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6話目-⑬

この屍たちの墳墓という魔迷宮の番人をしているラーズが使った転移ポータルを利用して一気に我と姫は最深階層にまで到達していた



そして、現れた我らの姿を見てその事を理解したラーズは声帯など無いというのに見事な絶叫を捻り出し、膝をついて頭を抱えて思いっきり涙を流していた



「いーーやーー! まじなんなの お前ら!

どんだけ吾輩が準備に準備を重ねたと思ってんだ!!

迫り来る屍たちの大群。強力な上位アンデット種。様々な危険な罠!そっちの力量を限界まで見極めた上で、こっちはギリギリ詰まないレベルのクオリティ提供してるの!!それを……それをさーーー!」



「《なんかごめん》」



「どちらにせよ攻略が早いか遅いかの違いですから、良いじゃないですか。この魔迷宮の核はどこですか?」



「死体蹴りが酷い!」



上の洞窟みたいな階層と違い、此処は開けた闘技場の中心地であった。周りの観客席にいたスケルトンとグールたちがブーイングを飛ばしまくっていた

姫がキッと鋭い視線で睨みつけて威圧感を放つとみんな下を向いて黙っていた。どっちが魔物か分かったものではない



「し、仕切り直して良かですか?」



おずおずと手を挙げるラーズに対して、姫は少しだけ思案する素振りを見せる。流石に可哀想と感じたのだろうか?ゆっくりとため息をついて、その後許可していた



「フハハハハ よくぞここまで来た 強き冒険者よ!

名乗らせて貰うぞ。吾輩の名はラーズ・カルマン。主人よりここ屍たちの墳墓の墓守を任され、かつてのタルコフ市4番街最強のエレメントマスターと呼ばれし属性魔法の使い手よ!」



法衣に付けたマントをはためかせて、意気揚々と名乗りを上げている所悪いがその名乗りすっごいダサくない?我と一緒にカッコイイ名乗りと二つ名を考えようぜ!

 


「……じゃあ攻撃しますね アイスメイク」



γ(母なる大地よ) η(我らを守りたまえ) 土の壁を出現させる魔法!」



姫の攻撃魔法に対してラーズが土の防壁をなぜか自身の背後に出現させる。防御のためではない。だとしたら、一体何が目的なんだ?



「魔法久しぶりすぎて、出し方失敗したーー!

ぐはぁーーー!!!」



普通に失敗しただけらしい。姫の魔法が直撃してラーズは鮮やかに宙を舞っていた

思っていたより打たれ強いのだろうか。ここまでダメージを感じさせない様子で身軽に体勢を整えて地面に華麗に降り立っていた



「ルーンを詠唱して魔法発動なんて随分と古典的なのね。今の時代は刻んだルーンを術式にして魔力を流すのが主流なのよ?」



「より効率的に洗練されてるということか……だが舐めるなよ! θ(汝に裁きが降り注ぐ) 雷を落とす魔法!を喰らうがいいーー!」



屋内だというのに、天井から突然稲光が迸り雷光が雨のように幾つも降り落ちていく



「……」



姫は咄嗟に幾つもの氷の盾を出現させるが、雷が落ちる度に盾が砕けていく。見るからに強そうな魔法であり防御が突破されるのも時間の問題だろう。これは手を貸すべきか?



「大丈夫だから。見て、なさい……」



少しだけ余裕が無さそうに笑う姫とは対照的にラーズが大きく肩を跳ねさせ剥き出しの歯で嗤った



「大丈夫?大丈夫だと!? ふはは 小娘が強がりを。そんな薄っぺらい盾でこの雷を防げるとでも?

全て破壊だ! 観客席大破! 大壁粉砕!! 吾輩の身体に直撃!!!」



この辺り一面に雷を落とす魔法は対応した姫の反応を見るに確かに強力なのだろう。しかし、余りにも見境なく落とすものだから術者本人にも危害が及んでしまい、自滅しているではないか



「アバババ!!!!」



ラーズは血に良く似た黒い液体を吐き散らしながら真っ黒になり倒れ込んでいた。ひょっとして彼はお馬鹿なのだろうか?魔力量を見ても弱くはないのにどこか抜けている



「……貴方随分と頑丈なのね。着てるもののせいかしら?弱い魔法じゃ効果が薄いから少しだけ強い魔法を使わせて貰うわね 白星 コメット」



ラーズの真上に魔法陣が重なるように3つ展開され、1つ陣を通り抜ける度に落ちた光が加速度的に速さを増していき、次第に彗星の如き光を帯びていく



ν(業火よ 焼き尽くせ) Π(暗きを照らせ)紅蓮で焼き尽くす魔法」



相対するラーズは白い流星を防御では無く、攻撃で迎撃を試みた。コメットという魔法がどういった魔法か知らずとも、展開された3つの魔法陣の効果が其々、加速と強化と質量の増加を施しており、自身の持ち得る手札では防げないと理解していたからだろう



