6話目-⑨
孤独と孤高は似て非なるものだ。字面が似てようとそこには決死と必死くらいの大きな隔たりがある。そして龍とは強くてカッコいい孤高な存在である。そうでなくてはいけない。誰もがそう考える。我だってそうだ。
そもそも深い繋がりや関係性を持つと時にそれは弱点になりえるじゃあないか!
それはバトル漫画やアクション映画でも顕著に見られ、とあるアンケートによると実に全人類の99.7%が敵に人質を取られた主人公が葛藤し判断を窮する展開を見たことがあると答えている事からも決定的に明らかなのだ。所詮は友達など利害関係の一時的な一致による関係性なのだから利より害が大きいと分かっているなら不要なものだ
我は龍の中の龍。King of Dragon
万が一にもそんな致命的な弱点を持ち無様を晒すわけにはいかない。だからこの世界ではあえて友達を作らなかったわけだが、まさか友達紹介しないといけないパターンがあるとはな。はっはっは! よもやよもやだ!穴が無いから帰りたい
『えー?この龍って同族の友達の1人もいないのー(笑)』『アカシャ様人間強度が下がるとか言ってそう』『偉大なる龍王様はぼっちなのね お可愛いこと』
龍王の名に恥じる著しい名誉毀損である。流石にこれは申し訳が立たない
「《勝て……お願いだから。勝ってくれーー花!!》」
どうやら花ちゃんは玉手箱の鎧状態を解除して、小型の通信機のような物に変わり姫にリンクという魔法を行ったようだった。
問題は生身という無防備の状態で空から降ってくる酸の攻撃をどうにかする必要があるが、不敵に勝ち誇る笑みを見るに何か勝算があるのだろうと期待せずにはいられない
「先輩どれくらいの時間が必要ですか」
「10分頂戴」
「了解です。自分足には自信があるのでそのくらい稼いでみせます」
運動性能を活かした圧倒的脳筋戦法、だと!?
いや。だが脳みそは筋肉で出来ていると聞いた事がある。詰まるところ脳筋と呼ばれる奴らは、いわば全身が脳みたいなものなのだ。その弾き出す計算は最早、スーパーコンピューターのソレに比肩すると言っても過言ではあるまい。つまりこの作戦こそが最も勝率の高い戦法なのだ
「はっ!ならベネットちゃん!
先ずはフォールダウンで自慢の足を止めてやれ!」
「クェ〜〜!」
羽が花びらのように散ったように見えるが、その実、この羽はある程度本体であるベネットが操作ができるようだった。つまり、花ちゃんという敵に向かって、数百或いは数千の羽がかなりの速さで殺到する事になる。花ちゃんは余裕で身を翻しながら躱し続ける
しかし唯一の懸念は羽が減る様子は一切ないということだ。換羽というのだろうか、こう、なんというか、失った羽の数だけ後から後から異常な速さで成長して生えていくのだ。僅かにだがポッポの魔力が減り始めているので、羽とポッポの魔力に因果関係があるようだ
「これは……」
花ちゃんの顔に僅かに陰りが差す。素早く羽と羽の僅かな隙間を縫うように紙一重で避け続ける。しかし……
「遮蔽物もない開けた平地で飽和した物量の攻撃を避け続けるなんて、非現実的なのだとポッポさんは思うぞ、ほらタッチだ」
「くっ!」
一つが微かに触れて、花ちゃんの動きが止まる。そしてそこに続け様に攻撃を加えられる
「アシッドショット」
「《!!?》」
酸の砲撃が直撃する。非致死性というからには死なないのだろうが、酸の性質上、体が溶かされるのは死ぬほど痛いはずだ。流石の花ちゃんにも苦悶の表情は隠しきれないようだった。
我の慧眼によると花ちゃんが今のを数発も浴び続けたら、戦闘不能と呼べる状態に陥るだろう
