ラジオ地方件
これは戦後からすこし時がすぎ、人々が食に困らなくなった、昭和の夏の街で起こった奇妙な話し。
造太郎はある日、ゴミ箱に新品同様のラジオが捨てていられていのを見て、当時造太郎はラジオにとてつもない憧れを抱いており、出来心で、誰にも見られていないことを確認してから、ゴミ袋からラジオを抜き取り、その場を去った。
そして、家に持ち帰り、そのラジオの電源を入れると、ブツブツと謎の音がずっと聞こえる、他の放送に変えてみても、謎の音は鳴りっぱなしで、それを造太郎は「調子がわるいのか?」と誤解していた。
それから数日後、造太郎は通っている学校から帰ってきて、ラジオをつけると、謎の音が「た……す……け…………て、助けて…助けて!」と明確に聞こえてきた。
その音は謎の音と違い、ただ耳で感じるだけではなく、五感全てで、恐怖感等の負の感情を訴えかける。
それはまるで、夏の雨が降った次の日のじめじめした空気の様にじわじわくるものだった。
次の瞬間、ラジオからどす黒い電流を纏った腕が伸びてきた。
「ひっ!」
その腕は造太郎に伸びていき、肩を掴んだ。
「あぁあっあ!」
だが、ラジオから伸びてきた腕は、肩を掴んだと同時に消えた。
「はっ、はっ、はっ!何だったんだ、今のは。」
造太郎は目の前にあるラジオを再び見て、悲鳴を上げ、近くにあった父の仕事道具から、金槌を取り出してラジオに振り下ろした。
これには流石に造太郎は壊れたと思った、だが、ラジオは造太郎の全力の一振りをものともせず、机の上で存在感を放っていた。
造太郎は最終手段として、隣町の山奥に深い深い穴を掘り、そこにラジオを埋めて、逃げるように下山して家に帰った。
その次の日、造太郎は小学生であった為、小学校に通っている時も、授業を受けている時も、果にはトイレに行っている時まで、昨日のラジオの事が甘酸っぱい初恋の様に忘れられないで、ずっと、ラジオの事を考えていた。
一日中そう過ごしていると音楽の時間が始まった。
この小学校では音楽の時間は貴重なラジオで音楽を流し、歌うと言うのが授業の始まる前にあるのだ。
しかし、今日はその歌の様子が違った。
『一つ数えりゃ、四肢無しに〜二つ数えりゃ、首無しに〜三つ数えりゃ、魂無しに〜。』
そんな底冷えし、どこか赤子の幼さも感じる声でおぞましい曲が流れる。
先生は「あれ?ラジオが変な電波でも受信したか?」などと言いつつ、ラジオをいじる先生。
その先生の「ちょ止まってください」と言う指示を聞かずに造太郎以外の子供がそのおぞましい曲を歌い出す。
『一つ数えりゃ、四肢無しに〜』
そう、生徒達が純粋無垢な笑顔で歌った瞬間、歌った生徒達の四肢が切り落ちた。
生徒達の切り落ちた四肢と胴体から、大量の血がドバドバ溢れ出し、教室は血の海とかした。
それを見た先生は生徒達の死んでもおかしくない、出血量なのに生きている光景を見て気絶し、床に寝るように這った。
「アッっちっだちっだ!?」
造太郎の足元に各生徒の血が混ざっているものが上靴に付着し、上靴が真っ赤になった。
そして、四肢が無くなった生徒はまた、純粋無垢な顔で歌いだす。
『二つ数えりゃ、首無しに〜』
生徒達の首が両断された、だか、その生徒の生首達は先程と変わらず、純粋無垢な顔で笑っていた。
その首からはもう血が無いのか、何も出てこない。
だが、まだ歌の歌詞が残っていた為生徒達の生首は歌いだした。
『三つ数えりゃ、魂抜無しに〜』
血の海とかした教室に転がっていた、生徒達の生首は先程まではいきいきと歌っていたが、最後の歌詞を歌いきると、顔に張り付いた純粋無垢な笑顔が消え、顔に血の気が無くなった。
その後、切り落ちた四肢と生首は黒い煙になって消えた。
ラジオは操作していないのに再び、曲を流した。
『一つ数えりゃ、四肢無しに〜二つ数えりゃ、首無しに〜三つ数えりゃ、魂無しに〜』
造太郎の体が勝手におぞましい曲を歌おうとした。
それに造太郎は必死の抵抗をしたが、無駄だった。
「一つ数えりゃ、四肢無しに〜」
造太郎は、したくもない純粋無垢な顔をしながら、歌ってしまった。
そして、造太郎に襲いかかる気味が悪い、ビリビリっとくる感覚は、頭から伝っていき四肢に及んだ。
次の瞬間、造太の四肢は切り落ちた。
「ぶぅぁぁううええおいあえおいういぇ!!!」
そんな、傍から見れば意味のわからない、叫びを上げて、笑いながら、発狂した。
造太郎は悍ましいことになっている、自分の体と生徒達を見て、もう抗っても無駄なことを悟り、そのどうしょうもない、怒り、悲しみ、無念、を紛らわすために、笑いながら泣き叫んだ。
