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5話目-⑬cause i never wanna leave your side (あなたのそばを離れたくないから)

アナムは先ほどまで俺に殺されるという死の恐怖に晒されていたせいだろうか。酷く怯えていた。体を丸めて謝るその様はまるで乱暴な親の暴力に晒された子供のそれであった。



【あいつから超常なる力を与えられ人を超えた存在になって尚、人のように死に怯え恐怖する。なんとも無様であるな、お前もそう思わないか】



そういう言い方は好きじゃないし……横からごちゃごちゃ口を出すな。殺し合って死ぬだけが決着じゃないだろ。どこの誰か知らんが引っ込め



【……ふん。今回はそうするとしよう】



俺の心の奥底から響く声の主は俺の対応に少しだけ不満気だったが少しして気配が消えた。いなくなったわけではないみたいだが、更に奥に引っ込んだのだろう。どうでもいいが



「二つ返事で了承してくれるのは話が早くて助かるわ。けど酷く怯えてるわね。大丈夫よ。だから落ち着きなさい。

先ず"契約"である以上は、お互いの納得の上でいきたいから明文化させておくわね」



姫は何もないはずの空間から俺が初めに契約させられた奴隷誓約書とよく似ている古ぼけた文書と羽のついたペンを取り出してツラツラと慣れた手つきで字を走らせていた



「私は別に博愛主義者じゃない。だから結果を出す為に必要な犠牲があることも理解している」



「命を奪うのは簡単です。力を持つ強い者であれば尚更ね。きっとそれが手っ取り早いのでしょう。

……きっとこれは私の我儘です。でも私はもっと貴方に模索して欲しいんだと思います」



「《……耳が痛い ほんと》」



「出来ましたよ、アナム」



そこからアナムは姫に言われるがままに契約を結んでいくことになる。殺される直前で冷静では無かったにしろ、弱った心につけ込むのはさながら悪徳新興宗教の手口を見てるかのようだった


所で宗教といえば日本人は無宗教が大半だったりするわけだが、俺はこう見えてとある宗教の敬虔なる信者だったりする。その名もバクシン教だ。ヘンテコ宗教名だが信者になったのには深いワケがある。

あれはとある夏休みの時であった。誰もが子供の頃に一度は手を出す人体錬成ごっこ。俺は夏休みの自由研究の課題のためにそれを手を出してしまった。手というか足であり、つまり踏み込みすぎて真理の扉の向こう側を見てしまったのだ。そしてこの世の理はそれ即ち速さなのだと。物事を早く成し遂げれば、その分時間を他のことに有効に使えると否が応でも分からせられてしまった。夏休みの宿題を最後の最後まで後回しにしてする後悔よりも、早く全部終わらせてしまってとっとと苦しみから解放されるのが良いのだと気付いてしまったのだ。

遅くやるなら誰にでも出来る。有能なのは月刊より週間、週刊よりも日刊。つまり速さ=有能。世界の基本法則を子供ながらに理解したのだ。残念ながらこの事に気付けているのは極々少数だろう。だから俺は皆がその事に気付くその時までバクシンし続けて先で待っていないといけないのだ。ちなみに自由研究はボツを食らった。

なにが自由研究(嘘だよ 自由じゃないよはーと

自由ってなんなんすか。これ悪質なルール違反っスよね?



