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7話目-②

「雪先輩。準備出来ました?」



「ええ それにしても向こう(ビブリ・テーカー)に顔を出すのは久しぶりね。」



「自分も上級魔導師に昇ってからは魔物の生態調査で出ずっぱりでしたし、先輩も工房に基本籠ってましたからね」



「あ。それ取ってもらって良いかしら」



グーテンモルゲン。今日はいつもよりほんの少し忙しない朝を現場よりお届けしたいと思います。所で日本は1日3食が基本で朝はパン派と米派に別れる事が多いわけですが、少なくとも姫たちはそのどちらでもないようですね。はい。結構な頻度で我が白雪姫ファミリーの朝は果物から始まります。



今日の朝はハルムラサキという葡萄に良く似た果実が出された。ガリア連邦っていう大きな国の特産品らしく強い甘味と果肉の歯応えが巷で評判らしい。後玉ちゃん曰く高い保湿効果があるので美容に良いとのことだった。空腹を感じた事はないので、食べようと思った事はなかったがある時から姫にきちんと食べた方がいいと言われたので食べるようにしている次第だ



「《美味い 美味い 美味い》」



「あ、アーカーシャ様 基本なんでも美味しいって言ってますよね」



「《我の家は好き嫌いとお残しは許しまへんでーが基本だったからな》」



《アーカーシャ様の家族ですか。さぞ偉大な方々なのでしょうね》



「《どこにでもいるありふれた家族だよ。

まあ、おばあちゃんが霊能力者でお母さんが超能力者で妹が契約者って点を除けばなんだが》」



《理解不能》



「《うちの女系はみんなアマゾネスばりに強いんよ》」



食べるとき身体はもちろん小さくしている。普段の大きい状態で食べたらエンゲル係数がとんでもないことになるのは明白だからだ



「アカシャ様とアヤメちゃんの分のご飯は自分が作り置きしておいたんで、お腹空いたらこれ食べてください」



「何かあったら紋章から念話を飛ばして下さい。では行ってきます」



「《いてら〜》」



「お、お気をつけて!」



そういうわけで姫と花ちゃんは早々に魔導学院二次試験の為に家を出た。本音を言えば我も連れて行って欲しかった。残されたのは我とアヤメだけだ。寂しい



っていうか何気に初の留守番だった。他にすることもないのでアヤメと共にのんびりと掃除をしながら会話を楽しむことにした



「《なあなあ アヤメ。この特級魔法具の死の宝玉ってのはなんなんだ? 姫は趣味じゃないから使わないって我にくれたけど》」



「えっと あれです。魔法具はまだ神と世界に繋がりのあった時代に奇跡を物質化した道具っていわれてます。特級っていうのはその中でも特に強大な奇跡を内包していて、この"死の宝玉"は無尽蔵に死に所縁のある種族そのものを産み出す力を持っています。"呼び鈴"の方は、墳墓の魔迷宮の魔物たちを従えて呼び出します」



「どちらも国や街が簡単に滅びちゃう位には危険なので扱いには気をつけてくださいね」



へえ……我には一生使い道が思いつかない力だな。どこぞの吸血鬼よろしく死の河でも巻き起こしたら洒落にならんし保管しておくか。我は口を大きく開けて、髑髏の水晶を丸呑みした



「あ、アーカーシャ様って物を身体に溜め込む癖がありますよね」



「《好きでやってるわけじゃないけどな。他に入れる場所も無いし》」



「……ま、魔法の一つに空間に干渉して物を収納するやつがあったはずだよ。そ、そっちの方が安全だったりしないかな。いえ!アーカーシャ様のやり方に不満があるわけじゃ無いんですけど!ほら危ないから!色々と!」



「《空間に干渉して物を入れる、ね。そういえば司教のキケ?って人が空間からお金を取り出してたな。あんな感じか……》」



一度見ているから何となくイメージは付くが、こうか?何も無い虚空の空間をドアノブでも廻すようにイメージして捻る。途端にバリバリバリと空間が歪み亀裂が走る。やばいと感じて咄嗟に手を離した



「《oh.my god》」



捻られた空間がまるで延びたゴムが元の形に戻るように勢い良く反発するように、発生したエネルギーがそのまま目の前の岩壁ごと目測数百メートル先まで綺麗に風穴を開けていた



「こ、これ 外の結界も半壊してるかも」



「《……ん?》」



近くの森がざわめき立っている。我が驚かせてしまったからだろう



「ゆ、雪姫様が前に言ってましたけど、この場所って龍脈の力が強く感じられる分、魔物たちが好んで多く生息する魔境の一つに数えられてるみたいです」



「《龍脈?》」



「せ、世界にも核があって、その核が生じる力は人間の比じゃありません。龍脈はその力が流れる通り道です。強い龍脈は、そこに棲む生態系にも大きく影響を与えます。だから魔境は管理局が定めた複数のB級以上の魔物が生息している地域を指した場所、だったはずです」



「《おいおい我たちそんな危ないとこに住んでたの!?文明社会とは無縁の気楽な僻地でサバイバル生活かと思ったら、知らないうちに猛獣が跋扈するサバンナでまさかのバトルロワイヤル生活強いられてるって知って悪質過ぎて足が震える。これが怒りか?》」



サバイブという意味では同じでも両者の置かれた状況で生き残るの意味合いが大分異なる気がする。っていうか姫が酷い。こんな場所に我とアヤメをお留守番させるなんて、一歩間違えたら魔物に対する供物やん。