当然、泣き叫ぼうとも未来は変わらなかった。
「二つ数えりゃ、首無しに〜」
造太郎の首が飛び、胴体からは大量の血が、血の海に注がれ、生首はダイブする事により、生徒達と同じ視線の高さになった。
「三つ数えりゃ、魂抜きに〜。」
生首とかした造太郎が最後にそう歌うと、造太郎の血の気が無くなり、まるで呪いがとかれたのように、張り付いていた純粋無垢な笑顔が取れて、死んだ。
『死んだ〜死んだ〜の繰り返し〜』
勝手にラジオは動き、生徒達と造太郎の血が作った、血の海を吸い始める。
徐々に血を吸っていき、ラジオの風貌が変わっていく、血の海を全て吸い尽くした後、デザートと言わんばかりに造太郎の四肢と生首を『食べて』、ラジオは『次の〜犠牲は〜なんにゃろな〜』という音声を残して、一旦小学校を去った。
――
「はッ、はッ、はッ、はッ!何でッ、こんな所にあんなのがいるんだ!」
男は息切れし、乱れた呼吸を整えつつ、辺りを見渡し『化け物』が追ってきてないか、確認する。
「よし、化け物は来ていないらしいな、取り敢えず、物陰に隠れて、一旦休もう。」
それから、数十分が過ぎ、十分に落ち着きを取り戻した男は今に至るまでの経緯を思い出した。
ある日、近くの小学校で一クラス全員が消息不明になる事件が起こった。
男は新聞記者だったのでその小学校で起こった、消息不明事件について、当時授業をしていた、教師に話を聞いてみたが、「何も覚えていない」という男が望まない答えが帰ってくるだけだった。
そこで、男は数日置いて、真夜中の小学校に潜入して何があったのか、痕跡を探そうと、丑三つ刻の校門を潜る。
そうすると、校門は独りでに閉まったが、男は閉まった時の音が余りにも静かだったので、このことには気づかなかった。
男はどんどん、奥に進んでいく、その途中で「ジッジっ」と謎の音が鳴っていたが、男は消息不明なった理由を探すのに集中していて、気づかない。
そして、遂には消息不明になった教室についた。
辺りを見渡し、なにもないことを確認すると、教室にある証明のボタンをオンにして、教室を明るくした。
明るくすると、床には、薄っすらとした血の跡があった。
「この感じからすると、殺人事件でもあったのか?だが、殺人事件にしては規模が大きすぎる。」
男は床全体をじっくりと見つめて、言う。
「生徒全員が人的に殺人されたのなら、生徒の一人が助けを求めて、もっと事は穏便になっているはずだ、それが消息不明で済まされているという事は、人的殺人ではないものなのかも知れない。」
そう男が考えていると、教室の窓の外に何かが居る気配がした。
「この消息不明事件の犯人か?」
男は気配の感じた方向に向かうと、そこには紫電をビリビリと纏った人間の脳にデンキウナギの顔をつけた化け物が、こちらを向いた。
その化け物が男に向かって飛び出す。
「うあぁぁぁあ!」
男は驚き、腰を抜かしそうになったが、気合で化け物の背を向き、全力疾走した。
全力疾走して数分後、今に至る。
「よ…し、行くぞ。」
男が物陰からゆっくり立ち上がり、辺りを見渡すと、そこには警備員がいた。
男は安堵して、その警備員に近づき会話をしようとしたが、ある事実に気づいてしまった、そもそもこの学校には警備員なんて存在などはしていないことを。
更に、警備員の顔は数日前に自殺したクラスの就任の顔であるということを気づいた。
男が逃げ出そうと、走ろうとした瞬間、警備員の頭から、人間の脳にデンキウナギの頭をつけた化け物が頭を食い破り、出てきた。
その時、何故か、腸などの臓器が脳のなくなった頭からドバドバ出てくる。
それが、全部出し終わったのか出なくなった時に人間の脳にデンキウナギの頭をつけた化け物が男に向かってきた。
その頃には、男はかなり遠くにいたが、前の人間の脳にデンキウナギの頭をつけた化け物と違い、とても早かったので、男の体に触れた。
その瞬間、男は人間の脳にデンキウナギの頭をつけた化け物に吸い込まれて、意識を失った。
――
男の目の前には一つの真っ赤なラジオがあった。
そして、男の視界は花で埋め尽くされていた、だが、それは男の周りに花があるわけではなく、目の中に大量の花が刺さっている。
男は発狂して気を失った。
『たのしーたのしー、人間改造!次の、次の、人を、くっつけて!たのしー、肉塊に!』
次の日、とある小学校で男の肉塊で作られた生け花があったと、全国の新聞に載った。