「じゃあ契約を復唱するわね。アナムにこちらが手を出さない代わりの条件としてこちらが挙げる条件。

先ず1つ目にアナムはこれより他者の命を奪わない事。必要以上に相手を傷つけたり苦しめたりするのも禁止とする。又自己防衛も必要最小限の範囲で留める。

2つ目に周囲との共存共栄を目指す。生きてく上で助け合いは大事だものね。

3つ目。これは個人的な私のお願いになるのだけれど、呪装霊具"原罪の槍"の破壊をお願いします」



しれっと自分の要望を混ぜる姫にアナムは先ほどより落ち着いた様子であるが、どこかへりくだるように言葉を返す



「姫様申し訳ありません。あれは免許皆伝の折にマルタめに全盛期の私が差し上げておりまして今の私の管轄からは外れております」



「そう。難しいなら仕方ないわね」



マルタというのは口ぶり的にどうにも姫の知り合いらしい。だが破壊して欲しいというのはどうにも穏やかじゃないな。浅はかならぬ因縁を感じる。



「所で桐壺の右腕を依代に覚醒したので、魂が定着してしまったのですが、右腕は頂くこと可能でしょうか?」



姫はちらりと俺の方へ視線を寄越すので、俺は指で小さくバッテンする



「先ずはこの子と互いに共生を目指す。貴方なら出来るでしょう」



「分かりました。姫様の慈悲の証たる契約をつつがなく行えるように、このアナムめ尽力することを約束致しましょう」



姫の毒のような甘い言葉に化け物が陶酔しきった感嘆の言葉を漏らしている。真に恐ろしいのは人間だったか



「ところで姫様。契約を破った時に生じるペナルティを聞いていないのですが……」



「破る予定があるの?」



「いえそのような」



「破る予定が無いのなら聞く必要はないわよ」



姫の純粋に不思議そうな首を傾げる問いかけにアナムは失言と言わんばかりに目を伏せるとパン!と手を叩いて、姫は柔らかに微笑んだ。俺の時はもっと直接的に脅迫した癖に。もしかした俺口にして言わないと伝わらないおバカって思われてない?



「……契約はこれで締結されました。もう私も偉大なる龍王様も手は出しません。ですが、この国はそうもいかないでしょう。黙って見逃す筈もない。王都の騒動が収まれば貴方たちを直ぐにでも捕まえに来ますよ。そうなる前に、逃げる必要がありますね」



「王都の門は全て閉じてます。そして王族親衛隊も全員揃っている現状で力付くで逃げるのは現実的ではないですが、貴方ならここからどうしますか。ダストスモーキー」



姫は見透かしたように言葉を漏らすと、桐壺の師匠が力無く姿を現した。そして一目でわかる。もうこの人は殆ど死んでいる。今生きてるのが不思議なくらいの重症。強靭な気力がか弱い生命力を辛うじて支えているだけだ。もうじきに……



「……使い捨ての小型転送魔法術式搭載のポータルがここにある……ここから北に半日ほど歩いた小さな村外れに繋がっている。これでどうだ」



「転移ではなく転送、ですか?」



桐壺には死んでほしくないから別に口に出すつもりもないがこれってこれ逃走幇助に当たるんじゃないか?いや別にだからどうしたってわけでもないが。そもそも項遠王を守れって来ただけだしな。守ったんだし多分項遠王も玉藻ちゃんもあれこれと言ったりはしないだろう。しないよな?


 

「ああ、転移だと距離が短い上に魔力痕跡を辿られ易いが、転送ならこのポータルを破壊すれば、仮に復元出来てもその間に……更に遠くへ逃げられる……準備を幾つもしてたが、この転送が逃げられる可能性が1番高いと……俺はみてる」



悪くない案だと思うがそれを聞いても、姫の顔はどこか浮かない感じだった



「それだと問題が幾つかあるわ」



「転送魔法は術者が対象を目的地を指定して飛ばす魔法。術者はこの場に残る。つまりこの場合はダストスモーキー。貴方は捕まる」



「そして転送されてもいつ意識が戻るか分からない今のこの子じゃ、どちらにせよ先がない。見たところ、術の反動で、起きるのに最低数日はかかるでしょう。まさかその間、軍国の優秀な兵たちから見つからない素敵な策があるのかしら。まさかと思うけれど運頼み?」



「言ったろう。問題は無いと 俺にはどちらにせよ 先がないから、俺の使い方はこれで合ってる

それにもう一つの方も、ちゃんとアテがあるのさ」



「おい!宿木、夕霧!どうせどっかで隠れて見てるんだろ 頼みたい事がある 出てきてくれ」



桐壺の師匠が死にかけの重症人とは思わせないほどの声量で辺りに呼びかけると、ボロボロの女性2人が様子を伺うかのように、木の影からコソリと現れた。気配だけだと掴みづらいな。あっちの目つきの悪い方の魔法かな


