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幕間 最良の従魔士とスライム その2

聖皇暦900年代後期のアナシスタイル大陸は激動の時代であった。先ず大帝シャルルが建国して以来、実に大陸の3/5を勢力下に治め大陸の覇者と呼ばれたヴォルティクス帝国であったが5代目帝モンフォールの突然の崩御によりその統治に揺らぎが生じた事が起因となった



順当に行くならば、6代目帝位継承は継承権1位で兵と民からの信頼も厚い実子のシルベスタだろうと誰もがそう信じていた。

しかし時期が悪かった。シルベスタは当時征軍大総督という身であり、大陸平定の為に帝都から遠く離れた戦地に身を置いていたのだ。

そして帝都ナンドリーモージュにてシルベスタ皇子が大陸全征伐終了までの間、帝位をモンフォール帝の弟カスティヨンが暫定的に即位するという、事実上の帝位簒奪が起きてしまった



そこからは転がり落ちる様に、6代目帝カスティヨン率いる王都圏域の軍と反発したシルベスタ大総督率いる征伐軍による国を2つに割っての帝位争奪戦争が起き、そのドサクサに紛れて属国であったネーテルガル王国は独立宣言を行うついでと言わんばかりに東方にて領土拡大を徐々に行っていき、1000年代中期において王国は今では衰退したヴォルテイクス帝国を上回る勢力を誇っていた



「用はお隣の帝国が内部分裂で弱体化したから、そうならない様に王国は外部戦力使ってるってだけの話だね」



「……そもそも"プロセルピナ"(※四大大会の1つ)との対抗試合が近いのに引き受けたのは何故ですか。本当にマスタープラネはもう……」



「対抗戦は私の代わりにスケアクロウが出る。曲がりなりにもあいつもグランドテイマーでこっちの2番手だしね。良い勝負するんじゃない?」



プラネ邸唯一のお世話係を務めるカイネは投げやりなその答えを聞いて、酷く残念そうに項垂れた。

プラネ・リュッネッダーが従魔士として契約した従魔は僅かに4体だ。地方大会を全て制覇した"ミス・パーフェクト"から始まり、最終的に四大大会が一つメルクリウスを制した"堕ちぬ巨星"までの4体が挙げた総合勝ち星は優に300を超えているから侮れない。

特にプラネと巨星のタッグは圧巻の一言であった。6年もの無敗は既に伝説となった。しかしそれが何を意味するか。勝って勝って勝ち続けるのが当たり前になってくると最早そこに何の情動も生まれなくなっていた。無機質な経験の積み重ねは、端的に言うならば退屈であった



決定的になったのは前回の四大大会統一リーグ戦だ。選ばれた16名の従魔士ランキング上位者による世界一を決める世界大会。自身と同格と目されていた其々の大会の頂点と相見えるのだから。

だが蓋を開けば、プラネと巨星のタッグが参加者を無惨に轢き殺して、1位とそれ以外という結果に終わってしまった。優勝した時のプラネのあの愕然とした表情をカイネは未だに忘れられない



「それでも私は……!」



「なにをカッカしておる カイネ嬢は。で、マスターはその御前試合に勝って何を貰うおつもりで」



代わりに口を開いたのは、契約した4体の従魔の内の一体妖虎族のライオットJrであった。それを待っていましたと言わんばかりにプラネはくつくつと笑う



「ふっふーん!聞いて驚け。王族をぶん殴れる権利だぜ。良いだろー?」



「オマケに処刑が付いてなければ良いですね」



「怖い事言うなよ」



「俺っちはマスターの価値観が1番怖いですよ。

ん?誰か来ますね、例のスライムじゃないの?」




外の動きを耳を動かして察知したライオットの言葉通り、それから暫くしてプラネ邸を訪れる者がいた。

隠せない疲労の上から疲れた笑みを張り付けた宰相のコンドラッドだ。その足元からのっそりと顔を覗かせた丸っこい生き物スライムが話しかけてきた


「よっ! はじめまして ぶらねっ! おれのなまえは N-097ばんだ。 みてのとーり スライムだ!こんかいはどうぞよろしくたのむっ!」



プラネの瞳孔が僅かに細まる。スライムではなく、その僅かに上の部分を見てこう呟いた



「技能は魔力噴射か」



技能(スキル)とは優れた魔力適正能力が生み出す新たな力である。超常的な力から生物が持つ能力の延長線上のものであったりと様々である。魔法と異なりルーンでの表現が出来ない為、魔法ではない力としか表現出来ず、又発現する細かな条件は不明となっている




「すげーぶらねっ! よくわかったな!おれしってるぞ!ミルメがあるっ!ってやつだろ」



「よく言われるよ あとプラネ、な?

