7話目-⑬
まるで緩いマスコットキャラのような子の着ぐるみを着た人物は現状にため息を付いた
「姉御はどっか行っちまうし、この場所人はいないけど初見殺しのトラップ多すぎるし、誰だよ、元魔女の工房なんかに置きやがったのは」
一歩踏み出した瞬間、壁から毒の煙が噴き出した。
一呼気で絶命に至る死のガスだ。しかし、ひょこりと子の着ぐるみの男はガスの中から這い出てきた
「俺じゃなかったら5回は死んでるっての、ほんと」
それ以降も同様である。即死級の無数の罠を平気で喰らいながらも着ぐるみの男はなぜか絶命せずに乗り切っていく。そして遂に目標物まで辿り着く
「これが大父の言っていたスフィアか。金になりそうで勿体ねえけど破壊破壊っと」
目の前で眩く輝く超高純度の魔力結晶体を破壊すると形を保てずスフィアはキラキラと光の粒子へとなっていく
「俺のノルマはあと6か。なんか俺だけ多くね?
んー次は、ガリア連邦ルネデド公爵家が管理している、か〜。難易度上がってそうでだりぃっての」
子の着ぐるみの男は気怠そうに大きく肩を落としながらその場を後にした
ーーー
魔導師たちの難しいお話が終わった後に、姫は黒水歪さんという1番偉い人に呼び出されて何やらお話をしていた。我の件で説教かと思ったらどうやら違った。
どうにもスフィア?っていう各地に保管されている超貴重な文化財を要所要所で回収して、誰も知らない隠れたパワースポットに再配置して厳重管理するするみたいだ。簡単そうなお使いなので手早く終わらせたい所だ
「《マトローナたちのまとめ役をアヤメに任せて引き続き建築作業させてるけど大丈夫かな。あいつら喧嘩とかしてないかな?アーカーシャさんは少し心配だぜ》」
「こうして貴方と組むのは初めてね。灰土」
「anr@atpwm!!」
「ふふ そうね」
「《姫今の言葉をどうやって理解したの?》」
「お待たせしました。こちらが本邸でございます」
手入れの行き届いた巨大な箱庭を抜けて馬車が止まった先には、これまた大きなお屋敷が待っていた。
公爵家、いわゆる貴族階級5爵位で堂々の第1位、だったはず……。世襲制なので恐らく生まれた時点で勝ち組なのは間違いないであろう。
魂の故郷日本では華族といった方が適切だろうか?まあ特権的身分階級である点は変わらないが、現在の日本憲法で廃止されたので馴染み深くはない。マナー違反にならないようにワイン片手に持っておかないと
「奥様。お客様でございます」
声に反応して独りでに扉が開く。
迷子になりそうな屋敷の中をぐるぐると案内されて、漸くその屋敷の主人と対面することになる
「オッホッホッホ!遠路はるばるよくぞ参ったな。妾のことは当然知っておろう。ガリア連邦建国の立役者と名高いルネデド公爵家。その栄えある一員フランソワール・ルネデドとはそう。妾のことよ」
「お初にお見えになります。ルネデド夫人。教会の方から通知が参っていたと思いますが……私は白雪姫。彼は灰土刃」
貴族の婦人方ってなんでそんなもみあげドリルみたいになってるん?そんなこてこてのステレオタイプを流行らせたのはどこの誰なの?なんなの?それがお洒落なの?何が貴族をそこまで駆り立てるの?駆り立ててるっていうか、サイドはオシャレに刈り上げてる。現代と中世のコントラストであった
「其方、随分と美しいのう」
「……ありがとうございます。夫人には及ばないながら私も美貌には多少の自信がありますので」
「白雪、といったか?確かに妾は美しい。そして美しい妾はすべからく美しいもの高貴なるものを愛しておる。故に美しくないもの愚図なぞは視界にさえ入れとうない。これまで来た魔導師はどいつもこいつも不合格だが、そなたは合格だ。故に歓迎しようぞ。灰土殿は……」
「彼はエルフと並ぶ美貌を持つと云われる吸血鬼です。特性上、夜にしか顔を出せませんが、きっと夫人のお眼鏡に叶うかと」
「なんと、あの吸血鬼か!赦す赦す。これは今から夜が楽しみだのう」
「ndgpt/&_kmt...」
この女とんでもない面食いである。面が悪いという理由でこれまで来た魔導師たちを門前払いにしていたのか。ま、まあ我は龍なので当然かっこいいに決まっているのだが?人の価値はあれよね、やっぱり中身よね(震え声)
「して偶に容姿の価値など些細な事と曰う阿呆がおるが、例えばこのグラス一つ取っても美しく装飾されたこのグラスと汚物に塗れ見てくれすらまともでないグラス。用途は同じでも果たして同じ価値だろうか?人にも同じことがいえぬか?この考えをどう思う 白雪」
「……あそこに並べられた本、どれも煌びやかですね。ですが装飾だけが立派で中身が冊子並に薄く縦にすら置けない本は余りに品が無いとは思いませんか?
