夕空、祭り、戸
1時間1200字
「いい?タイムリミットは今日の午後6時。時間厳守だから」
「分かってる。祭りは人混みが凄いから、色々好都合だ」
18歳の少年はそう言うと、Xからの電話を切った。すぐに支度をすませる。リビングに降りると父と母、そして小学生の妹が談笑していた。
「おぉ、用意は出来たか?じゃ出発するか」
テレビを見ていた父が言った。
今日は隅田川花火大会。家が近いのもあって、例年通り家族で出かけることになっていた。
「うん、早く行こう。早く、ね」
時計が5時を回ったのを確認すると、少年は皆を急かすように、先に玄関に向かった。
「まったく、あの子ったらそんなにお祭り好きだったかしら?」
少年は早く待ち合わせの場所に行かなければいけないという焦燥感で気が立っていた。
少年が玄関の外で待っていると、少しして三人が出てきた。少年は戸締りをすると、家族の先頭に立って歩き始めた。
家から隅田川までは電車で5駅。最寄り駅までは徒歩で10分ほどの距離だ。
「今日は何食べようかなー」
「こらこら、あんまり食べると太っちゃうぞ?」
「もう、パパったらまた娘にそんなこと言って」
家族の話を右から左に流しながら、少年は次のプランを考えていた。Xと家族を接触させるわけにはいかないからだ。
駅に着くと、少年はトイレに向かった。例のブツがあるのを確認すると、少年は父に、長くなるから先に行ってとメールを送った。そして今度はXにメールを送った。「not a problem」と。
隅田川に着いたのは、6時5分前。少年は周りを見渡す。
「あ、いたいた」
全身を灰色のコートで覆ったXは、少年に気付くとかすかに手を振った。
少年がポケットにしまったブツを取りだそうとしたその時。
「あー、お兄ちゃんいた!!」
妹の叫び声が高らかに響く。慌てた少年は、Xの手を引いて走り出した。
「ねぇ、今のもしかして妹さん?」
「え?そうだけど」
「だったら私にちゃんと紹介してよ、ねぇ」
「ちょ、ひっぱらないで……」
バランスを崩した少年は、Xもろとも盛大に転んだ。周りにいたカップルや子供連れも、なんだと足を止める。
「ちょっとどいてくださーい……って、あー!! お兄ちゃんいた!」
両親を引き連れた妹は、どうだ、と言わんばかりに少年の鼻の頭を指さす。
そして指の先は、少年からその隣へ。
「ねぇ、この人は?」
フードが露わになった少女を指さした。
「いやこれは……」
もう無理だ、と少年が観念したその時。
「私はXeniaよ。Xenia Erizabeth」
ブロンドの髪をたなびかせた少女、エリザベスは少年の家族に恭しく頭を垂れて見せた。
「あなたはもしかして……」
「ええ、私こそがイギリス第四王女。気軽にベスと呼んでくれていいわ」
野次馬のどよめきがあがる。ネットで知り合い、お忍びで日本に来ると言い出したベスの計画は台無しだ。そして、少年の計画も。
少年は苦笑いをしながら、ポケットに入れていた指輪のケースをそっと撫でるのだった。
三題噺はオチを重視すると聞き、三段落ちにしてみました。(なってる?)
花火大会で待ち合わせてる存在Xが実は少年の彼女で(ここまでは普通に推測できる)、実はイギリスのお姫様で(誰も予想つかん。一応not a problemが英語なのは軽い伏線のつもり)、彼女と結婚しようとしていた(絶対に予想つかん、これも少年が18歳であることがミソ)という三段落ちですが、なんかどうしてもラノベっぽくなってしまいますね。柔軟な構成力・発想力の涵養とパターン練習を重ねます。