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その頃のイルイちゃん①

アーカーシャお元気ですか。私です。イルイです

今あなたは何をしてるんですか?なーんてね。聞かなくてもきっとあなたの事ですから、また何処かで私みたいな弱い人を助けたりしてるんですよね。



此方はというと、貴方があの血月の夜に不滅の餓鬼討伐の後、目を覚ました村のみんなに事情を説明しました。みんな最初は呆気に取られて上手く飲み込めていませんでしたが、最後には喜んで感謝していましたよ。後、村長様には泣いて謝られました



なんでも村長様の妹も私と同じかつてこの儀式の人柱に選ばれたのだそうです。きっと村長様も妹の犠牲を無駄にするわけにはいかないと、与えられた防人としての役割を心を押し殺して頑張っていたのだと思います。元々責めるつもりも資格も私には無いんですけどね



破壊された村の方も無事復興の目処が立ち何とかなりそうです。貴方に救われた心ばかりの感謝を称して、我が村の守り神として今度アーカーシャの銅像を建てる事になりそうです。完成したら是非見てもらいたいと言っていましたので、次に来た時は村のみんな総出で祝わせて頂きますね



こうして村に平穏無事な変わらぬ毎日が戻ってくると思っていたのも束の間の事でした。聖女様が治めている聖国アイトルードから先遣隊。それと一緒に憧れの魔導教会の調査隊の方々もこの村に派遣されてやって来ました



その中でも先遣隊で見るからに1番位が高そうな騎士様?とアクアマリンを思わせる綺麗に肩元で切り揃えられたショートカットの女性魔導師が村長と話をしています。正直いって羨ましいです、村長様



魔導師の方と話せないかなと思い、遠巻きに様子を窺っていると、私の意図が天に伝わったかのか、雨も降っていないというのに真っ黒な傘を差し、全身真っ黒なローブに身を包んでいる魔導師の方が私をジッと見つめていたかと思うと、徐に私の方へやってくるではありませんか。な、なんだろう……



「君が今回の儀式の人柱に選ばれた子だね。名前は……そうだ!イルイ・シュテンバード。今日までお役目ご苦労様」



「は、はい!」



フードに顔は隠れてこそいるが、声色から察するに年齢は恐らく12,13くらいだろう。つまり私と変わらない少女の様だ。あれ?でも最年少魔導師って上級魔導師の赤空花様だったよね?ということは、少女の魔導師はいないはず。つまり、えっと、頭をフル回転させるのです。イルイ



……ぴこーん!

そういえば魔導師を証明する記章があるはずだけど少女は見たところそれらしい物を身に付けている様子もない。つまり魔導師ではなく、魔導師の調査隊に随行してきた魔導学院生の可能性が極めて高いのだと当たりをつける



「顔に名前でも書いてありました?」



そんな私のとぼけた言い方に黒い少女はクスクスと笑う



「真名看破の魔法なんて使ってないよ。それに魔導師なら誰が見ても君が今回の人柱に選ばれたイルイって子だと一目でわかると思う」



「と。いうと」



えと、つまり。つまりだよ。魔導師なら一目で分かるけど魔導師以外には分からないって事だよね?

……つまり要約すると私には魔導師として光る才能があるってことで良いのかな!?

いやいやそんな都合の良い夢見過ぎだよね、はは……

きっと誰かから私の事を聞いて事前に知ってて、揶揄ってるんだ。それが1番しっくりくるけど、ちょっと嫌だな



「魔力って鍛錬した年月に比例して増大するんだよ。だから、ほら、魔力が多い魔物ほど大抵長生きしてる。人間も同じで、例えば高名で熟練の魔法使や魔女。それに僧侶や修道女とかも魔力が高い人は大抵じーさんとかばーさんだったりするんだ」



