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6話目-⑩

ギルド怪物の檻に所属して初めての依頼の最中、ポッポと名乗る人物と突如として行われる事となった────従魔士なる存在が互いの従魔を競い合わせる試合形式の一つである────"拳腕試合"その闘いには無事に勝利した姫と花ちゃんであるが、その代償は余りに大きかったのであった……



「は……苺。貴女、服が酸で全部溶けてしまっているわよ」



「……なっ!」



そうである。花ちゃんもとい苺水晶(ギルドの依頼に従事中はそちらで呼ぶのが適切だろう)の服装は今や綺麗さっぱり生まれたままの赤裸となってしまっていたのだった。女性のヌードというこのご時世ではセンシティブでRは数えて18番目な話題に抵触してしまうやつだ。

……苺水晶は、その、なんだ、随分と着痩せするタイプらしい。豊満というか、出るとこ出てるというか、玻璃に指摘されるや否や魔導具玉手箱を鎧に換装させ即座に身に付ける早技を見せたが、気付くのがコンマ数秒遅いと言わざるを得ない



「み、見ました?」



羞恥の声と共に自身の体を抱きしめながら我とトーチカの方へガクガクと震えながら顔を向けてきた。coolになれ。アーカーシャ。感情的な訴えなど愚の骨頂。龍王らしく我は我の責務を全うする



「《ミテナイヨ》」



《アーカーシャ様はギリ見てないと仰ってます。仮に見えたとしても右胸とヘソの下のホクロを数える程度しか見えてないみたいです》



「あ あ あ う ぁ ぁ……」



「《何も見てないからぁぁ!神に誓って本当だからぁぁぁぁ!!》」



嘘である。この龍めちゃくちゃガッツリ見ていた。っていうか我だった。本当にごめんなさい。もう瞼の裏に焼き付いてしまう位には鮮明に思い出せる。でも嘘も方便。我は人を傷つける真実より誰も傷つけない嘘が好きだ。これで優しい世界の出来上がr...



「なーに。俺とコイツの位置からガッツリ見えてたけど気にすんなって。こっちはガキの裸なんて興味ねえからよ」



トンチンカン、失礼噛みました。もちろんわざとですよ、トーチカさん。っていうか貴方こそわざとですよね?なんで我が必死に敬遠策取ってる中、平気で死球かましてくんの?見てあの顔!凄い睨まれてる

あっちのほうでデリカシーが399円で売ってたから至急デリバリーで届けてもらっては如何かな



「あああぁぁぁ!!!……アカシャ様はともかくトーチカ・フロル お前を殺す そしてその後にもう一回殺す」



「……妥当な罰ね」



「《多分冒険者の3割の死亡率の中にこんな仲間割れとかも含まれてたんだろうな……》」



「人権無視も甚だしいぞ おい」



その後の展開に説明はいらないだろう。先程の闘いとは比較にならない程の死闘の幕が苺水晶とトーチカさんの元で切って落とされたのは自明の理、ある種の必然であるとも言えた。

貰い事故だろうがなんだろうが全部男が悪いのだ。男女平等?人権?なんだろう……異世界でそういう下らない考えやめてもらっていいですか?



「あっはっは! 面白い奴らだ。にしても、簡易的なパスすら繋いでいない名ばかりの従魔に負けるなんてポッポさんもまだまだ未熟だな〜」



ポルポポ・ポッポは負けたというのに口惜しさを高らかに笑いながら誤魔化すように口にした



「ベネット 情けないぞ。我がマスターの顔に泥を塗るとはなんたることか!」



「クェ〜」



灰色のモフモフとしたオークが咎めるように厳しく叱責してきたことに対して苺水晶に負けた鳥型の魔物ベネットは申し訳なさそうな声を漏らすと、それを見かねたポッポが苦笑して慰めるように頭を撫でた