「何を言ってるか分かりませんけど、この辺りは姫の強力な結界魔法が張られてましたので……」



「《大丈夫なかんじ?》」



「半壊したからちょっと危ないかもしれません。せ、セーフよりのアウトみたいな」



「《きょきょきょ、共犯だよね?だってアヤメちゃんが言ったからやったんであって、過失の割合的には5:5いや、6:4だと我は思ってるよ》」



「……ヒグッ。そ、そうですよね。私なんかが余計な事言ったから、ごめんなさい。私が全部悪いんです。調子に乗って」



我の言葉にアヤメがしょんぼりとして涙をこぼす。男は女の子の涙に弱いのだ



「《違うよ!?ごめんね!魔物がいるって聞いて少し驚いただけよ。責めるつもりなんてないから。勿論過失の6は我の方よ!?》」



「グスッ……」



「《全部我が悪いわ》」



慰めている我らを他所にして、パリーーン!とガラスが割れる音みたいに大きく何かが砕ける音がした。

理解が出来ずにただ茫然と首を捻っていると数秒毎に、更に先程の割れる音が響いた。しかも徐々にその音源が大きくなってきている



「《なんか音近づいて来てない?》」



そして最後の最後に我が開通させた岩壁の丁度反対側を大きく打ち壊して何者かが入ってくる



「此処ニ強キ者イル……」



「《ふざけんなーーー!壁を治せ!傷一つない綺麗な新品同様にな!ついでにあっち側も!!》」



侵入者。つまり敵だが殺すわけにはいかない。なぜならこいつには然るべき補償をしてもらう必要があるからだ。先ずは相手の戦意を折るつもりですかさずデコピンをお見舞いした。

そうだ。こいつが悪い。アヤメが泣いているのも単にこの二本足の人型甲殻類が全て悪いのだ。我は全ての罪をこいつになすり付けることにした。さぁ、お前の罪を数えろ!



「グゥ……!ダガ」



「《だがもメダカもあるかてめぇ!ふざけんじゃねえぞ!絶対責任取らせるからな。姫が戻ってくるまでに綺麗に直せよ!あんちくしょうめ》」



高速で何度もデコピンを繰り出す。速度も力も我が大分優っているようなので、これで十分だった。っていうか殴ったら多分殺してしまう感じがする。既に相手の足元は大分ふらつきが見える



「バ、馬鹿ナ。コノ"ガイアセクター"バギラノ目ヲ持ッテシテモ見エヌ!躱セヌダト!」



「《日本放送協会の人たち並の立ち入り方したんだ。此方も毅然とした断固とした手段を取らせて貰ってるがそろそろギブか?》」



「そこまで」



鈴を転がすような美しい女性の声が外から聞こえる。聞いてるだけで苛立ちや焦りが嘘みたいに消えていく。なんという美声。アルファー波の力恐るべし。

壁の向こうから1匹の巨大蜘蛛とバギラって奴と似た人型が2人入ってきた。蜘蛛のくせにどこか優雅な気品を感じさせる。このオーラ。こいつが恐らく声の主だと直感的に理解した



「バルティア大山脈を真に統べるべき貴方様の目覚めにいてもたっても居られずに、駆けつけたしだいであります。」



「こうして拝謁出来て光栄の至りです。私たちはこのバルディア大山脈に住まうセクター族。申し遅れました。私はグランセクターのマトローナ。この者たちの名はバギラ。パンゲラ。ババン。私の配下の者たちです」




礼儀正しく会釈をする。はっはーん。さてはこいつ我と誰かを勘違いしているな?

それにどっちかというと山を買い取ってるのは姫の方なので、主っていうか家主は姫なのではないだろうか?

我は……飼い犬ならぬ飼い龍だ



マトローナは複眼で周囲の状況を見渡し、最後に自身の部下であるバギラを冷血に見下ろす。まるで感情の篭ってない虫のように



「主様の住処を壊すとはバギラの阿呆が。全くもって度し難い。パンゲラ此奴の首を刎ねよ」



「了〜」




応じたグリアは腕をカマキリみたいに変態させてバギラの首目掛けて躊躇わず振るう



「不〜」



「《部屋を勝手に汚すな》」



鎌を受け止める。認識による予測で数秒先が視えたが、本当にバギラを殺していた。家主の許可と殺人許可証貰って出直してこい



「なぜ止め、ハッ!場所を移して殺せということですね」



そうじゃない。言葉が通じないのでどう伝えようか非言語コミュニケーションの方法に頭を悩ませていると、我の背中に隠れていたアヤメが勇気を振り絞って口を出した



「い、偉大なる御方の名はアーカーシャ。彼の方はその者を慈悲深く赦すと仰ってます。無益な殺しは望まないと」



「ははっ!」



マトローナ一同は全員がそう言って、すかさず我の前で平伏した。



「《なんでここに来たのか聞いて》」



「か、顔を上げよ。セクター族のマトローナは何故此処に来たのか、簡潔に述べよ」



僅かにおずおずとした態度が見えるが、少しでも毅然と相手に見せようとしているアヤメの涙ぐましさに少し感慨深さを感じてしまった



「バルディア大山脈の真なる主アーカーシャ様。どうか我らを偉大なる貴方様の麾下にお加え下さい」



端的に述べたマトローナの弁に数秒だけ熟考して、アヤメにアイコンタクトを送る



「何が狙いだと聞いています」



「強いて言うなら、我らの願いはただ一つ。バルディア大山脈のこの不毛な勢力争いを終わらせたい。

疲れたのです。私たちは」



なんだか面倒そうなのに巻き込まれそうだ

何話かは戦力増強回、予定となります

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