「ここの村の人はみんな生まれついて魔力が高いから実感し辛いかもしれないけど、その中でもイルイはずば抜けて高い魔力だよ」



「儀式に選ばれる子は魔力が高い子を優先して選んでるからね。魔力感知に長けてる魔導師なら一目で分かるってのはそういう事さ」



「うへへ ありがとうございます」



「私が保証する。イルイ 君、才能あるよ

多分頑張れば歴史に名を残せると思う」



疑う余地も無いくらい、めちゃくちゃベタ褒めだった。すると黒い少女は自分の掌に唾を付けると、私の胸元で拭ったから呆気に取られてしまう



「……あの、なに、してるんですか」



「見てわからない?」



分からない……この行動に一体どんな意図があるのか、私には読めない。嫌がらせが今のところは濃厚だが今の話の流れで果たしてそんな事をするだろうか。

餓鬼の時は恐怖で動けなかったが、人は理解出来ない事を目の当たりにしても脳が処理出来なくて動けなくなるという事を知りました。



「優秀な人は国の宮廷魔法使や大手の冒険者に所属する人が多いからね。だから優秀そうなの見つけたら手当たり次第ツバ付けとけって、後輩の子に教えられたんだ」



「た、多分。その人こういうつもりで言ったんじゃないんだと思います」



「物理的にやられると汚いです」



「!!?」



「そんなに驚きますか」



「驚いたよ。ごめん」



ペコリと小さな頭を下げて謝られる。きっとこの子は天然なのだ。悪気がないだけ良しとしよう



「いえ、いいんですけどね。それに褒められて悪い気はしませんから」



「しかし 歴史に名を残せる魔導師ですか」



「不服そうだね」



「……だってそれは世界一の魔導師じゃないですよね」



おずおずと口に出した世界一という言葉を聞いて、バカにするでも無く黒い少女は直ぐに軽快に鼻を鳴らした



「そうだね。少なくとも私がいるから、歴史に名を残す位じゃ良くて2番かな」



「……じゃあライバルですね」



「そうだね。ライバルだ」



黒い少女は手を差し出し、自然と私も手を握り返して握手をしていた。黒い少女が魔導院学生なら、学生ですら無い私は既に大きく遅れをとっている事になる



言い訳だけど、私はあの夜で死ぬと思っていたから、そういった準備すら満足にしてきていない。それを踏まえると、この少女どころか今まさに魔導師という夢に向かって走っている中で私だけスタートラインにすら立てていない事になる



焦燥が無いと言えば嘘になるかまだ大丈夫だ。近いうちに魔導学院の試験がある。そこに合格さえすれば、今からでも十分に追いつけるはずなのだから



「あの、筆頭。なにしてるんですか?

村での話は終わったので、次は餓鬼 鈴鹿が討伐されたとされる現場の調査に向かいたいのですが」



いつの間にか、あのアクアマリンの髪色をした綺麗な女性が横に立っていて、ヒットウと黒い少女に呼びかけているではないか。

しかしなんだろう、この口ぶりは。女性は魔導師の記章を付けている。そしてその記章は上級魔導師を現す物であり、無色ではなく、色付きの記章であることから、一般的には"パレット"と呼ばれる序列持ちの上級魔導師の筈だ



序列持ちの上級魔導師が上の判断を仰ぐ場合、その相手が更に上の序列であると考えるのが自然だ。つまり……つまり?首を傾げて頭を捻るが答えは出ない



つまり、どういうことなのだろう?



