表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/233

5話目-⑩oh,it's all gonna be good(きっと全て良くなるから)

毒魂アナムと龍王アーカーシャ。バルドラの首都フリューゲルの中央部で激突する彼らは互いに始祖であり他を寄せ付けない高みに到達した最強の個である。だが始祖と呼ばれる者たちの行き着いた果ての高みは決して横並びではない。



「喰った、だと。不完全とはいえ私の最強の攻撃(フレアデス)を」



「GIAAAAA!!!」



「バカな、そんな、ことが」



アナムの攻撃を喰らい終えたアーカーシャは自身の魔力へとそれを還元し純粋たるパワーアップを果たしていた。欠点はそのパワーアップが永続はせず持続しないということだがその点にさえ目を瞑れば今のアーカーシャはこれまでとは比べものにならないほど強く獰猛であった。



「如何に存在を取り繕っても貴様は龍王を騙る紛い物だ。そんな奴が、なぜこれほどの。認めぬぞ」



「GAooo!!」



「"汝。死トハ呼ビ鈴ヲ鳴ラス隣人ト知リ給エ"万葉死季皇子!」



「この呪具は呼び鈴を聞いたものに問答無用で死という状態を付与する……攻撃ではない。状態異常を付与する呪いだ」



「GIAAA!!!」



無駄と断じるようにアーカーシャは吼えた。それから腕に力を乗せて振るう。風圧だけで人体を圧殺できる風が轟いた



「バカな!?能力、いや、腕力か!

ただ腕を振るった衝撃波で音ごと全てを薙ぎ払ったとでも!?」



それだけでは無い。其処から更に龍王アーカーシャが腕をグルリと捻るとまるで分厚いカーテンのように光の一才を通さない闇の帷が落ちてきて、第五層一帯を視覚的に覆い隠してみせた。

アーカーシャらしからぬ他を拒絶するその言動に一抹の不安を強めながら、雪姫がより一層向かう足を早めると頭上から悲鳴が木霊する



「うわぁぁあ!誰かぁぁ!」



「花?」



「せせせ先輩!?漸く見つけ」



「ひゃあああぁぁああ!」



雪姫にとって酷く見慣れた赤い獣のコートを装った女性は『赤』を冠する色付き魔導師(パレットソーサーラー)赤空花というハーフライカンの少女であった。

ライカンは人よりも肉体的な成長が速いが見た目以上に若く彼女は現最年少上級魔導師である。重そうな棺桶を背負いながら何者からの攻撃を慌ただしく宙を飛び回りながら避けて、雪姫の目の前に落ちてくる。雪姫は目の機能の一部を魔力強化して棺桶の中身を確認すると武王 項遠が収められており、しかも片腕を無くしていて重症で治療を行なっていることを理解した。



「せんぱぁぁい!なんか変なの、変なのが自分追っかけてきてる!」



「変なもの?」



「黒いの!なんか変なドロドロで黒い人っぽいやつ!やばいよ!アレは絶対やばい!」



雪姫の知る赤空花はせせっかしい人物だ。本人の気質なのかライカンの血のせいなのか常日頃から変に落ち着きがなく無駄に慌てることも多いがこの動揺ぶりは尋常ではない。



本人も欠点を自覚しているので、だからこそあらゆる敵や状況に対してパターン化して対処する『次世代汎用型万能魔導具 玉手箱』を制作しているのだが、項遠の治療に玉手箱を使っている以上、使用出来なかったのは仕方ないとして、そもそも彼女の純粋な運動能力と身体能力は魔導師全体でもずば抜けている。そんな彼女が例え魔導具が使用出来ないにしても逃げの一手を取らざるを得ない相手に対して警戒をわずかに強める



「雪姫殿、なんじゃ此奴は。随分とやかましいのお。ちったあ落ち着かんかい!」



「彼女は赤空花。私と同じ上級魔導師の子です」



「先輩ーー!?この狐の人なんか全身血まみれなんですけど!!?そっちこそ大丈夫なんですか!!」



花に言われて雪姫も玉藻の方へ顔を向け驚く。見るからに重傷な玉藻がそこには立っていたからだ。だが全身から血を噴き出しているにも関わらず玉藻はまるで問題ないと言いたげに手を振る



「玉藻様、あなた……」



「なーに、ちょっと無理しただけじゃよ。それで肉体が崩壊しかかっておるだけじゃ。大した事はない。じきおさまる」



命に関わらないかもしれないがそれでも養生が必要なくらいには深刻である。それに悠長に歓談している暇なぞなかった。遅れて赤空花の背後に4体の黒い人の形をした禍々しい魔力を身に纏った敵が降ってきたからだ



「雪姫殿!」



「……はい!」



それと同時に雪姫と玉藻は一瞬のアイコンタクトで行動に移る。雪姫は冷気で、玉藻は尾を出現させ強烈な一撃を叩き込み相手を吹き飛ばしてみせたが、顔色はどこか険しかった



「先程アナムが出現していたから覚悟はしておったが、油断するな、雪姫殿」



「此奴らは呪具に呪胎転変という禁術を用いて、魂を全て喰われた奴らの行き着いた末路。"愚九"と呼ばれる亡者じゃ。強いぞ」



愚九が平然と立ち上がる。見た目以上に頑丈なのかダメージが通った様子は無かった



「な、なんで先輩たちの攻撃まともに食らってるのに平然と立ち上がってるの、まさか不死身!?」



「言うたろう、亡者じゃからのう。そもそも生きてはおらぬ。生命活動を止める致命傷程度では話にならん。足を止めるなら内部にある核を完全に破壊するしか手はないが、些か以上に火力不足だの」