上質な皮を使い、煌びやかな装飾を施して目を引いても中身が伴わないのなら滑稽かと私は考えますが」
「ふはは 本の良し悪しにページ数が関係するとは知らなかった。ならばこの世で最も優れた書物は辞書であるな。そしてそれに倣うなら最も優れた者は知識を溜め込む学者か魔導師である、か?」
「滅相もない。言葉の綾ですよ ルネデド夫人」
アリスとレタス間違えた。アリストテレスの師であるプラトンさんも確か優れたエリートが大衆を支配した方が良いみたいな事言ってたな。フランソワールさんもそんな感じかな?
まあ我のようなパンピーは、別に生きるにおいて常に最良の答えで満点を取り続けなくても良いと思うタイプなので、エリート様に支配されたりするのは余りに不自由そうで楽しくはなさそうだからゴメン被りたいが
「フランソワで良い。妾とお前の中ではないか。白雪よ」
「……ではフランソワ。そちらで管理しているリアクターは何処にあるのかしら?」
「ああ、あれか。あれなら屋敷の地下にある。賊が来れるとは思えぬがな」
「案内しよう」
リアクターの保管場所は屋敷の地下深くに有るらしく、底に降りていく事となる。
陽の光が一切届かない地下は余りにも暗く、底冷えして空気も冷たい。
ふと奥から声が聞こえた。いや、鼻唄だ。音程もクソも無い。だがなんだかとても楽しげなメロディだった
「〜〜〜♪」
光り輝く結晶体。それを見つめながら、1人の少年が此方に背中を向けていた
「シャーロット!」
呼ばれても気付かない。名前を強く呼びつけながら、フランソワールは少年をズカズカと優雅さのカケラもない歩き方で背中から思い切り蹴り飛ばした。シャーロットと呼ばれたその子はまだ幼く、身体が前のめりに飛ぶ。ヨロヨロと背中を抑えながら、そこで漸く気付いたようだ。
暗がりに隠れて判りづらいが身体のあちこちに青あざが多く目立った。不自然なほどに。まるで常日頃から誰かに殴られているみたいに……ピクリと無意識に指に力が入ってしまう
「呼ばれたら一回で聞きなさい。この愚図。さっさと客人に挨拶なさい」
頭を叩かれる。乱暴に。壊れたテレビでも直すみたいに
「あ、あ、あ。あ い さ つ
しゃー ろっと です」
声が割れていた。なんだ?上手く聞き取れない。どういうことだ。
「もしかしてその子……」
雪姫も何か違和感に気付いたようだ。
「もういい」
「よ ろしく おねが」
「あああっ!!もういいって!言ってるのが聞こえないの、お前は!」
激昂したフランソワールが蹴り飛ばそうと大きく足を上げた。我は即座にその間に入って、蹴りを受け止める。今のは魔力が込められていた。子供の折檻にしてはやり過ぎだ。当たりどころが悪ければ死んでいた。
……多分この子は耳が悪い。聞こえてはいるみたいなので感音性難聴というやつだろうか?音が歪んで聞こえるってやつ。しかし発声に関しては妙な引っ掛かりを感じる。
それに耳が聞こえなくても、その分、相手の口が読めるみたいだ。しかし当然ながら顔を見ていなければ正しい反応が出来ないわけで、挨拶の際に此方を見ていた。だからフランソワールの方に反応出来なかったのだろう
「なん、なのよ、この魔物は!」
「《躾にしてはやりすぎだろうが。知らねえのか?今時体罰は流行しねえぞ。児相に通報されたいのか こら》」
「なによ、その目は。気に、入らない。」
この異世界でもそりゃいるよな。それに対する異世界のモラルがどの程度のものかなんて期待はしない。
差別とかも正直よく分からん。他人の主義主張、価値観はそれぞれだ。拒絶するなとは言わんし積極的に関わるべきだとも思っちゃいない。だが口に出しちゃいけない、やっちゃいけない分別くらいは付けるべきだろうが、子供に対して親なら尚更だ
「魔物風情が」
フランソワールが手に魔力を集める。戦う気か?こっちは別に構わない。そのひん曲がった性根は叩いて直すしかないと思っていたからだ
