幕間ー最良の従魔士とスライム その1ー
本編の方があまり書けてなくて、これ以上日を開けるのもどうかと思い、間に挟みました。
本編の進みが遅かったら、幕間を挟んで更新頑張る様にします
今より400年前。その時代は『従魔士』と呼ばれる者たちが従魔魔法の魔法術式を用いて魔物を従魔として従え、最も幅を利かせていた時代だ。
何故か?アナシスタイルとティムール大陸において数多くのテイマーたちが従えた従魔たちを闘わせるコロッセオ四大大会が想像を絶する人気を博したからだ
「……ター!……マスタープラネ!起きてください 客が来ています!」
「んんっ……ファ〜……おはよ カイネちゃん あれ? 今日誰か来る予定なんかあったっけー?眠ぃよ〜」
「予定にはありませんがシャキッとしてください!……なにせ相手はネーテルガルの王子と名乗っています」
「んー〜……ネーテル、ガル?あー、つい最近まであちこち侵略戦争仕掛けてまくってた奴らか。そんなのが私なんかになんの用さねー?」
「それはマスターご自身で確認した方がよろしいかと思われます」
四大大会の一つ"メルクリウス"において、6年間もの間、無敗で頂点に君臨し続けた若きテイマーがいた。若干20歳にして最高位"グランドテイマー"の一人として座を与えられ、最良の従魔士としてその名を轟かせるのがプラネ・リュッネッダー。その人である。そして1人の王族が彼女にある話を持ちかけた事からこの物語は始まった
プラネが応接間の扉を開けると、物々しい雰囲気を持った一団が先ずは目に入る。そして、次に飛んできたのは、ドロリッと粘りついて人を不快にする黒い声だった
「下賤の分際で高貴な俺を待たせるとは何様だ、お前は!!」
聞いてるだけで人の神経を逆撫でし、人を人とも思わない自分以外の他者を見下す価値観を持ってることが窺い知れるこの人物に思わずプラネは顔を顰めた。穢れた心から発するこの悪臭を纏わせる人物は、大抵私利私欲で人と国を喰らい尽くし腐らせ終わらせることを知っているからだ
「……これは大変な無礼を。それで どういったご用件でしょうか。えーっと、失礼名前を知らないものでして」
「このご尊顔を拝したことがないから知らないだと?貴様っ……グランドテイマーだが何だか知らないが、これだから教養の足りない愚民は……
いいか、よく聞け! 俺の名前はマルクス・ネーテルガル第二王子 いずれは彼の国の王になる男だ!」
「……」
直感的にこの王子は暗愚だと悟った。
第二王子ということは、王位継承権は2番目ということになるだろう。しかし、あたかも自分が王位を継ぐのが決定事項かのように宣う、この発言だけで、如何にマルクスという人物が自分本位で物事を考えているかが分かる。こんな人物が人の上に就けば、国の行き着く末路は大抵一つだ。いっそ殺した方が世のためだろう。殺気とも呼べない僅かな稚気を込めて、プラネの視線が猛禽類のように鋭くなる
「マルクス様 顔合わせも済んだ事ですし、小難しい話は、このコンドラッドめにお任せあれ。折角の外出ですし、息抜きも兼ねてマルクス様は外にあった見事な庭園の鑑賞でもされておいてください、よろしいですかな、プラネ殿も」
マルクス王子の背後に控えていた御付きの者たちの中で一際異彩を放つ人物が前に出て、プラネに目配せをしてくる
「ちっ。ではコンドラッド宰相に委細を任せる」
「お任せください」
「カイネちゃん……お客人の案内を」
「畏まりました。マスタープラネ では、皆様付いてきて下さい」
カイネに連れられて、宰相と呼ばれた男以外の全員が出て行く。そして扉が閉まると同時に男は張り詰めた空気を吐き出すように息を吐いた
「我が主人がとんだ失礼を。プラネ様」
「……あんなものを王として仰ぐ事になったら、民としてはたまったものじゃないね」
