
後はあいつに気が付かれないようにいつも通り振り向き座間にあいつに話しかける。
「ヤベェ、数学の課題やってねー。おぃ見せてくれよ。てか写メ撮らしてくれよ。」
「バカじゃないの!見せてあげるからせいぜい書き写しなさいよ!」
やっぱ、優しいよな。
放課後、速攻で近くの八百屋に行った。
「おっちゃん、最高の焼き芋を作るにはどの芋がいい?」
「そうよなあ、今なら安納芋が良いよ。蜜もたんまり入っているし」
「女の子にあげるから、綺麗にリボン出来る?」
「おっにいちゃんやるね〜。贈答用の箱に入れればリボン結べるぞ。」
「じゃ、至急それでお願い。あっ、お金は1,000円しか無いんだけど。」
「ちょっと足りないけど負けてやる。その代わり頑張って来いよ。」
「わかった。」
八百屋のおっちゃんから、ラッピングされたイモを貰うと、自転車に乗って、あいつが帰る土手沿いの道へと急いでペダルを漕いだ。
ようやく追いついた。
「ハァ・・ハァ・・おい、待てよ。」
あいつの右隣に自転車のブレーキをかけて止まる。
あれ?俺、プレゼントの事だけ考えていて、何話すか考えてなかった。
えーっと
「おい、お前、今日、誕生日だろ。コレやる。」
なんとか縛り出したの言葉と一緒に綺麗にリボンが巻かれた箱を渡す。
「えっ、いいの?」
箱を受け取りながら微笑むあいつを見る。うわっカワイイ。
「ありがとう。ねぇ開けていい?」
あまりの可愛さに照れてしまう。
「いや、もうあげたもんだし、煮るなり焼くなり好きにしてくれ。」
「もう私の物だから、煮たり焼いたりなんてしないよ。大事にするよ。」
うわー、いつものツンじゃねぇよデレって破壊力半端ねぇ。
これ以上いたら俺がどうなるか分からねぇ。
「じゃそういう事だから、また明日学校でな。」
と言って、自転車を反転させ、立ち漕ぎで急いで帰る俺はプレゼントを渡せた達成感に満たされていた。
「ただいま」
「兄貴、おかえり」
リビングからゲームしている弟がこちらを向かずに返事が来た。
俺はリビングに向かい弟に話しかける。
「なぁ、俺、彼女出来るかもしれない。」
「えっ、兄貴、どういう事?」
ゲームを中断して弟がこちらを向く。
「今日、好きな子の誕生日で、プレゼント受け取ってもらえたんだ。それも、普段はツンなのにデレで受け取ってもらえたんだぞ。デレでだ。」
「それはもう、ほぼ確じゃね?」
「やっぱり、ほぼ確だよな!じゃあ、来月俺の誕生日だけど、誕プレよろしくってLINE送ってもいいかな。」
「いいよ。だってデレたんでしょ。」
じゃ、早速LINE送って。
『俺の誕プレよろしく』
玄関から母さんの声が聞こえる。
「ただいま」
「「おかえりー」」
「ねぇ、兄貴が彼女できそうなんだって。」
「何々、詳しく聞かせなさい。」
母さんは買い物の荷物袋を持ったままリビングに突撃して来た。
「・・・でね、誕プレ渡した時に彼女がデレたんだって」
「それで?」
「いや、それだけだけど?」
「で、プレゼントは何を送ったの?」
「そういえば僕も聞いてない。兄貴、何送ったの?」
「言って無かったっけ?安納芋だよ。」
「「イモ?」」
「そう、サツマイモ。焼き芋にするやつ。」
「「・・・」」
母さんと弟は顔を見合わせたあと、二人は残念そうな人を見る目でこちらを見た。
「兄貴、誕生日プレゼントに、イモは無いわ。」
「あいつ、焼き芋が好きって言ってたし、八百屋のおっちゃん、安納芋なら最高の焼き芋が出来るって言っていたし。」
「・・・母さん、兄貴に彼女ができそうとか言ってごめん。」
「はぁ、そうだね。夕飯でもつくろうかね。」
母さんと弟は急に興味を無くし、それぞれ夕飯作りとゲームを始めた。
「解せぬ。」