「見て分からない?」



「仕事を部下に押しつけて自分だけ若くて可愛い子とおしゃべりをしていた……?」



「失礼な」



「私はただ前途有望な若者を見つけたので、すかうとしていたんだ」



「つまり、それは。仕事を部下に押しつけて自分だけ若くて可愛い子とおしゃべりをしていたということでは……?」



「……」



重苦しい沈黙が流れていた。青い女性魔導師が機械的に再度口を開いた



「何か弁明は?」



「……ねえ、イルイ」



黒い少女は意を決したように少しだけ神妙そうな声色で声を漏らした



「今まで君たちの尊い犠牲があったからこそ、今日まで餓鬼の脅威から私たちは守られていた。だからみんなを代表して、感謝を」



「……私は何もしてませんけどね」



「無視ですか?それに絶対そんな話してませんでしたよね。世界一がどうとか、ライバルがどうとかそういう俗っぽい話でしたよね?」



「……過程はどうあれ、君の起こした行動がこの千年誰にもどうにも出来なかった問題を一つ解決したんだ。それは誇って良い事なんだよ」



「良い話をしてた風に装って誤魔化そうとしても駄目ですからね?」



黒い少女はそう言うが、ただ怖くて逃げ出して、偶々問題を解決出来る力を持った存在と運良く出会っただけの私の行動に胸を張れというには、少々結果論が過ぎると思う



何しろアーカーシャに出会えなければ、本当に目も当てられない凄惨な結果になっていただろうから。あの時の餓鬼を見た時の後悔を私は生涯忘れないだろうから



「褒めないでください」



「なんで? 偉いよ イルイは」



黒い少女は私の気も知らないで頭を撫でる

だというのに、なんだろう。この妙な安心感は。この安らぎは。だって私の行動は間違っていた。正しくなかった。責められても仕方のない事だった────それなのに。


気付けばポタポタと頬を流水が伝い、視界がボヤけていた



「イルイ!?」



「あー! 筆頭ってそういうところありますよね。人の感情の機微に鈍感なのに変なことするからですよ!

今度会った時に雪姫さんの真似して若い子泣かしてたって言いつけますからね!」



「なにが。私に一体なにが足りないというんだ…?

この愛くるしい姿が悪いのか……だとしたら、こんなにも自分がエルフだという事を恨んだ日は無いよ

分かった。分かりました。雪姫みたいに美人のお姉さんみたいなれば良いんでしょ!だったこの一連の流れを500年後にもう一度やらせて貰えない?きっと雪にも負けないくらいの綺麗なお姉さんになってる筈だから」



「500年後は筆頭以外みんな死んでると思いますよ」



青い女性の冷静沈着な言葉に黒い少女は悲壮感に打ちのめされたのか、がくりと膝をつき地面を叩いていた



「あの。そういえば 名前聞いてなかったです」



「……風は見かけばっかりお姉さんになっちゃって、自己紹介も満足に出来ないんだ。そんなんでお姉さんぶるんだ。お笑いだね」



膝を崩したまま、ぷぷぷと含み笑いをする黒い少女だけど、冷静に考えると、あれ?この子から私まだ名乗られてなくない?



「確かに名乗らないのは此方の落ち度ですね。

『青』を冠する魔導師で序列7位の青風糸です。こう見えて種族は亜人の妖猫族(ケットシー)なので厳密に言うなら、女性ではなくて無性なの。だから誰かさんと違ってお姉さんぶったりはしないわ。よろしくね」



「わ、私は此処オラフ大森林で防人を務める一族

イルイ・シュテンバードです!こちらこそよろしくお願いします! 青風様!」



私は黒い少女の方にも視線をやる。そちらも名乗ってと目力で必死に伝える



「……そういえば私も自己紹介がまだだった

『黒』を冠する魔導師で序列1位の黒水 歪。イルイの慧眼には恐れ入ったよ。お察しの通り、私はエルフさ」



絶句したのは言わずもがな。それにエルフだなんて全然気付きもしなかった。そもそもエルフは金髪翠眼が特徴のはずだ。だけど黒水……様みたいに間違っても、黒色の髪や瞳をしているエルフの存在は見たこともなければ耳にしたこともなかった。特殊個体のダークエルフというやつだろうか?



それに筆頭魔導師ということは、魔導師に送られる最高位のはずだ。そんな相手に私は世界一なんて宣ってしまうなんて……私のばかっ!数分前の自分を叱りつけたい気分であった。恥ずかしいよ、アーカーシャ!



「そっちもまだなんじゃない!!」



胸を張っている黒水様に対して青風様の手痛いツッコミが炸裂していて、この2人仲良いなと思いました

息抜きがてらの間章となります

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