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第三章 課長に、バレーダンサーだとばれる

人事担当社員が、他の曜日に派遣されていた派遣社員を出社時に呼び出して三月いっぱいまでで断っていた。

他の曜日に派遣されていてパソコンに自信のある派遣社員などから連絡があった。

早い話が苦情だ。

会社からの連絡で、フルタイムの派遣に選ばれなかったと知った派遣社員は、だれがフルタイムの派遣社員に選ばれたのか、出勤日に正社員に確認していた。

水曜日に勤務している派遣社員だと聞き出したようだ。それで水曜日に会社に着信があった。

私に電話を取り次いでもらうために、電話を取った正社員に、まさか苦情だとは言えないので、業務連絡だと告げて私に電話を取り次いでもらったようだ。

内容を簡単に説明すると、自分はマクロなども使いこなせて絶対的にパソコンに自信があるにも関わらず、なぜフルタイムの派遣社員に選ばれなかったのか。なぜ、私が選ばれたのか。賄賂など、何かずるい事をしたのではないかとの疑いだ。

    **********

賄賂だと指摘されて、当たらずとも遠からずだと一瞬焦った。

いろいろと考えて、ごまかそうとした。

「えっ?ああ、そうね。あなたは与えられた仕事の事しか考えてないからよ。私はパソコン以外で、この会社に役立つ事をアピールしたのよ。私が選ばれたのは、それが認められたからよ。一つの事だけではなく、もっと視野を広くしたほうがいいわよ。あなたも女性だったら料理ぐらいするでしょう?もし、その時に指を火傷かけがをすればどうなりますか?パソコン入力しかできなければ、あなたは役立たずになってしまうわよ。だって、お客様のお相手もできなければ、あなた一人を事務所に残せないでしょう?留守番もできない役立たずね。」と忠告した。

「失礼ね。お客様のお相手ぐらいできるわよ。」と不愉快そうでした。

「私が選ばれた理由を賄賂じゃないかと疑っていましたが、そうじゃなく、私が選ばれた理由を聞いて今後の参考にしたいと表現すれば相手はどう思うかしら?少なくとも悪い気はしないでしょう。お客様を怒らせれば大きな商談を失注する可能性があるのよ。あなたが一人の時に、たまたま大事なお客様がくればどうなるかを考えれば、あなたを一人にできなくなり、手のかかる女やな、と思われるだけよ。」と助言した。

納得したのかその女性は引き下がった。

    **********

就職はほぼ決まりなので、卒業まで、みんなが就職活動に汗を流している時に、のんびりと旅行などして学生生活最後の時間を楽しんでいた。

やがて四月に派遣会社に正式入社して週一度の派遣から週休二日でフルタイムの派遣に変わった。

パソコン入力担当補助職員も退院して会社に出社するようになった。

ジュンブライドで六月に結婚する。それまでの二か月間、引継ぎも含めて結婚式の準備で忙しいその社員の助手として仕事した。

引継ぎといっても、パソコン入力が主な業務なので、バックアップやフォルダーなどデーター管理や、他の正社員の紹介程度だ。

帰宅後、一流バレーダンサーである両親から特訓されていたのでバレーダンスの腕は落ちなかった。

会社が休みの週末は劇場でバレーダンスを披露していたので人気も落ちなかった。

    **********

ある日、中西課長から会議室に呼び出された。

派遣社員から正社員にならないかと打診された。

栗垣知子は超一流のバレーダンサーなので、一般企業の誰が依頼しても拒否されるが、私が依頼すればOKされる。そんな私を不安定な派遣社員から安定した正社員にしたいようだ。社長命令のようだ。

正社員になれば生活は安定するがアルバイトができない。劇場でのバレーダンス興行の収益はかなり大きい。その内容には触れずに、ほかにアルバイトをしていると説明して正社員になる事を断った。

根暗な私がどんな仕事をしているのか噂になった。

「本当にアルバイトしているのかしら。根暗な彼女だったら人と接しないレストランの皿洗いなどかしら?」と私のアルバイトについて予想していた。

「最近は自動皿洗い機があるだろう。人件費を考慮すると購入したほうが安上がりだろう。派遣だとほとんど残業がないから、正社員になりたくなくてアルバイトしていると嘘をついて断っただけじゃないのか?」と疑っていた。

「なぜ派遣社員は残業が少ないの?」と不思議そうでした。

「お前は何も知らないんだな。正社員の残業代は給与の一部になるが、派遣社員の残業代は給与とともに派遣会社に支払われる。すなわち、外にでるお金として経上される。経費削減で外に出るお金を抑えるため、派遣社員には残業をさせるなという事だ。」と経費上の問題だと説明した。