「こらこら 責めるなっての。よく頑張ったよ、お前は。負けた責はポッポさんにあるからあんまり落ち込むなよ」



「マスターポッポ。そもそもなぜこのヘスヴィルめに任せてくれなかったのか。私なら貴女に勝利を……」



「ヘスは十分強いじゃん。ベネちゃんはまだ幼いし経験を積ませてやりたかったの」



「お話をされているところ悪いのですが約束は覚えてますか?」



人当たりの良さそうな作り笑いを浮かべながら近付いてきた玻璃の問いかけにポッポは静かに嘆息する



「……ああ。そうだな。先ず今後あの村には手を出さないし他の奴らにも出させない、だったな。これでも結構顔が効くんで、そこら辺は信用してくれ。

んで今回の依頼を持ち込んできたのは、確か名前はカ、キ、ク、ケ……なんだっけ?」



「……キケ・オピーという名前でしたよ。依頼主の名前くらいは覚えましょうか マスターポッポ」



「おー。それそれ」



《キケ・オピー。このアナシスタイル大陸東方一帯の復興支援を名目に聖国アイトルードより派遣されており、階級は司教 好きな物は……》



「偽名って線は無いのか?幾らなんでも聖国の司教が闇ギルドに依頼するってのは不可解だろ」



「ポッポさんは別に闇ギルドに所属はしてないんだが……まあいいや」



闇ギルド。なんか不穏な字面だな。さながら法外な値段でどんな依頼でもこなすギルドといったところか。どこぞのツギハギだらけの闇医者と同じですね



「それはどうでしょうか。別に彼らは聖人君子の集まりではありませんから。何よりも99代目聖女であるルテアが病に伏して政治を退いてから、近年エウロパ枢機卿という人物の勢力が増してきているのですが、彼には黒い噂が絶えません」



「わざわざ上質な魔草の為だけにあんな小さな村を潰すための依頼をするか?そもそもの話では毎月半分の魔草は司教に寄贈されてたんだぞ」



「随分と真っ当な事を言いやがりますね。その調子で女性に対しても言葉を選べませんかね」



「お前、さっきから俺にアタリキツくない?」



「何なら本人に直接会う?今日は定期連絡の日だからな。依頼が成功したと伝えればあっちが報酬を渡す為に指定の場所を伝えてくれるはずさ」



その提案には含みを持たせていた。依頼が失敗した以上、ポッポにとって依頼主は一層のこと消えてくれた方が都合が良いのだろう。そんな表情をしています







ーーー†††ーーー

アナシスタイル大陸は現在ガリア連邦支配下の西方から南方にかけてが最も栄えており、反対に東方は度重なる戦火と年々被害が増加している魔獣災害により、混迷を極めている有り様だ。

人々がアナシスタイル大陸東方で安全で文化的な生活圏を確保できている拠点は僅かに3つしかない



その3つの拠点全てが魔導教会トラオムが誇る最高戦力"特級魔導師"たちにより創り上げられたものであり、その中の1つ大都市レザンデリスは大陸行路を司る要であった。周囲を強力な五重結界魔法により覆っており、設計したのは魔導師たちの中で最も高名である"魔導王"である。

この数十年は魔物や魔獣が立ち入ったことは一度として無いし、絶対の不可侵領域であると考えられていた。聖国アイトルード司教キケ・オピーも例に漏れず結界が破られるなど疑った事もない1人である



キプロウの住人排除の報告を聞いたキケ・オピーは、予定通りレザンデリスの郊外を報酬の受け渡し場所として指定し伝えた。郊外で人気は無いとはいえ、其処は結界の範囲内であるからだ。



キケにとってそこは都合が良かった。それはこの結界が魔物や魔獣に強力に作用する点だ。この場合はポルポポ・ポッポの従える従魔たちも例外ではなく、結界内へは入ってこれない。つまり用済みとなったポッポを簡単に孤立させることが可能になるからだ



