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5話目-⑧上がってくる火種みたいに

ーーー†††ーーー


アーカーシャとアナムの対決より時間を少しだけ遡る。

バルドラ王都フリューゲル第四層東軍事施設第4区画であった場所では、その時、雪姫と玉藻と篝火による肉弾戦と魔法の応酬が所狭しと繰り広げられている所であった。既に辺りは半壊している。

ここで一つの疑問が過ぎる。空蝉 篝火は紛うことなき実力者だ。人並外れた強大な魔力、精密な魔力操作、卓越した魔法技術、身体能力と判断能力は言うに及ばず。そのどれをとっても一流と称していいだろう。



だが、それだけで上級魔導師白雪姫と空狐の玉藻の桁外れの2人を同時に相手取って優位にやり合えることが可能なのだろうか。否である。強さとは石を積み上げていくことに他ならない。篝火は時間と共に研鑽を重ねた。そこに疑いの余地は無い。しかしどれほどの才に恵まれていようと高く積み上げるには刻が必要なのだ。10年から20年程度捧げた程度では到底足りない。他者を圧倒するだけの石を高く積み上げるには、それこそ一生を食い潰すだけの忍耐と才能と刻が必要なのである。



やり合えている理由はたったの2つ。

一つは白雪姫と玉藻両名の心身の不調。玉藻は魔女の死印が消失したとはいえ依然万全には程遠く、白雪姫も魔法戦闘主体であるが故に現在龍王アーカーシャとの契約以降は魔力のリソースがそちらに大部分が割かれており満足な戦闘が出来る状態ではなかったのだ。


もう一つは篝火が持っている魔道具有幻の霧笛(ネルガル)の存在であった。その製作者である"霧の怪人"ダンテは今より500年以上前に存在した魔人である。彼の創った数々の魔道具は優に100を超えるが一貫して相手を惑わせ迷わせることをコンセプトにしていることから、いつからか迷路シリーズとして高い人気を博するようになっていた。

その内の一つ、作品No.100 有幻の霧笛。この魔道具は撹乱や陽動や目眩しによる妨害と時間稼ぎを得意としており、内臓された魔石と使用者の魔力を合わせることで超長期的な魔法効果を発揮することが可能となっている。

霧は2人の視覚情報に大幅な制限を課すだけでなく、また光の乱反射により2人の虚像が多く出現し同士討ちという危険もはらんでいたからだ



しかしそこまでであった。篝火としても倒すには一手足りず状況を膠着させるのがやっとというのが実情だった



「苦しそうね、ダストスモーキー。ここから私たちをどう倒すと言うのかしら」




雪姫の言う通りであった。現在篝火の魔力は凄まじい速さで消費されている。結界の維持、煙霧の生成、外で陽動している煙の兵隊の遠隔操作を常に行い続けているのだ。魔力量は既に半分は切っているだろう。常人と比較すると何倍もあるとはいえ、それでも常識の範疇にある以上、マルチタスクの処理は、精々10分が限度といったところだった。そうなる前に篝火は何か手を打つ必要があった。だが打開策は何一つとして浮かばない。



しかし先に顔色を悪くしたのは玉藻の方であった。結界魔法"囲海"は対象を逃さない為に作り上げた魔法だ。霧笛と組み合わせれば外界との交信は一切断たれているが、玉藻は外にいる項遠の魔力が突然消えたのをハッキリと感じ取ることが出来たのだ



「どうしました? 玉藻様」



「────遠の魔力が消えた。し、死んだのか!?彼奴が。ぐぅぅ……わしはなにをして。いや、まだ辛うじて小さいが生きておる?!急げばまだ……!」



その時、項遠と桐壺の戦いは結末を迎えたのだがそれを知る術はない。故に空狐の玉藻が状況打開のために動いたのは必然といえよう




「やってくれたのう。空蝉の。なるほどわしらを足止めするハラじゃったか。むざむざ、それに乗せられたわしはとんだ阿呆じゃな」



無論、篝火としても桐壺が項遠と戦っているなど夢にも思わない。しかし、事情が把握できない玉藻としてもこの状況は敵の思惑通りに進んでいるとしか判断出来ないのだ



「守るべき王都じゃ。それに此処には兵たちの骸がある。傷つけたくはない。しかし、わしにこうさせたのはお前じゃ!化け物の尾を踏んだ事を後悔するといい」



それは予兆であった。何か巨大な異変が起こる前触れのように、彼女を中心に一瞬だけ全ての音が消えた、

ただ音の消えた中心にいる玉藻の独白だけが静かに辺りには響いていた



「雪姫殿、どうかわしを見ないでくれ……

面を外し素顔を晒すというのはれでぃーとしてもちと勇気がいることでのう」



霧に隠れて、互いの姿の視認も難しいが、冗談混じりに言葉を洩らす玉藻にとって本当の姿を晒すというのは、それこそ本当に自分の恥を他者に見せる程の覚悟がいる事であった

そんな気持ちを少しでもひた隠そうと乾いた笑いを溢しながら、玉藻は面をゆっくりと外す所作をとる



外すのと同時に空気の重みがキシリッと音と共に増し、魔力により一瞬膨張した



雪姫の目には陽炎のように玉藻の人影が霧に映っているだけだ。だがその人影がみるみる巨大な獣の影へと変化していく



尾が9本ある四足歩行の巨大な獣。変化を終えた獣が力強く吼えた。魔力を伴わないにも関わらず、音の衝撃波は一息で周囲の煙霧を全て吹き晴らす



「なんだ!」



煙が晴れると其処には豊かな大地の実りを思わせる、黄金色の稲穂のような体毛に覆われた1匹の獣がいた



その姿にある者は恐れを。ある者は敬いを。ある者は……。果たして何を見い出すのだろうか

その姿は限りなく狐に近いだろう。しかしここまで神秘さと妖艶さと禍々しさが同和している幻想的な生物などいるのだろうか。目が眩むほどの黄金の体毛には面と同じ血の紋様が迸っており、自身の身体に負けず劣らずの大きな九つの尾、そして額には第三の眼があった



玉藻はそんな自分の姿を見られるのが心底嫌なのか、雪姫の方に肩をすくめて身体を少しでも小さく見せようと涙ぐましい無駄な努力をしていた



「綺麗ですね」



「……わしの姿を見てそんな事を言ってくれるのは、彼奴らだけじゃと思っておったよ」



「存外タラシなのか?雪姫殿は」



「事実を口にしただけですよ」



揶揄うように告げて玉藻は雪姫を背中に乗せる。そしてそのまま一息で天高く飛び上がった

置き去りにした地面を見下ろしながら、滞空する



「どうするつもりですか?結界魔法からは出られないですよ」



「簡単じゃ。こうするだけよ」



「"集え焔 灯せ赤星 我が怒りを見よ"」



「九尾展開"火星明煌"」



玉藻は下を見て、自身の九つの尾全てに魔力を集めていく、それは玉藻の持ちうる手札の中でも最強の攻撃手段だ。圧倒的な熱の塊が尾を通じて口元に収束され、そのまま全てを灰塵に帰する爆炎の星が地面に撃ち落ろされた



灼熱の業火が結界内にある全てのモノを焼き払った。逃げ場など何処にもあるはずが無かった


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