何度も立ち上がってくる愚九をその都度、攻撃してみせるがまるで効いてる様子は無く、2人はイタズラに消耗を強いられる



最上位魔獣(ゾディアック)と一度やり合ったことがあるのですが、その時に似てますね。魔力を散らす力場のようなものを身体から発生させているから、そもそも魔力に類するものが通じ難い」



「そんなのどうすれば」



「いや、タネが分かればやりようはあるじゃろ。こういう風にのう」



雪姫が氷の壁を幾つも出現させ愚九の道を阻むが、飴細工でも壊す様に壁を易々と粉砕していく。そんな中で玉藻が辺りの建物を破壊して瓦礫をぶん投げながら攻撃をして漸く1体だけ足が止まる。それを見て雪姫も全員の足止めではなく、1人に集中して切り替える事にする



「外側の攻撃には強くても、内側からの破壊なら防げますか」



「アイスニードル。付加────誘爆」



アイスニードルは研ぎ澄ました氷の針を相手の身体に刺すように打ち込み、内部で魔力爆発を引き起こす技だ。これを普通の生物に打ち込んだ場合、爆発四散して死に至る。そしてこの技は愚九に対してかなり有効であったが、しかしそんな攻撃を食らってダメージを負って尚も愚九は立っていた



「内部による攻撃で仕留められると思ったんですが、想定以下のダメージ。内部の魔力爆発を力付くで抑え込みましたか。勘が良い、獣並みですね」



玉藻も苦虫を潰したかのように面の奥から苦々しく声を漏らした



「物理攻撃もこうも硬くては難儀じゃな。オリハルコンやアダマンタイト製の武器があればなんとかなりそうなのじゃが。

それにわしも雪姫殿も対処するのは一体ずつが限度じゃな、多対一じゃと少し分が悪い」



「だが赤空殿を入れてこちらは3人。彼方は4体。困ったのう」



「自分を頭数に入れないでください!?あんなん素手で勝てるわけないよね?先輩からも何か言ってくださいよ!」



「弱気になりすぎよ。貴女ならやれるわ。

でもあと1人都合よく現れてくれたりはしないかしら」



「先輩!?冗談はやめて!!」



「4人目なら、ここに、います!」



3人の隣にある建物の残骸の屋上に、全身包帯グルグル巻きの男が現れる



「清正!なぜ出てきた!主は重症なんじゃから、無理をするでない」



そう言われようとミイラ男もとい清正は2本の小太刀を引き抜きながら構え戦う意思を見せて降り立った



「よそ者が頑張ってるのに1人だけ呑気に寝てなんていられないでしょう」



「バカ者め」



「これで4対4なんとかなると信じたいですね」



現状の打破が薄い苦しい笑みを浮かべる雪姫に花は慌てて自慢の有能魔導具玉手箱に答えを求めた



「頭数は同じでも、戦力差が違いすぎるでしょ!!

玉!現状打開の為の有力な手を検索して!」



《たった一つだけあります》



流石高性能魔導具。待っていましたと言わんばかりの答え。皆に一筋の光明が差す



「そ、それはなに!?」



《強い援軍による戦力比の逆転》



「こんのポンコツがぁぁ!」



ダメだった。もうどうしよもなくダメダメだった



「仕方がないのう、わしがもう一度あの姿で……」



「いえ、きっとまだ手はあるはずです」



愚九たちがどんどんと迫って、手を伸ばしてくる。



ザシュ!と何かを切断する音と共に突然愚九の手が宙を舞う。遅れて酷く不快そうに、花の背後から声が聞こえた。何よりも驚愕したのは彼女だ。彼女(ライカン)の探知能力は人間のそれより遥かに高い。それをまるで悟らせずに当たり前のようにかい潜り背後をとられたのは彼女自身初めての経験である



「我らがいないことを良いことに、随分と好き勝手してくれた様だなっ……!」



ハラワタが煮えくりかえってると言わんばかりに激情を吐き出すもその表情は分からない。理由は目の前の人物は鹿の頭蓋を被り、ポッカリと目元は空洞のように黒く塗り潰されていたからだ。身体全体を紫の外套で覆い隠し手にはオリハルコン製の巨大な鎌を握りしめている



異様な姿はまるで人を根源的に恐怖させる死そのものを形造ったかのようであった。その生物としての本能的な恐怖を花は感じ取ったのか、思わずパクパクと口が動く。赤空花は目の前の人物を知らないが、軍国で名を馳せているとある人物に思い至り口にする。それは奇しくも正解であった



「首狩り 華琳」



軍事大国バルドラ王族親衛隊第一官"首狩り"華琳が立っていた

華琳の二つ名を死神→首狩りに変更しました。

後述で神って特別と表現したのに二つ名で出すのはマズイと思ったからです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