「はっ! モロだ。10分所かまだ3分も経ってないのに、この調子じゃ続けると大怪我しちまうなぁ。ほら早く参ったと言えよ?」
花ちゃんは痛々しく傷を負ってるものの、そんなものなど気にもせずに血が混じった唾を吐く
「……ペッ! 先輩 自分一つ気付きました。この魔法1枚当たっても、2枚当たっても、発揮される効果は最初に当たったやつのみが優先されるみたいです。つまり100枚同時に当たろうが効果は最初の数秒のみで、効果が切れるまで他のは累積しません」
「後、宙にある魔素を通して羽をある程度思考性による遠隔操作を可能にしているみたいです」
「それが分かったからってなんだっていうのさ。効果は切れた矢先に決め続けたら結果的に永続する。ベネットちゃん同じ方法を取り続けろ。削り倒せ
必勝パターンだ」
「……」
身動きが取れなくなった花ちゃんは自身の肉体を魔力で大きく身に纏った。それは全ての攻撃を耐え抜くという無言の意思表示だ。
そこから数分の出来事は凡そ戦闘と呼べる物でない一方的なものであった
「......■■■」
これは勝負だ。勝つ為にベストを尽くすのは当然である。しかし目の前の光景は只々不愉快であった。もしもこれがまだ続クナラば、自制できずにコイツらを……黒イ感情が芽生えていくノガ分かる
【あんまり、私を表に出す感情を抱いちゃダメだよ】
……なんだ?声がどこからか聞こえたような
「アーカーシャよぉ。殺気抑えろって……俺だってこんなのは最高にイラつく。だけど苺水晶の目を見てみろ。あれは諦めてねえ目だ。だから信じてやれ、仲間なんだろ」
「《……うん》」
トーチカさんの言葉は最もだ。我は力無く頷く。そうだ。仲間の勝利を信じるのはとても大切なことなのだから、不安だけど、心配だけど、せめて応援くらいはしなきゃ
「ここまでくると大した痩せ我慢だ。並大抵のやつなら2,3発もマトモに食らえば意識が飛ぶんだがな。だがこれで決める。これを食らって立ってたやつはいないぜ」
「特大のアシッド・バズーカをお見舞いしてやれ!ベネットちゃん」
ベネットが口を大きく開き攻撃が打ち下ろされる直前に雪姫が静かに目を見開いて指を指す
「"堕ちろ"」
次の瞬間、飛んでいたベネットが突然真下に真っ逆さまに落下した。まるで先程魔法を食らった花ちゃんのように
「な、なにが」
「展開しているそちらの魔法、フォールダウンでしたか?いささか守りが脆弱ですね。だからこうして簡単に乗っ取られる」
「……ご指摘どうも。けど勝つのは」
「私たちですよ。決めなさい」
目の前の敵に対して、花ちゃんは最短ルートで動き出す。そこを狙い澄まして相手も攻撃を仕掛けてきた
「はっ!一直線に来るとは舐めすぎだ。アシッドバズーカ!」
「クエッ〜!」
このアシッドなんたらは強力な攻撃魔法だ。少なくとも崖を溶解し、土砂崩れを引き起こす位には。それを更に凌駕する強力な酸の渦を吐き出したのだ。
しかし驚愕した様子で冷や汗を流したのはあちらの方だった。その酸の中を臆する様子もなく花ちゃんは生身で突っ切ってきたのだ
「嘘だろ」
「死なないと分かっている攻撃なら怖くも何ともない。散々やってくれたな。今度はこっちの番だ」
そう言って、花ちゃんが軋みを上げるほどに握りしめた拳がベネットの柔らかそうな腹部を突き破らんばかりに打ち込まれる。たった1発だ。しかしそれだけで目がグルンと上を向き、ベネットは倒れ込み動かなくなる
「ふぅ……2人の愛の勝利ですね。先輩」
「え、苺水晶と玻璃はそんな関係なのか」
花ちゃんは文字通り満開の花を咲かせる笑みと共に拳を天高く突き上げて勝利宣言した。
これで我の名誉は守られ、依頼も完了、ということになるのだろうか




