水場のレッド・ドラゴン
「それ、この間の調査レポートですか?」
「ああ」
この国で『ドラゴン』と言えば、赤い鱗を持ち、口から炎を吐き出す『レッド・ドラゴン』を指す。
びっしりと身体を覆う鱗は、ミスリルの剣先さえも通さないほど硬く分厚い。
そしてその口から吐き出される炎は、生き物の骨を跡形もなく焼き尽くすほど高温だ。
普段レッド・ドラゴンは、住処である火山付近に腰を落ち着けている。そうとは知らず、うっかり彼らの縄張りに足を踏み入れると、その炎の餌食になってしまう。
――ところで。
実はレッド・ドラゴンは、およそ百年に一度、大量の水を一気に飲むらしい。
その理由については諸説があり、今も学者たちの間で討論されている。
そして、これはある冒険者たちの体験談なのだが、運悪く水を飲んでいる最中のレッド・ドラゴンを見掛けた時、そのレッド・ドラゴンは、傍を通りかかった冒険者たちに全く見向きもしなかったと言う。
その話を聞いた学者の数人が、無謀にも『調査』を行った。
結果、水を飲んでいる時のレッド・ドラゴンは、近くに他の生き物がいても炎を吐かず、そのまま水を飲み続けることが分かった――。
「へぇー。そう言えば、確かレッド・ドラゴンの鱗は良い胃腸薬になるんですよね。水を飲んでいる最中なら、簡単に鱗が手に入るかもしれないって事ですか?」
「確かに、その可能性はある。だが、鱗の採取よりも、他にやるべきことがある」
「何ですか?」
「レッド・ドラゴンが選んだ水場を、使っていた人々が、いるかどうかの調査。及び、その後の対処だ」
「――成程」
レッド・ドラゴンは、大きな池が一つ干上がる程、一度に大量の水を飲む。
つまり、レッド・ドラゴンの水場に選ばれてしまった池や川を生活用水として利用していた人々は、その後 水不足に悩まされることになるのだ。
「何と言うか、結局人間はどこまでもレッド・ドラゴンとは相容れないって事ですかねぇ」
「……そうかもしれないな」
《終わり》
もはや『災厄』
「それにしても、あんたも相当命知らずですよねぇ? 冒険者たちの話以外根拠のない仮説を確かめる為に、自分からレッド・ドラゴンに近付くなんて」
「――知る為には、必要な事だ」
「ははっ! ホント最高にイカれてる!」