「なるほどね。熊川さんはそこまで考えているのかしら?」と感心していた。

「いや、先日話をしたら、そんな事は知らなかったようだ。経理部の社員でないと、そんな事は知らないだろう。本当に何か仕事をしているようだ。栗垣知子さんと親しいようなので、バレーダンス関連の仕事じゃないのか?その仕事を通じて栗垣知子と知り合ったんじゃないのか?」などと噂していた。

    **********

私のアルバイトについてやがて中西課長が気付いた。

会議室に呼び出された。

「私の弟が超一流バレーダンサー、栗垣知子さんの大ファンで、インターネットや雑誌などでいろいろと情報を集めている。ひょんな事からその資料の一部が目についた。栗垣知子の本名は熊川静子だと記述されていた。ひょっとして、君が栗垣知子なのか?だから君に頼めば栗垣知子さんがわが社のパーティーに参加してくれたのか?栗垣知子さんが踊っている時は、熊川静子として仕事ができないから君を栗垣知子につける事を条件にしたのか?」と確認された。

同姓同名だとごまかそうとも思ったが、いろいろと調べられると他の社員に知られる可能性がある。ここは中西課長だけで抑えようとして正体をバラす事にした。

「ばれちゃったわね。マスコミに追いかけられるので、根暗なださい女だとばれないと思って、ださい女を演じていたのよ。ばれると色々と騒がれて大変だから黙っていて頂けませんか?」と頼んだ。

中西課長は、「そうですか。わかりました。その代わりと言っては何だが、今後、色々と協力して頂けませんか?手始めに、忘年会では各部署が色々な出し物で社長や重役たちを楽しませています。今年のわが部署の出し物に、栗垣知子のバレーダンスをお願いしたい。ちなみに社長は白鳥の湖が大好きで、たまに劇場などに見に行っています。」と黙っているための条件を出した。

手始めにという事は、今後も色々と頼まれそうだ。そのうちばれそうだが、ここは中西課長のご機嫌を取るしかないかと諦めて、忘年会で白鳥の湖を踊る事にした。

    **********

翌日、部署内で今年の忘年会の出し物を何にするのか社員たちがもめていた。

中西課長が、「今年は私に任せてくれないか。」と社員たちに伝えた。

「中西課長、何か案があるのですか?他部署では、女子社員に白鳥の湖を踊らせる部署が多いようです。」と中西課長の考えを確認した。

中西課長は、「わが部署では白鳥の湖でも、踊るのは栗垣知子だ。」と教えた。

「そんな超一流バレーダンサーが会社の忘年会の出し物で踊って頂けるのですか?静子さんはそこまで栗垣知子さんに影響力を持っているのですか?」と私に確認した。

「はい、大丈夫です。」と冷静に返答した。

「静子さんは、栗垣さんの弱点でも握っているのですか?」と不思議そうでした。

「別に弱点などは握っていませんよ。私と彼女とはそんな仲ではないわ。どちらかといえば弱点を握っているのは中西課長よ。」と根暗な私がボソッと呟いた。

中西課長は、「君、余計な事を言うな。」と焦った。

「ボソッと呟いたので聞こえなかった。中西課長、否定されたという事は聞こえたのですか?静子さんと何をこそこそしているのですか?二人はそんな仲だったのですか?」と秘密を共有している二人の仲を疑った。

中西課長は都合が悪くなってきたので、「みなさん、いつまでも無駄話せずに仕事しなさい。」と話を終わらせた。

    **********

忘年会の準備で他部署は女子社員が白鳥の湖の特訓をしていた。

他部署の社員たちは、ほかの部署がどんな事をしているのかお互いに気にしていた。

私が所属している部署だけ何を準備しているのか把握できなかった。

他部署の社員で学生時代、野球部に所属していて体ががっしりしている野田修二が、「私たちは白鳥の湖の特訓をしている。あなた方は特に練習はしていないようですね。そんなに自信があるのですか?社長のご機嫌を取るのは白鳥の湖が手っ取り早いですよ。どんな出し物なのか忘年会を楽しみにしているよ。」と偵察に来てイヤミを言って帰った。

やがて、忘年会当日になった。

社員が集まった事を確認した。

まだ来ていない社員もいたが時間になった。

    **********

幹事が忘年会開始を宣言して社長に挨拶依頼した。

社長が忘年会開始の挨拶をして忘年会が開始された。

社員たちは鍋を囲み、アルコールを飲みながら雑談していた。

社員たちがほろ酔い気分になったころを見計らって、幹事が各部署に何か芸を発表するように促した。

今年も、バレーダンスで白鳥の湖を踊る部署が多いようだ。

どの部署も充分練習したので自信たっぷりに踊っていた。

素人の踊りはあくまでも素人の踊りだ。途中で転倒したり、少しましな部署でもよろけたりしていた。

忘年会なのでアルコールが入っていた事もその要因の一つのようだ。

栗垣知子が下手な踊りはできないので、私はアルコールを飲んでいない。


次回投稿予定日は、1月11日を予定しています。

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