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7話目-❻

ヒッタイト草原オーク軍根拠地に天幕を構え、中には2人の人物がいた。片方はバルディア五大部族の一。猪頭族(オーク)が首魁15代目ウルク・シンドゥラ。

もう片方は巳の仮面を付け、唇の下の黒子が目を引き、魔性を体現した美貌で凡ゆる種族にとって蠱惑的に映る女性でマヤと名乗り、シンドゥラの大きな肩に情婦の様に妖しくその身を寄りかかっていた



「作戦は万事滞り無く上手くいきましたね、シンドゥラ様」



マヤの媚びるような言葉に隻眼のシンドゥラは些か以上に隠すこともなく不愉快そうに眉を顰め立ち上がる



「ふん。肝心の目標(マトローナ)はおらず、村を焼き、戦えもしない非戦闘員を大量に捕虜にしたことが上手くいっただと?」



「何を仰いますか。この一手で必ず奴らは動きます。そうなればこの何年にも渡り続いてきた諍いが漸く決着するのですよ」



「だとしてもこの様な悪辣な手をオレは好かん。今後はこの様な事はせぬぞ」



オークの文化は戦いによる凡ゆる掠奪を是とする。人、尊厳、物、命、土地、文化。奪える物は全て奪う。知性はあるが話し合いの余地などない、生まれついて暴力的で邪悪な種族……という考えが種族や大陸を問わず根深く浸透している。

それらを体現したらオークも事実いた。歴史に刻まれた例を挙げるならば"冥王の落とし子"がそれに当たるだろう。


それに対してこのシンドゥラというオークは無骨な武人気質であった。正々堂々誉れ高く真っ向から小細工無しで相手を叩き潰す事を信条としていた。それで負けるならば本望とし、当然部族全体にもそれを厳しく課した。ラガシュ森林を焼き払うという火攻めの手段は決して許さなかったし、戦士以外の虐殺に至っては、故意か無意かを問わず極刑であったほどだ。



故に今回の様な作戦行動は異例であり、だからこそ、その気質を知っているマトローナ延いては昆蟲族と宝人族の誰も予想だにしなかった一手と言える



「王道だけでは成せないこともあります。王道と蛇道必要ならば何方も征くのが何れ王たるシンドゥラ様の務めでありますれば」



「……王か。このオレが……。

マトローナは一族に固執している。故に見捨てる事は絶対に有り得ない。救出か交渉だろう……」




「前者の場合、どの程度の戦力で来るのかが問題ですね。捕まえた捕虜はかなりの数がいるので、助けるにも纏まった戦力が必要。

ですがラガシュ戦線に展開されている蟲と宝石の戦士たちは対峙している2万のオーク達により身動きが取れない。

念のため周辺に配置した5千の緊急即応部隊を計四つに分けて合わせて4万程展開させていますが」




シンドゥラは広げられた地図に展開する軍議用の駒を見ながら、自軍の過剰な戦力状況を確認して、退屈そうにボヤいた。守るだけならいざ知らず、地上にいる4万の戦力を突破して、更に捕虜を収容する本陣1万に迫れる者などいるわけがないからだ



「……これでは、蟲の入り込む隙間すらないな」



ドゴンッ!地面が一度大きく脈動して身体が浮く。地震?隕石でも落ちてきたのか、否。シンドゥラも一瞬だけそう思ったが、そうではない。それ以上の何かが起きだのだと直感的に理解した。ガタリと席を立ち、急いで天幕の外へ出て恐るべき答えを目の当たりにした



「GIAAAAA!!!」



龍がいた。幾つもの時代を経て世界が変わり、尚、変わらず最強として君臨する魔物が。シンドゥラの瞳に映った。

龍がどうしてこんな所に現れた?考えを巡らすシンドゥラをよそに赤龍の背には他にも三体の上級アンデッドが目につく。そしてマトローナの腹心たちである3人のガイアセクターと宝人族最強の戦士ボナードが目に止まる。答えは十分だった。

たったの8人の魔物が1万の猪頭族がひしめく軍団の真っ只中に現れたのだ。



「何をしている!敵だぞ!」



シンドゥラの号令に僅かに浮き足立った兵たちだが敵襲の銅鑼をけたたましく鳴り響かせ、訓練通りに取り囲んで飛びかかろうとする



「道を開けさせろ。我らが王 アーカーシャ様の道を阻む者を土に還せ!」



9人目がいた。1匹の黒き妖精だ。そいつはその身と同じ程度の大きさのハンドベルを鳴らした。死の呼び鈴により呼び出されるのは、百や千どころではない大量の亡者たちがオークの足元から現れた。拠点が大混乱に陥ったのはいうまでもない



