2話目-⑥ 対等ではない契約
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差し出された紙切れに取り敢えず目を通す。出だしが不穏でも、もしかしたらそんなに悪い内容じゃないかもしれないしね
『汝、ツヴィリングの下に絶対の忠誠を誓い如何なる命令にも従い奴隷の如き働きを示す事を此処に宣誓し契りを交わす。尚、奴隷側から契約の破棄は一切行わない旨とする』
そんなことあったわ。契約したら最後。取り返しが付かないやつでした。
ブラック過ぎる。残業代はおろか賃金すら支払われないレベルでのブラックですよ、この紙切れ一枚で彼女を体現してます。紙は白いのに内容は真っ黒な所とか特にね!
外国人労働者の如き、立場の弱い異世界人をここまで使い潰そうとしているのに、一体この世界の労基は何をしているのか。
おいおい、こんな奴を野放しにするなんて行政の怠慢だろう。何をしているんだ。全く。
まあ何度も言うが選択肢はないから、どんな条件でも呑むしか無いんだけれど
足下みやがって。これが社会だよ。
絶望した!こんな薄汚れた異世界に対して絶望した!
「(にしても)」
ツヴィリングって確か、あれだ。双子、だっけか?どうにも淡雪ちゃんと目の前にいるこのアルビノ二号が関係している気がする。そう囁くのよ……俺のゴーストがね
で、ツヴィリングが女の子の名前って事は流石にないと思うのだが、どうだろう。此処は異世界。俺の知らない異物が存在する世界だ
常識は通用しない。そもそも俺の前いた世界だって最近は有り得ない名前を付けてたりするし
「(そろそろ名前を教えて欲しい所だな)」
当然言葉は通じない。白い少女は柔かに笑みを浮かべて。案の定、俺の求めた答えとは違う事を口にする
「拇印でお願いしますね」
彼女は古ぼけた紙キレを俺の足元に差し出してきたが、俺の身体に対して紙が小さすぎないか?
爪先以下なんだが?そもそも俺印鑑も朱肉も持っていないし、血判でやれとでも言うつもりだろうか
昔、俺は某忍者の口寄せの術を真似したことがあるから分かるが、指の腹を噛み切るというのは思ってた以上にかなり痛いのだ
「触るだけでいいんですよ?それで成立しますから」
観念して俺は紙キレに指を押し付けると途端に紙が眩く発光し閃光が空を切る
彼女の手の甲と俺の胸元に紙から照射されたか細い光が当たると彼女の手の甲に紋様『主』が浮かび、俺の胸元には『従』が浮かんでいる
日本語が浮かぶっておかしくないか?この世界に日本あるの?どうでもいいが、いや、俺の灰色の脳細胞がこの世界の文字を勝手にそう認識しているのかもしれないな
さようなら、我が自由
こんにちは、奴隷生活
「名乗るのが随分と遅れました。
私トラオム魔導教会より白を冠する魔導師で今は白雪姫と名乗らせていただいています」
魔導師というのは魔法使い見たいなら認識で合っているのだろうか?それに今はって引っかかる言い方をしていた。つまり偽名ってことなのだろう
「気軽に姫と呼んで下さい。偉大なる龍王様」
白雪。淡雪。姿形が似通ってるだけじゃなく、奇しくも名前まで、か。乙女座じゃない俺でもセンチメンタリズムな運命を感じずにはいられない
「(よろしく姫。どれ服従の証に指でも舐めてやろうか?)」
我が家の家訓では、服従の時には相手の体を舐めるというのが決まりなんでな。断って置くが断じて。断じて俺が変態というわけではない。男児ではあるがな
我が家では父は頬、爺ちゃんはつむじを舐めたらしい。どういうわけか代を重ねる毎に舐める箇所が下に向かってる。
恐らく俺の息子は足裏でも舐めることになるのであろう。死んだからどうでも良いことなんだけどね
「もうコレも不要ですね」
姫が指を格好良く鳴らすと魔法陣の輝きが失せる。試しにそろりと手を伸ばすと外に爪が出た
「(外に出てしまえばこちらのもの!これで従う理由は…)」
「聡明な偉大なる龍王様には、言う必要もない事なのですが、念のために言いましょう。万が一、億が一にでも危害を私に加えた場合、死ぬより辛い目に遭いますよ」
外に出たからって、約束を反故にしたりはしない。口約束なら兎も角として、どれだけ不利な条件だろうが、文書として残っている以上従う。これが、大人の不可侵のルールなのだ。
ルールは大事。どこぞのハゲの運び屋もそう言ってるのでそうすべきなのだ
「それでは、少しだけ外に出てみましょうか。
此処から数百キロ北に行けば、軍事大国バルドラという国の国境付近に出ます」
それを教えられて俺はどうしたらいいのさ。彼女が何を俺に求めているのか分からずに小首を傾げると、そこで姫は依然無機質な表情のまま、恐ろしい事を言い始める
「国境付近に塞という小さな城郭都市があります。其処で偉大なる龍王様を見せる約束をしているので行きましょうか」
「別に少しくらいなら勢い余って首都まで特攻かけても構いませんが」
命は捨てるもの。ガンガン逝こうぜ!
ってそんなことやるわけねえだろうがよぉぉぉ!!
「冗談ですよ。半分は。なのに、なんですか、その反抗的な目は」
「(サスガ姫。ドコマデモオ供シマス)」
俺はもう戻れない。
この欲望にまみれた異世界を駆け抜けて行くのだ。
破滅するその時まで
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