「《あれ?なんで我、今見ただけで魔法陣の効果が分かったんだ?》」



「くそっ……」



激突した魔法の拮抗は1秒にも満たなかった。膨大な熱の塊を突き破り、白い光がそのままラーズの脇腹を貫いていたからだ



「今のは殺すつもりで撃ちました。よく生きてられましたね。強いのね 貴方、いえ ラーズ」



「お褒めに預かり光栄だ……御嬢さん。失礼をした。貴女の名を聞かせて貰っても」



「魔導教会トラオム 上級魔導師 白雪姫

冒険者では玻璃と名乗っているわ。好きな方で呼んでくれて構わないわよ」



「……魔導、師……ふはは

魔法は出来ないことを出来るように導くまるで師の様な存在。そんなことを言っていた奴らがいたな」



どこか懐かしむように目を細めるラーズ。そしてゆっくりと自身の傷の深さを確認して、引き締めた表情をする。同様に姫も薄い笑みを消す。

そこから互いに言葉なかった。ただ互いに魔法をぶつけ合っていた



姫とラーズ。そのどちらも高位の魔法の使い手なのは間違いないだろう。体表を覆う魔力量だけ見ても常人の数十倍。或いは数百倍だ。しかし、そんな2人を比較して尚、両者には超えられない壁が存在していた



限界を迎えたのは、ラーズであった。ラーズの足が突然風に溶けるように消えたのだ



「……魔力切れ 完敗だな」 



「勝ったというのに何故そんな残念そうな顔をするんだ? 白雪姫」



「久しぶりに本気でやれて楽しかったもので」



「本気……本気か。でもお前全力じゃなかっただろう?」



「買い被りですね。貴方と私にそこまで大きな差はありませんよ」



姫は右手に魔力を凝縮させる。それでラーズにトドメを刺そうとしているのだろう。彼も抵抗する気は無いようで、その死を受け入れるかのように静かに目を閉じた



「どうだかな」



放たれた魔力の光にラーズの体が包まれる





「……どういうことだ?」

  


だがトドメは刺さずに姫がラーズの胸元に掌を当て、魔力を送っていた。その魔力はラーズの存在を辛うじて維持できる程度の助けになっているらしい



「死んで欲しくないと思いました。それだけです」



「バカだな。塚人はもう死んでいるわ……ふはは、奥の扉、彼処が……魔迷宮の核だ。行くがいい」



ラーズは奥の大きな扉を指差して、そのまま意識を失った様だった



「行きましょうか 偉大なる龍王様」



歩き始める姫の後についていく。彼女は此処で一度も肉体的なダメージを負っていない。だというのに、なんだこの妙な胸騒ぎは

まるで何か重要な事を見逃しているような



「……ごほっ」



突然姫が強く咳き込み始め、そして一際大きく咳き込むと地面に赤い色が付いた。血を吐き出したのだ。それも夥しいほどの量を。またも咳き込む。今度は彼女の服と肌が赤黒く染まる



「《姫!!?》」



「少し、休みます……後は任せました」



扉を前にして姫はフラフラと倒れ、それを我は手の中で優しく受け止める



何かの病気?分からない。我は姫の事を何も知らないのだから。

分かっているのは、早く此処から出ないと取り返しの付かないことになるということだけだ



姫を背中に乗せ、扉の前まで一瞬で翔ける。扉には魔法の錠が施されていたが構わず力尽くで破壊して開いた



空気が変わる。この感覚はこの世界で2度目だ。扉の中。宝物庫なのだろうか。辺りには山のような黄金の財宝が積まれていた。そんな物には目をくれず、魔迷宮の核を探した。どんなものが核か知らない。どうすればいいかも分からない



だから自分で考えなくては。姫の顔色は次第に悪くなっていくばかりだ



「やぁ こ ん に ち は」



奥に立っている奴がいた

目で認識はできない。形も無く、気配もしない、匂いもない。しかし、確かにそいつはそこに居るのだ。そしてこいつこそがこの魔迷宮の核だと理解出来た



人の姿をした得体の知れない空白



「やぁ ××× いや、此処ではアーカーシャと呼ぶべきなんだろうね。初めまして 私はカムイカグラ "鳳仙"と呼ばれている者だ」




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