「偉大なる龍王様もフランソワもやめなさい!」
「……ふん。分かっておる。だがこいつらは席を外させよ。構わぬな?」
「偉大なる龍王様。その子と一緒に外に行きなさい。灰土も2人についてもらっていいですか?リアクターの確認は私1人で大丈夫です。それに移送の準備は明日やるつもりでしたしね」
「#awtd」
「そいつを屋敷の外には出すなよ…万が一誰かの目には触れさせてはルネデド家の恥だからな」
「《チッ……》」
シャーロット・ルネデド君は虚な目が特徴的で少しだけ音に弱いみたいだ。言ってなかったが、我も弱い。特に黒板を引っ掻く音がダメダメだ。
残念ながら創作の書に難聴を克服する道具は見当たら無かった。役に立たない本だ。エロ以外に使い道が無いとはなんたる下劣さ。いっそ焚書した方が世のためではないだろうか……後悔しそうだからやめておこう。それは
「amtjeagt!」
灰土さんがどこからか瓶を取り出す。中に緑色の奇妙な液体が入っている。それをシャーロット君に半ば無理やり手渡して飲ませていた
「……」
ペコペコと申し訳なさそうに口にしていく。すると不思議なことに青アザなどがみるみる消えていくではないか。回復薬ってやつか。初めて見たが便利なものだ。主人公として、こういう便利道具って量産しとかないといけんよなぁ
「《にしても言語でのコミュニケーションって欠陥だらけだったんだな。手話……も世界共通じゃねえしどうしたもんか。……ん?そういえば大陸を隔たり種族が違っても言語が通じてるのはなんでだ?》」
世界共通言語?違うな、そういえばバルドラの人の口の動かし方と姫の口の動かし方は明らかに異なっていた。つまり、何らかの魔法的要素が働いている?言葉という伝達手段をどうにかしているという事しか分からない。
ああ、もどかしい。糖分が足りてない。
おバカだな、こやつは……。全く。
ん?なんだか思考に雑念が入った。あれ?なんだか急に閃きがきたぞ。
言葉の力を魔力により増大させているから、みんなに言葉が伝わるのか。世代を経てそれが最早呼吸するのと変わらない日常レベルにまで浸透している。
なるほどなるほど……そういえば、以前姫がこの紋章を介して疎通を図っていたな。
今の我ならこの紋章を解析出来る気がする。解析開始────。なるほど、これをこうして、思念伝達方法として確立すれば────うん?簡単に成功したみたいだわ。あれれ、我ってもしかして天才なのでは?
どう考えても私様のおかげだろうが……。このおバカは
あれ?また悪態を吐かれた気がする。なんだ、我のもう1人の人格が語りかけているとでもいうのか……やめろ、もう1人の我!千年パズルを完成させた覚えはないぞ!引っ込んでろ!
【CQCQ 聞こえてますか?こちらアーカーシャどうぞ】
「!」
シャーロット君が辺りをキョロキョロと見渡す。
問題なく成功したようだ。間違いない。神様、我は気付いてしまった。天才だわ
【BBQ BBQ 焼いて炙って燻って。どうぞ】
【……???し、思念伝達って魔法術式としては省略に失敗して高度な魔導具を介さないと難しいって聞いてたけど、どうやって】
【天才である我からしたらこの程度、お茶の子さいさい。天才才だ。所で君はお喋りは嫌いかね?】
【……ううん。好き、かも。本当は誰かとずっとお喋りしたかった。でも僕の声変でしょ?母さまいつも顔をしかめるから分かるんだ。でも、これなら…。
シャーロット!僕はシャーロット・ルネデドって
言うんだ。へへ、初めて上手く挨拶出来た!】
【よろしく シャーロット君。これで君と我は友達だな。折角だ、優雅に3人で空中散歩と洒落込もうぜ】
【ええっ!?い、良いのかな。屋敷の外に出ても】
【誰かに君を見られなければ良いんだよね?
ほら、ここに透明になる薬があるじゃろ?】
新年明けたので更新頑張って早くします