所で君のこと何て呼べばいい?」



「わかった! ぶらねっ!

おれのこともきがるに97ってよんでくれっ!みんなそうよぶ!」



「……」



「いったぁい!いきなり何するんですか!?」



プラネが突然真横にいたコンドラッドの脛を思いっきり蹴った事により、脚を抱えて悶絶するコンドラッド。それを横目にプラネは冷淡に口を開く



「お前の国は魔物にマトモな名前すら与えないのか?」



「……勘弁してくださいよ。管理している魔物が何体いると思ってるんですか。そんなのに一々名付けてちゃキリありませんって」



「そうか。もう片方の脛も出せ」



思わぬ反感を買ってしまったコンドラッドはバツが悪そうに答えると、なんとも言えない感じでプラネは心底面白くなさそうだった



「そんなにおこんなよっ! ぶらねっ!」



「だからプラネだっての」



ーーー○△◇×ーーー



時折、肉体の一部に独立した魔法術式が発現する場合がある。そしてプラネ・リュネッダーの両目にも魔法が宿っており、魔眼保持者の1人として魔導教会に登録されている(他にも魔手や魔歌や魔性等がある)



そんなプラネの魔眼の能力は、『鑑定』である。様々なモノを解析し分析しステータスとして"可視化"する事ができる。ただそれだけの力だった。しかし、ただそれだけが出来るだけで従魔士にとっては最も重要な要素の一つを満たしている事に他ならない。だからこそ、彼女は最善手しか打たない最良なのだ



「なーっ! なーっ! ぶらねっ! おれはいまなんでこんなにごはんをたべさせられてるんだ?

シュギョーしなくていいのかよー?」



「黙って食べろよ。カイネちゃんの料理をしっかり食べないと大きくなれねーぞ。んでお腹いっぱいになったら、ライ君と闘って。魔力が切れかけたら飯食っての繰り返し。今日1日はこんな感じでいい」



「おっー!まかせろっ!」



「マスター 俺っちに指示をくれ」



「こいつの攻撃は全部受けて。後、ギリギリ避けれない弱い攻撃をし続ける。ライは限界までいたぶるの得意でしょ?自己判断に任せるよ」



プラネが徐に席を立つと、カイネが即座に身嗜みを整えてあげていた。プラネは顔が多くの人に知られているので分からない様にプライベート時はこうしてコーディネートしてあげるのだ



「どっかいくのかー ぶらね」



「ちょっと出る。今日は3ヶ月に1回の従魔士たちのデビュー戦があるからな。日が暮れるまでには帰ってくるさ」



「なんだよー おれのシュギョーはみてくれないのかよーぶーぶー!」



拗ねた言い方をするスライムに仄かにプラネは呟いた



「もう今日の分は見たよ」




従魔士として実績のない新人デビュー戦が行われる地方大会が開かれる場所は、この大陸だと決まっている。

故にプラネが座る席は毎回決まった席だ。丁度闘技場の全容が見渡せる場所であった。全ての従魔士と従魔のタッグが満遍なく見ることが出来る絶好の場所なので、そこが彼女の指定席なのだ



だが既に先客がそこにはいた



「こんな所で貴殿に会えるとは光栄だな

6代目メルクリウス プラネ・リュッネッダー」



この様な程度の低い賭け事の場にはそぐわない見るからに上質なタキシードを着こなし、銀髪のオールバックに綺麗に整えられた口髭はより紳士さを演出している男性が既に席にかけていた。

