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6話目-⑪

この世界には数多の強者が存在している。だがそれは単一の存在での話だ。かつて"人類最強"と讃えられた初代アストールが第一次人魔大戦にて魔王直下の大幹部"三天四地"を打ち破り魔族を最北の大陸ミューヒンラフィーネへ追いやろうと、それが人が魔族より強いという証明にはならない



上位魔族より強い人間もいれば、小型の魔物にすら劣る人間もいる。それが種というものだ。しかしこの世界において唯一の例外がある。それが『龍族』だ



龍族内では兎も角、少なくとも他種族と比較する場合、彼らの中に弱者は存在しないことになる。仮に龍族で最も弱い龍と各種族の最上位が戦ったとして死闘になるのは必至。紛れもなく生態ピラミッドの頂点に君臨している



「ッッ……な、なにが」



赤い龍に対して聖国の司教であるキケは眼前の光景に只々言葉を失い、一歩後ずさる。引き連れてた配下20人は枢機卿直属の部隊の一つ聖歌隊の面々だ。一人一人の実力は冒険者ギルドにおける高位冒険者(Aランク)にすら引けを取らないだろう。現に彼らはこの数年東方の地にて100体以上の凶悪な魔獣を一兵の損失なく討伐してきた。そんな腕利きたちが瞬き一回の間に全滅だ


いや、そもそもがあの魔導王の結界を一層とはいえ、龍が破った事がおかしいのだ。



(こんなものを従えている、こいつは何だ)



唯一の救いは、この龍が地に伏す彼らを対等の敵とすら認識していないことだ。その証拠に倒れた全員に息があった。殺し損ねたのでは無く手心を加えたからに他ならないだろう



「話がしたいの。逃げるなら少しだけ手荒くするわよ」



一歩ずつゆったりとした歩調で近づいてくる白い彼女と背後に控える赤い龍が何者か。などと考えている暇は既になかった。脇目も振らずキケは走る。少しでも距離を取るために



「がぁ?!」



しかし突然足に激痛が走り無様に転げる。見ると、いつの間にか凍りついた草葉が足の甲を突き破って覗かせており、血が一面に飛び散っていたからだ



「逃げないで」



「私の言ってること、分かるよね?」



「何者か知らぬが、敬愛する神の信徒である私にこんな事をして、貴様は死後永久に天国に行く事が出来なくなったぞ!」



尻もちをつき無様なキケを横目に白い彼女は呆れるように僅かなため息をつく



「神……ね。哀れよ、貴方たちは。いつまでいなくなった人に縋る気なのかしら。そんなんだから……」



この世界において唯一の神を信仰する人は多いが、聖国の人の信心は特に凄まじい。異常と言い換えてもいい。故に彼女の態度に彼は激高した



「神を軽んじる異端者め!貴様の魂はこの現世で苦しみ抜いて、尚救済すらされぬものと知れ!」



「……まるでこの世界が地獄みたいに言うのね」



「なんだと?」



「生きる上で数え切れない苦悩に苛まれ!心が折れるほどの挫折を何度も経験し!命の数だけの果てしない絶望がある!貧困が。飢餓が。差別が。苦しみが。これだけ渦巻いているのに、これが地獄じゃなければ何だと言うのか!」 



「なら枯れない花だけあれば幸せですか?

泥水を啜ってでも生き延びようとする生き物は不幸なのですか?

きっと生きるということは、そういうことじゃないと思いますよ」



「……なにが言いたい」



「貴方が思ってるよりも、この世界は生きるに値する世界だという話です」



彼女はなにを思ったのか僅かに口を噤む



「話が逸れたわ。今はそんな話がしたいわけじゃないもの。

どうして、貴方はあの小さな村に目を付けたのかしら。どんな狙いがあるのか、教えてくれないかしら?」



「来るな!異端者のお前に話すことなど何も無い!」



「ヒッ……!なんだ、それは。それを使って何をする気だ」



忌々しそうに睨みつけるキケは同じ言葉を繰り返し、彼女は漸く歩みを止める。恐らく肉体に過度な拷問を強いても、彼が口を開くことはないだろう。しかし、この世界には魔法がある。人の考えや思いを捻じ曲げる醜悪な魔法が



彼女は唇を薄暗く歪めた



「……大丈夫よ。怖がらないで。直ぐに話したくなるから」



ーーー†††ーーー


酷く気分が悪い。今我らは、先に町に待たせていた苺水晶とトーチカさん達と合流して、共に依頼達成の報告を町長であるドムックさんに行っていた所だったが我と彼らの表情は対照的だった



「キプロウの町を代表して心からのお礼を

ほ、本当に。何と申していいか……ありがとうございます。ありがとうございます」



声を震わせながら、ドムックさんが玻璃の手を握りお礼を伝えていた。あの時とはまるで違う本当に優しい微笑みを浮かべて彼女は応えた



「力になれて良かったわ。そういえば、報酬の方は後日ギルド管理局の方たちが受け取りに来るそうなので、其方に渡してください」



どちらが本当の彼女なのだろうか。いや、どちらにしても、幾らなんでもあれは無い。人の尊厳を貶める魔法だ。あんな……



「大丈夫ですか? 顔色悪い感じしますよ アカシャ様」



《裸を見て気まずいだけでは?》



「終わった話を蒸し返すな。謝ったろ」



「《……大丈夫だよ》」



我の言葉は通じてない筈だが、その一言に苺水晶は少しだけ心配の色を和らげていた





玻璃は何処か目的があるかのように町外れを目指して歩いていた。それに我らはついて行く



「で、結局 そのキケって奴の目的は何だったんですか。先輩」



「彼の話を総括すると、この東方の大地の魔力は魔素の通り道である龍脈が途絶えた事により、既に枯渇していて、それなのに純度の高い魔草が町で育つのはおかしいと」



「あー……つまり?」



いまいち要領を得ないトーチカさんに対して、苺水晶は小馬鹿にした風に鼻を鳴らす



「誰かさんにも分かりやすく言いますと、この町の魔草は別の何かを源にして成長しているってこと。ですよね、先輩」



「そうよ、流石ね」



「何かってなんだよ?」



「それを確認しに行くのよ」



玻璃が足を止める。其処は村外れであるが、あの子供たちが売っていた雪花 ピナスが特に一面に咲いている所だった



「此処なら迷惑をかけないかしら」



「なにもないが」



偉大なる龍王様(アーカーシャ)この下よ」



「《……ああ》」



我は言われるがままに、力任せに拳で叩くと大地が大きくその口を開いた。遥か地面の奥底には似つかわしくない異様な物がその姿を覗かせていた



「《なんだ、この黒い扉。しかも刻まれた八芒星は見覚えが》」



しかし、それを見た3人はその正体を知っていたらしく驚愕していた



「魔迷宮の門!?こんな所に」



「なるほど。つまり魔草は門から溢れた魔力を吸い取ってたってわけか」



「しかもこの紋章は始祖 鳳仙が創り上げた特別な……」



突然黒い扉が鈍い音と共に開き始める。眩い光と共に全員が中へと引きずり込まれた

章の副題が見切り発車だったためあれだと今更ながら反省

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