プラネの鋭い発言に僅かに言葉を詰まらせながら、コンドラッドは言葉を紡ぐ
「あれはあれで良いところもあるのですがね……
では本題に移らせて頂いても?」
プラネは返事をしなかったが、大して気にもせずにコンドラッドも話をし始める
「我がネーテルガル王国を治めるマクシム王が半年前から病に伏している。もう先も長くないらしい。
それで次の王を選出せねばならないのだが、第一王子のレフ王子と第二王子のマルクス王子の派閥が王位継承権を巡って日夜骨肉の争いをしている始末」
「それは大変だね。で、その争いでなんで私のとこに来るの?」
プラネは別にネーテルガルの国民ではない。この争いで誰が勝ち誰が王になっても関係はないのだ。故に首を捻らざるをえない。この会合にどんな意図があるのかと
「我が国は他国を糾合して出来た大国だが日が浅く、安定とは程遠い。これ以上、この二つの派閥の争いが過激化するのは見過ごせない。
故にマクシム王に捧げる御前試合にてそれぞれの派閥が選んだテイマー同士による代理戦で決着をつける事にしたのだ」
「レフ側の選んだテイマーはカルバイン公爵 我が国きっての最高のテイマーと名高く、知ってると思いますが、プラネ様と同じグランドテイマーです」
「ってことは、あっちの従魔はゲーリュの地獄の番犬双頭のオルトロスか。ご愁傷様だね」
カルバイン・ノーゼン公爵。従魔士黎明期から第一線で活躍しており、今なお現役の最年長グランドテイマーだ。テイマー同様に魔犬種 オルトロスも今では最多の戦歴を持つ従魔の1体である。
並のテイマーと従魔では、例え10対1だろうと勝負にはならないだろう。
「いや、今回使う従魔は我が国が用意したものとなる。ランダムでな、運も実力の内いうことだ。あちらはこちらが用意したものでも最強のゴーレムとなっている」
ゴーレム。個体によっては山と比較されるほど巨大な物もいるとされる魔物。岩石や金属に近い身体で、その巨体を活かしたパワーと異常な頑丈さが特徴。
「その反応だと、マルクス側の従魔は大分弱いのを引いたんだね」
「……スライムだ」
「お陰でどのテイマーも勝ち目が無いと引き受けてくれぬのだ」
項垂れながら、肩を落とすコンドラッドを前にプラネは顎に手を当てて思案する────確かに致命的な戦力差だ。自分以外にとっては……とはいっても関係のない話なので受けるつもりもない
「そりゃそうでしょうね。冒険者共の見立てでは、ゴーレムの強さはA寄りのBクラス。対してスライムはEクラス」
「故にこうしてお願いしているのだ……!
1ヶ月後の御前試合にプラネ・リュネッダー様。最良と呼ばれし貴殿のお力をどうか何卒お貸し頂きたい!」
「……いやだけど」
「何故、ですか?やはり貴女も凡百なテイマー同様に勝ち目が無いと怖気付いて……」
「違うよ」
「ならなぜか聞いても?」
「え? だって私初対面であのクソ王子嫌いになったもん」
「……気が合いますね 私もです。はぁ……断ったって知ったら王子怒るだろうな〜。胃が痛い」
「……大変そうだね。でもあの生意気な顔に思いっきりビンタ出来たら、ここ最近のストレス全部スカッと消えそうだね〜」
「じゃあ、もし勝てたら、私の名の下に、あの王子の横っ面を引っ叩いてくれていいですよ……なーんて」
「ん? それいいね 引き受けるから、思いっきりグーでいっていい?」
「 えっ!? 」
「マジだよ じゃあ早速、スライム連れてきて。時間あんまり無いし」
この物語は世界最良の従魔士であるプラネリュネッダーが1匹の下級スライムと出会い、成長させ、悲劇の結末へと至る物語である
PVが3万を超えました。至らない文ながら、ここまで読んでくださった方々ありがとうございます。これからも稚拙ながらお付き合いしてくれると幸いです