「チッ……」


「お願いがあるんだ」



「……言いたいこと、分かってる……転送魔法で此処から私たちを逃す……代わりに…そっちの子も一緒に連れて逃げる……でしょ?」



夕霧と宿木って言ってたな。姫の話だと昨日めちゃくちゃボコボコにした相手に逃げられたって言ってた奴の特徴と合致するしこの2人のことか



姫の話だとマスケット銃抱えた顔色の悪い丸眼鏡の女性が夕霧って子で。

目つきの悪い眼帯と雀卵斑が特徴的なジャケット着てるのが宿木って子だ。

個人的にソバカスという言い方は余り好きでは無い。カスって言い方はどう考えてもイメージが悪い方に働くからだ。夏日班とか天使のキスとかって言い方が絶対良いだろう。No more チクチク言葉!それに俺は麺類で1番蕎麦が好きなのだ。蕎麦カス!?ふざけんな、麺類はラーメンこそ至高と考える高慢ちきチキ憎マシマシ辛辣多めな奴が蕎麦を貶めるためにくっつけたに違いない。ラーメンカスの野郎はやり方が汚いんだよ!! おっといけないいけないつい熱くなっちまったぜ。熱いのは汁だけで十分だ



「そうだな。出来るなら桐を自由都市ミーディアにあるギルド黄金の美貌(ゴールデンバウム)まで目指して欲しい」  



「自由都市……ギルドの庇護下に置いて、軍国から護ってもらう…そういう…こと?」



首を傾げて夕霧が疑問を呈すると、息も絶え絶えの桐壺の師匠に代わって姫が答える



「自由都市ミーディアは元を正せば多数のギルドが寄り集まって出来た大規模コミュニティ。自由都市なら統治権のある王や貴族がいませんし、脛に傷を抱えたワケアリも多いから目立たないと。それにミーディアは多くの自由都市と同様、他所の国の干渉を極端に嫌っているからでしょうか」



「……なんで、ミーディアなの…国境外ならもう少し近くに自由都市、あるよね……」



「恐らくですが黄金の美貌はこの国が支援しているギルド"百手の巨人"と仲が悪いからですかね」



「……それもある。だがそれよりもあっちのギルドマスターとは昔ながらの顔馴染みでな。きっと力になってくれれと思ってな」



だが面白く無さそうに宿木が目つきの悪い目を更に細めて吠える



「おいおい!ウチら殺し屋なんだけど!命助けてもらうからってそこまで子守りに付き合う義理がどこにあんだっての!?」



「なにもタダで引き受けてくれるなんて思ってないさ。自由都市にある預かり屋の貸金庫に聖金貨3枚と扶桑國から仕入れた金塊50キロ(※安く見積もっても大体5億円くらい)がある。それを全部くれてやる」



それを聞いた瞬間、2人の目の色がガラリと変わった。具体的に言うと、目がお金みたいなマークになっていた。なんだその古典的な演出方法。



「せ、聖金貨ってあの聖女が即位する度に1枚だけ発行されるやつか!1枚で超デカイ屋敷一つ建つっていう稀少な金貨」



「……うん…まだ、世界に99枚、しかない……貴重なお宝……」



ってことは聖女は現時点で99人しかいないのか。で、聖女ってなんだ?多分俺の隣にいるどこかの誰かさんとは違って清らかで優しいお人なんでしょうね

一拍の間を置いて、2人は互いに顔を見合わせた。初めに口を開いたのは夕霧の方だった



「……花宴はやらないで……いい。私が、やる……」



「誰もやらないなんて……」



「助かるよ。ほら、貸金庫のカードだ」



「…う、ん……」



「ずりぃ!やる!絶対やるかんな!」



桐壺の師匠が投げたカードキーみたいなものを夕霧が受け取る。これで話はついたか。王都の騒動もいつの間にかほぼ収まっている。玉藻ちゃんたちも直ぐにこちらに駆けつけるだろう



