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6話目-⑫

魔迷宮。ソレは世界各地に存在し、数多の冒険者が日夜挑み続ける死地として知られているが、未だその多くは謎に包まれていると言っていい。

しかし最も多くの魔迷宮を踏破した渡航者 "その身一つで挑む者"で知られるテスタロッサ・スワン・エイティワンの執筆した"渡航者でも分かる魔迷宮 入門編"で少なくとも魔迷宮の入り口に刻まれた紋章を見れば誰が制作したのか分かると記している



────曰く、四芒星は意思を持つ魔素の集合体である精霊族が他種族を招くための場所であると。冒険者たちの言う魔迷宮とは此処を指している



────曰く、六芒星は天魔の眷属であり、かつて"魔王"と双璧を成し、邪悪なる魔女たちを従えワルプルギスを引き起こした"聖天主教"が、力を授ける場所であると。



────そして八芒星の紋章は最も危険な証。それは始祖にして統べる者 三君 鳳仙の創りし世界である。無二の違いは、他の魔迷宮と違い、資格を持たなければ入ることすら出来ない。そして攻略しなければ出ることが出来ない。たったそれだけであった



「と。いう話でしたが、少々拍子抜けですね」



幾つもの階層に別れている魔迷宮に半ば強制的に潜らされて1時間経って現在、我と姫は、第2層にいて時折現れる魔物の群を倒しながら幾つにも枝分かれした暗い洞窟の中を当てもなく彷徨い歩いていた



人間の目ではほんの先すら見通せないだろう。しかし姫はなんら昼間と変わらぬ歩調で、僅かな乱れすら無く歩いていた



「扉の色が黒という事は、アンデットや死霊系の魔物中心なのでしょうが出るのが低レベルの骨人(スケルトン)屍鬼(グール)ばかりとは」



「《……他の2人は大丈夫なんかね》」



「そんな顔しないで下さい。着いた時に私と偉大なる龍王様しかいませんでした。あの子たちはそもそも入れなかったと考えましょう」



「……私が条件を満たしていたのでしょうね。気になるのはその条件が何か、という話ですが」



そう言う姫の顔はどこか浮かなかった。何を懸念しているのだろう



「また来ました 数だけは多いわね あ、龍王様は戦わないでね。崩落する可能性があるわ」



「《大分加減すれば、その、やれると思うが》」



「それによくよく考えてみると私が戦ってる姿をまだ見せた事ないわよね。だから貴方に相応しい契約者としてかっこいい所を見せてあげたいの。ちゃんと見てて」



あくまで自分一人で戦うと言い張る姫が指鉄砲のように構えると正方形の氷の箱が幾つも宙に現れ、まるで弾丸の様に飛んでいく。

飛んでいった先には、スケルトンの群れが立ちはだかっていたが、まるでボーリングのピンみたいに吹き飛ばし、或いは砕いて、轢き潰していく



ふと、姫が何気なく自分の手をしげしげと眺める



「……」



「この場所の特性かしら。特別魔素が濃いわけでもないのに、魔力がみなぎり、術式に込められる魔力を何倍にも増加させている」




「……久しぶりに調子が少し良くて高揚するわね。"ナニ"を魔力に還元しているのかが気になる所だけれど」



その疑問が解けるのは、もう少し深く階層を潜ってからだった



ーー

更にそれから3時間で第六層まで来ていた。この魔迷宮がどこまで続くのかは分からないが、少なくとも順調であると我は感じていた。

第七層へ続く扉を見つけ、ここに来て、姫が初めて足を止めた



立っていたのは、異質なスケルトンだった。豪華な法衣を身に纏い、生前はさぞかし徳の高い人物だったのだろう。明らかに迸る魔力量が高い。この迷宮のボスキャラだろうか



「挨拶が遅れてしまいました。吾輩この迷宮の番人を任されている塚人(ワイト)のラーズ。そして貴女方は初めての客人だ。余りにも美しすぎる貴女に免じてここまではサービスをしていたのだが気に入って頂けただろうか」



「女性を強制的に引きずり込んだ時点で最低ですよ。で、此処はどうやったら出られるのですか?」



「吾輩を倒せたなr「アイスメイク ギガントブロック」



「ノォーーーッ!」



言葉半分で姫がノーモーションで攻撃を加える。逃げ場などない狭い洞窟を埋め尽くす巨大な氷塊がラーズを押しつぶしたからだ。姫ってやっぱり酷い人なのでは……



「……偉大なる龍王様、もし私が貴方の気に入らない事をしてしまったのなら」



しかし態とらしく咳をしながら氷塊からラーズが這いずり出てくる。見た目によらず頑丈な御仁のようだった



「コホン、物事には順序があります。御嬢さん「アイスメイク オーガの鉄拳」



「ノォーーーッ!!!」



ラーズの背後にある氷塊ごと巨大な氷像が殴って砕いていた。今度こそ死んで……



「御嬢さん!?話が進まないから、少しで良いから吾輩の話を聞い「アイスメイク」「ノォーーー!!!」



無かったので、姫が更なる攻撃を加えようとしていたがラーズは泣き叫びながら我を見るものだから止める事にする



閑話休題



「先ず 吾輩と戦いたければ、この魔迷宮 屍たちの墳墓の最深部13階層まで来る。これはオーケー?」



「何でですか?今いますよね?戦いましょう。今すぐに。そもそもなんで此処じゃダメなんですか?なら何のために姿を現したんですか?意味が分かりません」



「……」



「黙ってるだけだと何も分かりませんよ」



「……だもん」



「大きく発音してください!」



「次の階層からが本番だぞっていう吾輩なりの演出だもん」



ラーズは投げやりにそんな事を言って、姫は。姫の反応は。すっごい真顔だった。心底、え、こいつ、今何言うてるん?ってそんな表情だった



空気が死んでいた。居た堪れないとはまさにこの事。

ラーズは魔物だ。とはいえ、姫という初めての魔迷宮の挑戦者を得て多分だがこの方は凄い色々と心躍せたのだろう。そしてはしゃぎすぎてこの有り様である

これは誰が悪いのか



「……そもそもなんで私をこの迷宮に引き込んだのですか?」



「正直に言っても怒らない?」



「はい」



「本当の本当? 我らが神に誓える? 因みに吾輩生前枢機卿なんだけど、嘘だったら」



「怒りませんよ……」



姫は少し考え、そして僅かに目を瞬かさせ、確かにそう言った。言葉ってあんなにも怒気を秘められるんだな



「顔が吾輩のタイプでした」



「アイスメイク フルファイアーーーッ!!!」



「ノォーーーーーーーッ!!!」



まあ今のはこいつが悪い。弁明の余地はなかった



「うぐぐ。吾輩もう帰るーーー!お前らなんて次の階層の骸骨将軍率いる軍団にやられちまえーーー!アホっーー!」



ラーズは癇癪を起こしながら、次の階層の扉、ではなく、その隣の壁にある見えない魔法陣を発動させて姿を消した。どうやら大分下の階層まで転移したらしい



「……」



それを見た姫は、次に繋がる扉ではなく、ラーズ同様に転移した魔法陣に触れる



「……なにしてるんですか?行きますよ 偉大なる龍王様」



流石姫恐れ入ったぜ。

我は改めて姫の恐ろしさを肌で感じながら、魔法陣を起動させ、この屍たちの墳墓 最深層に転移したのだった

補足

魔迷宮はそもそも攻略されることを前提に創られているので、精霊も性格の悪いと言われる魔女ですら、次の階層へ繋がる扉の隣には大抵入り口に戻れるポータルを設置している。因みにそれでも死人が良く出る

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