「蟲共がとんでもない者を連れてきましたね」



「こんなことがあり得るのか……」



「かつて。このバルディア大山脈を創ったのは赤い応龍ニーズヘッグだったと云われています。彼の龍はその末裔なのかもしれません」



「赤きオウリュウ……王の帰還か」



シンドゥラはその言葉を噛み締めながら、混迷に包まれた戦場の様子を只々立ち尽くして見ていた。





バルディアの猪頭族の宿敵である昆蟲族。

冒険者間では何方もBランクと認定されてるが、同じランクであろうと普通のセクターは並のオークより明確に強い。その中でも更に上位の強戦士ガイアセクターなら尚更だ。単体で止められるオークなぞいるわけがない。



バギラはガイアセクターの中で随一の巨体を誇り高強度の甲皮を有している。オークたちの無数の攻撃を歯牙にも掛けず簡単に弾いてしまう様は頑強の一言に尽きる最硬の戦士だ。



パンゲラ。ガイアセクターの中で唯一の雌の戦士であり、形態の変化に最も富んでいる。手を鋭い鎌に変える。翅を生やし空を飛ぶなど、最も応用力のある戦士だ。



ババン。ガイアセクターで最も若く最も才ある者として知られる。過去の魔法と違い今の魔法は、知識と技術によって行使されるものだ。しかし旧神魔法『潜水』。凡ゆる場所に潜る才能をもって、彼はそれを冷酷無比に使い、相手をジワジワと削り殺していくのを得意とする最も残酷な戦士だ。



三者三様。されど各々がオーク100人の戦力に相当するだろう。

しかし、オークの方も今まで数の有利はあれど、数頼みのみで戦ってきたわけではない。アンデッド共の相手をしながら、徐々に浮き足立っていた部隊は冷静さを取り戻し対処し始める



「……!」



「敵腕良」



「アア。全ク強イナ。ダガ……」



百人力とは言ってしまえば300人の戦力だ。万の軍に取っては小石同然。だが一息に押し潰せないのにはそうならないだけの理由があった

視線の先には、その3人を軽くあしらえるだけの心強い三体のアンデッドが大立ち回りをしていたからだ



「遠からん者は音に聞け、近くば寄って目にも見よ。吾輩はラーズ・カルマン この地を統べる龍王アーカーシャ様の右腕……うん?どうした、パロデミス?……なに?

即日右腕宣言はやばい?それもそうか。

未来の右腕候補……!どうした、ガレス?

謙虚さが大事?それもそうだな。

えー、右腕の前腕、いや右手首……右小指……第一……第三関節辺りの」



「全員でこの馬鹿の息の根を止めてやれ!!」

  


「誰が馬鹿だ!こいつらは兎も角、吾輩はすごく、すっごく賢いんだ。」



オークたちが殺到する。そして文字通りアンデッドたちにより千切っては投げ千切っては投げられ



「ちょっと、パロデミスさん!?吾輩も投げられてるんですけど。

見てないで止めろガレス。なに?自分もやりたいだと。バカっ!張り合うな!お前にやられると死ぬから。

なに?もう死んでるから大丈夫……おいおい笑えんぞ」



「な、何者なのだ、こいつらは」



ふざけている。およそ命を賭けるべき戦場であるべき姿ではない。もはや死生観が狂っているとしか思えない。

そもそも命が無いアンデッドにとって命を奪い合う戦場は遊戯と認識しているのかもしれない。どちらにせよ彼らを阻める者はいなかった



その埒外の暴れっぷりにシンドゥラへの道が開かれると同時にアーカーシャは雄叫びを挙げてゆったりと歩を進め始める



「Gao?」



「くっ!」



歴戦の猛者であるシンドゥラもその迫力に思わずたじろいだ。戦わなくても分かる。コイツは圧倒的な強者だ。被害が大きくなる前に負けを認めるべき、その言葉を口にしようとした瞬間だ



ゴゴゴ。地面が音を立てて割れた。そして幾つかの場所からワームの大群が現れ大量のアンデッドを蹴散らしていく。

アーカーシャの眼下からも一際大きなワームが現れた。アースイーターの中でも特に強い次世代のキングワームと目されるワーム。その名はエウロバ



「ワームの援軍ですか。これで戦局は互角、と言いたい所ですが、あの赤い龍を倒さなければ勝ちとは言えませんよ、シンドゥラ様」



「何ガ起キテイル。ウルク!

アノ怪物ハ何ダ!!」



その疑問に答える暇など無かった。理由はわからないがアーカーシャがワームを視界に収めた瞬間に火山が噴火したのかと思える程の怒気を爆発させたのだ



「GYAOOOONNN!!!」



「なんだかあの龍、あなたたちをみて怒ってません?」



「知ランゾ!アンナ奴ニ喧嘩ナド売ルワケガナイダロウ!!」

作者の技量不足でボナードの描写をどう入れたら良いのか考えつきませんでした。各自で脳内補完して下さると助かります

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