「……たしかに……受け取った……」



「ちっ。あー〜もう!しゃーねえな。」



気を失っている桐壺の体に無造作に近寄り宿木が抱える。心なしか篝火へムスッとした様子で顔を向けていた。次に小バカにするように空気を振るわせた


「ギャハハ……!きっと笑えるくらい辛気臭え顔してんだろうな……最後なんだからコイツに言ってあげることあるんじゃないの。同業者のよしみで起きたら伝えてあげよっかー?」



憔悴し切っていた桐壺の師匠は目を伏せ僅かに逡巡した様子で、桐壺に負い目があるのか、途切れ途切れに言葉を紡いでいく



「じゃあ謝罪を。俺……私の魔法の一つに魔香っていうのがある。お前と組むずっと昔に、その……魔獣を凶暴化させてターゲットを襲わせるやり方をしていた。けどこれは無作為に周囲の人々も巻き込んでしまっていた。それで、確証はないけど……その、何年か前にお前の島が魔獣災害で滅んだのは、もしかして私のせいじゃ…へぶっ!」

  


「だから辛気臭えっての!」



宿木の拳で師匠は鼻から血を出し、胸ぐらを掴まれる



「テメエが死ぬ今日この瞬間まで仮にも一緒にやってくれたやつに謝罪だと!?違うだろうが!

アタシらは自由に好き勝手やって他人様に迷惑かけてるんだぜ?恨まれて憎たらしく殺されてやるなら兎も角、こんな。如何にもな死んで逃げれるタイミングを見計らって赦しを乞うのは卑怯だろ。それなら黙って死ねよ!」



そう言われて、少しだけ口惜しそうに過去を振り返って桐壺の師匠は口元を歪めて、下手くそに笑った



「は、ははっ。そうだな……本当にその通りだ

じゃあ……楽しかったとだけ伝えてくれ。あと甘いものは食べすぎないようにって。あ、それとジュースも夜中に飲んじゃだめって……寝る前にしっかり歯は磨いて。夜更かしはしないでとも」



「ギャハハ。良いね 他にはもっとねえの」



「さっきのは相棒として言わせてもらった。次は師匠としての言葉だ…

お前は凄い弟子だよ。真っ直ぐ一直線で自分が死ぬかもしれない場面でも……信念を絶対に曲げたりしない……そこが長所でもあり短所でもあるんだが……師匠としてはもうちょっと自分の身を大切にして欲しい所だな……」



桐壺の頬を撫でながら絞り出すような声を漏らした



「せめて……せめて……今の私よりは長生きしてくれよな」 



瞬間。目覚めてない筈の桐壺が師匠の手を確かに握った。まるで一緒に行こうとでも言いた気に。

涙をこぼしながら、桐壺の師匠はゆっくりと惜しむように。その手を離した









《ポータルニヨル転送ガ完了シマシタ》



《ポータルニヨル転送ガ完了シマシタ》



《ポータルニヨル転s…》



無機質なアナウンスが流れると同時に失血し過ぎて動けない彼に代わって姫が地面に置かれているポータルを粉々に踏み潰した



体を壁に預けている彼を前に姫は終始顔を曇らせていた。どこか不機嫌そうに。

そんな姫の機嫌など気にも留める様子はなく彼は言葉をゆっくりと紡いだ



「なあ、最後に先代桐壺の……姉さんの話がしたいんだ」



姫は静かに同意して、口を開いた

キャラクター紹介

【空蝉 篝火】

人間/殺し屋



【ステータス】

パワー   B

魔力    A

技術    S

殺し屋適正 D


【魔法 煙霧 】

煙霧:自身の魔力を煙や霧に近い性質として放出し操作する魔法。煙霧を固体や生物はおろか結界にまで変化させる事も可能なほど魔法の能力を拡張している。王都を覆うほどの遠隔操作に関しても魔道具の補助があるとはいえ篝火の魔力操作全般がずば抜けているからできる芸当である。


【説明欄】

空蝉雑技集団の宗家の団員。性別は男であるがとある理由から女装している。本人もまんざらではない。

高い実力と面倒見の良さから当代の桐壺の師匠兼後見人である(ちなみに桐壺の魔獣災害に関して彼は無関係である

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