その人物をプラネは知っている



「……お初にカルバイン卿。貴方も見に来るんですね」



コロッセオ。バトルロワイヤル式

13組の従魔士と従魔が最後の一組になるまで戦うシンプルな試合形式となる。オッズが魔光掲示板に掲示された。もうすぐ試合が始まるのだろう



「どうした 座りたまえ」



促されたプラネはそのままカルバインの横に静かに座った



「ここに来れば、君に会えると狐の占い師に言われてね」



「神通力ってのを使うやつですか。今はこの辺りに来てるの知ってましたが、あれ今から予約しても5年待ちって聞きましたけど」



「はっはっは。 そんなことよりこうして貴殿に逢えたのだからお手合わせを願いたい」



カルバインはプラネに目を向ける時そこはかとなく言った



「生憎、今は誰も連れていませんが」



闘技場に選手が勢揃いしたのでプラネもそちらを注視しながら言葉を返す



「いえ、今から始まるあのコロッセオで誰が勝つか予想をしませんか?」



まるで前哨戦とでも言いた気だ。どちらが従魔士として力量が上なのか試そうとしているのだろう。乗るつもりは無いのだが、こうまでしてる相手だ。あっさりと引かないだろう



「因みにワガハイは1いち────「11番」



「……同じのを選んでしまっては賭けが成立しませんな。ならワガハイは別のに」



その答えを聞いて、カルバインが少し誇らし気に肩をすくめてクツクツと笑う。だが……



「11番が最初に4人倒す。2番、9番、6番、13番の順だ。6番なら多分勝てた可能性があるね。でも足を怪我をしてるせいかコンディションが万全じゃない」



カルバイン卿から笑みが少しずつ消え始める



「その後に3番に不意打ちされて11番は負ける。3番は7番と戦って相打ち。残った中では8番が1番強いから順当に8番が残りを倒して勝って終わり」



「ふ……はっはっは これは驚きました。メルクリスウ公ももしやあの狐の占い師のように未来が見えるのですかな?」



「……見えるのは未来じゃないけどね。カルバイン卿は11番。私は8番、でいいですよね?」





「私の勝ちですね」



ああ、またか。そう言いたげにプラネはつまらなそうに目を伏せた

結局言った通りに試合が運んだ。1つの例外もなく、まるで予定調和のように。そしてそれを目の当たりにしてカルバイン卿は信じられないものを見るかの様に目を大きく見開いている



「さ、」



「?」



「先程の非礼に謝罪を」



カルバインは深々と頭を下げてそう言った。そしてその姿勢のまま言葉を続け始める



「メルクリウス公の力。その実力に偽り無し。

そしてこのような事をするワガハイをどうぞ笑ってくれて構いません。失礼は重々承知して申させて下さい。今度の御前試合をご辞退下さい。何卒!何卒!!お願いします。この一戦に王国の未来がかかっているのです!」



ギリッ……思わず歯を食いしばる音が聞こえた。従魔士であれば誰しもが勝つこともあれば負けることもある。当然だ。しかし従魔士を名乗るのであれば、大前提として自分と共に戦う従魔の勝利を信じるべきだ。



どんな理由があるにせよ、間違っても相手の方に負けてくれなどと言う言葉は絶対に口にして良い言葉ではない。

それは従魔士と従魔の全てを蔑ろにした唾棄すべき言葉なのだから



「バカに……しやがって」



激昂したプラネは思わず握った拳を力任せにカルバインに叩きつけて、そのまま踵を返してこの場を後にした



日が暮れて重い足取りで帰ったプラネが邸の扉を開けると同時にボロボロのスライムが胸元に抱きついてくる



「ひーーん たすけてーーぶらねっ!!

ライオットがおれのことをいじめるんだよっー!」



「おめえが弱いのがいけねえんだろ! 相手はゴーレムだぞ! ばっかじゃねえの! おめえ ばっかじゃねぇの!?勝つ気あんのか!?」



「ばかにすんなっ!あいてがドラゴンだっておれはかつつもりだぞっ!」



「じゃあ逃げねえで、カイネ嬢の飯をさっさと食えや!しばかれてぇのか!!?」



「にげてないでーーす! これはセンリャクテキ?てったいなんですーー!ライのアホ〜!」



「殺す!!!"ラガシュの怪物"と云われた俺っちの本気見せたろやないかーい!!」



「マスタープラネ お帰りなさい。今からご飯を」



出迎えたカイネを抱き寄せたプラネはそのまま顔をその大きな胸に埋める。何か嫌なことがあったのだろうかと察したカイネは深くは聞かず、ただ抱きしめ返すと、2人に挟まれたスライムが苦しそうに這いずって出てくる



「きゅっぷい! なにがあったかわかんないけど、そんなカオすんなよな!ぶらねっ!」



「……なぁ お前勝つ気ある?」



「とーぜん!」



その答えを聞いて、プラネは確かな決意を決めたのだった



「マスター 俺っちとのハグは?」



「今お前は抜け毛シーズンだからダメ」



「おう!スライム!今から修行は4倍コースや!わかったら遺言書いてこんかい!!」



「ぶらねっーーー!!」



本編の筆が余り進まず、幕間の手をまた使いました

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