「報酬は?」



そんなことなどつゆ知らず、目論見通りにノコノコと単身現れたポッポを見てキケ司教は内心ほくそ笑みながら問いかけた



「その前に依頼を完了したというのは本当だろうな。あれだけ人死にを嫌っていたというのに、どういう風の吹き回しだ」



「……流石に時間をかけすぎたと思いましてね。まあやり方は私に任せると仰ったのだから別に構わないでしょう?」



「……ん?」



「どうしました?」



「いや……なんでもない」



初めて会った時と今の彼女の言葉に引っかかりを覚え、僅かに怪訝そうな顔を浮かべたキケだが、直ぐに気のせいかと疑念を振り払った



「では約束の報酬をいただきましょうか」



「金貨500枚、か。それは確かにここにある」



キケはパンパンに詰められた重そうな金貨の袋を収納魔法を使い、何も無い空間から取り出した。しかし見せびらかすばかりで、一向に渡そうとする素振りすらみせない



「どうしました?」



「金を渡す気はない」

  


「何を言って」



キケが手を挙げるとポッポの眉間を矢が穿ち、頭が小さく跳ね上がる。遅れて、無数の矢が身体に突き刺さった。どう見ても生きていられる状態では無く、確実に即死だろう



「悪いがこういうことさ」



キケは初めからこうするつもりだった。キプロウは小さな町とはいえ数百人は優に住んでいた。しでかした事を聖国に万が一でも知られれば、極刑は免れない。しかしアシが付かない様に秘密裏に実行犯を始末し、無人となった町を聖国司教の権限で保護する段取りなのだ



「これであの地を……」



キケがその場から立ち去ろうと身を翻した瞬間、ゾクリと冷気が背後から刺す感じを覚える



「ふぅ……」



振り返ると、矢で撃たれたというのにポッポは気味が悪く立ち尽くしていただけだった。溜息が聞こえた気がしたが、気のせいだったか



「あの地を、なんですか?」



死んだはずのポッポの口が動き出したと思うと、平然と身体から矢を引き抜き始める。しかもよく見ると身体から血は確認できず、代わりにボロボロとコーティングされた氷の化粧が剥がれていき、ポッポの姿が崩れ落ち、キケに見覚えの無い真っ白い女性となっていた



「誰だ、お前は」



「私が誰かなんてのはどうでもいい事よ。話し合いをしたいけど、周りの人がお邪魔ね」



「こ、こいつを殺せーーー!」



顔を歪めながら絶叫に近い金切り声で命令を下すと周囲から20名に及ぶ者たちが現れ、即座に様々な武器や魔法を展開し始める



「片付けて、偉大なる龍王様」



その呼びかけを聞くや否や誰もが迫り来る何かの存在を感じ取り動きを止めて、空を見上げた。何かが飛来してくる。凄まじい力を持った存在が、この場所をひたすら目指して。向かって来ている



キケたちは目視する。赤く小さい。初めは飛竜(ワイバーン)だと見間違えた。しかし飛竜だというなら、この圧はなんだ。彼の存在は絶対的な捕食者だ。誰もがそれを魔物の中で最強種の龍だと確信した



「は、入ってこれる筈がない。この結界は何者にも破れる筈が」




メキュリ、とどこまでも鈍く重い物を握り潰していくのに近いコミカルな音がした。従来の結界を遥かに上回る重圧な結界を腕が突き破った。その信じ難い光景を前に全員の息が止まる。

突き破った結界に指をかけてゆっくりと穴を広げるかのように、徐々に徐々に穴は大きくなり始める。遂には龍が顔を覗かせた



「Gao」



「「うわぁぁぁ!!!」」



恐怖が最高潮に達し、全員が龍に対してありったけの攻撃を加え始める。腕の立つ20人なのだろう。上級攻撃魔法や戦術級に近い魔法攻撃を発動している。

だがそれを攻撃とすら認識していない龍は防御も回避もしない。ただ受け続けているだけだ



「え?」



それは誰の声だったのだろう。キケが瞬きをした次の瞬間には、龍の姿が一瞬消え、地面に降り立っていたのだ。それと同時に空気が弾け配下の全員が一瞬で吹き飛び地に伏していた。瞬きをする寸前まで、両者の距離は千歩以上あったというのに、あの巨体で目視すら叶わない移動と攻撃を繰り出したのだと、頭では分かっていても現実離れし過ぎて受け入れられなかった



絶句するキケを見て、龍を従えているであろう白い魔女は愉快そうに嗤った



「これでゆっくりお話できるわね」

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